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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 河津桜 : 思いを託します 』

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『 エピローグ 』

【 ウィルキス3の月30日 : アルト 】


 師匠は英雄になるんだってずっと思ってた。



だけど……。

魔王の衣装を纏って、苦く笑う師匠を見て

本気で嫌がっているんだって理解した。


俺は、また間違ったんだ。


師匠は、あまり感情を表に出す人じゃない。

だから、師匠が何を考えているのか

俺には、わからない事の方が多い

わからない事の方が多いのに……。

わかってしまったんだ。


苦く笑っていても、師匠の目は悲しそうに揺らいでたから。

俺がかってに望んでいただけなのに。


なのに、きっと師匠は自分を責めていたんだ。

俺はまた、師匠を悲しませてしまったんだ……。



背中に生えた翼を、バサバサと動かし

白い羽が舞い散るのを目で追いながら、時々師匠を見る。


師匠の姿は、英雄の弟子に出てくる

魔王に似ている気がする。英雄の話が好きで

色々な本を読んだけど、その中で一番好きなのが

英雄の弟子の物語だった。


物語の英雄は、色々な本の中で生き生きと輝いていたけれど

ほとんどの英雄が、明るい感じの性格の男の人で

武器は剣を持って戦う人が多かった。


まだ、読んでいない本もあるからわからないけど

師匠のような、魔導師の英雄は"英雄の弟子"だけだった。


この本の英雄は、どこか雰囲気が師匠に似ていたんだ。

同じ魔導師だからかもしれないけど、文章からは

穏やかな性格の人なんだって感じ取ることができた。


だから、英雄が魔王になった時は叫んでしまった……。

英雄を師匠に、弟子を俺に当てはめて読んでいたから。

どうして、どうして……魔王になったんだって!

信じられなかったし、悲しかった。


それでも最後まで読んで、主人公が英雄を取り戻すことができて

安堵したし嬉しかった。俺も師匠が何かに取りつかれて魔王になったら

助けるんだって心に誓った。


師匠は今、セリアさんに取りつかれているけど

セリアさんは、悪い幽霊じゃないから大丈夫だ。多分。


セリアさん以外の何かに

取りつかれたら助けようと思ってた。



だけど……。


師匠が、魔王の姿で何時もとは違う抑揚で

英雄の弟子の台詞を口にした。


まるで、師匠がそう願っているんだというように

紡がれた言葉に、俺はどうしようもなく怖くなったんだ。


俺の方を見ずに、柔らかな笑みを浮かべながら言われた台詞。

何時もなら、俺もすぐに台詞を返そうと思うのに

物語の台詞だって、知っているのに声を出すことができない。


言葉にしてしまうと、物語が現実になってしまいそうで

師匠が、魔王になってしまうんじゃないかって思って

怖くて仕方なかった。


英雄の弟子の主人公は、泣きながら

悩みながら、葛藤しながら、苦しみながら

魔王を倒す道を選んで、魔王を倒す。


物語の最後では、魔王になった英雄は

元に戻って、その後は静かに暮らしていた。


だけど、沢山の人を殺して、一つの国を滅ぼした人間を

周りの人達は許すことができるのかな?


自分よりも、強い人間を生かしておくことが

できるんだろうか? リペイドの王様が話してくれたように

排除に向かうんじゃないだろうか……。


殺してもいい理由は沢山あるんだ。


物語と現実は違う……。

現実は、優しくない。


『英雄になるぐらいなら

 僕は、魔王になりたい』


どこか、悲し気に呟かれた言葉が頭に残って消えない。



本気で、師匠が魔王になった時のことを考える。

普段なら、考えなかったと思う。

笑って台詞を言っていたと思う。


でも、俺は……。

あの言葉は、師匠の本音に近いかもしれないって思ったんだ。

本音だとしたら、そうなる可能性はゼロじゃない……。


その時に考えて、また間違った選択をするより

今考えて決めておいた方がいいような気がした。

なんとなくだけど……。そんな気がしたんだ。


もし、師匠が魔王になったら……。

俺は、師匠を殺せるだろうか?


