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第46話 進むは遺志と命を背負うが故に

第三位階中位

 



 一晩で大量虐殺を行なった俺達は徒歩で迷宮へ帰還した。


 少しだけ何も眠っていない墓に手を合わせ、コアの詳細サーチ待ち時間に石工を進めた。



 間も無く、夜は明けるだろう。





 慎重に、慎重に……ここを崩せば——



「ぐきゅぅ?」

「わぁぃっ!」

「くぁ?」

「わう?」



 俺の目の前で、巻き貝の化石は脆くも崩れ去った。元々ボロくなってたけどな! うむ。


 犯人は子熊2頭とノルメリオだ。その背中には最近お決まりのカースドピグマリオンが乗り——



「…………んー……コア」

『はい、マスター。おはようございます! 見ての通りです♪』



 激しく嬉しそうなコアの言う通り、目前にいるノルメリオだったモノは明らかに巨大化。その背に乗るカースドピグマリオンだったモノはざっと2.5倍程度大きくなり、黒いヒラヒラのドレスを纏っていた。

 その最たるやべぇ点は、黒い髪の様な物とモロ人形な目が付いた顔がある所だ。


 差し当たって部屋の外に出て辺りを見回して見ると……シャドー系も軒並み巨大化して…………。



「……マジか」



 そこにいたのは、黒い人影。


 身長は1メートル少々あるだろう。そいつは此方に気付くとぴょこんと跳ね、すたこら近付いて来た。



「おー……でっかくなったなぁ」



 小学生高学年くらいはあるそいつの頭を撫でる。

 抱き着いて来たそれの腋に手を入れて持ち上げた。


 相変わらず重量は感じないのに、確かなパワーが感じられる不思議物体。


 そいつは無邪気にきゃっきゃっと喜び、にゅるんと溶けて体に纏わりついた。



『これらを含めた幾つかの報告があります。朝食をお召し上がりながらお聴きください』



 促されるまま椅子に座り、出されたバンムオンの唐揚げを摘む。んまい。



『先ず、マスターが石工スキルを取得可能になりました』

「取得で」



 やったぜ。これで墓作りも化石掘りも捗るってもんよ。



『続けまして……』

「わくわく」



 続けてじゃなくて続けましてなんだな。


 溜めを作るコアに合いの手を入れ、その報告を待つ。

 果たして、コアは元気よく言い放った。



『複数個体がF級に進化しました!』

「うぉっしゃおらっ!」



 とは言え所詮ゴブリン級。いやゴブリンもちゃんと強かったがね。



『詳細ですが、先ずは此方をご覧ください』



 ポヨンポヨンと部屋に入って来たのは、サイズから掌大から頭程度まで巨大化した元プチスラ。



『プチスライムがスライムに進化しました。見ての通りおおよそ5倍程度大きくなり、肉体操作能力が向上。溶解能力も上がり、小動物程度なら捕食可能になりました』

「まぁ、虫以外も倒せる様になったって感じだな」



 スライムはポヨンポヨンと俺の足元に移動した。唐揚げを落としておいた。



『続けて、此処にはいませんが、モームとユレイドが進化しました。それぞれビックモームとユガレイドです』

「ふむ」

『能力は満遍なく向上。体が大きくなりました』

「成る程」



 イモムシは更に大きくなったのか。ユレイドがユガレイドとやらになったのも、危機を感じているからなのだろうか?



「何をあげたら良いと思う?」

『ビックモームにはバド・アードの実。ユガレイドには……ポーションと薬草を与えるのが良いかと』

「OK実行」



 ユガレイドには薬が必要なんだな。南無。



『次に、グァームですが、アレイ・イールに進化しました』

「イール……うなぎか?」

『地上での活動も少しであれば可能ですが、基本的には噛みつきを主な攻撃手段とします。ウツボの様な物と思ってください』

「強そうだな。取り敢えず唐揚げ」

『それで良いかと』



 より長くなったんだろうな。強そうなだけで強いかは分からない。



『続けて3体です。ノルメリオはノルメリオ・ガウルに。カースドピグマリオンはマリオネットに。シャドーハイカーはシャドーシーカーに進化しました』

「うむ。強そう」

『ノルメリオ・ガウルに関しては、身体能力の向上と毛並みの向上以外に特筆する事は御座いません。シャドーシーカーはハイカー同様、この見た目で100キロ程度なら持ち上げる事が可能です。マリオネットは……見て貰った方が良いでしょう』



