第15話 チリツモ
第三位階中位
次に報告されたのは、ピグマリオンだ。
『現在501体全てが進化可能です。進化ルートは、ウッドワーカー。倍程の大きさになり、小児程度のパワーを持ちます』
「合計で50,10Pはキツイ。こっちも何か出来ないか?」
『ピグマリオンの場合はエネルギーの摂取手段が限られる為、単純にスキルの強化や外敵殺害で得られるエネルギーを貯め込むしか無いかと』
「結構な期間放っておくしか無いって事か」
悩ましいが……もうちょっと儲けが出るまでは我慢だな。
とは言え、ピグマリオンが活躍する機会はそうそう無いだろうし、適当にスキルレベリングでもさせておけば良いだろう。
「取り敢えず剣を振らせておこう」
『承知しました』
ナイフ程度の剣がザラザラ吐き出され、ピグマリオン達が剣を振り始める。
……そういや剣は500本買ったけどピグマリオンは501体いるんだよなぁ……ごちゃごちゃし過ぎて何処にいるか分からんが……。
『次にピッドですが……なんと……!』
「ナンダナンダァ?」
『自然進化した個体が1体います!』
「ナンダッテェ!?」
大袈裟に驚きつつも特に期待せずにいると、突然ネズミ穴から何かが飛び出してきた。
「わふっ! わぅん!」
「おおっ!?」
それは、子犬の様に見える四足の獣だった。
軽く水路を飛び越え、此方に駆け寄った子犬は、俺の足に戯れついて来る。
「おぉ、おお? なんだコイツ、どうどう」
「わふっ」
「犬っ子かぁ? おらおら。コイツが進化個体?」
俺の問いに、コアは我が意を得たりと話始める。
『種族名ノルメリオ。足が早く、鋭い牙と爪を持つG級の魔物です』
「良いね」
サジェカントのボスと比較にならないのは仕方ないが、蛇と比べても……やや劣る気がする……が、まぁG級なのでこれからに期待だ。
第一、蛇は大人になるまでの経験値があるのだ。対してコイツやシャドーハイカーは未だ産まれて4日目なのだから、弱くて当然。全てはこれからだ。
『ピッドは全員がピッドの上位種、ピルンドに進化可能です。内、積極的な戦いをしていた100体がノルメリオへ進化可能となっております』
「ふむぅ、それはまた悩ましい事で」
「わふぅ?」
先に100体だけ進化させるのも良いだろうが、ノルメリオのサイズだとネズミ穴が結構ギリギリだ。
サジェカント殲滅戦を控えている以上、白兵戦にならざるを得ないピッド系は防衛ならともかく殲滅には少なくない死傷者を出すかも知れない。
避けられる死は避けるべきだ。よってピッドに割くDPは少なくせざるを得ない。
「因みにノルメリオに進化可能な個体がピルンドになったりする可能性は?」
『そうですね、起こり得ます。マスターが気にされている通り、ピルンドよりもノルメリオの方が戦闘力と言う面では高く、また戦闘経験を必要とする為貴重な進化ルートです』
「だよなぁ」
『しかし、今直ぐに必要ではありませんし、戦闘経験は生きていれば自ずと溜まって行く物です。放置でも問題ありません』
「じゃあ……放置!」
「わふんっ!」
コイツらだけで狩りに行かせてもサイズが小さいから、例によって猛禽とかに攫われたらアウトだしな。
……夜間だったら行けるか? いや、大型の魔物に襲われたら困る。やめとこう。
『また、昨日の戦闘で十分な餌を食べ、ポーションで生命力を得た事で、今朝ピッドの幼体が大量に産まれました』
「……え? マジ?」
……え、じゃあ昨日の蟻防衛戦時には既に何百体単位で妊娠してたって事? ……悪い事したな。
『数は3,674体です。用意していた部屋の収容数に納まりました』
「出産祝いと勝利記念で何か贈ろうかな」
『そこまで気に掛ける必要はありませんが……進化を促す意味でも、サジェカントの卵から回収した魔石を与えましょう』
「腹を下すのでは?」
『初級ポーション1個で十分かと』
腹を下すんですね。配下に毒を盛れと?