師匠が魔王になって、その時俺が黒になっていたら

絶対に、魔王を倒せと師匠を殺せと依頼が来るはずだ。


世界最強の師匠を、殺す事ができる人間が

いるとは思えないけど、この国の初代の一族である

オウカさんとオウルさんは、多分エレノアさんより強い。


それに、スクリアロークスを一撃で倒すような

魔法を使うことができる。師匠の師匠であるジャックを

家族だって話してた。だとすると、師匠を殺すような

魔導具を持っているかもしれない。


スクリアロークスを殺したような魔法が刻まれた

魔導具を沢山隠し持っているかもしれない。


初代が作った魔道具や、ジャックが作った魔道具が

師匠に向けられたら、師匠も無事じゃすまないと思う。

その時、止めを刺すのは俺かもしれない……。


嫌だって思った。

俺は……。師匠を殺せない。


師匠が魔王になって、沢山の人を殺していくとしても

何処かの国を、滅ぼすのだとしても

俺には師匠を殺せない。殺したくない……。


それに。


師匠が、魔王になるなら理由があるはずなんだ。

魔王になってしまうだけの理由が、必ずあるはずなんだ。

優しい師匠が、その道を選ばなければならなかった理由が。


だとしたら、悪いのは師匠じゃない。

魔王にしたやつらが悪いんだ……。


それでも。


アギトさん達なら師匠を殺すために

依頼を受けると知っていた。それが、黒や英雄と言われる

人達の役割だって知ってる。


どれほど苦しくても、どれほど悲しくても

国と人を守るために、魔王になった師匠を排除しようとするのだろう。


心で涙を流しながら

自分の役割を全うしようとするのだろう。

沢山の国と人を救うために。皆が師匠の敵になる。


じゃぁ、魔王になった師匠のそばには誰が残るの?

皆が皆、師匠の敵になったら師匠は独りぽっちになるじゃないか。


俺の考えは、駄目なんだとわかってる。

魔王になったのなら、悪の道にそれてしまったのなら

それがどんな理由であっても、罪のない人が殺されるなら

全力で止めるのが英雄や……俺、弟子の役割だって

知ってる。知ってるけど……。



俺は、師匠と同じ英雄になりたかったんだ。

師匠が魔王になったら、同じじゃないじゃないか!


ぎゅぅって、拳を握る。


どうして、どうして!

いつもいつも、師匠と同じになれないんだ!


師匠は人間で、俺は半獣。師匠とは耳も違う。

師匠は獣になれない。俺には、尻尾が生えている。

目の色は半分だけ一緒。髪の色は全然違う。

師匠は、世界最強だけど、俺は世界最強にはなれない。

俺には、ガイアのマントを身に付ける事すらできない。


苛立ちでかみしめた歯が嫌な音を立てた。


一つでいい。一つだけでいいんだ。

師匠と同じものが欲しかったんだ。

指輪とか、耳飾りも嬉しいけどそういった物じゃなくて

俺が俺自身が手に入れたもので、師匠と同じになりたかった。


黒になれば、師匠の隣を歩ける。

師匠と同じ風景をみて、同じものを背負える。

師匠と同じになれる。だから、俺は黒を目指そうと思った。


……。


セイルが辛い過去を話してくれて

俺が師匠に愛されているって

家族と同じような愛情を

俺に与えてくれているって

教えてくれた。


俺がずっと、ずっと欲しかったものを

もうとっくに、手に入れているんだって

教えてくれたから、俺はより強く

英雄になりたいと……願ったんだ。


だって……。


師匠は、まだ成人したばかりなのに

こんな醜いアヒルを育てることになった。


多分。俺が、我儘を言わなければ

何処かの施設に預けられていたはずなんだ。


俺が、師匠と一緒に居たいって言ったから

師匠は俺を弟子にしてくれた。


綺麗な翼を広げて、いつでも大空を飛べるのに

必死で、走ることしかできない醜いアヒルのために

走る必要のない白鳥も、隣を走ってくれている。


美しい翼をたたんで、俺に寄り添ってくれる。

俺なんていないほうが、あの広い空を自由に

飛べると、知っていても……寄り添ってくれる。

俺は、そんな優しい師匠から離れたくなかった。


だから……。


師匠と同じ英雄になりたかった。

俺も努力すれば、英雄になれるかもしれないって思った。


師匠のような、自分では逃れることができない暗闇から

光のある場所へ、導くことができる英雄になれたら!


俺が、師匠と肩を並べることができるぐらい強くなって。

師匠のような冒険者になることができたら!


与えられたものではなく、俺自身が手に入れて

胸を張って誇れる繋がりが欲しいんだ!


英雄の師匠と、英雄の弟子……。

誰からも、そう認めてもらえることができたら

俺は……。自分を好きになれるかもしれないと思った。


醜いアヒルが広い世界を知って

師匠の強さに憧れた。


大空を自由に飛ぶ白鳥を知って

師匠が見ている景色に憧れた。


そして……。


親からの愛情というものに憧れて

師匠を父さんと呼ぶことに憧れる。


醜いアヒルが願うには、不相応な願いだと知っている。

それでも、胸に宿った願いは消すことができない。


消すことができないんだ。

一度でいい。一度だけでいい。

一度だけでいいから……願いを形にすることを許して。


胸の中と、頭の中がぐちゃぐちゃで

よくわからなくなってきた。苦しい。

同じことが、頭の中でグルグル回ってる。


苦しい。苦しい。苦しい。


俺は、どうすればいい?


師匠は英雄にならない。


英雄になれば、願いが叶うかもしれないと

思っていた、俺はどうすればいい?


