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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 ルリトウワタ : 信じあう心 』

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『 生きた証 』

 

 精霊たちが、僕に隠れてとんでもないことを

画策していたことに、気がつくことはなく。

ずっと語られることになる出来事に、止めることができたなら

絶対に阻止したのにと、思い出すたびに

ため息を吐く事になる出来事が、この後すぐに

起こるのだとは思いもしていなかった。


誰なんだ、精霊を呼び出す少し前からの記録と

この闘技場の出来事を、国全体に流そうと言いだした精霊は!


僕とギルドの噂を、一気に片付けてしまえと僕の為を思って

行動してくれた気持ちはとても嬉しいと思う。


だけど、それはそれでこれはこれ。

僕は絶対に許さない。はぁ……。




【 ウィルキス3の月30日 : セツナ 】


 精霊が、姿勢を楽にするようにと告げ

それと同時に、魔力も抑えたようだ。

膝をついていた人達が、元の姿勢へと戻り

小さく息をついている人達が多かった。



「始めるわ」


精霊が、首を少し傾け僕を見た。

その瞳の中にあるのは、くすぐったいほどの親愛。

気がついているのはきっと、フィーぐらいだろう。


「よろしくお願い致します」


「審判の対象者は?」


「この闘技場にいるすべての者でお願いします」


僕の返答に、冒険者達が悲鳴を必死に飲み込む気配を感じる。

この瞬間、誰一人として傍観者でいることができなくなった。

冒険者だけでなく、ギルド職員も医療院の医師も全て。


なるほど、と呟いている冒険者もいれば

視線を彷徨わせている冒険者もいる。


青褪めている冒険者もいれば

キョロキョロと忙しなく周りの状況を

窺っている者もいた。


しかし、大半の冒険者が緊張しながらも

僕が、なそうとしていることを理解しているようで

ギルドを疑わなかった冒険者達も

深く頷き、精霊の言動に注目していた。



「理由を説明したほうがよろしいですか?」


「結構よ。知ることなど簡単な事」


精霊が、そう告げると同時に魔法陣が隅々にまで広がる。

詠唱を口にすることなく広がる魔法陣に、皆が息をのみ

静かに瞬き、消えてしまった魔法陣に吐息が落ちていた。


「この場で、嘘をつくとどうなるか

 各々が、身をもって知るといい」


僕は一度頷き、左腕を空へとのばし

「僕は本を読むのが嫌いだ」と嘘をついた。


嘘をつくと同時に、左腕の皮膚が黒の痣に蝕まれていく

アルトが目を瞠って、僕の顔を凝視しているところを見ると

顔にも黒の痣が浮かび出ているのだろう。


「嘘をつけば、体中に黒の痣が浮かび上がる」


なるほど。精霊の審判について書かれている

本を見て知っていたけれど、確かにこれなら

誰が見ても真偽が判断できる。


「俺は、魚が嫌いだ! 俺は、肉が嫌いだ!

 俺は、野菜が嫌いだ! 俺は……」


僕の隣から、元気に聞こえてくる声に

隣を見下ろすと、アルトの顔がまだらになっている……。


精霊が、目を丸めてアルトを見ている横で

黒達もそれぞれが自分の手を見つめて嘘をついていた。


「……武器の作成が好きではない」


「僕は、研究が嫌いなわけ」


「私は、戦闘を好まない」


「美味いもんを探すのに飽きた」


その趣味全開な試し方は、どうなんですか?

僕とヤトさんの呆れた視線を気にせず、黒達も

適当に真実と嘘とを織り交ぜて実験している。


その姿は、堂々としており

憧れを持たれているだろう黒の姿に見えた。

そう、見えた。


闘技場の冒険者達も、僕達を見ながら

自分達でも、試しているようだ。

所々で男女の修羅場のような光景が広がっているのを

周りの人達が止めているが、真実を証明しようとしたのか

嘘をついたつもりだったのか……。


殺し合いに発展しないといいけれど、と

くだらないことに意識を取られている僕を

リオウさんが、呆れたように見て小さく笑った。


「どうしてこんなことに」震える声で呟かれる音に

意識が、こちらへと戻り声の出どころに視線を落とした。

座り込んで動けないチェイルは

震えながら顔や手がまだらになっている

アルトを茫然と見つめていた。



パンッ、と鋭い音が響き皆の意識が精霊へと戻る。

彼女が手を叩き、意識をこちらへと引き戻したようだ。


彼女が手を叩いた瞬間に、黒い痣は綺麗に消え去っていた。

痣が消えたことに、興味を示すもの、安堵するもの

その表情は様々だけど、アルトは遊び足りなかったのか

口を開こうとするのを、心話で止めるとつまらなさそうに

唇を尖らせながらも素直に頷く。


アルトをずっと観察していた精霊が

口元を引きつらせながら

笑いをこらえていることに、気がついたけれど

見なかったことにした。


精霊が小さく咳払いをし、厳かに口を開くが

アルトの方を見ないように、努力しているようだ。

きっと、笑いの発作に蝕まれるのを

阻止しようとしているのだろう。



「始めるわ。でも先に、面白いものを見せてあげる?

