第20話 シャーガラーガ
第四位階下位
魔力操作訓練を行ない、夜になった。
いよいよ、決戦の時だ。
地下拠点からシャドー達が続々出動し、外壁上に戦士達が集う。
俺はいつもの様に、ナイフを掲げた。
見回した戦士達は、皆覚悟の決まった顔をしている。
——この外壁上からは、敵が見える。
薄暗闇の中で閃くルー先生と、それと相対するあまりに巨大な毒蛇が、月明かりの元に照らし出されている。
俺は掲げたナイフを、大蛇に向けた。
「敵はシャーガラーガ! この広大な湖を支配する、強大なる毒蛇だ!」
敵を示し、その強大さを謳って、油断や慢心を防ぐ。
「だが見よ! 奴は度重なる神の剣との戦いで、疲弊し切っている!」
実際にどうかは分からないが、ルー先生ならば何とかしてくれているに違いない。
大切なのは、味方の恐れを軽減する事だ。
「この夜! 今こそが! 奴を討ち倒す最大の好機!」
明日以降に延期すると、昼行性である奴が昼に襲撃を行なう可能性が高い。
そうなった時、うちの最大戦力であるシャドー達が活動出来ずに戦闘になってしまう。
最大の好機は、本当に今日、今なのだ。
俺は再度ナイフを掲げた。
「勝利を、我等に!!」
敵の強大さを示し、それへの恐怖を軽減した時、そこに残るのは蛮勇だろう。
ゴブリン達の咆哮が響き、ノルメリオ達の遠吠えが夜を駆け抜ける。
戦いの気運は十分に高まっていた。
◇
各員が配置に付き、暫く。
遠目に見えていたルー先生とシャーガラーガの戦いは、かなりの速度で此方へと接近し、遂に目前へと到着した。
度重なる大蛇の噛み付きがルー先生を襲い、絶妙に上手いやられている振りでルー先生が下がる。
そこへ迫るのは、首を鞭の様にしならせたシャーガラーガの突撃。
対するは、残る全てのエネルギーを使った、ルー先生の斬り返し。
僅かな量の血が舞い、その声は響いた。
『法撃開始!』
放たれたのは、カースドマリオネット達の魔法と、リトルクイーン達の砲撃。おまけに俺の爆石。
——ギシャァァッ!?
決戦場の中心で、それをまともに浴びたシャーガラーガは、驚きの悲鳴を上げた。
火も混じる攻撃に、トラウマでも刺激されたか、直ぐにとって返そうとするシャーガラーガに、迫るのは数百のブラックチェイン。
流石にパワー不足故に、動きが止まったのは一瞬。
そこへ、ある魔法は放たれた。
——コールドストーム。
100発の冷気は、やや遠いシャーガラーガへ一息に襲い掛かる。
射線の外だと言うのに此方まで寒く感じられる。漏れ出した冷気は湖を凍り付かせた。
放っていたブラックチェインまで凍り付き、粉々に砕け散る程の冷気。
途端、シャーガラーガの動きが一瞬で鈍り、力尽きる様に地面へ倒れ伏した。
何とか、爬虫類冷凍作戦は効いたらしい。
『開門!』
その声と共に、幾つもの小さな門が開かれゴブリンやドール、シャドー達が決戦場へと雪崩れ込む。
俺はそれに先んじて、脱兎を使い戦場へ飛び込んだ。
寒!? そう思ったのも束の間、即座にスクロールを使用する。
「クリミナルチェイン! ルーセントソード!」
出現した5倍クリミナルチェインが瞬く間に真ん中の首に絡み付き、それを引き延ばす。
ルー先生は万が一の為に待機をしてくれる。
俺は脱兎による並行ジャンプで即座にシャーガラーガに近付くや、真ん中の首の根本に行き、サージナイフを振り上げた。
右手とナイフを同時に起動する。
更に魔力を少し操作して、その威力を少しでも増大させ、それにクロも応えて力を注ぎ込み——
「バンサージッ!!」
仮称である。
しかし、気合いを入れると魔力が少し強く動いてくれるので、技名を高らかに宣言するのは仕方ない事なのだ。
果たして——振り下ろした刃は4倍程度に伸長し、シャーガラーガの首を1つ、刎ね飛ばした。
コレで死なないのはサードヘッドで履修済みだ。
作戦通り、無数のシャドー達が横たわるシャーガラーガの右の首と刎ねられた首に集い、それを拘束する。
刎ねられた首へ迫るのは、ランクス一式を装備したソルジャー達。
ランクスブーストで力をDクラスまで増大させたソルジャー達は、勢いそのままにランクスソードを起動した。
放たれる8つの斬撃が、シャーガラーガの刎ねられた真ん中の頭部を八つ裂きに切り裂く。
再生力の高さから万が一くっ付かれるのを対策し、引き裂いた頭をシャドー達が引っ張って壁際へと連れ去る。
一方右の首には、グランサージ一式を纏うソルジャーの大将が向かう。
サージブーストにより、下手をしたらCとまで言われたグランサージの力を身に宿したソルジャーは、更にサージソードを起動。