師匠が魔王になったら、俺はどうすればいいんだ。


止めなければいけない。殺さなければいけない。

これが正しい。それが最善だって頭が言う。


でも、殺したくない。師匠を独りにしたくない。

師匠から離れたくない。そう心が叫んでる。


沢山の人間が、俺の隣をすり抜けるように歩いていった。

誰も、俺に手を伸ばしてくはくれなかった。


師匠と同じように、俺を買った人も数人いたんだ。

だけど、首輪を外してくれたのは師匠だけだった。


そんな優しい人を、化け物(トアルガ)人間(アルト)にしてくれた師匠を

俺が殺すのか?


師匠がいなければ……。


綺麗なモノも、優しいモノも

美味しいモノも、不思議な物語も

友人と過ごす時間も、勉強の楽しさも

世界の広さも、知ることができなかった。


師匠がいなければ……。


抱きしめられる暖かさも

頭を撫でてもらうくすぐったさも

愛されているという喜びも

幸せだという感情も、知ることはなかった。


何も何も知らないままだった。

絶望の中で死んでいたはずだったんだ。


俺に生きる喜びを。明日が待ち遠しいという気持ちを

教えてくれた、唯一の人を。大切な人を……。


俺の一番大切な星を俺は捨てる事なんてできない!



「アルト?」


心配そうな師匠の声が聞こえて

自分の心の中から、浮上する。


考えすぎて、よくわからなくなってきた……。


「大丈夫?」


「……」


だけど、師匠の声と一緒に揺れた漆黒の翼が目に入って

自分の背にある、白い翼が目の端で揺れたのを感じて

思わず、白い翼をつかんで手で握り潰す。


また、師匠と同じじゃない……。


「アルト……?」


俺の動作を見て、師匠が真剣な顔で俺を見るけど

俺は、師匠から視線を逸らした。


「もちろん、師であろうと()は容赦しません

 台詞はこれが正しい……」


「……」


「これが正しいけど。

 俺は……」


俺の周りで舞う白い羽。

師匠の周りで舞う黒い羽。


それがさらに、俺の心に焦燥を運び怒りを煽る。


「だけど俺は……」


沸いた頭で、必死に俺の答えをひねり出す。

俺の気持ちのままに、言葉を紡いでいく。


「師匠が、魔王になることを選ぶのなら」


師匠が、魔王になるなら。

全ての人が、師匠の敵になるというのなら

俺は、俺だけは、師匠の傍にいる。

そう決めた。


独りぽっちだった、俺の傍に

師匠が寄り添ってくれたように。

師匠を絶対に、独りにはしない。


黒達に責められてもいい。

クロージャ達に縁を切られてもいい。

師匠が全ての人間を殺す事になっても!


師匠以外の大切な星を失うことになっても!

全ての国と人が敵になったとしても!

俺達の命が狙われることになっても!


俺は、師匠を選ぶと決めた。

俺の翼がまた羽ばたき、白い羽が舞う。


苛立ちは、おさまることなく煽られていく。

どうして、俺の翼は白いんだ!


「アルト?」


師匠の呼びかけに、俺は真直ぐに師匠の目を見て

俺の想いを吐き出した。


「師匠が魔王になると言うのなら!