 その後で、貴方が自分の命を代償にしてまで貫きたい

 真実を証明して見せなさい。


 大丈夫よ。対価に魔力とは別のものを望んだ時点で

 彼の命を奪う気はないから」


最後の言葉は、顔色を変えた黒達とヤトさん達に告げた言葉だ。


『セツナが集めたモノを、私に渡すといいかな?』


『え?』


『魔法を使っていろいろ集めていたかな?』


『確かに集めていましたが』


『セツナが、提示するより

 私が、見せたほうがより効果があるって思うかな』


『お願いしてもいいんですか?』


『任せてほしいかな! はりきっちゃうかな!』


いや、別に張り切ってほしくはない。

程々にお願いします。彼女に僕が集めた情報を

纏めた魔道具を見えないようにして

魔法で作った見えない鳥に持たせて渡す。


しかし……。

チラリとチェイルを見て、気の毒に思わなくもない。

彼女は、僕とギルドが仕組んだと周りを煽っていたが

本当に、ギルドとは何も仕組んでいない。


反対に僕は釘を刺されているわけで

ギルドは、冒険者が僕に殺されないように

細心の注意を払っているのだから。


だけど、ここに呼び出すことになった

上位精霊と僕が行っていることは

彼女にとっては、出来レース以外の何ものでもない

そのことに、罪悪感も覚えなければ

彼女に同情を感じることもないけれど。


精霊は、僕に好意を示してくれる。

僕は、それを知っていた。

彼女は、それを知らなかった。

ただ、それだけの話だ。



精霊が、パチンッと指をならす。

傍目から見れば、表情に変化がなく

淡々と、必要な事をしているように見える……。


しかし、裏では鼻歌を歌いながら

ノリノリで、僕が準備していた魔法を乗っ取りながら

起動させていた……。


精霊が出した音で、次々に起動していく魔法。

この広い闘技場の空中に、ディスプレイのような

形のものを無数に浮かび上がらせ、全ての人が

映像を見ることができるようになっている。


用意したといっても、闘技場に刻まれている

魔法を使えるようにしただけだけど。

この魔法を刻んだのはきっと、かなでだ。


冒険者達が、さほど驚いていないのは

大会や催しごとがある度に、使われていたからだろう。


『この魔法、いつ見ても面白いなって思うかな』


そして、彼女も見た事があるようだった。

ディスプレイに映像として、冒険者の姿が映りこんでいく。


映し出されるものは、僕とアルトを嵌めるための計画を

立てている姿だったり、舞台にいる二人がアルトに絡んだ後

僕の家に来た時の光景や黒達を馬鹿にしたような会話だったり


僕の噂を故意に流すための相談の様子だったり

冒険者と奴隷商人が、アルトを売るための手はずだったり

冒険者が、獣人族を騙す算段をつけている場面だったり……。


大会で、優勝させる冒険者を酒を飲み笑いながら

決めている姿だったり……。


あの日、アルト達に見せたものに

少し付け加えたものをこの場で流した。


映像に映っている、ほとんどの人間は

僕が先ほど潰した冒険者達だけど

協力者として、映っている人間達は観客席の中にもいる。


自分の隣にいる知り合いが、友人が、恋人が、家族が映り

あの映像は正しいのかと、本人に問いただしているが

問いただされた本人は、違うと否定することはできなかった。


唯々、顔色を蒼白にしながら冷たい汗を流すことしかできない。

この場で否定するという事は、神に嘘をつくことと同義だから。


闘技場の空気が、様々な感情で揺らめいている。

僕達やギルド職員、医療院の医師達に向けられていた

視線が変わっていく。


その表情は、噂を鵜呑みにした後悔や罪悪感。

信じていた人に騙された哀しみであったり

冒険者として、本来の姿を忘れた彼等に対する憤り。


そして、本当に狙われていたのが誰かを

ここに居る冒険者全員が知ることになった。


僕がこの場で戦う意味を

彼等に容赦しない意味を。


『冒険者達の、セツナに対する感情が

 恐怖から、少しだけ別のものに変わったかな?』


その瞳を、僕だけにわかるように柔らかく細め

優しい声が僕の頭と心に響く。


『私達は、貴方達の味方なの。

 私達の一番、一番大切なあの方達を

 貴方は命懸けで助けてくれた。


 私達はその事を、絶対に忘れないかな。

 あの方が、生きている。

 そして、もう消えることがない。

 その心配を不安を感じなくてもいい。

 この、幸福で叫びたくなるほどの感情を

 貴方にも、分けることができたらいいのに。


 忘れないで。貴方は独りじゃない。

 今回、私を利用したと考えているようだけど

 セツナと遊べるなら、いつでも歓迎するかなって!』


『……』


何も言えない僕に、彼女ではなく

多分、他の精霊達が僕を優しく抱きしめてくれている気がした。


フィーがそんな僕を見て、哀しそうに微笑んだ。



「殺すっ!!」


物騒な怒号が響き、殴り合う音と

それを止める声が響く。観客席へと視線を流すと

獣人族の青年が、奴隷商人と繋がっていた人間を

殺しかけているのをギルド職員が

必死になって止めていた。


「気持ちはわかります。気持ちは痛いほどにわかります。

 しかし、殺してはいけません。殺してはいけないのです。

 ギルドが責任をもって罰します。どうか、どうか私達を

 信じて頂けませんか? お願いします」


そう言って、数人のギルド職員が頭を下げる。

その姿を見て、自分の中の怒りを殺すかのように

青年は、一度俯き奥歯をかみしめていた。


「お前達が、頭を下げる必要はねぇだろう?

 お前達も、腸煮えくり返っているだろうにさ……」


血だらけの拳を、血管が浮き出るほど

ぎゅぅぅと握り、暫くして獣人の青年は

その手を人間から離した。


ギルド職員の、何処までも冷静な

それでいてその瞳の中に、確固とした

信念と意思を湛えている光を見て

獣人族の青年が、深く息を吐き

自分の中の怒りを吐き出しながら

ギルドの職員の肩を軽く叩き

「俺も、少し疑った。すまねぇ」と謝った。


その謝罪に、ギルド職員は嬉しそうな笑みを見せてから

半殺しになった、人間を拘束して運んでいく。


ギルド職員にも獣人族の青年にも

黒い痣が浮かび上がることは最後までなかった。



あちらこちらで、逃げ出そうとする冒険者を

周りの冒険者が拘束し、ギルド職員へと手渡しながら

ギルド職員への謝罪を口にしている光景を目にする。


大会が終わってから

捕まえる予定だったのにと思いながら

苦笑を一つ落とし、チェイルを見て

これでよかったかも知れないと思った。


彼女が絡んでこなければ、ここまで綺麗に

纏まることはなかったかもしれない。


彼女が言う通り、ギルドと結託していたと

思われた可能性の方が、高かったかもしれない。


そして、恐怖を植え付けられた冒険者は

その不満を、深く暗い所へ沈めていたかもしれない。

そうなってしまえば、それを払拭するのは

余計に面倒になっていたかもしれない。


どの様な結果になっても

どうにかする自信はあるけれど

面倒事は少ないほうがいい。


人間相手に、ここまで力を見せたのは初めてで

多人数を、コントロールしようとしたのも初めてで

かなでのやり方を真似してみたけれど

かなでのように、うまくできなかったみたいだ。


僕ではなく、上位精霊が罪を暴いたことも

好転した理由の一つだけれど。


「経験不足が否めないなぁ」


ポツリとこぼれた言葉に、少し笑いを含んだ音で

頭の中に、精霊の声が響く。


『セツナは、まだまだ子供なんだから

 経験はこれから積んでいくって思うかな』


『……僕はもう成人しているんです』


まさかの子供扱いに、驚く。


『あと、100年ぐらい生きたら大人になるかな?』


『えー……』


元の世界なら、生きてないじゃないか。

溜息をついている僕に、また笑いを含んだ声が届くが

気にせずに、ディスプレイへと視線を戻した。


そろそろのはずだ。

思った通りに、チェイルの映像が流れ始めた。


殆どの人間が捕縛され、騒めきながらも

冒険者達が、自分の席へと座りながら

チェイルの声が流れる、ディスプレイへと意識を向ける。


そこに映し出される光景に、唖然としたり

目を細めたり、恥ずかしそうにしたり

苦虫をかみつぶしてみたりと、個人の性格によって

その表情は様々だ。


チェイルはといえば、自分が映ったことに

茫然としながらも、小さく「やめて、やめて」と繰り返している。



ベッドの中で、甘い空気を纏いながら

火傷を負った魔導師に甘く強請っているチェイル。


『あの獣人の子供、奴隷商人に売るのでしょう?

