第7話 クァォン・ゲンギュ
第四位階下位
その後、2つのキョーの巣を滅ぼし、くまなく峡谷を探索した末、キョーとキョーキヨーの殲滅を確認した。
夜も随分更けた頃、シャドー達の撤退を行う。
『キョーが殲滅された事により、クァォン・ゲンギュは警戒を最大限に行う事が予測されます』
「仕掛けるなら今、か」
最悪逃げられて、嫌なタイミングで敵対されるかもしれない。そうなると厄介極まりない。
飛行型だけに、より一層逃走を許し易く、襲撃も許し易い。
『今夜ないし明朝が最大のチャンスとなるでしょう』
そうだ。
仕留められる自信、確実性が湧いてこないのは、流石にD級の脅威と言った所。
本来なら物量で攻めたい所だが、最大の懸念事項がウィンドカッターの存在だ。
あれは、威力こそ実際にはそう強い物では無い。
E級のウェンティ達にあった袈裟懸けの切り傷は、ウィンドカッターによる物だ。即ち、直撃をくらって生きている事から、そこまで強力な攻撃では無いと分かる。
しかし、当たりどころによっては、下手をしたら一撃で殺されかねない。
具体的には頭部付近だ。
俺でも、受けたのが首だったら死んでいた可能性がある。
そんな怪物相手に有効な物量、即ち飛行型のメンバーを十分に用意しても、何人かの犠牲を出す結果になりかねない。
なんなら空中戦になるので、直撃イコール落下だ。
ウェンティ達に骨折していた個体がいたのは、空中で撃ち落とされ、落下した結果だろう。
それによる死者もいただろう。
あからさまな人型であるウェンティ達が、死んでその後どうなったかは……峡谷を探索している途中で何度か見た。
どれも吐き気を伴う惨さだったし、これ以上やらせてなる物かよと決意するのに十分な代物だった。
よって、物量作戦は無しだ。
確実に勝てる作戦だが、被害を飲み込めないのならするべきでは無い。
「……奴はウィンドカッターを何度撃てる?」
『推定ですが、あの威力でランクDとなると最低5回から最大8回程度になるかと。また魔力による身体強化の類いも使える事から、それの使用回数もウィンドカッターを放てる回数に影響します。具体的には一度の使用でウィンドカッター1回分程度かと』
「ふむ」
となると、最初の邂逅ではウィンドカッター3回分の魔力を消費して撤退した事になるな。
腹立つくらいしっかりとした危機管理能力である。
「クリミナルチェインとルー先生はどのくらい飛べる?」
『どちらも限界高度はありません』
「成る程」
『ただしルーセントソードは飛行を想定していない為、飛行速度は遅いです』
ふむ、流石のルー先生といえども、飛べはしても空中戦は難しいか。
とは言え、奴を逃さない為には空中戦は必須。
被害を出さない為にはクリミナルチェインとルーセントソードに頑張って貰う他無い。
そうなって来ると、打てる手札的に、作戦は決まった様な物である。
「今夜仕掛けるぞ」
『承知しました』
◇
クロと共に静かに忍び寄り、右腕とナイフを起動して、クァォン・ゲンギュに斬り掛かる。
作戦1、奇襲攻撃。
果たして——
——クオォォン!
先程まで座っていたクァォン・ゲンギュは、即座に緑のオーラを纏い、射程から大きく離脱した。
僅かに血が舞ったが、浅い!
大きな巣の中で、クァォン・ゲンギュは後方へ羽ばたきつつ、風の刃を放った。
現れたのは、つい先程届いたばかりのクロの持つ大盾、ガンドライアス。
作戦2、力こそパワー。
放たれた巨大な猪のオーラは、そのD級相応の大きな力で風の刃を打ち崩し、その突進を持って巣からクァォン・ゲンギュを叩き出す。
直撃を受けたクァォン・ゲンギュはしかし、緑のオーラを纏って後方へ飛び、自ら巣に穴を開けた為か、ダメージはまた浅い。
決まってくれれば良かったが、上手く避けられてしまったか。
俺は脱兎で巣の穴から飛び出すと、直ぐに頼れる仲間を召喚した。
「クリミナルチェイン!」
5倍クリミナルチェインだ。
現れた4本の大きな鎖が、直ちにクァォン・ゲンギュを追う。
俺はそれを足場に、再度脱兎を発動する。
作戦3、最速斬撃。
狙いは勿論、宙で体勢を整えるクァォン・ゲンギュ。
現状最も素早く移動できる攻勢脱兎と言う切り札。
ナイフの起動と共に、俺は頼れる先生も召喚する。
作戦4、最優斬撃だ。
「ルーセントソード!」
振るったナイフは、すんでの所で緑のオーラを纏い直したクァォン・ゲンギュに避けられるも、血飛沫が舞った。
——クァオォォン!!?
響く悲鳴。
作戦4が通ったらしい。さすルー。
そんな感想を抱きながら、動くクロに合わせる。
クロは作戦の成否に関わらず、直ぐに俺ごとクリミナルチェインに潜り込んだ。
即座に向きを調整し、狙うは落下中のクァォン・ゲンギュ。
しかし敵もさる者、何かを感じてか緑のオーラを纏い始めた。
そんな事構うなと言わんばかりに、俺は脱兎を起動する。
作戦3、2度目の最速斬撃——
クロから飛び出し、サージナイフを起動した。
果たして——切り裂いたのは、クァォン・ゲンギュの片足と尾羽。
しかして、再度血飛沫が舞う。
作戦4のルー先生がまた斬ったらしい。さすルー!
脱兎並の瞬発力で動く的を良く斬れる物だ。
空中で姿勢を整え、足から地面に落下する。
棘だらけの峡谷の急斜面を、俺は滑落した。
何とか頭を庇いながら、何度も転がり、落下する。
硬化ありきの覚悟の上とは言え、怖い物は怖い。
「うっ、ぐっ……」
何度か鋭い衝撃を受けながら、遂にバシャンと僅かに流れる小川に落下した。
底に着いたか。そう思った刹那、もう一度バシャンと水音が響いた。
どうにか顔を上げる。
見えたのは、落下したクァォン・ゲンギュの姿。
——どうする——クリミナルチェインもルーセントソードもクロも、まだ空中。
頼れるのは己の足と、ラスト1発分のサージナイフのみ。
迷ったのは一瞬。
起き上がり掛けたクァォン・ゲンギュ目掛け、俺は濡れた地面を駆けた。
——クオォォン!!?
迫る俺に焦ったか、放たれたのは今までで最も大きな風の刃。
刹那、世界が急激に遅くなった。
また、この感覚、これなら行ける……!
俺はなけなしの魔力を消費し、サージナイフを起動した。
放った斬撃は、正確に風の刃と切り結び、それを霧散。
勢いそのままクァォン・ゲンギュに迫り、ナイフを振るった。
一撃——クァォン・ゲンギュが最後の抵抗とばかりに緑のオーラを纏い、鋭い蹴りと切り結ぶ。
二撃——滑る様に蹴りを受け流し、体ごとぶちかます様にナイフを振るい、胴体をざっくり切り裂く。
三撃——ここで刃を止めてなる物かと、俺はナイフへ残る魔力の全てを集束させ、クァォン・ゲンギュの首を——
「と、ど、けェッ!!」
——刎ねた。