果たして——増大した刃が、シャーガラーガの右の首を刎ねた。
そこへドール達が殺到するのを横目に、俺は最後の左首へ駆ける。次の瞬間——
——何かが蠢く気配を感じ、咄嗟にバックステップを踏んだ。
視界がスローモーションで流れる。
見えたのは、淡い光を纏い、体をしならせるシャーガラーガの左首。
——不味い、直撃する。
そんな事実を前に、俺が出来たのは、サージナイフを向ける事のみ。
刹那、それは起きた。
バックステップで後退する俺を追い抜く様に、飛び出したのは、ガラ。
それと並行する様に、俺から飛び出したクロ。
両者は、デミガンドライアスを前に向けていた。
それは同時に発動する。
出現した2体の大猪が、しなるシャーガラーガへと突撃した。
しかし、そこは流石のC級か。
鞭の様にしなるシャーガラーガの大首は、2体の大猪を正面から破壊した。
しかし、その勢いを大きく減じさせ、2人の盾と衝突。
俺は2人がそれを止めると信じて、首と接触した2人を追い抜くかの様に、脱兎で前へと加速した。
「バンサージッ!!」
いつまでも続くスローモーションのおかげで、落ち着いて魔力を操作出来たそれは、先と同じく4倍に伸長し、シャーガラーガの首を刎ねる。
魔力が殆ど切れた俺は、勢いよくシャーガラーガの首に衝突、その強靭な鱗に顔面から行きそれなりにダメージを負った。
硬化スキルが無かったら鼻血を噴いて倒れてただろう。
そんな考察を片隅に、シャーガラーガの頭へ視線を向けた次の瞬間、それは起きた。
——ギシャァァッ!!
咆哮——
——放たれたるは、紫の霧。
——毒ブレスだ!
ゴブリンが危ない! ……なんてな。
俺は慌てる事なく、推移を見守る。
毒の霧に巻かれたゴブリン達は、少し戸惑いながらも、シャーガラーガの刎ねられた左首へ迫る。
その肌は、緑の液体で濡れていた。
毒霧に巻かれた俺にも、緑色の液体がバシャリと掛かる。
中級ポーションだ。
この時の為に、先に瓶から出して停止空間に保管していた。
備えあれば憂いなしってな!
まだ生きている右首も、毒ブレスを吐き散らしたが、無駄な努力。
ドールには毒は効かないし、シャドーにも毒は効かない。唯一効くゴブリンと俺も、中級ポーションで対策済みだ。
中央の首を仕留め切ったシャドー達は左首へと集結し、クリミナルチェインと共に首を拘束する。
担い手やカースドドールがトドメを刺しに左首へ迫る。
そこまで行けば、後は勝ったも同然。
そう思った刹那ルー先生が駆け抜けた。
「っ!」
閃くルー先生に視線を向けると、そこには——
——湖側へ逃げ出す、シャーガラーガの胴体がいた。
「はぁ!?」
『っ! まさか胴体だけで!?』
閃く刃がシャーガラーガの長い尾を切り裂き、移動速度を低下させて消滅する。
そこへ俺は、駆け付けながら銃口を向けた。
「逃がすかよ!」
放ったのは、なけなしのマナバレット。
3発しか撃てなかったそれでは、シャーガラーガは止まらない。
遂には決戦場を抜け出し、凍り付いた湖へと突入する。
「ちっ、クロ!」
その声に応えて、クロはシャドーバインドを実行。
D級の拘束力でシャーガラーガを引き留めた。
勢いそのままクロはシャーガラーガへ突進し、無数の影のナイフを放つ。
幾百のナイフがシャーガラーガの硬い鱗を貫いて、傷を刻んだ。
そこへ追い付いたのが、ガラ。
ガラは巨大な魔鎚を振り降ろし——
刹那——鎚の先端から無数の魔力の刃が現れ、シャーガラーガの胴体へ傷を刻む。
何度も鎚を振り下ろすガラや、ナイフを突き込み振り回すクロに俺も追い付き、ナイフを突き立て傷を刻む。
——死ね。
頼む、死んでくれ。
そんな思いと共に、サーペンタインを突き刺し、サージナイフを高速で振るって肉を刻む。
幾度も、幾度も、ナイフを突き立て、切り裂き、鱗を破壊し、肉を削ぎ落とす。
何度も、何度も、何度も何度も、不意に、ガラに腕を握られた。
「っ! ……」
気付けば、シャーガラーガは動きを止めていた。
振り返った決戦場では、シャドーやドール、ゴブリン達が、首の始末を終えて、此方へ駆けている所。
俺は判断付きかね、クロに問うた。
「クロ、シャーガラーガは?」
するとクロは、ビッと親指を立てた。
「そうか……」
生気を吸い取れるクロが倒せたと言うのなら、本当に勝てたのだろう。
俺は座り込みたい気持ちをぐっと堪えて、決戦場へ振り返る。
此方へ迫る全員に届く様、肺いっぱいに息を吸って——
「——俺たちの勝利だ!!」
勝利を宣言した。