 俺は、魔王の弟子になる!」


俺の決意を口に出すと同時に

俺の翼が大きく広がり、漆黒の羽が俺の周りを舞っていた。


視線を師匠から、翼へと向け確認すると

師匠と同じ黒色になっている。


自由に色を変えれるようだと気が付いて

赤色だったマントの色も黒に変えた。


これで、少しだけ魔王の弟子ぽくなったかもしれない。

師匠に近づけたような気がして、自然に尻尾が揺れる。


翼の色が黒になって嬉しいと

師匠に告げようと思って、師匠を見ると

師匠が、目を瞠って俺を見ていた。


俺の姿を見て、何も言わない師匠に

だんだんと不安になってくる。


会場は、ざわざわと揺れて

どこか楽し気な雰囲気が届くけど

俺は、全然楽しくない。


ちょっとだけむかついた。


決められた台詞を言ったほうが良かったのかと

不安でたまらなくなってきた頃に

師匠が何も言わずに俯いてしまう。


また間違ったのかと、謝ったほうがいいのかと

吐きそうなほど、苦しくなってきた、その時。


「魔王の弟子……か……」


師匠がそう呟いた瞬間、全身が粟立った。

会場のざわめきが一瞬にして静かになる。


なにかおかしい……。


黒がいる方へ視線を向けると

アギトさん達が、慌てているような気がする。


「なら、今から世界を壊しに行こうか」


「え……?」


師匠の声に、師匠に視線を戻すと

師匠が、じっと俺を見ている。


その顔は、何時ものように穏やかに笑っているように見える。

だけど、その目は何時もの師匠じゃないような気がする。


「僕と一緒に、世界を壊しに行こう?」


そう言って、師匠がスッと俺の方へ右手を差し出した。

それと同時に、俺と師匠の周りに黒の羽が舞う。


師匠の態度が、演技なのか冗談なのか本気なのかが分からない。

わからないから、この手を取ってはいけないような気がする。

師匠から視線を外そうとおもうのに、どうしてか惹きつけられて

離すことができない。さっきも、臭い女が現れる前にも

同じことを感じた気がする。


師匠の存在感に、圧倒されるような……。


「アルト?」


ほら、おいで? というように優しく俺の名前を読んで

師匠が穏やかに笑ってくれる。何時もなら、その声に

その笑みに、安心することができるのに……。

今は、反対に心臓がドキドキしすぎて、すごく痛い。


どうしたら、どうしたらいいんだろう。

どう答えたらいいんだろう。


師匠の手を見て、師匠の顔を見ると嬉しそうに笑ってくれる。

だから、恐る恐る手を伸ばして師匠の手にもう少しで

触れるというところで、手を止めた。


「どうしたの?」


途中で手を止めた俺に、師匠が首を傾げる。


「師匠」


「うん?」


「あのね」


「うん」


「あの……」


どこかおかしい師匠に、こんなことを話して

怒られないかと考えるけど、頭によぎったことが

どうしても気になる。


「魔王になるってことは

 国を滅ぼして、人を沢山殺すんだよね?」


「そうだね」


それが当然というような、師匠の声音に

本気なのかもしれないと思った。

師匠が、本当に魔王になるって決めたのなら

魔王の弟子になるって決めたから

師匠が、そうしたいのならついていくけど。

ついていく前に、これだけは聞いておきたい。


「国を滅ぼして、人を殺しつくしたら

 誰が、俺のご飯を作ってくれるの?」


「え?」


「師匠が魔王になるなら、黒になるのは諦めるけど

 でも、俺……食べる人は諦めたくないかなって。

 いろんな国の、俺の知らない料理を食べたいから」


師匠が真面目な顔で俺を見るから

居た堪れなくなって、尻尾が狭い範囲でビビビビと

左右に素早く動く。


魔王の弟子になることと

俺のご飯の話は、別の事だと思うんだ。


「国を滅ぼして、人を殺しまくったら

 誰が、俺にその料理を作ってくれるの?

 師匠も、知らない料理が一杯あるって言った」


「……」


「俺達以外の人が死にまくったら……。

 俺のご飯どうなるの?」


俺に延ばされていた、右手が師匠の目元へと移動し

右手で目元を覆ったかと思うと、師匠はそのまま俯いて

肩を震わせていた。


もしかして、怒らせたんだろうか?


「ま、魔王の弟子になるのが嫌なわけじゃなくて

 もう少し待ってほしいなって。今日、魔王になるとは

 思ってなくて、俺、ギルドの唐揚げ食べてないし

 ダルクテウスも食べてない。

 それに、スクリアロークスも食べたいし

 マグロも食べたい。闘技場の外の屋台にも

 美味しそうなものを見つけてあるんだ!」


必死に、魔王の弟子になるのが嫌なわけじゃないと伝え

魔王の弟子になる前に食べたいものも伝える。


多分、師匠はリシアを滅ぼす気はないようだから

クロージャ達は大丈夫だと思う。滅ぼす気なら

滅ぼしに行こうとは言わないはずだから。


「ッ……」


「だから、師匠が魔王になるのを

 急がないのなら、色々な美味しいものを

 食べてからでも、いいかなって思ったんだけど」


顔すら上げてくれない師匠に

だんだんと、不安がこみ上げてくる。


「し、師匠と一緒に食べたかったんだ……」


最後は消え入るような声になってしまった。


「フ……」


師匠の低い声が、微かに聞こえた。

何かを堪えているように思えて

やっぱり、怒ってるのかなって思い始める。


師匠は、真剣に魔王になるって決めたのに

俺が水を差したから……。


「フハッ……」


だけど……違う気がする。

今のは、きっと噴き出した音だ。


「師匠……」


肩が震えていたのも、何に堪えていたのかも

今わかった……。


「あは、あははははははははは!」


堪え切れなくなったのか

師匠が声をあげて笑いだす。


「あは、あはははははははは!」


「……」


「もう駄目だ。苦しい。

 我慢しようとおもったのに。無理だった」


目元から右手を外して、両腕でお腹の辺りを

抑えて、師匠が大笑いし始めた。


ちょっと、むかつくけど。

それでも、どこかおかしかった師匠から

何時もの師匠に戻ったみたいで、楽しそうに笑っている

師匠を見て、肩から力が抜けていくのが分かった。


物凄く、緊張していたみたいだ。

心臓が痛いのもなくなった。


尻尾が自然と揺れる。


「魔王の弟子が、一番気にかけるのは

 ご飯か……」


「師匠!」


酷い事を言われてる!


