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第20話 シャーガラーガ

第四位階下位

 



 魔力操作訓練を行ない、夜になった。


 いよいよ、決戦の時だ。


 地下拠点からシャドー達が続々出動し、外壁上に戦士達が集う。



 俺はいつもの様に、ナイフを掲げた。



 見回した戦士達は、皆覚悟の決まった顔をしている。


 ——この外壁上からは、敵が見える。


 薄暗闇の中で閃くルー先生と、それと相対するあまりに巨大な毒蛇が、月明かりの元に照らし出されている。


 俺は掲げたナイフを、大蛇に向けた。



「敵はシャーガラーガ! この広大な湖を支配する、強大なる毒蛇だ!」



 敵を示し、その強大さを謳って、油断や慢心を防ぐ。



「だが見よ! 奴は度重なる神の剣との戦いで、疲弊し切っている!」



 実際にどうかは分からないが、ルー先生ならば何とかしてくれているに違いない。


 大切なのは、味方の恐れを軽減する事だ。



「この夜! 今こそが! 奴を討ち倒す最大の好機!」



 明日以降に延期すると、昼行性である奴が昼に襲撃を行なう可能性が高い。

 そうなった時、うちの最大戦力であるシャドー達が活動出来ずに戦闘になってしまう。


 最大の好機は、本当に今日、今なのだ。


 俺は再度ナイフを掲げた。



「勝利を、我等に!!」



 敵の強大さを示し、それへの恐怖を軽減した時、そこに残るのは蛮勇だろう。


 ゴブリン達の咆哮が響き、ノルメリオ達の遠吠えが夜を駆け抜ける。



 戦いの気運は十分に高まっていた。





 各員が配置に付き、暫く。


 遠目に見えていたルー先生とシャーガラーガの戦いは、かなりの速度で此方へと接近し、遂に目前へと到着した。


 度重なる大蛇の噛み付きがルー先生を襲い、絶妙に上手いやられている振りでルー先生が下がる。

 そこへ迫るのは、首を鞭の様にしならせたシャーガラーガの突撃。


 対するは、残る全てのエネルギーを使った、ルー先生の斬り返し。



 僅かな量の血が舞い、その声は響いた。



『法撃開始!』



 放たれたのは、カースドマリオネット達の魔法と、リトルクイーン達の砲撃。おまけに俺の爆石。



 ——ギシャァァッ!?



