第19話 危険を察知
第三位階中位
剣を振って瞑想して治療して昼飯食って、もう直ぐで全ピグマリオンの治療が終わるって頃に、それは起きた。
——Guooo---‼︎⁉︎
「お? わっ、な、なんだ?」
洞窟内に響き渡る獣の咆哮。後に続いた鈍い音。
明らかな異常に、瞑想状態から一気に引き戻された。
『大型の獣が罠に掛かりました。即死です』
「ほぇーまじで? どんなもん?」
『暫しお待ち下さい』
そう言った3秒後、目の前に死んだ獲物が落ちてきた。
熊だった。
「……うわー、スゲェー!」
『体長およそ1.8m。成体の雄です。自重と落下衝撃により頭部含む25箇所が貫かれ死亡しました』
「でけぇ。食えんのかな」
『魔力活性を考慮すると通常サイズです。毒はなく可食部は多いですが火を入れると硬くなる為特殊な調理技能が必要です。獲得DPは80。F+級の魔物でした』
これでF? じゃあ俺のが強いのか……逆に言うと俺でも罠にかかると即死するって事だな。当たり前だが。
『調理は1DPで可能ですが。如何致しましょう』
「特殊な調理技能が?」
『問題ありません』
「実行で。今夜の晩飯かな」
熊肉なんて初めてだし、どんなもんか楽しみにしておこう。
◇
——Bugieeeーー‼︎⁉︎
「今度はなんじゃい!?」
『大型の獣が罠に掛かりました』
「熊、ではないよな」
声違うしな。グォンじゃなくてぶぎーだったし。
『猪です』
「猪も食った事無いな。美味いんかな」
『まだ生きてます』
「え? あぁ……竹槍交換してなかったから」
『このまま放置しても失血性ショックで死に至るでしょうが……』
「何か懸念でも?」
コアは少し考える様に明滅し、話始めた。
『……熊1匹程度なら偶々で済ませられますが、2匹目ともなると……何かあると考えるべきです。ゴブリンの様ななまじ知能のある愚か者ならともかく、少なくとも10日間は大型の獣が来ない様な場所が選ばれた筈ですから……』
「そりゃ妙だな」
なんかコイツゴブリンに辛辣な所あるよな。魔物全部好きですみたいな感じだけど。それとも正当な評価なのか?
『あ』
「お?」
はたと何かに気付いた様子で、コアはパチリと明滅した。
『……一昨日のサジェカントの襲撃時に、サジェカント達が多少の戦闘を経て此方へ来た物と予測しましたが……』
「成る程……その時の獲物が野晒しになってると」
『それも私が思っている以上の数が残されている可能性があります』
となると、だ。
「……今日の襲撃は、その死骸に引き寄せられた大型の獣が迷宮の存在に気付いた事で起こった、と?」
『その可能性が高いです』
うーん……まぁ、このくらいの襲撃だったら美味しいからなぁ。
『このままそれらを放置すると……袋小路の森の主までもが襲撃してくる可能性があります』
「ええっと……推定ランクD級だっけ? 実際どんなもんなんだ?」
『そうですね……マスターはシャドーハイカーに負けますか?』
んん? シャドーハイカーに……?
手を差し出すと、右手に憑いていたシャドーハイカーがにゅるりと現れた。
「……うーん……寝首を掻かれたらやられるかもしれんが……まともに戦ったら先ず負けないんじゃないか?」
『マスターとD級にはその程度の差があると思ってください』
……まじか……やべぇな。つまり赤子の手を捻る様な物って訳だ。
『それらに勝てるだけの力を付けるまで、まだまだ数十日程度の時間が掛かります。ですが外の死骸を放置するとその襲撃が早まる恐れがあります』
「回収しねぇと」
どうする? 今は大型の獣が来てる訳で、それらは今まで最強のG級、蛇野郎を凌ぐF級の怪物。それらを躱して死骸を回収しないと徘徊ボスがやって来る。
被害を出さずに。は絶対条件。獲物の回収も絶対条件。
「……多少無茶をしてでも回収に専念するか……?」
具体的には、強力な魔法符を買ってF級に遭遇したら狩るのを繰り返して死骸を全て回収する。
『先ずは偵察を行うべきです。シャドー系を使って夜間に調査、可能であれば遺骸の回収を行いましょう』
「そうだ、そうだな……先ずはどんなもんか見ないと、無駄足になりかねない」
『調査は夜間に、今は猪を処分しましょう。吠え声に引かれて別の大型が引き寄せられる可能性があります』
「OK……どうやって狩る?」
猪は10メートル下にいる。10メートルつったら相当な高さだ。
ただ落ちるだけでも死にかねない場所に落ちた猪は、死ぬまでまだまだ時間が掛かると言う。
配下に任せんのは無理だ。
ハムネズミとか犬もどきじゃ攻撃力が足りないし、同じ理由で人形軍も無理、シャドー系はいないしいても無理、ジェリーとスライムも無理。
うーむ……むむ?