 私、あの子が持っている武器が欲しい。ね?』


『暁の風のリーダーとその子供の持ち物は

 山分けになっているから、無理だと言っているだろう?』


『あの武器、魔法が掛かっていて

 とても高い金額で売れるって、話しているのを聞いたの。ね?』


『……』


『君が、止めを刺せば

 きっともらえると思うんだけど。だめ?』


『わかった。あの武器はチェイルの為に貰ってくるとするよ』


『ありがとう!』


僕を殺そうとした理由の一つが、ここで暴かれた。

彼女は、魔導師の参加を止めるどころか

僕に止めを刺せと、楽しそうに笑いながら告げていた。




「嘘よ!」


上位精霊が、現れてから初めて口にしたチェイルの言葉は

映像を否定する言葉だった。


「あら? 私が嘘をついていると?」


「っ……」


僕に向ける瞳とは正反対の視線を、チェイルへと向け

冷たい空気をその身に纏う。


「嘘をついているのは、貴方の方。

 その腕と顔に、黒の痣がその証拠」


精霊の言葉に、チェイルが自分の腕を見て悲鳴を上げる。


「この場は、私も含めて嘘を禁じられているの

 貴方、それをわかっていて?」


精霊の言葉に、チェイルが助けを求めるように

周りを見渡すが、先ほどまでの好意的な視線は

消えうせている。


「わ、私は……」


口を開くが、すぐに閉じる。

何を告げたとしても、そこに真実はないのだから

口を開けるはずがない。闘技場の数ある出入り口に

視線を走らせるが、その全てにギルド職員が立っている。


『往生際が悪いって思うかな』


心の底から、嫌そうな声が頭に響いた。


「ちょうど、魔法も終わったようだし

 審判を始めるわ」


精霊が、手のひらを横に軽く振った瞬間

空中に浮かんでいた、ディスプレイが全て光の粒となって

消えていった。その、美しい光景にミッシェル達の

感嘆の声が届き、精霊の口元が少し上がった。


精霊は、基本ミッシェル達の声を追っているらしい。

時々楽しそうに目を細める。僕は適当に鳥を飛ばして

声を拾っている。


「私が質問していくわ。

 貴方達はそれに、簡潔に答えなさい。

 理由を述べたい場合は、述べることを許します」


精霊の凛と響く声に、闘技場全体が緊張に包まれた。


「観客席にいる、冒険者の心の中に有る

 不満や疑問を、問いとします」


「はい」


「ギルドは、この大会を催すにあたり

 彼、セツナに有利になるように便宜を図ったか?」


精霊の問いに、少しの躊躇もせずにヤトさん達が

「否」と答えていく。当然、ヤトさん達にもオウカさん達にも

その他のギル職員にも、黒の痣は浮き出なかった。


精霊が、次々にチェイルが口にした疑惑を問いに変えていくが

その全てに、ギルドも医療院の人間も「否」と告げ

それが単なる噂であることを証明していく。


観客席の冒険者たちは、黙って……黙り込んで

ギルド職員と医療院の医師達をじっと見つめていた。


声をあげていた冒険者も

そして、声をあげることを選ばなかった冒険者も……。


「彼、セツナは特別に優遇されている?」


ここで初めて、ヤトさん達が考えるように口を閉じた。


「ギルドは、彼を優遇してはいなかった。

 優遇できれば、どれ程よかったかと思いはしたが」


ヤトさんの告白に、観客席の冒険者が息をのむ気配が届き

そして、どこか安堵にも似た空気が漂うのが分かった。


「彼が優遇されているように

 見えた理由を説明したい」


ヤトさんが、精霊に膝をついて願う。


「立ちなさい。そして、理由を述べなさい」


「感謝いたします」


ヤトさんが立ち上がると同時に

黒達が移動し、ヤトさんの後ろへと立つ。

オウカさん達は、ヤトさんの隣へと移動した。


「理由を話す前に、私達は

 暁の風に心からの謝罪を致します」


「え……?」


僕だけでなく、アルトも呼ばれた事に

アルトが耳を軽く動かし、緊張したように

ヤトさん達に視線を向ける。


「今から告げる理由によって、私達は彼のランクを

 彼の実力に見合ったものへと引き上げたかった。

 それは決して優遇ではなく。ギルドに登録する

 冒険者全てに与えられている、権利である。


 黒との同盟も、彼が願った事ではなく

 黒のチームが、彼の実力に惚れた結果

 結ぶ形になったに過ぎない」


「……」


「だが、私達が早急にことを進めたことによって

 誤解を招き、セツナとアルトを危険にさらしたことは

 私達ギルドと黒達の落ち度である。


 私を含め、ギルド上層の減給六か月 

 及び、精神的苦痛を与えた償いとして

 個人資産からの賠償を。


 そして、黒は一ランクの降格とし

 暁の風リーダーであるセツナとアルトへの謝罪とする」


「え……?」


茫然とする僕に、黒達やヤトさん、オウカさん達が

背筋をまっすぐに伸ばし、僕に深く頭を下げた。


「申し訳ない」


何の言い訳もない、心からの謝罪……。

ギルド総帥が頭を下げたことで

散らばっていたギルド職員も同時に頭を下げた。


観客席の冒険者たちが

驚愕をその表情に浮かべながら、固唾をのんでいた。


「降格……?」


黒のランクは、余程のことがないと降格はしない。

それは、冒険者であるならば誰でも知っている事だ。


黒のランクを一つ上げるのに

どれだけの年月がかかるのか……。

それを、降格……?