『卵レベルの魔石ですとほぼ無毒だと思われますが、念の為飲ませておきましょう』
「まぁ、保険は大事だよな」
何事もね。
くらってみた感想だけ言うと、相当痛かったから、配下の皆々様には味わって欲しくない。
後から見たら、ポーション5個くらい使って回復させてたしな。
『次はバド・ユレイドです』
「それ、気になってた」
『先ずは自らの目でご覧ください』
促されてイモムシ畑を見に行くと、先ず目に付いたのは最初に召喚した100体。
その全部の頭部がふさふさになって数個の花が咲き、それと同時に1つの大きな実が成っている。
『バド・アード。G級の魔物です。移動能力が向上した他、十分なエネルギーを獲得すると花が実になります。果実はポーションに加工可能な程豊かな生命力を持ち、地面に植えると数日でバド・ユレイドが数体生えて来ます』
「増殖系、いや生産系? 悪くないね」
『実を食べて見てください』
コアの指示を受け、一番前の個体が自分の実をもいで渡して来た。
実は皮が薄く、赤味の強いオレンジ色で、洋梨の様な形をしている。
『皮ごとどうぞ』
「それじゃあいただきまーす」
カプリっと噛む。
コリっとした絶妙な硬さに、じゅわっと広がる果汁。アクセントとなる微かな酸味。
「……甘っ」
『ふふん』
こりゃやべぇな、虫が大興奮する代物だぜ。農薬撒いた方が良い? 冗談だけど。
「これでポーション作ったら凄そうだな」
『薬草類の種も購入可能なので、調薬スキルの取得を目指してみますか?』
「それも良いかもしれんな」
しかしまぁ、現状では嗜好品だな。
「取り敢えずピッドにあげとこう。余りは停止空間に入れといてくれ」
『分かりました』
「んで……あれは?」
指差したのは、若干大きくなったバド・アードと比べても倍くらいの大きさの太めな樹木だ。
そのフッサフサの頭部には、おまけの様に拳大のイモムシがくっ付いて、葉っぱをもしゃもしゃ咀嚼している。こっち見なくて良いから。
『ユレイド。G級の魔物です。バド・ユレイドと比べて器用に手足を操り、その葉は大気中や光から魔力を得て大地を潤します』
「ふむふむ」
G級か……根本の太さなんて俺の腰くらいあるし、耐久力だけ見たらトップクラスなんじゃないか?
どうやら枝や根っこで敵を拘束するぐらいの事しか出来ない様だし、攻撃力が殆ど無いから多分シャドーハイカーやノルメリオなら勝てるな。
『葉は大きな生命力を持つ為、此方もポーションの材料になるかと思われます』
「美味そうではないな」
『良薬は口に苦い物です』
「世知辛い」
とは言え、材料があるなら調薬スキルを目指して見ても良いな。
それで……次はそのユレイドに付いてる、拳大はある化け物イモムシ。
「んで、あのイモムシは?」
俺がそう言うや、なーにー? とでも言わんばかりにイモムシがこっちを見た。見なくて良いから。
『モーム。プチモームの進化個体であり、G級の魔物です……が、通常のモームよりも大きいです』
「大きいんだ」
『おそらくですが、エネルギーをより多く溜め込む様な特異性を持った個体なのではないかと。バド・ユレイドがユレイドに自然進化したのは、この個体に延々と捕食され続けた影響が大きいと予測されます』
「はえー」
そう言う事もあるんだなぁ。
多分バド・ユレイド達がさっさと進化したのは、プチモーム達に食い荒らされたからなんだろうな。
相互作用と言うか……方やエネルギーを得て進化、方やエネルギーを吸われ続けて進化。富裕層が富栄えて貧困層が貧困に喘ぐ、世知辛い世の中である。
『観察した限りだと……いつ見ても食べていたので、もしかすると生成されてから延々と食べ続けていた可能性もあります』
「ははっ、それはウケる」
『少なくとも、本来バド・ユレイドと言う魔物は土地を富ませる魔物であり、1日で土地の栄養を吸い尽くす魔物ではありません』
「ハハッ、ナニソレウケル」
つまりこう言う事だろ? 半年くらい掛けて野菜とかを実らせるのに十分な栄養を持つ土地が、1日で枯れるくらいイモムシ達が葉っぱを食べた。
そりゃ進化するわ。
んでこのデカい奴はそんなイモムシ達よりも食いまくったんだろ? そりゃデカくなるわ。
怖い物見たさみたいな感覚でイモムシを見ていると、イモムシも此方を見て、体を左右にゆらゆらし始めた。
何? リスが尻尾振ったりフクロウが尾羽を広げるみたいな奴? 俺警戒されてる?
『呼んでますよ』
「え゛?」
『呼んでます』
「……ま?」
『……悲しむかもしれません』
「……」
くそっ、男は度胸だ!
足元確認しながら畑に入り、手のひらを差し出す。
ワンチャン違うかもしれない。
そんな思いとは裏腹に、イモムシはピタッと手に乗った。
「ぅひぇ……」
むにょむにょっと動いて手に乗ったイモムシを、体の方に近付ける。
背中がチキンなスキンになってるぜぃ。略してチスキン。いや英語だとガチョウらしいしグース? つまりグスキン?
要請に応じてもにもにと頭部らしき部位を撫でる。
「やわぃやわぃ割れちゃわない? 大丈夫?」
『爪を立てたくらいでは傷付かない程度に硬く柔軟な皮膚を持ちます。流石に潰そうとしたら潰れるでしょうが』
「嫌な事言わんといてくださいよコアはん」
想像しちゃうでしょうが!