「はぁ……。

 きっと、僕が死ぬ原因は

 アルトによる、笑い死にのような気がする……」


「……」


「ご、ご飯は大切だよね」


師匠の言葉に、俺は真剣に頷いた。

ご飯は大切だ。


「エリオさんに、唐揚げを奢ってもらう

 約束をしていたしね」


「うん」


「あははは……。

 はぁ。笑った。

 本当に死ぬかと思うぐらい笑った」


「師匠、笑いすぎ」


「えー。ご飯の心配じゃなくて

 僕は絶対に、理由を聞かれると思ったのにな」


「理由?」


「魔王になる理由」


「うーん。師匠が魔王になる時は

 きっと、師匠を魔王にしたやつらが悪いんだって

 思ったから。理由は別に気にならなかった」


「そっか」


笑う事をやめて、目を細めて俺を見る師匠に

笑いながら頷いた。


「うん」


俺の返事に、師匠が優しく頭を撫でてくれた。

その手は何時もの師匠で、優しく笑う顔も

その気配も、何時もと同じになったのがうれしい。


静まり返っていた会場も、どこか安堵したような

空気を漂わせていた。


「師匠」


「うん?」


「魔王にならなくていいの?」


俺は師匠に、魔王になんてなってほしくないけど。


「うん。魔王になりたいわけじゃないしね。

 アルトが、食べたことのない料理を食べつくしたら

 その時に、考えようかな」


「うん! 俺もそれがいいとおもう!

 一緒に、美味しいものを全部食べよう?」


「そうだね……」


俺の言葉に、師匠は楽しそうに笑って頷いてくれた。


料理は、日々進化して新しく作られていくんだって。

この時の俺は、すっかり忘れていたんだ。

酒肴だけでも、毎週新しい料理が生まれているんだから

世界中となると、きっと一生かけても食べつくすことなんて

出来ないんだ……。


俺とは違って、師匠はそのことに気が付いていたはずなのに

俺と約束してくれた……。それは、魔王にはならないって

約束してくれたのと、同じ事だったんだ。



「僕は、英雄にはなれないと思う」


「うん」


別にもう、それは気にしていない。

師匠が英雄にならないのなら、俺もならない。

だから、やっぱり黒を目指そうとおもう。

師匠のような黒になろう。


「だけど、アルトの……いや

 僕達の英雄は、もうここにずっといてくれるでしょう?」


師匠が、そっと自分の胸のあたりに手をあててから

口に詠唱をのせ、魔法が発動すると俺と師匠の周りを除いて

白い小さな花が、一瞬で舞台を埋め尽くした。


「この花……」


舞台を埋め尽くした、白く小さい花はつぼみの状態だったけど

覚えている。俺の脳裏に焼き付いている。


じいちゃんのお墓の周りに植えられた

白い花が、咲き誇って揺れる中


泥だらけで、表情のない師匠が

じっと月を見上げていた姿を……。


痩せて、独りで立っている姿を……思い出した。

胸のあたりが、ぎゅぅって痛くなる。


『お前は、セツナの弟子なんだろう。

 そして、英雄の孫なんだろう? それを忘れるなアルト』


引きこもっていた俺を、訓練所に引っ張っていって

ボコボコにされたときに言われたことも思い出す。


「最後の最後まで、自分の想いを貫き守り抜いた

 誰よりも強い心を持つ英雄を、僕達は知っているよね」


「うん」


「僕達の英雄は、今もここにいてくれる」


師匠の言葉に、涙が落ちそうになる。

じいちゃん……。ぎゅっと歯を食いしばって

泣くのを我慢する。


「師匠」


「うん?」


「この花の名前と花言葉を

 教えてほしいです」


あの時、聞き忘れていたというか

花の名前を聞く余裕なんてなかった。


「この花の名前は、ミルフォーリア」


「え?」


ミルフォーリア、英雄の弟子の魔王が

庭に植えていた花と同じ名前だ。


魔王が見ていたのは

つぼみのミルフォーリアだった。


「花言葉は、つぼみの時は "願いを託す"

