第27話 先生
第三位階中位
魔法発動のキーとなる呪文を唱えると、光が弾けた。
刹那、大熊の首を光の筋が駆け抜ける。
そうかと思えば、次の瞬間、コロリとその首が落ちた。
「……はぁ?」
何が起きましたか今。光が弾けたと思ったら首——
「——おらぁっ!!」
停止仕掛けた思考を無理やり引き戻し、もう一体の大熊へと引き金を引く。
特に銃声や反動がある訳でもない静かな一撃。やたらとデカイ大熊を外す筈もなく、傷石は前足に直撃した。
風がドパンっと広がり、熊の前足が歪む。
「グォォンッ!?」
「ぉらッ、くたばれッ!!」
悲鳴をあげて体勢を崩し、地面に倒れ込んだ熊へ一息に近付くと、その頭にもう1発。
今度は土の傷石が弾け、大熊の頭に尖った石塊が突き刺さる。
だが、死なない。
まだ足りない。
更に2発打ち込み、水が弾けて石の刃が押し込まれ、火が弾けて肉の焦げた臭いが充満する。
だが……だが——まだ死なないっ!
悲鳴を上げ体を捩る熊へ、即座に引き抜いたナイフを振り上げ、その割れて爛れて脆くなった頭蓋へ叩き込み、捻る様にして引き裂く。
ナイフを引き抜き、煩く喚く顎を思い切り蹴飛ばして、今度は別の角度からナイフを突き刺して引き裂いた。
確かな手応え。
今度こそ、大熊は沈黙し、それに構う暇もなく振り向く。
そこでは、光の剣が宙を舞い、既に手負いも含めて3匹の首が転がっていた。
残り4匹の内、3匹は光の剣へと襲い掛かるも、光の剣はそれらを圧倒している。
残りの1匹が、少し迷う素振りをした後、此方へと襲い掛かって来た。
俺はナイフを構える。
「グルァッ!」
「うるぁっ!!」
のし掛かる様な一撃を大きく飛んで避け、体勢の下がった熊の頭部へ、ナイフを突き込む。
目標から少し外れたナイフは、熊の目玉に突き刺ささった。
水っぽい嫌な手応えに怯みそうな心を叱咤して、直ぐに引き抜いて離れる。
悲鳴をあげて倒れ込んだ熊の顔面を蹴り、距離を取ろうとして——踏みとどまる。
まてまてっ、ダメだダメだッ!
びびっちゃダメだッ!
ナイフを振るわないのは俺の頭と胴体、急所が熊に近付くのを恐れたからだろ? それがチャンスなんだろうがよッ!!
今度こそ、逆手に持ち替えたナイフを頭蓋へ叩き込み、引き抜く。
頭をガードする様に振るわれた腕を避け、もう一度ナイフを突き刺した。
「おらっ、おらぁッ!!」
ザクッ、ザクッと音がなり、ぬるい赤と半透明の液体が飛び散って、熊の抵抗が弱くなる。
命の雫が零れ落ち、液体が辺りを濡らした……そして熊は、動きをとめた。
「はっはっはぁっ」
息が荒い。初めてのまともな戦闘だ。息つく暇もない。
振り返ったそこには、熊の手や頭が転がり、光の剣が手持ち無沙汰にしていた。
「……はぁ……はぁ……はぁ〜〜……やばくね?」
光の剣。やばくね?
血の無い方へ少し歩き、どかっと地面に倒れ込む。
光の剣。やばくね?
あの大熊。多分E級だろ? そんで熊はF級。となると、あの剣はE級1体とF級6体をほんとに一瞬で切り倒した事になる訳で……。
「はぁ……光の剣、やばっ……はぁ……」
それしか言えないまま、へたり込みそうになったが、直ぐに思い直して立ち上がる。
血の臭いと獣の咆哮。
逃げるか寄ってくるかは分からないが、此方も逃げた方が良い。
「ぐ……」
熊の死骸を見て唸る。
勿体ない。勿体ないが、仕方ない。
とにかく移動だ。命大事に。
◇
『マスター。よくぞご無事で』
「はぁ〜……なんとか、な」
コアの声を聞いて、座り込む。
それとほぼ同時に、ルー先生が手助けはここまでだと言わんばかりに消滅し、引き摺られていた大熊2匹がどさりと地面に転がった。
『転送します』
「そうして」
死ぬかと思ったわ。
地面に魔法陣が現れ、きらきらと光を放つ。視界の端で、大熊がコアに回収されたのが見えた。
俺もパッと転移して、微かな浮遊感の後、地面に着地した。
『お疲れ様です、マスター』
「おう、サンキュー」
グダーッと地面に倒れ込み、荒い呼吸を整える。
落ち着いて来た所で、コアが声を掛けてきた。待ってくれてんの本当に有能。
『何があったか詳しく聞かせてください』
「OK」
猪と熊が戦っていて、増援に熊の群れが来た事をありのまま話す。
「——ほんと、ルー先生様々だな」
『勧めておいて良かったです。話を聞く限りですと、どうやら熊と猪が大規模に争っている可能性がありますね……急な縄張りの変化が起きているのかもしれません』
だろうな。それもサジェカントが大発生したのと無関係ではないだろう。
「ざっと見た感じでは大型の獣がこっちに寄って来る原因らしき物はなかった」
『となれば、原因は北部にあるのでしょう。ゴブリンが負傷していたのもそれに何かしら関係がある筈です。北部の調査を重点的に行いますね』
問題はタスクが増える事だな。戦力を割く必要がある以上、邪魔な仕事は終えておきたい。
「……先にサジェカントの巣をどうにかしよう。なるべく早い方が嬉しい」
『マスター。今はもう少し落ち着いてください。大鳴蟻塚への即座の攻撃は味方の死を招きます』
「……あぁ、現状新たに策を弄するのは難しいか?」
『……帰還済みのシャドーウォーカー2,000体を投じて、シャドーウォーカー3,000、シャドーハイカー1,001体で電撃作戦を実行すれば或いは無傷での殲滅が可能かもしれません』
察知される前にやれって事だな。……逆に言うと、乱戦になったり正体が判明したりしなければ勝てる……?