全ての責任は、自分達にあると

冒険者達が集まるこの場で、真偽がわかるこの場で

僕が望んだことではなく、巻き込まれた側なのだと

彼等が、そう言っている……。


彼等だけが悪いわけじゃない。

やろうと思えば、噂を消すこともできたんだ。

ただ、それほど関心が持てなかったから放置した。


『セツナ。彼等の謝罪を受けなさい』


精霊が、口を挟んだ。

わかっている。ギルドが僕を黒にあげたかった理由も

黒達が僕を縛りたかった理由も……。


その理由が、好意だけではないことも。

だからこそ、彼等は僕に対して

謝罪しなければならないという事も。


組織として、巻き込んだ責任を取るべき立場にいることを。


『セツナ』


精霊が優しく僕を促す。


だけど、それ以上に僕は彼等に迷惑をかけているし

黒と黒のチームが、僕とアルトに心を傾けてくれているのを

知っている……。僕が、その感情を受け取れない事を

理解していながら、彼等の態度は少しも変わらない。


『セツナ』


精霊の声に、微かに頷いてから口を開いた。


「謝罪を受け入れます」


「俺も受け入れます」


ヤトさん達が、頭をあげて真直ぐに僕達を見た。


「私達は、選択自体を間違えたとは思っていない。

 これからも、実力のある人材がギルドに登録してくれたなら

 同じことを提案し、打診するだろう。


 同様に、黒達も同盟を結んだことを後悔してはいないだろう。

 反対に、同盟を結ぶまで付きまとっていたに違いない」


「……」


「私達が間違えたのは

 手順を踏まなかったことだ。


 セツナとアルトを巻き込んだことを

 私達は後悔している。

 取れる方法は、沢山あったのだから。

 本当に申し訳なかった」


「いえ。謝罪はもう受け取りましたから。

 これ以上は必要ありません」


「セツナ、そう簡単に許してはいけない」


「いいえ。アルトがあれだけの人間に狙われていながら

 怪我もなく、自由に学校へ通い、遊びまわれていたのは

 ギルドと黒と黒のチームが、アルトを陰日向なく

 守っていてくれたからです」


「……」


「僕も、心からの感謝を。

 アルトを守って頂いて、ありがとうございました」


「ありがとうございました」


黒と黒のチームは、出会ってからずっと。

ギルドは、アルトが狙われていると知った時から

アルトが外出するときは、影をつけてくれていたし

僕達の家の周りの見回りを強化してくれていた。


「やっぱり知っていたんだな」とヤトさんが

小さく笑い一つ頷いてから


観客席を見渡し、静かに理由を語りだした。


「まず、ギルドは実力があると認めた場合

 彼に限らず、優遇し実力に見合った

 ランクに近づけるように便宜を図ることがある。

 力と知識、礼儀など偏ることなく

 取得していることが条件だ」


ヤトさんの説明に「力だけなら」とか「知識……」とか

「礼儀ってなんだよ」と小さな声がざわめきと共に届く。


「それは、彼、セツナだけではなく

 冒険者全員、平等に与えられている権利だ。

 貢献や恩恵、そういった様々なものを

 ギルドへと与えてくれた場合も、対価として

 同様にランクを上げることも多い」


ヤトさんが、手元の魔道具を起動し

何らかの情報を、表示させるために

もう一度、空中にディスプレイを浮かび上がらせた。


「彼の功績は、今更ここで告げる必要はないだろう。

 ただ、彼が完遂した依頼。

 そして、倒してきた魔物については

 ギルドが秘匿していたこともあり

 情報が流れることはなかった」


ディスプレイに表示されるのは

僕が倒してきた魔物の名前。

その膨大な量に、観客席の冒険者たちは

茫然としながら、ディスプレイに流れる文字を読んでいく。


僕の情報を開示することは

了承してある。今更隠しても仕方がないことだ。


「ワイバーン? 単独で?」


「あれ大型の名前じゃねぇか」


「嘘だろ?」


「嘘じゃねぇだろ……。

 今ここでは嘘がつけねぇ」


「さっき、大型を倒してたな」


「一撃とか、ないだろ……」


観客席の冒険者が、落ち着くのを待ち

一呼吸入れてから、続きを語る。


「情報の秘匿については

 様々な理由があるが、セツナと相談して

 ギルドが必要であると判断を下した結果だ」


理由そのものを告げようとしない事に

微かな不満を口にする冒険者に、精霊が口を出す。


「愚かな人間が、彼の守るものに

 手を伸ばそうとしていたからかしら?」


「……」


ヤトさんは、精霊に沈黙をもって答え

アルトは、しょんぼりと耳を寝かせた。


精霊とヤトさんとアルトを見て

ばつが悪そうに、視線を逸らすもの

頷くものなどそれぞれに

納得した様子を見せる。


ここで、ヤトさんが嘆息し僕を見る。


「総帥である私。ギルド上層そして黒全員が

 暁の風リーダーである、セツナを黒にすることに同意した」


観客席の冒険者、ギルド職員、そして治療を再開していた

医療院の医師でさえも、目を瞠りヤトさんを

驚愕の表情で見つめている。


「黒になる為の、条件を満たしておきながら」


ヤトさんが、視線を下へと落とし深く深く溜息をつく。


「その申し出を、迷いもせずに断られるとは思わなかった。

 現状のランクの維持を望むと……」


「嘘だろう?」と誰かが落とした言葉と共に

冒険者達の視線がヤトさんから僕へと移動する。


「私達ギルドは、冒険者の命を守ることを

 何時も念頭に置いている」


その事を、頭に入れて話を聞いてほしい、と

総帥のそして黒の威厳を纏い、ヤトさんが告げる。


ヤトさんの話す内容には

僕と黒との会話も含まれていた。


報告のために、告げたのか

黒にするのを諦めろと釘を刺してくれたのか……。

たぶん、後者だろうなと苦笑する。


「彼を黒にあげたかった理由は。

 現在、黒と白の引退が相次ぎ

 実力のある人材は、喉から手が出るほど欲しいからだ」


ヤトさん……本音が駄々漏れなんですけど……。


「それは、我々ギルドの為でもあり

 魔物と戦うすべを持たない人の為でもあり

 ギルドに所属する、冒険者の為でもある」


「どういう意味だ?」と首をかしげる冒険者達。


「大型や超大型と出会った時に

 救済に入るのは、黒と黒のチームだ。

 普段、黒は各国に散らばって活動していることが多い。

 黒の数が少なくなるという事は

 それだけ、救済が遅れる可能性が高くなるという事だ」


真剣な表情で、冒険者達はヤトさんの言葉に耳を傾けている。


「ギルドを疑い。

 黒の素質がある彼を妬み

 その為に、大型と超大型の魔物を倒すことができる

 実力者を黒にあげる機会が潰された。


 彼が、黒になるのを断った理由の一つが

 今回噂を流した者、噂を鵜呑みにした者達が

 彼が守るものに、手を出したからだ。


 経験が足りない自分では

 黒とは認めてもらえないだろうと

 彼自身が判断したからだ」


全てが真実ではないけれど

理由の一つと話していることから

嘘とは判断されなかったようだ。


闘技場が一瞬にして静まり返る。

不満や、疑念を持っていた冒険者達が

自分達の命綱の一つを、自分達の手で

握りつぶしたことに、気がついたから。


「ギルドからの救済を必要としないのだろうか?