 2体に関しては単純な上位互換と言った所か。


 マリオネットはコアから指示があった様で、ガウルの背から降りた。


 そのまま何も無い空間を指差し——ポンッと黒が弾けた。



『ブラックミストです。通常規格の半分程度ですが、相手がD級でなければ十分な効力を発揮するでしょう』

「いいね」

『次です』



 またコアの指示を受けた様で、マリオネットは両手の平を近づけた。

 少し待つと、手の間に白い光が見え始め、それは少しずつ大きくなっていく。


 ピンポン玉くらいになった所で、マリオネットはパシッと手を合わせた。

 開かれたそこにあったのは、楕円を描く平たい光。


 マリオネットが右手を水平に構えると、楕円の光はその指先に追随し、マリオネットが勢い良く壁を指さすのと同時に光は放たれた。


 残像が見えるくらいの速度で飛んで行った楕円の光は、狙い違わず壁に衝突、光の欠片を放って消滅した。



『ご覧ください』

「見たけども」

『良くご覧ください』

「すげぇ……」

『壁をご覧ください』



 と言う事らしいので、楕円が衝突した壁に寄り、よーく目を凝らす。



「ふむ? ……これは……マジか……」

『大真面目です』



 そこにあったのは、微かな線。


 目で見ただけでははっきりと分からないが、指を這わせると微かにつっかえの様な物を感じる。


 これはつまり……。



『そう、迷宮の壁に傷を付けたのです!』

「すげぇ」

『たかだかF級。それもF-程度でありながら、E+級程度の瞬間火力を持っていると言えるでしょう!』



 すげぇ! これは他のF級全部に勝てるのでは!?


 そんな思いと共に振り向くと、そこにはぶっ倒れてピクリとも動かないマリオネットの姿が。



「……死——」

『——魔力切れです。マリオネット程度の魔力では、ルーセントソードを再現するのに全魔力を消費してしまう様ですね。差し当たり差別化の為、この魔法はライトブレイドと名付けましょう』

「うむ」

『また、これらの他に、マスターの半分程度の効力を持つ木工修復ウッドワークリペアを使えます』

「それは良い」



 瞑想する時は抱えてやろう。



『進化に関しては以上です』

「まぁまぁいい感じだった」



 戦力としては安心しきれないが、確かな成長を感じる良い時間だった。



『次に、森内部のサーチ結果です。森はすり鉢状の傾斜が存在し、四方八方の山から流れる川などが中心で合流。西へ抜ける形となっており、中心部には小規模の池が存在します』

「ふむ」

『池内部には、特殊な巻き貝型の無名生物が存在し、観察の結果主に鉄を吸収して殻を形成している事が分かりました。それに加え、この森の比較的若い猪は好んでそれを捕食する事が分かっています』

