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第19話 勝利のおまじない

第四位階下位

 



 明けた翌朝、30日目。


 異世界に侵略者として転生して、早1ヶ月が経過した。

 いや、全然早いとは思えない濃密な1ヶ月だった。


 蟻との戦いから始まり、バンムオンとの死戦。ゴルボルズとの決戦。グランサージとの激戦。そして今日レッサーリトルヒドラとの戦いが始まろうとしている。


 決戦は夜。それまでに俺達が出来る事と言えば、決戦場の把握くらいの物だった。





 袋小路の森、北部山岳。


 そこと壮大湿地東エリアの接する地点。


 そこが、今回の決戦場だ。



 既に作戦へ組み込まれる戦士達は、現地入りしている。

 それどころか、作戦に参加しない者達も現地に集まっていた。


 ノルメリオ達やウォンクル達だ。


 まぁ、今生の別れになるかもしれないので、会っておいて損は無い。



 あちこちでゴブリンやノルメリオ達に蛇の肉の料理が振る舞われ、酒は無いが賑やかに食事が行われていた。

 中には、木の棍棒を撃ち鳴らし、トントコトントコ音を奏でて踊っている奴等もいる。


 ——最後の晩餐になるかもしれない。


 だから、何時間やるか知らないが、好きに宴会させてやる事にした。



 改めて、防壁を見る。


 山岳に沿って建てられたその防壁は、厚さ4メートル、高さ6メートル、長さは数十キロに渡る、巨大な防壁だ。


 決戦場は、山岳側へ大きく抉り込む、半円形よりもやや深めのステージ。


 その防壁には、下部に幾つかの門が設置され、戦士達の出入りが可能となっている。

 防壁上には、既にカースドマリオネット達とリトルポーン達が控えて、数十時間後の決戦を待ち侘びていた。



「……」

『……見えますか?』

「あぁ」



 壁上に立つと、遮る物は無い。


 遠い壮大湿地の中心で、ルー先生とヒドラが戦う様は、はっきりと見えていた。


 既に何度か毒のブレスが放たれた様で、湖の中心は紫に染まっている。


 その戦いの詳細は分からないものの、遠くヒドラは激しく体を振り回し、時折何かがキラリと光を放つ。

 戦い方はルー先生に任せているが、どうやらただ斬りつける以上に、上手い事消耗を強いているらしい。


 それは魔力的な消耗であり、連戦という精神的な消耗だ。


 時折ここまでヒドラの叫びが聞こえて来る。


 そんな神代の戦いが、湖の中心で繰り広げられていた。



『マスター、地脈から得た情報によると、あのヒドラは、リザードマン達からシャーガラーガと呼ばれ畏れられていた様です』

「それが奴の名、か」



 シャーガラーガ……また強そうな名を与えられた物である。

 だが、それはある意味当然なのかもしれない。


 コレは彼等にとっての神話の一節なのだから。


 シャーガラーガは、リザードマンにとっては決して勝てない邪神の如き脅威。

 強そうな名も然もありなん。


 リザードマン達が必死に牛と戦っていたのは、案外その脅威から逃れる為でもあったのかもしれないな。



『巨大なる毒大蛇を意味する言葉の様です。よって我々もそれに倣い、奴をシャーガラーガと呼ぶのが良いかと』

「そうだな」



 まぁ、レッサーだのリトルだのと、まるで弱い雰囲気を出していたので、強そうな名に変える事で気が引き締まると言う物だ。


 ——奴は脅威だ。


 それをしっかり踏まえるのに、強そうな名はちょうど良い。



『また、奴が支配する湖を、『毒蛇の渺茫郷』と命名しました』

「へぇ」

『意味は広大な湖です』

「成る程」



 確かに、見下ろす湖は広大だ。

 地平線は4キロ先までと言うが、地平線まで続いていれば、それは見渡す限りの湖だ。


 相変わらず良い名付けをする物である。



 さて、と俺は石畳の床に腰掛ける。


 やる事と言えば後は修行のみ。



 その中でも、可能性に満ちているのは、魔力操作関係だ。


 その修行の為に座り込んだ所で、隣に彼は現れた。



「……」

「……」



 無言で隣に腰掛けたのは、ガラ。


 手に持つ武器は、素材を元に大きく打ち直された魔鎚。その横に置かれたのは、デミガンドライアス。


 今回の戦いにおいて、接近戦ではガラは戦力として大いに期待できる。

 その為、一つの備えとして、ガラにはデミガンドライアスを装備して貰った。


 少しの無言の時間。


 ガラは遠くシャーガラーガを見つめ、その鎚を向けた。



 戦いの決意だろう。


 俺もそれに倣い、シャーガラーガへサージナイフを向けた。


 するとガラは鎚を置き、現れたるは2つの木の盃。

 何も入っていないそれをガラは拾い、俺も合わせてそれを拾う。


 ガラが盃を向けてきたので、俺もそれに合わせて盃をぶつけ合わせ、一息に飲む振りをした。



『特別な杯で乾杯する事が、義兄弟の契りとなるそうです』



 コアの解説を受けながら、盃を置くと、ガラは拳を上げ、武装を持ってその場を立ち去った。


 事によっては最後かもしれない。


 故にこそ、やっておきたかったのだろう。


 俺は暫し、木製の盃を手慰みに回してから、ガラの盃の隣に置いた。



 まぁ、死ぬ気も死なせる気も無い。



 ふと、思い至り、コアに指示を出す。



「デミガンドライアスなんだが、もう一つはクロに持たせておこうと思う」

『承りました』



 まぁ、意味があるとは言い切れないが、F級鎧のドールソルジャーを前線に出すよりは、俺もといクロが持っている方が良いかもしれない。


 何より、せっかくガラがゲン担ぎに来てくれたんだ。

 俺も戦士のゲン担ぎを行ない、この戦いでも先ず負けないだろうガラと同じ装備を持つ。


 同じ物を持っていれば同じ道を辿る。


 それは、ちょっとしたおまじないである。



「……さて」



 夜までまだ時間はある。


 出来る事をしていこう。



 

 



 報告書より抜粋を抜いて記念の100話目です!


 ちょうど作中では1ヶ月ですね、今後も良しなにお願いします!



 

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