 もしくは、"想いを託す"」


師匠が、パチリと指をならした瞬間

全ての花が、一斉に花を咲かせる。

その光景に、思わず息をのむ……。


それほど美しい光景だったんだ。

薔薇のような、華やかさはない。

何処か儚くて、ささやかな花だ……。

だけど、俺はこの花の方が好きかも知れない。


「花が咲いた状態の花言葉は……」


「師匠?」


どこか遠くを見るような目をした師匠に

思わず声をかける。


「花言葉は "英雄"そして "願いを叶える"」


「……」


「神々の時代からあると言われている花の一つで

 神話にも出てくる花なんだよ」


「どんな話?」


「神に力を与えられた人間の話。

 魔物を倒すように命令されるんだけど

 道半ばで倒れてしまう」


嫌な予感がする。


「貰った神の力を、手に触れた白い花に封印して

 最後の力で、精霊を呼び出して自分の息子に届けてもらうんだ。

 息子は、父親に託された願いと神の力を受け継いで

 魔物の討伐に成功して、英雄になるという話だね」


「……」


眉間に皺を寄せる俺を見て、師匠が苦笑する。

どうして、最初から最後まで幸せな話がないんだ! と

師匠に文句を言っている途中で

ふと、英雄の弟子の魔王を思い出した。


あの物語の魔王は、どんな気持ちでこの花を見ていたんだろう、て。

たった独り、どんな願いをまたは想いをこの花に託したんだろう。


魔王は多分、花開いたミルフォーリアを見ていない。

主人公が魔王を倒した後に、涙を落としながら

見た光景が、ミルフォーリアが咲き誇る庭だった。


主人公は、この花の名前を知らなかったはずだ。

小さな白い花が可憐に揺れているのを見て

少し心が癒されたと書かれていたから。


魔王は、どうしてこの花を選んだのかな。

そんなことを考えて、少し胸が痛んだ。


物語の中の話なのに……。


「どうして、師匠はこの花を選んだの?」


「英雄に、想いを託されたから忘れないように。

 彼の大切な、宝物を守るように願われたからね」


「え?」


「だから、僕はアルトを魔王の弟子に

 するわけにはいかない」


「……」


宝物……。

そうか、俺はじいちゃんにも愛されていたんだ。

知らなかった。知らなかった。


もう、愛してくれてありがとうも言えない。

俺も愛していたと、伝えることもできない。

我慢していた涙が、地面へと落ちる。


もっと早く、気が付きたかった。

首にかけてある、水晶を服の上から握った。


「アルトは、英雄(ラギさん)の孫だから」


「うん。俺は、じいちゃん(英雄)の孫なんだ」


真直ぐに師匠を見て、笑って答える。

そんな俺に、師匠は柔らかく微笑んでくれた。


ミルフォーリアの花を見ながら

ぼんやりしていると、師匠の声が聞こえた。


さて……。そろそろ、終わろうかなと

師匠が、小さく呟いて「クッカ」と呼ぶ。


師匠がクッカの名前を呼んだと同時に

クッカが、俺達の前に現れた。


「はいなのですよ」


「クッカの力を貸して」


「了解なのです」


「あれ? 少し、成長した?」


「少しだけ、成長したのです」


「そっか」


師匠と見つめあって笑う姿は

何時ものクッカなのに、どこか近寄りがたい……。


観客席も、息をひそめるようにして

クッカを見つめていた。


それが何か分からなくて、戸惑っていると

クッカが、俺を見てニッコリと何時ものように

可愛く笑ってくれたから、気のせいだったのかと思った。


だけど、俺が感じたのは気のせいではなく

クッカは、二種持ちの上位精霊としてこの場に姿を見せ

周りを魔力で威嚇していたんだと、サフィさんから聞いた。

とても怖かったと言っていた。俺は、怖いとは思わなかったけど

クッカの魔力を感知して、違和感を覚えたのかと納得できた。


師匠が、クッカを優しく抱き上げて

クッカの額と自分の額を軽くつける。


何が始まるのかと、ワクワクしながら見ていると

師匠とクッカが同時に、魔法の詠唱を始めた。


師匠にしては、長い詠唱のあと

魔導具が壊れるような音がしてすぐに

俺達を中心にして風が吹き、その風が

舞台の上、一面に咲いていたミルフォーリアを

次々に上空へと巻き上げていく。


一瞬にして、空に上がったミルフォーリアを

眺めていたら、今度はゆっくりとミルフォーリアが

空から降って来る。


雪のように、白い小さな花が風に乗って

会場中に、ふわりと降り注ぐ。


多分、闘技場の外にも降り注いでいるのかもしれない。

外からも歓声が聞こえるから。


いつの間にか、クッカが俺の傍にいて

一緒に、空から降る花を見ていた。


「綺麗なのです」


「うん。すごく綺麗だ」


「一つだけ、自分の花にすることができるのですよ」


「自分の?」


「そうなのですよ」


クッカに言われて、手のひらの上で花を受けると

花のつぼみが、俺の手の上に残った。

不思議な事に、二つ目からは掌を素通りして

地面に落ちて、暫くしてから消えてしまう。


「精霊の魔力でつくられた花なのです。

 お守り代わりになるのですよ」


クッカの話すことを、皆が聞いていたのか

大切に何かに包んで、鞄やポケットに入れている。


後から聞いた話によると、この花は屋根を素通りして

家の中にも降ったようだ。この日、ハルにいる人全員に

花がいきわたったのだと聞いた。


「どうしてつぼみなの?」


