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エラは静かな声で続けた。
『地上はね、上から見るととても綺麗よ。でも、夕暮れ時になると、街全体が深いブルーに染まって……すごく哀愁を感じるの。手が届きそうで届かない、ガラスの向こうの景色みたいに』
哀愁。そんな言葉、普段の会話じゃ使わない。でも、彼女の声で聞くと、胸の奥がキュッと締め付けられた。彼女はずっと見ていたんだ。僕たちが当たり前に過ごし、退屈だと吐き捨てていたこの世界を、焦がれるような思いで見下ろしていたんだ。
『湊、あなたにプレゼントがあるの』
「え?」
『今から、あなたの真上を通るわ。校庭の真ん中に行って』
僕は言われるがまま、階段を駆け下りて校庭へ走った。部活中の生徒たちが不思議そうな顔で僕を見る。頭上に、巨大な影が差した。飛行船が高度を下げている。エンジンの低い唸り声が聞こえる。蛇腹のハッチがわずかに開いたのが見えた。
『行くわよ』
何かひらひらしたものが、空から落ちてきた。それは風に乗って、ゆっくりと旋回しながら、僕の足元へと舞い降りた。拾い上げる。それは、長く折り畳まれた手紙だった。蛇腹折りにされた、七色の便箋。開くと、そこには流れるような筆記体で、英語の詩が書かれていた。そして、押し花が一輪。見たこともない、青い花だった。
『届いた?』
「うん。……これ、何て書いてあるの?」
『秘密。いつか湊が英語をもっと勉強して、自分で読んでくれたら嬉しいな』
ずるいよ、そんなの。僕は手紙を胸に抱きしめた。空と地上。五百メートルの距離。決して交わることのない平行線だと思っていたけれど、この瞬間、僕たちは確かに繋がっていた。