 黒に要請する必要はないと、判断したのだろうか?」


ヤトさんの言葉に、誰も口を開かない。


「それが、貴方方の総意なのだろうか?」


あちらこちらで「違う」と「総意ではない」と声がする。

その声は、今まで声をあげなかった冒険者達の声だ。


噂に、チェイルに煽られなかった人達の言葉だ。


実際、本当に悪意をもって行動していた冒険者は一握り。


大半は、恋人に振られたからとか

親にガミガミ言われたからとか

小指を箪笥にぶつけて苛々していたからとか

リーダーに怒られたとか

依頼を失敗したとか


ギルドに、軽い不満を覚えつつも

それ以上に、自分達の生活の中で

うまくいかなかった時、むしゃくしゃした時

痛みにもだえて当たり所がなかった時などに

今一番、注目されている話しやすい内容を

酒の肴に、当たり所を見つけて愚痴りながら

憂さを晴らしていただけだ。


この大会でも、小さな不満を持っていた事で

流れ流され、煽られて

悪乗りして騒いでいたという人達と

妬みや嫉み、自分では届かない場所を夢見て

たどり着けないもどかしさを、発散させるために

声を出していた人達が大半だ。


それはそれで、どうなのかと思わなくもないが

集団心理というのは、ある意味自分を見失わせる事も

あるのだろう。僕には経験が無いからわからないけれど。


噂やチェイルに、煽られて掌で転がされていた

冒険者が目立っただけで、ほとんどの冒険者は

まともな思考を持っていた。不満も、疑念も、不信も

もちろん脳裏によぎった冒険者もいただろうし

最初から、最後までギルドを信じていた冒険者もいる。


だけど、彼等は様々な感情を持ちながらも

声をあげない選択をし、何が正しいのかを

見極めようとしていた。そんな冒険者が圧倒的に多いんだ。


そうでなければ、危険と隣り合わせの冒険者なんて

やっていられるわけがない。自分で考え、行動しなければ

すぐに命を落としてしまう世界だから。


チェイルは、冒険者達から同情と

仲間を助けたいという共感を引き出し

様々な感情を用いて、ギルドの不満を

表に引きずり出し、自分の望みを叶えるために

声をあげていた冒険者達を利用した。


僕は、悪意を持った冒険者とまともな冒険者を

ひとまとめにして、僕に悪意を持った冒険者を利用し

敵に回せば報復されるという恐怖をもって

アルトを守ろうとした。


結局、どちらも嘘つきで最低であることに変わりはない。


チェイルは、自分に共感できるものだけを選び。

僕は、誰も何も選ぶことはなかった。


どちらがより最低かを決めるとしたら

間違いなく、僕だろうという自覚はある。


「セツナ」


姿勢を正し、総帥としてのヤトさんが僕を見る。


「はい」


「そのマントは、ジャックから引き継いだものだな?」


「そうです」


僕達の会話に、チェイルが目を瞠り僕を見上げ

観客席の冒険者たちは、言葉を失ったかのように

開いていた口を閉じる者、唖然とした表情で

凝視するもの、様々だ。


「セツナが、ジャックの弟子であることを

 私達は知っていた。孤高の狼から

 知識及び戦闘の全てを引き継いでいたことも」


小さな「嘘だろう?」という声が

あちらこちらから響くが、嘘ではない事は

誰もが理解している。


そこから、どう話を繋げるか思案している

ヤトさん達に、僕から話を振ることにした。

何処まで話していいかの判断が、つけにくいのだろう。


真直ぐに立ち、軽く胸を張る。

今までのような態度ではなく、国を治める

王と王の一族に対する姿勢で彼等を見る。


僕の纏う空気の変化に、彼等もまた

姿勢を正し、真直ぐに僕を見た。


「総帥。そして、初代総帥の一族の方々。

 この立場の僕として話すのは、初めてになりますね。

 僕の予定では、表舞台に上がるつもりはなかった。

 ジャックの弟子というのも、黒と黒のチーム

 そして、貴方方だけで止めるつもりでいました。

 それが、どうしてこうなってしまったのか……」


溜息をついて首を振る僕に

オウカさん達が、困ったように眉根を下げた。


視線を地面へと落とし、もう一度深く溜息をつく。

少しの間、沈黙が場を支配した……。


「僕は、ジャックの遺志を継ぐ者としてここに有る」


この大会に臨む前にそう決めた。


ゆっくりと視線をあげ、花井さんの一族である

オウカさんを直視する。僕の視線に、オウカさん達が

息をのんだのがわかった。


ガイア(エンブレム)を背負うと決めたその瞬間から

 僕は、世界最強を継ぐもので有り

 リシアの守護を託された者としてここに有る」


「リシアの守護者……」と呟く声が

何処から聞こえた。


「僕が、この大会に参加した目的は

 僕の敵を、排除するため。

 僕の弟子に手を出した、冒険者に報復するため。

 そして、リシアの敵を潰すためです」


僕の言葉に、チェイルが地面を削るように

腰を下ろしたまま後退していくが、逃げられないように

結界を張り、それ以上は後退できないようにしておく。


「間違えないで、頂きたいのは

 僕は、リシアの守護者であって

 ギルドの守護者ではないという事」


目を細めた僕に、オウカさん達が真剣な顔で頷いた。

ギルドが腐敗した時は、僕がこの手で一掃すると暗に告げる。


周りの緊張を解くように、ここで体から力を抜き

何時ものように、態度を戻す。

リオウさんが、ホッと息をついているのを横目に見ながら


意味が分からず首をかしげている人達が多いため

別の意味を持たせるように、言葉を紡いでいった。


「なので、正直ランクにはあまり拘りがありません。

 緑であろうが、赤であろうが、白であろうが、黒であろうが

 困ることはないので。

 

 困るのは僕ではなく、僕が守るもの以外の

 冒険者達でしょうね。僕を散々馬鹿にしてくれましたから

 僕は、彼等が大型や超大型に襲われようが

 助けに行くつもりがない」


観客席の僕に暴言を吐いていた冒険者たちが

一斉に表情を失くしていくのを見た。


「黒であれば、ギルドからの要請で

 動くこともあったでしょうが、僕のランクが上がることを

 嫌がる人が多かったので、要請されることもない。


 彼等は、どんな魔物に襲われようとも

 黒の腰巾着や負け犬……後は……腰抜け? な僕に

 救助してもらいたいとも思わないでしょう?」


黒達が、真剣な表情を作りながらも

少し俯いて、体を揺らしているのがわかる。

「鬼が居るわけ」とサフィールさんが呟き

アギトさんが「絶対に泣き寝入りはしない男だな」と

微かに口角をあげていた。


「僕の作る薬や、魔道具を否定する人もいるようで

 その様な方に、購入して頂きたいとは思わないんですが……」


全て僕の本音である。

全く気にはしていないが、報復できるのなら

報復しなければ……。機会があるのなら逃すことはない。


僕の言葉に、ギョッとした表情を向けているのは

きっと、身に覚えがあるのだろう。


ヤトさんが右手で、目元をぐりぐりと抑えながら

「ギルドが困るのだが……」と疲れたように落とした声に

答えるように、精霊が口を挟んだ。


「私が手伝ってあげる。

 面白い魔法を見せてもらったことだし

 対価として、与えてあげる。


 ギルドや黒は、自分達の不甲斐無さを認め

 謝罪したのだもの。一方的に一人を悪者にしておいて

 無かったことにできるなんて、思わないわよね?」


クスクスと笑いながら、精霊がパンッと手を一度叩いた。


「左手首に、黒の輪が刻まれた人間は

 彼に悪意を持っていた者。

 彼が与える恩恵の享受を拒んだ者。

 彼の力を必要としない者。

 よって、その者達には

 恩恵を与える必要はない。

 代理で、購入したものを使用しても

 効果はないと心得よ」


僕はそんな事頼んでいませんが……。


「醜く表情を歪め

 醜い声で、醜い言葉を吐く姿は

 醜悪でしかない」


精霊の言葉に、自分の左手首を見て

瞬刻緊張が走り、そしてすぐに絶叫に変わる。


観客席が、阿鼻叫喚で満ちていた……。


アルトは、目が零れ落ちそうなほど開いて

観客席を見ている。尻尾はピクリとも動かない。


チラリと、チェイルの左手首を見ると

刺青のように、黒い輪が刻まれている。


観客席を見渡して

本気で蹲って泣いている人がいるのを目にして

内心引いたけれど、エレノアさん達が憐れむように

観客席を見ているのを見て、その理由に思いあたった。


女神の使いである上位精霊に、不名誉な印をつけられる。

それは、この世界の住人にとって

とてつもなく、恐怖を感じる事らしい。

どんな職業であろうと、神を信仰し神に祈る。


アイリを攫った、奴隷商人ですら

神に対しては、真摯だったきがする。


魔物が蔓延るこの世界で

神から見放されてしまえば

生きてはいけない……。


冒険者達は、依頼に出る前に

神殿に、旅の無事を祈るものも居るし

街どころか、小さい村にだって

神殿とは別に、小さい祠のようなものが

あちらこちらに、配置されている。

神殿に行かなくても、神に祈ることができるように。


この世界の住人は、神との距離が近いとは

思っていたけど、僕の想像以上だったようだ。

普段全く気にしないから、ここまでとは思わなかった。


それが日常なのだから、女神の使いである上位精霊に

嫌われたという印を入れられたら、恐怖に陥るか……。


神を信じてもいない、祈ったことの無い僕には

理解はできても、共感することはできないけれど。


観客席は、一向に静まる気配はない。


その場で跪き、精霊に許してほしいと懇願している声

僕への謝罪の声。諦め受け入れたように座る人。

落ち着かせようと声をかけている人。

仲間から、説教をされている人など、様々だ。


これ、どうするんですか?


