第39話 夜明けの号砲
第三位階中位
安全性を重視し、確実にバンムオンを仕留めるにはどうしたら良いのか?
答えは至極簡単な事だ。
人を介在せずに、罠で仕留める。
落石は有効では無いが、破石の類いであればそこそこのダメージを与えられる。
よって用意したのは、巨大な落とし穴だ。
最初に住んでいた広間に大きな落とし穴を仕掛け、バンムオンを確実に足止め、然る後吊り天井と追加の石で動きを止め、破石等を大量投下して大爆発を引き起こす。
対バンムオン用の落とし穴は工事総額500Pもする大捕物。通常の落とし穴が50P程度なので相当な代物だ。
購入したのは、破石500個。合計5,000P。何の属性が一番効くか分からないので、火属性だけ200買い、4属性全てを揃えてある。
着火の役割は、火属性の爆石だ。
一個100Pする高級な消耗品で、威力の程は分からないが、ルー先生と同額だから十分なダメージとなる事だろう。
これらは誤爆があり得る兵器なので、コアに預かって貰っている。
これがプランA。
バンムオンが罠に勝手に嵌って勝手に死んだぜ。だからゴブリンとか呼ぶ暇も無かったぜ作戦。
またはバンムオン事故死作戦。
これが最良パターンだ。
続けて、プランB。
爆発後無事生きていたバンムオンへ、地下の安全地帯からルー先生を送り込み戦って貰う極単純な作戦。
わんこそば方式、無限追いルー先生作戦。
これはバンムオンが倒れるか、追跡不可能な距離まで逃げられるかで終わる。
更に続けてプランC。
何らかの理由で弱って逃走したバンムオンへ追撃する作戦。
これはプランA、またはBで逃走したバンムオンを確実に仕留める為の策だ。
具体的には動きの遅くなったバンムオンを山側へ誘導し、急造の落とし穴に嵌めて動きを止める。
その後ゴブリン達を連れて来て、安全地帯から破石を落とさせる。
これは戦いですら無いし、何だったらゴブリンを介さずともダメージを与えられるが、バンムオン一緒に倒そうぜと言ってしまったからにはやらざるを得ない。
彼等を家畜に貶める事を良しとするなら話は別だがな。
総じて安全重視の策であり、それ以外は逃走一択。
ただし、タイムリミットはある。
——3日だ。
奴が全力で動けないこの3日以内に奴を仕留めないと、その後は逃げ続ける事になるだろう。
洞窟へ入って来たのは、奴が俺かゴブリンを獲物と定めたからに他ならない。
熊は執念深いのだ。一度獲物と決めたなら、山の一つや二つ平気で乗り越えて来る。らしい。
つまり、3日以内に仕留めなければ、俺たちはほぼ万全なD級に追われる身だ。
だが、バンムオンが此処に来れば、プランAで十分殺傷せしめるだろう。その為の破石の山だ。
そう……此処に来さえすれば——
◇
それは、太陽が目覚めて欠伸をしている頃におきた。
朝食と言うには早い飯を食い、瞑想に入ろうと座って瞳を閉じ——
——ドガァァァンンッッ!!!
「っ!??」
『これはっ……!?』
爆音が地底湖を反響した。
ぐらぐらと微かな揺れが襲う中、ひっくり返ったハイカーとノルメリオを拾って立ち上がる。
「何が起きた!」
いや、聞かずとも分かっている。噴火とかでない限り、奴だ。
『バンムオンですッ! 上層が……完全に崩壊しました……』
「……」
嘘だろ……1日じゃようやく動ける程度じゃなかったのか……?
『おそらくですが、回復したエネルギーを全て攻撃にまわしたのかと思われます!』
「奴は今どこにいる!?」
『現在バンムオンは……森です。洞窟を破壊し帰還した様です』
「そうか……」
頭を抱えてしゃがみ込む。
バンムオンが迷宮の存在に気付いていたのは間違いない。その上で迷宮までやって来て、入らずに破壊だけを行なった。
何故? ……おそらく匂い。俺の匂いが妙に気になる洞窟にある事で、これが何らかの罠であると疑ったんだろう。
または、俺に気付いていなくとも、ただ妙に気になる洞窟と言うだけで罠を疑うには十分だったのかもしれない。
少なくとも、一度痛い目を見たのだから俺だったら警戒する。
奴は警戒した上で、破壊すると言う選択肢を取った。
敢えて無視しなかったのはなんでだ……? ……一刻も早く、脅威を排除したい理由がある? いや、そんな事よりも——
「……被害は?」
『先に避難していたのが幸いして、死者はおりません。被害は精々作った落とし穴が無駄になったくらいです』
「取り敢えず良かった」
こう言うこともあるかと避難させてて正解だったな。
被害総額はざっと……1,000DP分くらいか? 一撃でかなりやられたが……これはチャンスだ。
「……バンムオンは昨日とほぼ同じ状態だな?」
『余程の事がない限りその認識で間違いありません』
「余程の事、ね……何が考えられる?」
『……マスターがポーションを落とした。敵に治癒系魔法を使える者がいる。何らかのエネルギー補給手段を用意していた。以上3つの内いずれかです』
「ふむ……」
確かに、俺良くポーション落とすもんなー。でも今回は落としてないぞ。ほんとに。
『その内、治癒系魔法が使える者は現在取得している情報に存在しません。エネルギー補給手段に関しては何とも言えませんが、仮に魔石や魔結晶の類いを保管していたとしても、他者の魔力を分解し己が物とするのには時間が掛かります』
「成る程」
情報に無いってんなら居ないのだろう。後者は瞑想で魔力回復にかなり時間が掛かる事から、何となく腑に落ちる話だ。
「となると……俺はポーションを落としていた……?」
『……その様子なら落としていないでしょう』
だよな。落としてないし。
つまり、余程の事は無いって訳だ。
バンムオンは今、昨日と同じで、かつて無い程に弱っている。
問題は——
「——……敵の領域内で戦わないといけない、か」
『十分に回復すれば、憂いを絶つ為行動を始めるでしょう。洞窟を警戒している以上、森で戦う事になるのは避けられないかと』
だよなぁ……山側に誘き寄せる事は出来るかもしれないが、今のバンムオンの機動力がどの程度か分からない以上、どうしても危ない賭けになる。
やるとするなら必要なのは、入念な準備と作戦、そして——
「——覚悟を決める時が来た、か?」
『……残念ながら、その様です』
そうなのかぁ。
コアが言うからにはそうなんだろうな。
仕方ない。条件はいつだって変わらないのだから。
俺とコアが生き残る為に……犠牲を厭わず戦う時が来たんだ。
いっそ情なぞ捨ててしまえば楽なんだろうが……それじゃあ死に対して誠実じゃない。
あぁー……何度も何度も同じ事で悩んでるな。
一度決めた筈だぞ、俺。
十字架を背負うって事は、苦労も悲しみも全部背負うって事だ。
そりゃぁ情があって、守りたくて、一緒にいたくて、死んで欲しくないけどさ、でも俺が生きないと皆は生きれなくて、俺を守る為に皆は死ぬかもしれなくて、それはどうしようもない事実として仕方のない事なんだ。
受け入れろよ。
「……俺が死にかけるって事は、皆の命を危険に晒してるって事で、良いんだよな?」
『はい、それは間違いありません』
「……分かった」
……良し。切り替えろ。今は悲しみに目を瞑れ。
「今日が最大のチャンスだ、確実に仕留める作戦を練るぞ」
『お任せください、マスター』




