(8/13)防犯カメラだって!?
仕事が残業になった。
夜の8時ともなれば社内もまばらだ。なんとか仕事の目処もつき9時には社を後にしようと思っていた。
「あ! 中原さん!」と声がした。振り向いたらミツヒコ。
あんた、今、周りに誰もいないのに「中原さん」って言った?
自然とにらみつけていた。「残業なの? ミツヒコ」
「参ったよ〜。立て込んじゃってさ〜」ミツヒコはニコニコしている。どんな時でも彼は不機嫌になったり声を荒げたりしないのだ(中原のせいでメッッッッチャクチャになった一泊旅行のときをのぞく)
「中原さん(また言った!)お疲れさま。コーンスープ奢ってあげるよ。小腹すいたでしょ?」
『コーンスープ大好き』と思うと自然に気も緩み自販機コーナーまでついて行ってしまった。
自販機についたとたんやおら抱きしめられた。そのまま口をミツヒコの唇で塞がれてしまう。
「ん……」というとしばらくそのままだった。
身体を離されたと思ったら『ガシャッ』と音がした。
「はい。コーンスープ」
ああもう。ドキドキする。コーンスープが手のひらに温かい。
ドキドキが収まらないまま「なに急に……」と言うとミツヒコがあっけらかんと「あ! この会社ここだけ防犯カメラがないんだよね!」と言った。
防犯カメラ〜〜〜〜〜!?
「この会社すごいんだよね。防犯カメラ。ほら、あそこにも(指差した)あそこにも(別のところ指差した)あそこにも(わりと遠くを指差した)あるでしょ。24時間監視されてる気分になるよね」
『ふっふっふっふ〜』とミツヒコが笑う。
「でもここだけ死角になるんだよねー。犯罪するならここだよ」
はぁ〜〜〜〜!?
アンタまさか会社中の『防犯カメラ』の位置知ってんじゃないでしょうね〜〜〜!?
いやありうる! こいつなら『社内の防犯カメラの位置』ぐらい把握してる! 何のためにだ! なんの趣味なんだそれ!!!
もう気がつきすぎる! 気が利きすぎる! どうかしている!!
中原紗莉菜はたった今『防犯カメラ』の存在を知った。入社3年。ただの一度も『防犯カメラ』なんて考えたことはなかった。
【次回】『お前は馬鹿だ、賢すぎて馬鹿だ』です。