『お姉さま、やりすぎなのなの』


『蒼露様に怒られる!』


『絶対に、怒られるのなの』


『助けてほしいかな?』


精霊が僕をじっと見るが

勝手に魔法を使ったのは、貴方でしょう?


「師匠……」


「うん?」


「別の意味で、狙われる気がするから

 どうにかしたほうがいいと思う……」


僕もそう思っていたよ……。

アルトに一度頷いて、頭を撫で

顔色の悪い、アルトの緊張をほぐしながら

どうするかと考える。



溜息をつきたい気持ちを抑えながら

僕を見る精霊の前で跪き、頭を下げた。


「僕とアルトに、悪意を持つ人以外の

 印を、消して頂くことはできませんか?」


『きゃー! かっこいいかな。

 かっこいいかな』


『フィーにも

 同じようにしてほしいのなの!』


心底どうでもいいので

はやく、彼等の印を消してこの騒動を収めてほしい。


『でも、悪意を持っている人は許さないのね』


『当然なのなの。許す必要はないのなの』


「どうして?

 自業自得だと、思わない?

 自分の言動には、責任を持たなければ」


『自業自得ですが!』


『あ、思わず言っちゃったかな?』


『……』


『お姉さま……』


必死に、溜息を飲み込みながら

表の精霊に、返答する。


観客席からの視線が痛い……。

必死に、僕に向かって祈っている人がいるが

切実にやめてほしい。


「確かに、自分の言動に責任を持つべきですが」


困り果てたように、精霊から視線を外し

顔を俯ける。


『うあぁぁぁぁぁ、謝るかな! 謝るかな!』


『謝罪は結構ですから

 早く魔法を解いてください!』


貴方が騙されてどうするんですか!?

ちなみに、嘘はついていない。


現に、心底面倒で困っているのは確かなのだから。


「貴方が、許すのなら

 あの醜い光景を、今回だけは見なかったことに

 しましょうか?」


『あの光景は、虫唾が走るほど嫌いかな』


本当に嫌そうな声が、頭に響いた。


『今回だけは、許してあげてください。

 面倒なので』


『自分の事なのに、簡単に許しすぎかな?』


『次はありません』


『それで良しとするかな』


『お願いします』


「お願いいたします。

 僕は、心からの謝罪のみ受け入れます」


『完全には、許していないかな?』


心のない謝罪を受け入れないのは


『当然でしょう?』


精霊が呆れたような瞳を僕に向け

そして楽し気に笑った。


「ならば、各々の心に問うがいい。

 自分の弱さを、自分の不甲斐無さを棚に上げ

 罪のない者を、糾弾するは、正義か?」


精霊の言葉に、身に覚えのある冒険者達は

恥じるように顔を伏せていく。


恥じることのない冒険者達も

精霊の声に、耳を傾け顔をあげながらも

深く思考する表情を見せる。


「時には、羨むこともあろう。

 不信を抱くことも、疑念を持つこともあろう。

 だが、その不満を強きものに向けず

 弱きもの一人の責にするは、正義か?」


闘技場は、先ほどまでの

喧騒が嘘のように静まり返っている。


「ギルドの腐敗が、噂が真実だった場合でも

 恥じることのない、正義の貫き方があるであろう?」


精霊が、ここで小さく溜息をついた。

精霊の溜息に、体を揺らす人が結構いるが

溜息の理由は、非常にくだらないものだ。


『蒼露様の、真似がちょっと

 疲れてきたって思うかな……』


『蒼露様に似ていませんが』


『似ていないのなの』


だから話し方が、どこか変だったのか。

全く似ていないですよ。


裏では、もう一杯一杯ですという

精霊の声に、笑わないように耐えるのが辛い……。


自分で蒔いた種は、自分で刈り取って欲しい。

しかし……。真剣に精霊の声を聞いている人達が

気の毒に思える……。


僕も精霊も他人に配る優しさなんて

持ち合わせていない。


持っていたら、こんな会話はしていないし

こんなことにもなっていない。


語っていることに、嘘はないけれど

精霊は、神と契約者以外は基本どうでもいい種族で

人が考える正義と精霊が考える正義は

似ているようで全く違う。


精霊の正義は、神と契約者に捧げられるもので

僕は彼女と契約しているわけではないけれど

僕を好んでくれているから、本気で怒ってくれていた。


結局、彼女は諭しているように見えて

チクチクと責めているに過ぎない。


そこに優しさなどなく

そこはかとなく、負の感情を巻き散らかしやがって、と

いう憤りも端々に感じる。


神からの願いを、何千年経とうが遂行することに

誇りを持っているし、それが精霊の存在意義でもある。

負の感情は、穢れを生むらしいから。


だから、負の感情で満ちる戦争を嫌がるし

大地を穢す争いを嫌悪する。


「己が胸に問え。

 そなた達が、求める正義の行方はどこにある。

 とくと考えよ。神は何時もそなた達の

 心の奥底を見ておられる。

 神はその正義を許されるのか?」


だから、この台詞は(お父様)の庭を

穢すなんて、許されることだと思っているのかな? と

いう言葉に置き換わるはずだ……。


最後の言葉に、ほとんどの冒険者が綺麗に反応した。


「自分自身を、哀れみ救うための謝罪は認めない」


数十秒の沈黙のあと


彼女が目を閉じた時から、この場の空気が慈愛に満ちたもので

満たされていく……。優しい魔力に、包まれているような感覚が

闘技場へと広がっていく。


精霊の最後の台詞に、内心苦笑する。

チクチクと責めておきながら、この言葉は

彼等に対する優しさに溢れていたから。


僕が付けた条件である、心からの謝罪。

これだけ混乱した状況であれば、僕だけに意識を向けるのは

難しいことで、どうしても最初に来るのは

自分を助けてほしいという気持ちだ。


それを彼女は、知っていた。

冷たい言葉の裏に隠された優しさに

気が付いたものは、きっと一握りだっただろう。


それが、彼女の気まぐれなのか

彼女の性格なのか……。

フィーが『甘やかさなくてもいいのなの』と

告げていた事から、フィーなら最後の言葉は

言わなかったのだろう。


『フィーは、まだ子供だからかな』


フィーの言葉に、笑いながら精霊が答えた。


『子供なのは仕方ないのなの』


『私は蒼露様と大体同じ時代に生まれたかな』


『羨ましいのなの

 ミッシェルと何時であったのなの?』


『んー。フィーぐらいだったかな?』


それって、何億年前なんですか?