 決戦場の中心で、それをまともに浴びたシャーガラーガは、驚きの悲鳴を上げた。


 火も混じる攻撃に、トラウマでも刺激されたか、直ぐにとって返そうとするシャーガラーガに、迫るのは数百のブラックチェイン。

 流石にパワー不足故に、動きが止まったのは一瞬。


 そこへ、ある魔法は放たれた。



 ——コールドストーム。



 100発の冷気は、やや遠いシャーガラーガへ一息に襲い掛かる。


 射線の外だと言うのに此方まで寒く感じられる。漏れ出した冷気は湖を凍り付かせた。

 放っていたブラックチェインまで凍り付き、粉々に砕け散る程の冷気。


 途端、シャーガラーガの動きが一瞬で鈍り、力尽きる様に地面へ倒れ伏した。


 何とか、爬虫類冷凍作戦は効いたらしい。



『開門!』



 その声と共に、幾つもの小さな門が開かれゴブリンやドール、シャドー達が決戦場へと雪崩れ込む。


 俺はそれに先んじて、脱兎を使い戦場へ飛び込んだ。



 寒!? そう思ったのも束の間、即座にスクロールを使用する。



「クリミナルチェイン! ルーセントソード!」



 出現した5倍クリミナルチェインが瞬く間に真ん中の首に絡み付き、それを引き延ばす。

 ルー先生は万が一の為に待機をしてくれる。


 俺は脱兎による並行ジャンプで即座にシャーガラーガに近付くや、真ん中の首の根本に行き、サージナイフを振り上げた。


 右手とナイフを同時に起動する。


 更に魔力を少し操作して、その威力を少しでも増大させ、それにクロも応えて力を注ぎ込み——



「バンサージッ!!」



 仮称である。


 しかし、気合いを入れると魔力が少し強く動いてくれるので、技名を高らかに宣言するのは仕方ない事なのだ。


 果たして——振り下ろした刃は4倍程度に伸長し、シャーガラーガの首を1つ、刎ね飛ばした。


 コレで死なないのはサードヘッドで履修済みだ。


 作戦通り、無数のシャドー達が横たわるシャーガラーガの右の首と刎ねられた首に集い、それを拘束する。


 刎ねられた首へ迫るのは、ランクス一式を装備したソルジャー達。

 ランクスブーストで力をDクラスまで増大させたソルジャー達は、勢いそのままにランクスソードを起動した。


 放たれる8つの斬撃が、シャーガラーガの刎ねられた真ん中の頭部を八つ裂きに切り裂く。

 再生力の高さから万が一くっ付かれるのを対策し、引き裂いた頭をシャドー達が引っ張って壁際へと連れ去る。



 一方右の首には、グランサージ一式を纏うソルジャーの大将が向かう。


 サージブーストにより、下手をしたらCとまで言われたグランサージの力を身に宿したソルジャーは、更にサージソードを起動。


 果たして——増大した刃が、シャーガラーガの右の首を刎ねた。


 そこへドール達が殺到するのを横目に、俺は最後の左首へ駆ける。次の瞬間——



 ——何かが蠢く気配を感じ、咄嗟にバックステップを踏んだ。



 視界がスローモーションで流れる。



 見えたのは、淡い光を纏い、体をしならせるシャーガラーガの左首。



 ——不味い、直撃する。



 そんな事実を前に、俺が出来たのは、サージナイフを向ける事のみ。



 刹那、それは起きた。



 バックステップで後退する俺を追い抜く様に、飛び出したのは、ガラ。


 それと並行する様に、俺から飛び出したクロ。



 両者は、デミガンドライアスを前に向けていた。



 それは同時に発動する。


 出現した2体の大猪が、しなるシャーガラーガへと突撃した。



 しかし、そこは流石のC級か。


 鞭の様にしなるシャーガラーガの大首は、2体の大猪を正面から破壊した。

 しかし、その勢いを大きく減じさせ、2人の盾と衝突。


 俺は2人がそれを止めると信じて、首と接触した2人を追い抜くかの様に、脱兎で前へと加速した。



「バンサージッ!!」



 いつまでも続くスローモーションのおかげで、落ち着いて魔力を操作出来たそれは、先と同じく4倍に伸長し、シャーガラーガの首を刎ねる。


 魔力が殆ど切れた俺は、勢いよくシャーガラーガの首に衝突、その強靭な鱗に顔面から行きそれなりにダメージを負った。

 硬化スキルが無かったら鼻血を噴いて倒れてただろう。


 そんな考察を片隅に、シャーガラーガの頭へ視線を向けた次の瞬間、それは起きた。



 ——ギシャァァッ!!



 咆哮——



 ——放たれたるは、紫の霧。



 ——毒ブレスだ!



 ゴブリンが危ない! ……なんてな。


 俺は慌てる事なく、推移を見守る。



 毒の霧に巻かれたゴブリン達は、少し戸惑いながらも、シャーガラーガの刎ねられた左首へ迫る。

 その肌は、緑の液体で濡れていた。


 毒霧に巻かれた俺にも、緑色の液体がバシャリと掛かる。



 中級ポーションだ。


 この時の為に、先に瓶から出して停止空間に保管していた。



 備えあれば憂いなしってな!



 まだ生きている右首も、毒ブレスを吐き散らしたが、無駄な努力。


 ドールには毒は効かないし、シャドーにも毒は効かない。唯一効くゴブリンと俺も、中級ポーションで対策済みだ。



 中央の首を仕留め切ったシャドー達は左首へと集結し、クリミナルチェインと共に首を拘束する。

 担い手やカースドドールがトドメを刺しに左首へ迫る。


 そこまで行けば、後は勝ったも同然。



 そう思った刹那ルー先生が駆け抜けた。



「っ!」



 閃くルー先生に視線を向けると、そこには——



 ——湖側へ逃げ出す、シャーガラーガの胴体がいた。



「はぁ!?」

『っ! まさか胴体だけで!?』



 閃く刃がシャーガラーガの長い尾を切り裂き、移動速度を低下させて消滅する。


 そこへ俺は、駆け付けながら銃口を向けた。



「逃がすかよ!」



 放ったのは、なけなしのマナバレット。


 3発しか撃てなかったそれでは、シャーガラーガは止まらない。

 遂には決戦場を抜け出し、凍り付いた湖へと突入する。



「ちっ、クロ!」



 その声に応えて、クロはシャドーバインドを実行。

 D級の拘束力でシャーガラーガを引き留めた。


 勢いそのままクロはシャーガラーガへ突進し、無数の影のナイフを放つ。

 幾百のナイフがシャーガラーガの硬い鱗を貫いて、傷を刻んだ。


 そこへ追い付いたのが、ガラ。


 ガラは巨大な魔鎚を振り降ろし——


 刹那——鎚の先端から無数の魔力の刃が現れ、シャーガラーガの胴体へ傷を刻む。


 何度も鎚を振り下ろすガラや、ナイフを突き込み振り回すクロに俺も追い付き、ナイフを突き立て傷を刻む。



 ——死ね。



 頼む、死んでくれ。



 そんな思いと共に、サーペンタインを突き刺し、サージナイフを高速で振るって肉を刻む。


 幾度も、幾度も、ナイフを突き立て、切り裂き、鱗を破壊し、肉を削ぎ落とす。


 何度も、何度も、何度も何度も、不意に、ガラに腕を握られた。



「っ! ……」



 気付けば、シャーガラーガは動きを止めていた。


 振り返った決戦場では、シャドーやドール、ゴブリン達が、首の始末を終えて、此方へ駆けている所。


 俺は判断付きかね、クロに問うた。



「クロ、シャーガラーガは?」



 するとクロは、ビッと親指を立てた。



「そうか……」



 生気を吸い取れるクロが倒せたと言うのなら、本当に勝てたのだろう。


 俺は座り込みたい気持ちをぐっと堪えて、決戦場へ振り返る。



 此方へ迫る全員に届く様、肺いっぱいに息を吸って——



「——俺たちの勝利だ!!」



 勝利を宣言した。



 

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