冬の生活:森での狩り
本日3話目
やっぱ主人公が貴族の籍にいるのは似合わないような気がする
暴君の森と家を往復し、たまに森の中に作った小屋に泊まりながらレイたちは過ごしていた。
家の中にいるとなぁ・・・あのおばさんが見下したような目で見てくるのが嫌で、こうやって森で自由に過ごしている方が楽なんだよね。
父さんに一度、何であんな人と結婚したのかを聞いてみたら見た目に騙されたみたいなものだったらしい。
ブリッコの猫かぶりに騙された父さんにちょっと同情。
離婚すればいいのではと思ったのだが、あのおばさんの実家とかがまた面倒な貴族家らしく、国王様の方にも相談してみたけど、国王様でも手を焼くような腹黒い貴族家らしい。
何かしらの裏の・・・要は犯罪組織とのつながりがあるようだけど、その証拠を中々つかませてくれないし、しかも仕事しても有能な方に入るのでたちが悪いのだとか。
無能な馬鹿よりも、有能な馬鹿の方が始末しにくいってやつか。
まあ、いずれはどこかで盛大な自爆をする可能性があるらしく、ついでにここ最近になってようやく有力そうな証拠とかも見つかり始めたらしい。
でも、ここで面倒なこととすれば父さんがその貴族家とつながりがあるのが嫌疑とかにかけられるのではないかというものがある。
やっとこさっとこ離婚できて、その後にその貴族家を叩けても、父さんの評判的なものが悪くされる可能性があるのだとか。
悪意ある噂とかが、本当にこの世でたちが悪いからな・・・・
「面倒ごとは、もう父さんたちに任せていたほうが良さそうだ」
「ええ、レイ様が考える必要はないでしょうし」
「そういうのはそういうことをする人たちだけに任せればいい」
ハクロたちに話してみたら、そのような意見がかえってきた。
とりあえず気持ちを切り替えて、今日は森の探索である。
今の冬の時期、実はかなり珍しいおいしい肉の持ち主である動物が森の中に現れるのだ。
「罠にかかっているといいんだけどな」
「きっとかかっていますよ。『ラビンガー』は警戒心は強いですが、そこまで賢くないですからね」
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「ラビンガー」
冬季に姿を見かけるようになるウサギの様な動物。肉食。
魔石がないのでモンスターではないが、かなり危険な獣でもある。
愛くるしい白いふわふわな見た目をしているが、人を襲う時には素早く豹変して目つきが鋭くなり、その強靭な足で蹴ってきたり、体当たりをしてきたり、強靭なあごでかんできたりなどと極めて凶暴。
しかし、その肉はかなりジューシーでかつあっさりしているので人気が高い。
モンスターではないのだが、稀に特殊個体と呼ばれるようなものがいるらしく、それは体色が血に染まっているかのように真っ赤で角が生え、通常のラビンガーの3倍の強さとうまさを持つ。
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「できればその特殊個体が捕まっていればいいんだけどな」
というか、どこの赤い彗星だというツッコミを入れたくなる。もしや黄金の様な奴もいるのだろうか。
あと名前的にはZが付いた奴もいそう。
森中に仕掛けた罠は、ハクロとカトレアの特徴を活かして作り上げたものである。
糸で網を作ったり、上に吊り上げられるようにした罠等を、カトレアによって自然に溶け込むような偽装をかけて、わかりにくくしたのである。
一応目印はつけているので、俺達がかかることはない・・・・はずだったけど。
「ひゃぁぁぁ!!足がとられました!!」
「引っかかるんかい!!」
罠に引っかかって、ハクロが吊り上げられかけた。
幸いにして、ラビンガー狙いの小さな罠なので精々ハクロの足1本が吊り上げられて片足を上げた状態となるだけである。
自分で自分の作った罠にかかるとはこれいかに。
そうこうしているうちに、罠を確認し終えて得た成果は・・・・・。
「通常のラビンガーが20匹、特殊個体の赤いのが3匹か」
「罠50個のうち23個だけしか掛かりませんでしたね」
「他27個はラビンガー以外がかかっていた」