僕は疑問を口にしたつもりはないのに

彼女が的確に、答えを返してくれた。


『彼女は何度か生まれ直しているから

 契約を交わせる状態なら、契約を交わしていたかな』


ああ、一度だけじゃないのか。


『今世は、ちょっと無理かな。

 魔力を自分で操作できないから。

 残念かなって思うかな』


『失いたくないのなの』


フィーが少し落ち込んだ声で本音を零す。


『あの人は、殺しても死ななそうかなって』


『……』


『……』


フィーから、ジトッとした視線をフフッと笑って躱した。


『彼等の中には、魂の輝きが戻ったものもいるかな。

 その魂を、正しい道へ戻してあげたいと

 長い時を過ごせば、思うようになるって思うかな』


『そんなものなのなの~?』


『うんうん。今は契約者がいないから

 暇つぶし、助けることも多いかな?』


暇つぶし……。

いい話をしていたのに。

最後の言葉は聞かなかったことにしよう。



精霊の魔力の余韻に浸る、彼等を立ち上がりながら

目に入れる。僕が動いたことで、その余韻から覚め

自分の。友人の。恋人の。家族の。チームの人の

左手首を見て、その印が消えているのを確認し

瞬刻息をのんだあと、彼等の喜びが弾けた。


その様々な、感情の波に僕もそしてアルトも驚き。

そして、茫然としながら闘技場の光り輝く

その光景に言葉を失くした。


負の感情で満ちていた闘技場が……。

今、キラキラと優しいもので光り輝いている……。

大地が、空気が、優しさで満たされている。


彼等の魂を導き。

彼等の印を消し去り。

そして、この場に澱んでいた負の気配を浄化した。


ああ、これが彼女達が使う魔法なのか。

負の気配をはらい、穢れをはらいこの世界を浄化する。

神の庭を守護する彼女達だけが使える尊い魔法……。


女神の使い。

そして、神の眷属……か。


「師匠、すごいね」


「そうだね」


それ以外の言葉は、どれ程考えても出てこなかった。


この光景を見ることができたのは

僕とアルトに深く関わりのある者だけだったと

全てが終わってから、フィーに言われて知ることになるが

見えていなくても、その空気は感じることができたんじゃ

ないかと僕は思っている。



ヤトさんが、冒険者達に落ち着くように

声をあげている様子を眺めている僕に精霊が

軽く首をかしげながら『不思議だったかな?』といいながら

胸に浮かんだ疑問を口にしていた。


ちなみに、彼女は僕に視線を向けていない。

首をかしげて、周りを見ているような感じになっている。


サフィールさんは、どうやら僕達が心話で

話しているのを薄々感じているようで

小さな声でフィーに「僕もいれてほしいわけ」と

言っているが、フィーは無視していた。


『不思議って何がですか?』


『私でなく、フィーでよかったとおもうかな?』


『え?』


『わざわざ、対価を払わなくても

 フィーが居たのだから、フィーに頼めばよかったかな?』


『彼女が、余計な事を言わなければ

 フィーにお願いする予定だったんですけどね』


『そうなのなの?』


『しかし、あそこまで疑われてしまうと

 精霊は、契約者の願いを一番に叶えると

 知られていますし、僕と仲がいいことも

 知られていますから』


『んー。フィーで問題なかったと思うかな?』


『問題はなかったのなの』


『そうなんですか?』


『精霊を疑う人間はいないから』


『精霊を疑う人間はいないのなの』


『ああ、なるほど……』


僕とこの世界の人達との精霊に対する

価値観の違いか。未だに、抜け落ちることが多い。


『私は、呼んでくれて嬉しいかな~』


『フィーは、頼ってもらえなくて残念なの』


『ごめんね』


『いいのなの。フィーを巻き込みたくないって

 思ってくれていたのなの』


ウンウンと上位精霊が頷き

フィーも、笑って許してくれた。


近くから視線を感じて、視線の相手を探すと

オウカさんと目が合う。


彼は、観客席を気にすることなく

僕に柔らかく笑い、口を開いた。


オウカさんの声が、闘技場に響いたことで

彼の言葉を聞くために、観客席が徐々に静まっていく。


「私から、君に尋ねたいことがあるのだが

 構わないだろうか?」


「どうぞ」


「君は、ギルドや私達一族が所有する魔法の権限も

 ジャックから受け継いだと思ってもいいのだろうか?」


「はい。ジャックが使用できていたものは

 全て使えると思って頂いて結構です。

 ジャックが構築した魔法の不具合だとか

 調整だとか、そういったものも引き継いでいますから

 今まで通り、相談に乗ることもできます」


「それはありがたい」


オウカさんが、穏やかに笑いながら頷く。

これで、どうして僕がここの権限を持っているかの

疑問は解けたかな。


「隠し子じゃなかったのか」と観客席からの声が届き

「隠し子より酷い」と暗い声で誰かが答えていた。


酷いってどういう意味だろう……。

少しだけ気になるが、問うわけにもいかない。


すぐに頭から消去して、答えが戻って来る

疑問を解消するために、口を開く。


「僕が悪用するとは思われないのですか」


余りにも簡単に納得してしまう、オウカさん達に

疑問を投げる。ジャックの魔法は、結構重要な所にも刻まれている。

出会ってまだ、間もない僕をどうして信用できるんだろう?


僕の疑問に、オウカさん達がほんの少し寂しそうな笑みを落とした。

それは、本当に瞬きをするぐらい一瞬の事だ。


寂しさを含んだ笑みの理由は

オウカさんが告げた言葉に、柔らかく滲んでいた。

彼等は、きっとジャックの事を思い出したんだ。

ジャックと会話した日々の事を……。


「ジャックが、君を後継に選んだ。

 そして君は、ジャックの遺志を受け継いだと言ってくれた」


「……」


「君は……ジャックと同じように

 この国を愛し、守ってくれる」


疑問形ではない、確信を持った言葉。

彼の言葉に嘘はない……。


真直ぐ真剣な眼差し。

一瞬も揺らぐことのない目をオウカさんは僕に向ける。

観客席はもう、とっくに静まり

彼等もまた、僕達の話を真剣に聞いていた。


「上位精霊をこの場に召喚し、リシアを守るために

 自分の命を代償にしようとした君を、どうして疑えようか?」


ギルド職員達が、僕を見て頷く。


「一睡もすることなく、緻密な魔力を編み上げ

 リシアの未来を支える子供達を救ってくれた君を

 どうして疑えようか?」


医療院の医師達が、強く頷く。


「例え、君がジャックの後継者でなかったとしても

 我々一族と、ギルドや医療院そしてリシアの民は

 君に心から感謝していた」


オウルさん達が、真剣な表情で僕に頷いた。


「孤高の狼が、自由を謳歌していたように。

 君もまた、何者にも縛られない自由な魂を持っているのだろう。


 ジャックからも、そう告げられていたんだ。

 自分の二つ名を継ぐ者が現れた時は

 一族の家族として迎えるようにと。

 だが、決してその身を縛ることのないようにとも言われていた。


 君達は、大空を泳ぐ鳥であると……。

 泳いでいないと、息ができないのだと言っていた」


「……」


「君は、唯々自由に大空を泳ぐ鳥であってほしい。

 孤高の狼、世界最強そしてリシアの守護者であったジャックのように。


 ジャックから、世界最強とリシアの守護者を受け継いだ

 若き鳥よ。ガイアの魔導師よ。我々は……」


ヤトさんとリオウさん。

オウカさん夫妻とオウルさん夫妻が丁寧に頭を下げていく。


その後に少し遅れて

闘技場の全てのギルド職員。

そして医療院の医師達も同様に頭を下げていった。


「我々一同は、リシアの守護者の帰還を

 心より、待ち望んでおりました」


胸がきしんだ。

俯く僕に誰も何も言わなかった。


帰還……。

それは、本来なら僕に対しての言葉ではないはずだ。

彼等が待ち望んでいたのは、かなでなのに……。


どうして、その言葉を僕に告げるの?