ミルフォーリアは、咲いていたはずなのに。


「クッカは知らないのですよー」


「師匠、どうしてつぼみなの?」


クッカから、師匠へと顔を向ける。


「エレノアさんから、想いを託されたよね」


エレノアさんの想い……。


冒険者の力は、弱きものを守るための力。

大切なものを守り、守り抜くために戦う力。


だから、力の使い方を間違わないように。

間違えそうになったら、正しい力の使い方を

思い出してほしいって、話してた。


「うん。エレノアさんの想い。

 俺はちゃんと受け取ったよ。


 弱い人を、助けることができるような

 師匠のような、冒険者になる!」


「僕も、よく道を外れそうになるからね。

 頑張って、外れないようにしないとね」


今まで、そんな姿を見たことがなかったけど

苦笑している師匠を見て、魔王になりたいって話してたから

多分そのことだろうと考え、師匠を目で追っていると


師匠は、空から降るミルフォーリアの花を

手のひらでうけて、そのまま口に入れて食べた。


「師匠!?」


「え?」


俺の声に、驚いたのか師匠が肩を震わせた。


「どうして、食べちゃうの!?」


「失くしそうだから?」


「えー……。

 それは、食べちゃダメだと思う。

 食べると、お守りにならないじゃないか」


俺の言葉にクッカが、首を横に振った。


「食べても大丈夫なのですよ~。

 食べても、身に付けていても

 半年ぐらい、病気にかかりにくくなるのですよ」


「うーん」


「形として残すのもいいだろうし

 記憶として残すのもいいと思うよ?


 魔力でできた花だから、独特な味がするけれど

 その分、記憶に残ると思うから。


 エレノアさんの想いは、僕の体の一部になったんだ」


師匠がチラリと見た視線を追って、その方向を見ると

アラディスさんが、花を口に入れているところだった。


師匠の肩が小さく揺れているような気がする。


師匠の言葉に、一瞬悩んで俺も口の中に入れた。

鞄の中に入れて忘れるよりも、味として覚えていたほうが

記憶に残るかもしれないって考えたから。


魔力でできた花は、何とも言えない味がした。

美味しいような……不味いような、ちょっと表現するのが

難しい味だ。これは一生忘れないかもしれない。


クロージャ達の方を見てみると

皆食べることを選んだようだ。


みんな、微妙な表情を浮かべていたから。


何気なく観客席を見ていると

冒険者の人達は、殆どの人が食べていたと思う。

でも、リシアの人達は大切に何かに包んで

鞄やポケットに入れていた。


師匠やクッカやエレノアさんに、お礼を言う人や

エレノアさんの想いは忘れない! と叫んでる人達を

どことなく楽しそうに、目を細めて見ている師匠に

疑問に思っていたことを聞いてみる。


「師匠」


俺の声に、師匠が目をあわせてくれた。


「俺が、師匠の手を取っていたら

 師匠は、魔王になっていた?」


俺には、どうしても演技や冗談に思えなかった。


「ならなかっただろうね」


「本当に?」


「うん。

 だけど……」


「……」


「だけど、アルトが英雄になることを選んでいたら

 もしかしたら、僕は将来魔王になっていたかもしれないなぁ」


「え!?

 どうして、俺が英雄を選んだら師匠が魔王になるの!?」


「楽しそうだから?」


「師匠! 俺は全然楽しくない!」


「あは、あははははは」


「もー」


怒る俺の頭に、師匠が手をのせる。


「魔王の弟子になると決めるまで

 とても苦しい思いをしたでしょう?」


「な、んで」


「僕の言葉を、真剣に考えてくれた。

 僕が、魔王になったら自分がどうするか

 真剣に悩んで……」


苦しかったし辛かった。


「全てを捨てても

 僕の傍にいることを選んでくれたんでしょう?」


「……」


「アルトが、僕を選んでくれたから

 アルトが僕の手を取っても、魔王にはならなかったよ」


ギュッと、歯を食いしばる。

気を抜いたら、涙が落ちそうになるから。


「嬉しかったから」


「ッ……」


クッカが、俺に抱き付いて温もりを分けてくれている。


「僕は、不特定多数の英雄になるより。

 人に憎まれる魔王になるより……。

 今まで通り、アルトの師匠でいたいなと思ったんだよ」


「……」


「僕を選んでくれてありがとう。アルト」


俺の恐怖も、葛藤も、不安も、苦しみも

師匠は、全部知ってくれていたんだ。


心が満たされていく。

師匠の言葉に、師匠が英雄にならなくてよかったと

思ってしまった俺がいる。


あれだけ、師匠が英雄になることを望んでいたのに

今は、英雄になんてならないでほしいと願ってしまった。


だって、師匠が英雄にならなければ

師匠は、俺だけの師匠でいてくれるから。


「師匠」


「うん?」


「これからも、俺だけの師匠でいてくれる?」


俺の言葉に、師匠は目を細めて笑い頷いてくれる。

師匠の笑みを見た、観客席の女の人達の声がうるさい。


「これからもよろしくね」


「うん!」


師匠は俺の頭を、もう一度ゆっくり撫でてから

手を下ろして、クッカに顔を向けた。


「さて、そろそろ降りようかな。

 クッカはどうする? アルトと一緒に

 お祭りを楽しんでから帰る?」


「クッカは、お茶の準備をしている途中だったのですよ」


「そうなの!?