『先ずは重傷個体を襲撃して無事撃破出来れば負傷個体。それが成功すれば健常個体へ攻撃を仕掛けるのはどうでしょうか?』
「妥当だな。無理だった時は即座に撤退すれば良い」
『警備を減らす為、昼の内に数を減らしておくと良いでしょう。給餌係や卵と蛹の世話係を処理すれば、対応に手を回さざるを得ないかと』
「……逆に警備が厚くなる可能性はないか?」
『元より十分な数を削れば一気呵成に攻める事を提案するつもりでした。それが少し早くなっただけですので御心配なさらず』
そうか。やっぱり参謀殿は流石だな。ちゃんとあれこれ考えてくれている。
俺もほぼ初戦闘みたいなもんで、ビビリ過ぎてた。冷静に行こう。
戦いってのは勢いも必要だが、何より冷静な判断力を失った者から死んで行く。のだと思う。この場合知識は大前提だ。
俺には何もかもが欠けている。
さっきだって、周囲を良く見れば何かしらの痕跡が見つかった筈で、敵に接近される前に気付ける何かがあった筈だ。
基礎戦闘力も大事だが、そう言った知識を得る事も大切だな。
◇
遠征の為に保留していた本日の報告によると、我等が眷属達は今日も順調に爆増している様だ。
先ず、植えていたバド・ユレイドの種が成長し、瞬く間にミニサイズバド・ユレイドになった。
未だ小さい為栄養吸収を優先しており、土の入れ替えを行った。
これでバド・ユレイドの総数は1,500体。豆もイモムシも十分な数がいるので、新しい500体は成長に専念してもらおう。
その他、ジェリーは餌を分け合い倍に増え、現在2,800匹。
ゲルは猪を貪り食って、ジェリー程は増えないまでも、何と倍に増加、60匹になった。
与えた体積程増えていないが……まぁ、質が高いという事なのだろう多分。
ペルタは増殖場所を地底湖に移し替え、92,140匹増加。コアによるとその総数は233,140匹。
数はアホかと思うが、獲得ポイントは233P。少ない? 多いがな。
本当に恐ろしいのは明日だ。何故なら、今日10万匹が成体になり、増殖を開始するからである。
広大な地底湖は改造済みで、1,000万まで許容出来るらしいが、このまま3〜5倍ずつ増えて行くと……4日程で満員御礼……いやでも増殖には日々のエネルギーに加えて餌をやらなくちゃいけない訳で、そんな簡単には増えないだろうな。
まぁ、ゆっくり増えていってくれりゃぁそれでいいさ。
その後は、基礎戦闘力を上げる為、コアに言葉でビシビシしばかれながら地底湖と地上部を行ったり来たりのランニング。
疲労が溜まってもポーション飲んで少しじっとしてるだけで治るから、昼飯までに新しいスキルを獲得出来た。
疾駆と持久走と言うスキルで、値段は合計330P。
さっきの調査で猪2、熊7、大熊2頭分の合計1260Pを回収出来たから、惜しげもなくポーションとスキルにポイントを使える。
何気にポーションもクソ苦いので、多分精神耐性スキルも上がってる筈だおそらく。分からんけど。
……もしかしたらだけど、咄嗟に熊へ攻勢に出れたのとかその他諸々、精神耐性で慌てずに済んだからかもしれない。知らんけど。
何も分からないが、短剣術は剣を振り回してると段々上手くなって来た様な感覚がある。
それを信じて、今はとにかくひたすらに地力を上げて行こう。