うひぇ、すりすりしないでぇっ。
「ぐすきんぐすきん」
『?』
あ、なんか急に冷静になって来た。なんか越えちゃいけない閾値を越えたかもしれん。または秘密の魔法を覚えたか? ……大丈夫か、俺。
「もうちょっと硬かったら怖くないんだけどなぁ?」
『まぁ、目視情報からパンパンに見えるので、破裂しそうと思うのは仕方ないかと』
「そう言うとこだぞ」
『ですがマスターが思っている以上に皮膚は厚く出来ているので心配はありません。中に詰まっているのは液体ではなく虫肉です』
あー、今のでなんか安心出来たわ。思えば人間も殆ど水だしな。潰れたら人間もグチャって水が出るわな。赤い水がよ。
それが緑なだけだよな。変わんね変わんね、別にイモムシも人も変わんねぇだでな。
おーおーコイツも円な目をしおってからに、よぉしよーし。
『マスターが精神耐性スキルを取得可能になりました』
「あれ? 俺そんなに無理してた?」
『おそらく幻痛毒を受けた事が要因かと思われます。多分』
まぁ、だろうな。
『汎用性が高く、魂魄の領域においてより高次の耐性スキルなので1,000Pと高価ですが……保留にしますか?』
「1,000!? そりゃあたけぇだでな」
『マスター、大丈夫ですか?』
「一応取っておくかいな」
『……早急に取得します』
コアがピカッと光って……なんか少し冷静になった。
なんか、こう……ペルソナを被って精神保護してたかもしれん。
取り敢えず軽くイモムシを撫で、ユレイドに戻し、ついでにユレイドの木の肌も撫でておいた。
「さーて、次はどっちだ?」
『ペルタから行きましょう。先ず総数ですが、昨日の戦闘後から有性生殖を始めた模様で……今朝には12,000匹増加していました』
「は?」
……そう言や、有性生殖だと最低でも2匹以上生まれるとか言ってたな。
となると今は……21,000匹? やばすぎだろ。蟻食って滋養を得たのか? 戦闘で生殖本能が刺激されたのか? ……池にポーション撒いたからか? 今日も撒いとこ。
『増殖や進化を促す為にも、サジェカントの卵と蛹から得た魔石の残りと初級ポーションを1瓶分撒いておきましょう』
「実行で」
『進化可能なのは最初の3,000匹。全てがペペルタに進化可能です』
「自然進化で」
その次はぺぺペルタだな。間違いない。そして進化費用3万Pはマジムリだ。
『また、最初の1体が自然進化しました。ご覧ください』
「どれ?」
『右にいます』
「どれよ」
『左に行きました』
「どれどれ」
『……呼べば良いかと』
「……そりゃそうだ」
呼ばば来る。さぁカモン。
「最初の1匹おいでませ」
そんな呼び掛けに反応し、ざばっと魚が飛び跳ねた。
腕くらいはある大分大きな魚だった。
「……なんかデカいのいたぞ」
『グァーム。牙を持つ大型の魚でG等級の統率個体です。ペルタを支配下に置いており、有性生殖を始めた要因の一つと考えられます』
「なーるほどなぁ」
まぁ、お魚さんですから。牙を持っていても獣に襲われたらひとたまりも無いと思うのでね、戦闘力には期待してません。
しかしまぁ、一気に体が大きくなり過ぎだが、コアの報告を聞いてた限りだと、コイツ多分一回も数を増やさないで進化の為にエネルギーを溜め込んでたんじゃないかと思う。
やっぱり単独で進化する奴は他と違う事してるんだよな。
『最後にジェリーですが……見ての通り3倍に増えました』
「そんぐらいだなとは思った」
それが気になってたんだよ。大量のジェリーが溝に収まり切らずに入り口らへんでウロウロしてたからさ。
『最初の1体がG級のプチスライムに進化した他、20体がプチスライムに進化可能。他の80体がゲルかグミに進化出来ます』
「そのプチスライムはどこよ」
お兄さんはスライムに興味津々ですよ?
『溝に嵌まり込んでいますよ』
そう言うや、ズルリと溝から這い出して来たのが、おそらくプチスライム。
何故なら、移動速度がジェリーの当社比3倍だったからだ。
心なしかサイズも大きめで、地面の水滴みたいな形状のジェリーと比較すると、明らかに接地面積が減っている。体に張りがあるからだろう。
プチスライムは俺の前まで来ると、プルプルと震えた。
取り敢えず触ってみる。
「ほう、ひんやりとしていて柔らかい。それでいて程よい弾性を持ちもにもにしている」
暫く握ったり離したりしていると、どぷっと指が沈み込み、プチスライムが離れなくなった。持ち上げても離れない。
「……あれ? 俺喰われております?」
『戯れついているだけで……いえ、表面だけ食べられてますね』
「おおっとぉ?」
まぁ表面くらいなら良いか。
床に置くと、プチスライムは自然に離れて行った。
……吸着力がジェリーと比べてかなり強いな。粘度が高いって事は防御力と拘束力が高いって事で、自然体にして既に蛇よりも強いかもしれん。そもそも蛇自体が寄ってこないだろうが。
サジェカントのボスに勝てるかって言うと正直微妙だ。
あの脚力で牙を突き込まれれば、コアをざっくりやられるかもしれないし、幻痛毒がどの程度効くか効かないかも分からない。
ただ……それ以外にはやられなさそうだな。
流石に武器を持ってこられると難しいだろうが、猛禽に襲われようが蛇に襲われようが問題なさそうである。
同等級かそれ以下には負けなしだろうよ。
まぁ、戦力微増って事で。




