第 109 話
「こいつは俺とバンディーノで殺る! バンディーノは援護を頼む!」
「分かりました!」
実力者ぞろいの暗殺集団である【黒蛇】。
その頭領であるデルフィーノは、手に持つ剣をエルヴィーノに向けつつ自身の右腕ともいえるバンディーノに指示する。
その指示に、バンディーノは頷きと共に返事をした。
「お前たちは敵兵の邪魔が入らないようにしてくれ!」
「「「了解!!」」」
この場はユーオー軍とウルンパ軍の兵が入り乱れている戦場。
しかし、【黒蛇】の者たちの強さに、ユーオー軍の兵は彼らから距離を取っている。
いつの間にかエルヴィーノと【黒蛇】5人の周りだけ、どちらの兵も居なくなっており、まるでここだけエアポケットのような状態になっている。
「おいおい……」
「何だ? 仲間の助けが期待できなくなって、今更俺たちに怖気づいたか?」
どのような罠に嵌めたのか分からないが、目の前の男は【黒蛇】の仲間たちを倒した男だ。
先程の蹴りや立ち振る舞いなどから、相当な実力者だということは理解している。
しかし、所詮1人。
何をしてこようと、余計な邪魔(ユーオー軍の兵)が入らなければ問題なく対処できる。
そう考えて配置した仲間たちを見て、目の前の男が溜め息交じりに呟いた。
その呟きから、自分たちを罠に嵌めることができなくなり、エルヴィーノが焦りを覚えているのだとデルフィーノは判断したようだ。
「いや、5対1じゃなくて良いのか?」
「っっっ!!」
いつもは冷静を装い表情を変えないよう努めているが、仲間の事となると抑えきれないらしく、デルフィーノはエルヴィーノの煽りを受け、こめかみに血管を浮き上がらせて顔を赤くした。
「ここまでふざけたことを言われたのは初めてだ!!」
怒りは剣の腕を鈍らせる。
そのことから、デルフィーノは怒りを鎮めようとするが、剣を握る手に力が入っているところを見ると上手くいっている様子はない。
「殺す!!」
言葉と共に殺気を放つデルフィーノ。
それを合図にするように、側にいたバンディーノが動き出す。
片手剣を手にエルヴィーノとの距離を詰めてきた。
「ハッ!!」
魔力による身体強化により高速移動したバンディーノは、その速度のまま心臓目掛けて突きを放つ。
とんでもない速度の突きだが、直線的なために読みやすい。
そのため、エルヴィーノは右横へ跳ぶことで回避した。
「フンヌッ!!」
エルヴィーノの動きを読んでいたらしく、デルフィーノは攻撃を避けた方向に先回りしていた。
そして、自分に向かってきたエルヴィーノに向かって、振り上げた剣に力を込めて斬りかかった。
「っと!」
『っっっ!! こいつっ!』
元々の剛腕に加え、魔力による身体強化したデルフィーノの攻撃を、エルヴィーノは自身の持つ剣で受け止める。
自分の剛剣ともいえる攻撃に対し、まるで柔剣ともいえるような防御。
その対応を見て、デルフィーノは一旦バックステップして距離を取った。
「バンディーノ! 気を引き締めろ!」
「はいっ!」
先程の防御でエルヴィーノの実力の一端を垣間見たデルフィーノは、バンディーノに向かって声を上げる。
エルヴィーノが只者でないことを察したために、先程までの怒りは一気に消え失せたようだ。
短い言葉だが、何を言いたいのかを理解したバンディーノは返事した。
「行くぞ!」
「はいっ!」
デルフィーノとバンディーノは、短い言葉を交わす。
そして、先程とは違い、今度は同時に動き出した。
「シッ!」
どうやら、バンディーノは速度を利用した刺突攻撃が得意なようだ。
距離を詰めると、今度は喉を目掛けて突きを放ってきた。
その攻撃を、エルヴィーノはまたも右横へ跳ぶことで回避しようとする。
「ハッ!」
「っ!!」
刺突攻撃を回避したと思った瞬間、バンディーノの剣の軌道が変わる。
途中で止まった剣が、そのまま横薙ぎに向かってきた。
自分の首を斬り飛ばそうと追いかけてくる攻撃を、エルヴィーノは剣で弾くことで回避した。
「フンッ!!」
「っ!!」
バンディーノの攻撃に対応するために僅かに体勢が崩れたエルヴィーノ。
その瞬間を狙ってデルフィーノが胴を薙ぎ払ってきた。
その攻撃を剣で受け止めたが、体勢が不十分だったせいか、エルヴィーノは衝撃を抑えきれずに吹き飛ばされた。
『パワーとスピードのコンビか……』
デルフィーノのパワーにバンディーノのスピード。
組み合わせとしてはバランスが良い。
相手にするのは面倒だ。
しかも、ただの剛腕バカと刺突バカという訳でもないようだ。
これほどの実力なら第一皇子が右腕とするのも頷ける。
『セラだときついかもな』
オルフェオの世話を理由に置いてきたセラフィーナ。
幼少期から鍛えたこともあり、彼女の実力は相当なものだ。
その彼女でも、この2人を相手にしたら無傷で勝利するのは難しいかもしれない。
『まぁ、俺なら大丈夫だがな』
たしかにこの2人は強い。
しかし、これまでの戦いである程度2人の実力を把握したため、エルヴィーノは負ける気がしなかった。