「成る程」



 猪の甲殻形成に一役買ってる訳だ。



『その生物は等級としてはH級ですが、池の中心部にそれの進化個体と思われるF級相当の巻き貝が存在します』

「ほう」



 そりゃまた……中心部だから捕食されずに長生きしたんだろうな。



『最後にバンムオンの住処であった洞窟ですが……此方をご覧ください』



 空中から転がり出て来たのは、鉛色の輝きを持つ戦鎚と骨、そして土の塊。


 土の塊は分からんが、骨に関しては直ぐにピンと来た。



「……ゲララッハか?」

『おそらくは』

「そうか……」



 はぁ……そうかー……死んでたか……。



『洞窟は半ばで崩落していましたが、この骨と鎚は最深部の広間に転がっていました。骨の状態を見るに、死因は失血死だと思われます』



 コアの言う通り、骨はあちこちが折れており、中でも1番酷いのは腕。もはや砕け散っている。



「バンムオンがやったのか?」

『いえ、どうやら犯人はアレの様です』



 あれとは? そんな事を思いつつ、骨と同時に出された土の塊を見る。



『ゴーレムです。おそらくゲララッハはゴーレムと相討ち、その戦いの影響かそうで無いかは不明ですが、その後洞窟が崩落した様です』



 まぁ、ゲララッハが洞窟内で死んでたってんなら出る前に崩落した訳で……戦いの影響かは不明っちゃ不明だ。



『また、ゴーレムは崩落の中心部におり、コアがあったと見られる頭部は外側にありました。この事から、バンムオンが進化した原因はそのコアであると考えられます』

「ふむ」



 あり得るかどうかは現状俺には分からんが、バンムオン程の怪物が突発的に出現したとも考え辛い。

 何より、この森はE級に行ける奴が稀で、D級なんて極地と言えるレベルっぽいから、最終的にC級になる様な奴は何かしらエネルギー源があったと考えるのが妥当か。



「……取り敢えず、ゴブ爺を墓地に呼び出そう」



 仲間の死は伝えねばなるまい。





 持久力強化の為に走って移動し、ジェスチャーでゴブ爺を墓地に連れ出した。


 付いてこようとした小柄な奴とかその他は留守番だ。



『して、儂の様な老骨にどの様な御用件ですかな?』



 パッと指をさすと、そこに骨が現れた。


 それを見て、ゴブ爺が首傾げたのも束の間の事。

 次に取り出した鎚を見て、ゴブ爺は目を大きく見開いた。



『それは……!? では、この遺骨は……』

「ゲララッハ」



 そう伝えるや、ゴブ爺は僅かに身じろぎし、ガクリと膝を付いて骨を見下ろした。

 しかし、直ぐに此方に背を向けたまま胡座をかき、その両手は膝を掴む。


 背を向けている為分からないが、視線は骨ではなく地面に向いている様に見えた。



『……天なるお方、どうか爺の戯れ言を聞いてくだされ』



 地面に座る。


 彼はきっと、別に聞いて欲しい訳ではないだろう。

 ただ語る口実が欲しいのだ。俺はそう思った。



『……儂はゲララッハの奴に多くの物を貰いました。彼奴は知恵を持たず、日々を暮らすので精一杯の儂等に、生きる術を与えてくれた』



 まるで懺悔する様に、いや、正に懺悔しているのだろう。

 ゴブ爺の言葉には悲しみが、そしてそれに勝る自己嫌悪の念が感じられた。



『彼奴が居なくなり、幾月もの時が流れ、儂は必ず彼奴が帰ってくると信じた。だが……いつからであろう……儂は、彼奴が儂等を捨て故郷に帰ったのだと疑わない日は無かった……!』



 あぁ、まるで血を吐く様だ。


 コアの翻訳がなくとも、彼が激しく己を苛んでいると分かった。



『儂はゲララッハが死んだと分かった時……安堵した……!』



 絶望したのだろう。


 膝を付いたのは己の抱いた感情に気付いてしまったから。


 だが——



『儂は、彼奴に見限られたのではなかったのだと……! 友の死を前にして……!!』



 俺はゴブ爺の肩を掴み、それに寄り添った。


 今、どれほど己を憎んだ事か。


 友に見捨てられていなかった事を喜ぶ気持ちと、友の死を悼む気持ち。

 それの何がおかしいと言うのか?


 どちらも友を真に思うが故に他なるまい。


 それを伝える言葉を持たない事の、なんともどかしい事だろうか……。



 ゴブ爺だってそれに気付けた筈だ。気付かないのは、偏に不安が大きかったからだろう。


 地面を濡らす悲しみに、俺は気付かないふりをして、その肩を軽く叩く。



 それ以上、彼にしてやれる事はない。



 俺は立ち上がり、あっちにぴっと指を刺してはコアに骨を綺麗に積んで貰い、こっちにぴっと指を刺してはお高い酒一本と猪口を2つ置いて貰い、最後に時を経ても錆びない魔鎚を骨の前に置いて、その場を後にした。



 此処にどうせ魂は無いけどさ、墓ってのは生きてる者の為にあるからな。ゴブ爺にはちゃんと立ち直って貰おう。


 ……それに……届かないとは限らないからな。





 袋小路の森。



 この場所には、色んな思いがあった様だ。


 人がいない世界だから。どうせ自然が広がっていて、獣達が縄張り争いをしてる。

 そんな極自然な緑と青、そして赤が舞う世界なのだと、そう思っていた。



 ある化け物は子を守る為に戦った。


 ある虫は何かの目的の為、積極的に森を破壊した。


 またある獣は種の為か己の為、獣の群れを率いて化け物と戦おうとした。


 はたまたある亜人は、帰らぬ友を持ち、その死と己の弱さに涙した。



 ぽっと出の俺は虫を殺し、獣が戦いの為に亜人を襲うのを止め、化け物を殺してその子を生かし、亜人に友の死を告げた。



 そうして、俺は今、青空の下に立っている。



 思いの外、獣達は本能だけでは生きていない。


 今後も、こう言った事が続くのかもしれない。


 悲しみと相対し、敵も味方も関係なく死を背負い続けるのかもしれない。



 それでも、歩みを止める事は無いだろう。


 例え詐欺紛いの血盟であったとしても、確かに俺は頷き、そして今、俺は多くの死と生を背負っているのだから。



 袋小路の様に行き詰まっていたその森に背を向け、俺は次へと視線を向けた。


 見えるのは、何処までも広がる様な、雄大な草原。



「……さぁ、コア。次だ」

『はい、マスター』



 此処では何が待ってるんだろうな?



 

 



名前:Unknown

性別:男

年齢:Unknown

神霊階梯:第三位階中位

神霊数値:【12】

技能力:

『短剣術(NEW)』

『体術(NEW)』


『瞑想(NEW)』

『魔力感知(NEW)』


『思考明瞭』

『隠密(NEW)』

『疾駆(NEW)』

『耐久走(NEW)』


『木工(NEW)』

『石工(NEW)』


『痛撃耐性(NEW)』

『精神耐性(NEW)』


『???の瞳』

『ーー神の加護(NEW)』




◇◇◇Next stage◇◇◇



◇◆◇大・草・原◇◆◇



 

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