 ごめんね」


「嬉しかったのですよ~。

 でも、風の上位精霊を呼ばずに

 クッカを呼んでほしかったのです」


「次からは、クッカを呼ぶよ」


「お願いなのですよ~」


「うん。

 あ、お茶請けにこれを持って帰って

 一緒に食べるといいよ」


師匠が、鞄からお菓子をいろいろ取り出してクッカに渡している。

俺も、鞄の中からおやつ袋を取り出してクッカに渡した。


最近、鞄の中に物が入らなくなってきたから

どうにかしてもっと入らないか考えて

一度鞄の中から全部取り出して、色々実験した結果

お菓子はお菓子で袋にまとめて鞄に入れると

五個のお菓子が一つとして認識されることに気が付いたんだ。


そういえば、師匠が作ってくれた

野菜炒めセットも、シチューセットも材料ごとに

纏めて入れられていた。もっと早く気が付いていたら

鞄の中身を全部出さなくても済んだのに。


師匠にそれを報告すると「あー。しまった」といって

苦笑していたけれど、何がしまったのかは

教えてくれなかった……。


抱えきれないほどのお菓子に

クッカが「食べきれないのですよ!」と

文句を言いながらも、笑って俺達の前から消えるのを見送った。


「僕達も、降りようか」


師匠が、そう告げると同時に

オウカさんとヤトさんが、俺達のそばに来て

師匠が確保されてしまった。


「今から閉会式だ」


「……」


「もう少し、中央へ移動しよう」


反論を許すことなく、中央へ行けと視線を向けられている

師匠は、一度深く溜息を吐くと少し後ろにいた俺を見て

手を伸ばす。


「アルト、行くよ」


優しく笑う師匠を見て、今度は迷わずに

その手を取った。それだけのことなのに

なぜか、胸が痛くなるほど嬉しいと思ったんだ……。


オウカさんとヤトさんに、色々とお説教されながら

中央へ歩いて向かう。師匠は俺の手をしっかりと握って

引っ張ってくれていた。


「マントを着用してほしいのだが」


「面倒なので、もうこれでいいと思うんです」


「暁の風のマントの色は、黒でいいのかね?」


「うーん。ジャックのマントが黒ですしね

 それに……」


師匠がチラリと俺を見てから


「魔王と魔王の弟子には

 黒のマントが似合うと思いませんか?」


楽しそうに、そんな冗談を言いながら師匠が笑った。


オウカさんとヤトさんに、ガミガミと言われながらも

楽しそうに笑っている師匠を見て、尻尾が揺れる。


師匠の背中を見て、漆黒の翼がないことに気が付く。

俺の翼もいつの間にか消えていたようだ。


師匠の背中に、父さんと頭の中で呼びながら

心の中では『師匠』と呼んだ。


俺の心の声に、師匠がすぐに返事をくれたけど

呼んだだけだと伝えると、視線だけ俺に向けて

小さく笑ってくれた。


「私は、英雄になってほしいのだが?」という

オウカさんの言葉に、師匠は「絶対嫌です」と答える。


「アルトもそう願っているのではないのかね」と

オウカさんが俺を見たから、俺は首を横に振って否定した。


英雄になるという想いは、もう欠片もない。

師匠が、英雄にならないのなら俺もならない。


師匠が、魔王にならないのなら

俺も、魔王の弟子にはならない。


師匠は、世界最強のリシアの守護者。


そして……。


俺の師匠(父さん)なんだ。


今はまだ、伝える勇気はないけれど。

いつか、いつかきっと願いを叶えよう。


俺を愛してくれてありがとうって。

俺も、父さんを愛してるって。


セイル達みたいに、大切な想いを伝えたいんだ。


それまでは、俺のこの気持ちは師匠には内緒。

俺の想いが師匠に伝わらないように。

言葉に出してしまわないように……。


サフィさんに、魔法をかけてもらうと決めた。


いつかきっと、伝えるから……。


だから、オウカさんにはこう答えようと思う。


師匠は、俺だけの英雄(父さん)だから

不特定多数の英雄には、ならなくていいんだって!


オウカさんとヤトさんは苦笑して

きっと、師匠は……。数秒後を楽しみに

俺は、オウカさんに返事をするために口を開いたのだった。



【大空への憧憬 : 完】



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