彼等の体に、黒の痣が浮かぶことはない。

誰一人として浮かぶことがなかった。


何か言わなければと、口を開こうとしたその時

闘技場の外から、地の底から湧き上がるような

凄まじい音量の歓声と歓喜の感情が届く。


その声に、その歓声に思わず顔を上にあげる。

アルトも驚いたように、周りを見渡していた。


「リシアの民も、君の帰還を喜んでいる」


それはまるで、国が揺れていると錯覚するような

声、声、声。空気の震えがここまで届いた。


「ジャックが、リシアに君を帰してくれた。

 私達は、ジャックに感謝しているよ」


オウカさんの言葉に、観客席も騒めきはじめる。


その感情が、その歓喜の声が伝播するかのように

観客席にも浸透していく。徐々に高まっていく感情が

湧き上がってくる、熱い想いが一気に溢れ

興奮と歓喜が凄まじい音となって

闘技場を震わせた……。


爆発するような空気を震わす力に

驚きながらも、僕の心は凪いでいた。


僕には、どうして彼等がここまで

興奮できるのかが理解できない。


最強の弟子というだけで

盛り上がれる気持ちがわからない。


なぜここまでの熱を放てるのか

何が彼等をかきたてるのか

誰か教えてくれないだろうか


僕に……。


『彼等も不安だったって思うかな』


僕の心を読んだように、精霊の声が響く。


『不安?』


『そう、ここ数年

 傍若無人の暴れん坊が、雲隠れしてから

 リシアの民と戦闘を生業にしている人達は

 どこか暗かったかな』


傍若無人の暴れん坊……。


『ジャックを知っているんですか?』


『知っているかな。

 ミッシェルの前世で、話したこともあるかな。

 助けてもらったこともあるかな。それとは反対に

 私の守る森を、破壊していったこともあるかなって』


『……すみません』


『セツナが、謝る事はないかな!

 彼の生き様は清々しいほど我儘で

 巻き込まれている人達も多かったのに

 それなのに、沢山の人に好かれていたかな。

 敵も多かったけど!』


『……』


特にガーディルとかエラーナとか。


『だけど、彼の強さは本物だった。

 どんな強大な魔物も、ひしめきあうような

 魔物の群れにも臆することなく、鼻で笑いながら

 立ち向かっていくその背中に、憧れを抱かない

 人間はいなかったかな』


『……』


『そして必ず、無傷で帰って来るその姿に

 戦闘を生業にしていた人達は、尊敬を抱き

 生きていたら、ジャックが助けに来てくれるかも

 しれないという希望を持っていたかな。

 

 鼻歌交じりに、どんな困難も跳ね返して

 国を守るジャックを

 リシアの民は、愛し慕っていたかな。

 

 楽しそうに、笑う姿に

 安堵と信頼を寄せていたかな。

 彼は、絶対に暗い表情を見せなかったから

 大体が、馬鹿にしたように笑っているか

 何かに苛立って、冒険者を締めているか……。


 碌な事をしてないかな……』


何かを想いだしたのか、精霊が遠い目をしている。


『そのジャックが居なくなって

 本人たちも気が付かない、絶望への不安が

 心の奥底に、住み着いたのかな?』


『……』


『彼は、沢山の人の希望の光……。

 希望の星だったから』


黙っている僕に、フィーがサフィールさんから離れて

僕の傍に来て、僕の手を取った。


『人間は、精霊とは違うかな。

 いつか必ず……水辺に行くときがくる。

 それは、リシアの民もそして冒険者達も知っていた。

 ジャックが隠れた理由も

 その辺りにあると思っていたかな』


精霊が、青い空に視線を向けながら

ぽつりと呟いた。


『希望の星を、失う恐怖は私にもわかるかな』


『……』


『彼等のその感情は、私達も理解できるかな……。

 希望の光を失うのは、怖くて悲しい事だと思うかな。

 存在していることが当然。それが崩れるかもしれない時の

 絶望は……理解できるって思うかな』


精霊達が、蒼露様を光とするように

ジャックは、リシアの民と冒険者達の光だったんだ。

戦う者達にとって、戦えないものにとっても

深く濃い闇を覆い払う唯一の光。


存在が消えてからも、闘技場が揺れるほどの熱を与える

ジャックという冒険者を、僕も傍で見て見たかった。


『黒達も、強くはあるけど

 ジャックのような強さは持っていないかな。

 単独で、大型や超大型を倒せるような力はないかな』


『そうですね』


『彼等は、セツナが単独で大型を倒せる力を自分の目で見て

 私がそれを、セツナの力だと証明したことにより

 その力が本物だと、ジャックの後継者だと理解した。


 リシアの民は、信頼し敬愛する初代の一族が

 セツナを認めたことによって、疑いもなく受け入れたかな。

 

 セツナは、彼等の新しい希望ということかな』


『……』


精霊の声に、何の反応も返すことができずに

視線を伏せる。精霊はそれ以上なにも言わなかった。


僕はどうやって、この感情に答えたらいいんだろう?

どうやって、受け取るべきなんだろう?


突然僕の掌に、のせられたその重みに

心がついていかない。


「セツナ」


ヤトさんが、僕を呼ぶ。


「深く考える必要はない」


「え?」


「ジャックは何も考えていなかった」


ヤトさんの言葉に、リオウさん達が

ウンウンと頷く。


「生きたいように生きていた。

 期待に応えるつもりなど、更々なかった」


「一欠けらもなかったわ」


それは、それでどうなの?


「私達は、そんなジャックを慕っていたのだ。

 どこまでも自由な心の彼を。


 大空を自由に泳ぐ鳥を、見ていたかったのだ。

 だから、セツナ。セツナも自由であれ」


ヤトさんの言葉を肯定するかのように

また、空気を震わすような声が届く。


穏やかに笑う、ヤトさん達に

僕も笑い返す。


「そうですね。僕も、ジャックと同じで

 生きたいようにしか、生きることができません。

 

 だけど……。

 ジャックが、リシアを愛し守ったように。

 僕も、守っていきたいと思います」


「末永くよろしく頼む」


ヤトさんの言葉に、リオウさんが

なんだか、結婚するみたいだわ、と笑った。


喜びの感情で満ちた空気に、身をゆだねる。


ここが、かなでの愛した場所。

かなでの帰る場所。


花井さんのつくり上げた国。

花井さんが愛した民が息づく所。

彼の子孫が生きる場所。


二人が、創り守り抜いた

二人が生きた証が宿る国。


そして、僕に与えてくれた優しい居場所……。


いつかこの国を、愛せる日が来るだろうか?

優しい人達が住むこの国……リシアを。


いつか……。





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