ラビンガー狙いの罠だったんだけど、他にも鳥とかイノシシがかかっていたな。
そこそこの収穫はあったので、行きのあるやつはとどめを刺して、食べる分以外は空間収納の魔法で収納しておく。
数日は肉料理が楽しめそうだ。
「赤いのが3匹あるし、今日は3人で一人1匹づつ食べようか」
「はい!」
「おいしそう」
と言うわけで、さっそく小屋に戻って調理を開始するのであった。
焼くだけのシンプルなものだけど、これが一番おいしいのではないだろうか。
スープの具とかになるけど、やっぱりワイルドな方法がラビンガーにはあっているようだ。
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SIDEデーン・フォン・アルス
・・・息子たちが学園から戻ってきて1週間と数日ほど経過した。
学園の冬休みは3週間ほどと、夏休みよりも短いのだがこの時間は長く感じる。
なぜなら、妻であるアレクサンドリ・フォン・アルスと、その息子たちがいるからだ。
バルトとザッハが帰って来てからはさぼらないように家庭教師も呼んではいたのだが、アレクサンドリが「息子たちに冬休みぐらい楽させたい」とか言って解雇していた。
将来的にバルトが継ぐから攻めて今のうちにでもしっかりと勉強をとか言っていたのだが、聞く耳持たずの馬耳東風。
なぜこのような女と結婚したのか後悔が続いている。一応、レイの方にはこんな人とは結婚するなよと反面教師の様な教育ができるからいいのだが・・・・・。
離婚したくとも、彼女の実家はそれなりに権力を持つ貴族家であり、確実にこちらに対して都合の悪い事ばかりを押しつけてくるであろう。
貴族と言うのはめんどくさい事でもある。平民からしてみれば華やかでうらやましいような世界という見方もあれば、傲慢で強欲で面倒くさい世界という見方もあるだろう。
どちらかと言えば、後者の方が多いと私は思う。
そして、その後者に巻き込まれている形であり、最近髪が薄くなってきたのではないかと思えてきて不安がさらに増した。
朝起きたら枕元に毛がな・・・。
友人でもあるガウン国王だが、彼でも妻の実家の相手はかなりめんどくさいそうだ。たちが悪いというか、腹黒いというか、そんな貴族家に苦労しているのだという。
国のためにと彼が働いているのは分かる。だが、苦渋を飲んでもあの貴族家をつぶすまでには至らなくて、歯がゆいのだとか。
気持ちはよーくわかる。
引退せずに宮廷魔導士の職のままでいたほうがよかったかなと思って来たよ。
・・・そういえば最近、息子のレイが家にいることが少ない。
しょっちゅうあの使い魔たちと森で過ごしているようで、明らかにあの妻と息子たちを避けているのがよくわかる。
それはいいことだ。妻や息子は穀潰しとか言いまくっているが、お前らの方が穀潰しだと言いたいぞ。
だが、そう強く出られないのがこの私の悲しい性格でもある。
しかし、妻や息子には見抜けまい。あのレイはどれだけのとんでもない才能を持っているかと言うことを。
魔法の腕はもはや私を超えており、使い魔たちの能力もとんでもないものがある。
レイにこの家を継がせることができれば、繁栄は間違いないだろう。
・・・けれども、レイはこの家を継ぐ気はない。そうはっきりと答えていた。
冒険者になるようで、いつかは確実に絶縁を言ってきそうな気がする。
この家を離れ、レイは自立し、そして私たちが知らないような高みへと成長していくだろう。
そして、この家はバルトが継ぐだろうが・・・・もしかしたら、妻かその実家が裏で傀儡のように操っていき、滅びの道をたどるだろう。
それは避けたいとは思っているのだが、もはや逃れられぬ可能性がある。
いくら考えても、相談をガウン国王にしても、無意味なのかもしれない。
最後まであがきたいが、私も歳だ。
昔ほどの気力もなく、かつては「黒い爆炎の魔導士」とかいうちょっと恥ずかしいような呼ばれ方をしていた宮廷魔導士の頃とは違う。
せめて、ガウン国王にはレイのことを思っていてほしいと心から願うばかりである・・・・・。
苦労人なデーン伯爵
馬鹿なその正妻と二人の息子
見限ってきている主人公のレイ
この家の未来はどうなるだろうか・・・・・」