「……いやまて、殺すのに攻撃力はいらないか。石を落として水責めするのはどうだ? 水なら地底湖にアホほどあるだろ」
『纏まった数の石もあります。実行しましょう』
言うや即座にズズンッと鈍い音が響いた。
『……纏めて落としたら潰れて死にました』
「……よし。良くやった」
なんだ、あっさりしてんな。
『DPはおよそ90P。F+級でも上位の個体です』
「これ、サジェカントのボスにやったら良いんじゃ無いか?」
『……サジェカントの統率個体は暗闇での視覚を補う為に魔力感知能力を備えている可能性があります。巣の内部は狭い為チャンスは一度切り。十分な落下速度を得られない為一撃で仕留められない可能性もあります』
「ふむ……ま、手段の一つとして取っておくか」
確かに、サジェカントの大ボスはG+級の天辺とか言ってたし、猪だって多分石一個落としたくらいじゃ死ななかっただろう。
十分な重力加速度と重量があったからこその勝利であり、以前襲撃して来たサジェカントのボスより強いと目される大ボスは万が一生き残る可能性はある、か。いや万が一どころか普通に生き残るかもしれない。
その場合は最悪だ。
巣は警戒体制に移行し、攻撃する隙が無くなるかもしれない。
こればっかりはサジェカントの巣と言う砦の功名だな。
『差し当たって猪と石を回収。猪は1Pで調理可能です』
「明日の晩飯だな」
猪も食った事無いからなぁ。なんたって都会っ子だ。豚みたいなもんかね?
『竹槍が全てダメになってしまったので、新たに設置を……っ、侵入者です!』
「またか!」
やっぱり襲撃が頻発してるな! 今は落とし穴が起動状態だし入って来れないと思うが……。
『対象は白い狼……E級です!』
「E級!? 熊と猪より上って事か。俺よりも強いと思うか?」
『発散エネルギー量から見てマスターより格上です』
まじかよやべぇな。落とし穴とか作っといて良かった。
入って来られたらまじぃからな。
『……落とし穴を飛び越えました』
「は?」
……は? ……嘘だろ、実質は4メートル近くあるんだぞ!?
……熊の筋力が狼の形に凝集してると考えたら有り得ない話じゃないのか?
「ギロチンはどうだ……!?」
『現在警戒する様にその周囲を嗅ぎ回って……っ……避けられました』
「ま、じか……」
嘘だろ、初見殺しトラップだぞ? 野生の獣がそんな知能あんのかよ……。
逆に野生の直感的なのがあるのか?
『っ!?』
「今度はどうした!?」
広場手前の落とし穴までは来てないぞ?
ぱちっと明滅したコアは少しの沈黙の後、問いに応えた。
『……侵入者が迷宮外へ脱出しました』
「……危険と判断したのか?」
『……迷宮の魔力に誘われてここを訪れたのなら多少の危険には目を瞑り深部へ突撃する筈です。特異個体だった可能性が……しかしその様な情報は……』
「……なんか良く分からんが、取り敢えずまじで危なかったって事か」
コレは本当にやばいな。E級でこれならDは軽々と突破して来るだろう。
早急な状況の打破が必要だ。
「取り敢えず竹槍補充!」
『10DPです』
「実行」
念の為木の槍も作っておこう。




