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「……090……?」
携帯電話の番号だ。なんであんなところに? 広告? いや、企業名も何もない。ただ無機質な数字が並んでいるだけだ。僕は無意識のうちにポケットからスマホを取り出していた。内申点のために時間を切り売りする退屈な毎日。そこから脱出するための、秘密のコードに見えたのかもしれない。僕はカメラのズーム機能を使って数字を読み取り、キーパッドに打ち込んだ。
発信ボタンを押す。『プルルルル……』無機質な呼び出し音が、鼓膜を揺らす。どうせ、自動音声のアナウンスが流れるだけだ。大気汚染の数値とか、明日の天気とか。そう思っていた。
『……Hello?』
聞こえてきたのは、鈴を転がしたような、少女の声だった。心臓がドクンと跳ねた。外国人?
「あ、えっと……ハロー?」
僕が情けない英語で返すと、受話器の向こうで息を呑む気配がした。
『まさか、日本の方?どうしてこの番号を知っているの?これは非公開回線のはずよ』
流暢な、けれど少しイントネーションの違う日本語が返ってきた。透明感のある、少し哀愁を帯びた声。
「えっと、屋上から見えたんだ。飛行船のボディに、光が反射して……」
『太陽の悪戯ね……』
少女は小さく笑ったようだった。
『驚いたわ。地上から電話がかかってくるなんて、初めて』
「君は、誰?あの飛行船に乗ってるの?」
『ええ。私はエラ。空の上の住人よ』
エラと名乗った少女の声は、ノイズ混じりの電波に乗って、僕の退屈な世界に降り注いだ。
「僕は湊。……ねえ、これって何かのイベント?」
『イベント?ふふ、違うわ。これは私の鳥籠の鍵。誰にも見つからないはずの、秘密の扉』
彼女の言葉の意味はよく分からなかったけれど、僕は電話を切ることができなかった。




