第19話 勝利のおまじない
第四位階下位
明けた翌朝、30日目。
異世界に侵略者として転生して、早1ヶ月が経過した。
いや、全然早いとは思えない濃密な1ヶ月だった。
蟻との戦いから始まり、バンムオンとの死戦。ゴルボルズとの決戦。グランサージとの激戦。そして今日レッサーリトルヒドラとの戦いが始まろうとしている。
決戦は夜。それまでに俺達が出来る事と言えば、決戦場の把握くらいの物だった。
◇
袋小路の森、北部山岳。
そこと壮大湿地東エリアの接する地点。
そこが、今回の決戦場だ。
既に作戦へ組み込まれる戦士達は、現地入りしている。
それどころか、作戦に参加しない者達も現地に集まっていた。
ノルメリオ達やウォンクル達だ。
まぁ、今生の別れになるかもしれないので、会っておいて損は無い。
あちこちでゴブリンやノルメリオ達に蛇の肉の料理が振る舞われ、酒は無いが賑やかに食事が行われていた。
中には、木の棍棒を撃ち鳴らし、トントコトントコ音を奏でて踊っている奴等もいる。
——最後の晩餐になるかもしれない。
だから、何時間やるか知らないが、好きに宴会させてやる事にした。
改めて、防壁を見る。
山岳に沿って建てられたその防壁は、厚さ4メートル、高さ6メートル、長さは数十キロに渡る、巨大な防壁だ。
決戦場は、山岳側へ大きく抉り込む、半円形よりもやや深めのステージ。
その防壁には、下部に幾つかの門が設置され、戦士達の出入りが可能となっている。
防壁上には、既にカースドマリオネット達とリトルポーン達が控えて、数十時間後の決戦を待ち侘びていた。
「……」
『……見えますか?』
「あぁ」
壁上に立つと、遮る物は無い。
遠い壮大湿地の中心で、ルー先生とヒドラが戦う様は、はっきりと見えていた。
既に何度か毒のブレスが放たれた様で、湖の中心は紫に染まっている。
その戦いの詳細は分からないものの、遠くヒドラは激しく体を振り回し、時折何かがキラリと光を放つ。
戦い方はルー先生に任せているが、どうやらただ斬りつける以上に、上手い事消耗を強いているらしい。
それは魔力的な消耗であり、連戦という精神的な消耗だ。
時折ここまでヒドラの叫びが聞こえて来る。
そんな神代の戦いが、湖の中心で繰り広げられていた。
『マスター、地脈から得た情報によると、あのヒドラは、リザードマン達からシャーガラーガと呼ばれ畏れられていた様です』
「それが奴の名、か」
シャーガラーガ……また強そうな名を与えられた物である。
だが、それはある意味当然なのかもしれない。
コレは彼等にとっての神話の一節なのだから。
シャーガラーガは、リザードマンにとっては決して勝てない邪神の如き脅威。
強そうな名も然もありなん。
リザードマン達が必死に牛と戦っていたのは、案外その脅威から逃れる為でもあったのかもしれないな。
『巨大なる毒大蛇を意味する言葉の様です。よって我々もそれに倣い、奴をシャーガラーガと呼ぶのが良いかと』
「そうだな」
まぁ、レッサーだのリトルだのと、まるで弱い雰囲気を出していたので、強そうな名に変える事で気が引き締まると言う物だ。
——奴は脅威だ。
それをしっかり踏まえるのに、強そうな名はちょうど良い。
『また、奴が支配する湖を、『毒蛇の渺茫郷』と命名しました』
「へぇ」
『意味は広大な湖です』
「成る程」
確かに、見下ろす湖は広大だ。
地平線は4キロ先までと言うが、地平線まで続いていれば、それは見渡す限りの湖だ。
相変わらず良い名付けをする物である。
さて、と俺は石畳の床に腰掛ける。
やる事と言えば後は修行のみ。
その中でも、可能性に満ちているのは、魔力操作関係だ。
その修行の為に座り込んだ所で、隣に彼は現れた。
「……」
「……」
無言で隣に腰掛けたのは、ガラ。
手に持つ武器は、素材を元に大きく打ち直された魔鎚。その横に置かれたのは、デミガンドライアス。
今回の戦いにおいて、接近戦ではガラは戦力として大いに期待できる。
その為、一つの備えとして、ガラにはデミガンドライアスを装備して貰った。
少しの無言の時間。
ガラは遠くシャーガラーガを見つめ、その鎚を向けた。
戦いの決意だろう。
俺もそれに倣い、シャーガラーガへサージナイフを向けた。
するとガラは鎚を置き、現れたるは2つの木の盃。
何も入っていないそれをガラは拾い、俺も合わせてそれを拾う。
ガラが盃を向けてきたので、俺もそれに合わせて盃をぶつけ合わせ、一息に飲む振りをした。
『特別な杯で乾杯する事が、義兄弟の契りとなるそうです』
コアの解説を受けながら、盃を置くと、ガラは拳を上げ、武装を持ってその場を立ち去った。
事によっては最後かもしれない。
故にこそ、やっておきたかったのだろう。
俺は暫し、木製の盃を手慰みに回してから、ガラの盃の隣に置いた。
まぁ、死ぬ気も死なせる気も無い。
ふと、思い至り、コアに指示を出す。
「デミガンドライアスなんだが、もう一つはクロに持たせておこうと思う」
『承りました』
まぁ、意味があるとは言い切れないが、F級鎧のドールソルジャーを前線に出すよりは、俺もといクロが持っている方が良いかもしれない。
何より、せっかくガラがゲン担ぎに来てくれたんだ。
俺も戦士のゲン担ぎを行ない、この戦いでも先ず負けないだろうガラと同じ装備を持つ。
同じ物を持っていれば同じ道を辿る。
それは、ちょっとしたおまじないである。
「……さて」
夜までまだ時間はある。
出来る事をしていこう。
報告書より抜粋を抜いて記念の100話目です!
ちょうど作中では1ヶ月ですね、今後も良しなにお願いします!




