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3-15:初めての一人旅

一人旅が始まりました、無事コルトの森に辿り着けるでしょうか?


単独の野営の仕方は色々大変そうですね、真っ暗な中で一人で寝るなんて勇気がいりますよね・・・


歩く速度変更に伴い速度増加率も変更しました。


誤字の訂正をしました。ご指摘いただいてありがとうございます。

誤字訂正しました、本当にありがとうございます。

あたしはエルフの村を出て、速度強化スキルの切れるまで歩いてみました。その結果ですけど速度強化スキルは1回の効果がだいたい30分くらいで無くなるようです。

それでも、MMOでのスペックを信じるなら速度増加Ⅰで2倍、Ⅱで4倍の速度が出るはずですから歩く速度が時速4キロとして、倍の時速16キロくらいのスピードは出ているはずです。


(結構怖かった・・・・)


気分的には歩いてるのに、周りもおなじ速度で近づいてきている、そんな感じです。これってすっごい怖いんですよね。あたしは、最初はゆっくり、そして少しずつ速度を速めながら慣れる事にしました。


もう少しで迷いの森が終わるみたいです。周りの木々がそう教えてくれます。


(今までは、周りの木が教えてくれてたけど、ここからは用心しないとですね)


あたしは、プロテクト、エネミーサーチスキルを発動して、一応回りに気を配りながら森を抜けました。


「バイバイ、またね~~~」


迷いの森にそう別れを告げて、ひとまず街道を目指してそのまま東に進みます。


(コルトの森まで約2週間かぁ・・・途中に村や街はあったかな?)


MMOの時の記憶を思い出しながら、まずは野宿を視野に入れて速度強化Ⅱを再度発動して先に進みます。

それから更に1時間くらい歩くと、ようやく目の前に道らしい物が見えてきました。


かつてMMOで通ったことのある?はずの道ですけどやはりCGとではすっごい違いがあります。はっきり言ってぜんぜん何処を歩いているのかわかりません。まず視点が低いので周りと比較することが出来ないですし、あと、なんといっても距離感が掴めませんから。前はそれこそ2時間もあれば王都からだってコルトの森に行けたと思います。走ったことはないですけどね。


(う~ん、思っていた以上に疲れるわ、あと、時々エネミーサーチに何か引っかかるし)


あたしは、エネミーサーチに何か引っかかる度にそこを迂回して進んでいました。

迷いの森を出てから、更に3時間くらい歩きつづけて、あたしは近くに見える林で今日は野営することにしました。それこそ、電気の無いこの世界では夜になって動き回るのは危険ですし、何より魔物や野生動物の活動が活発になりますから。


あたしは、林の中の少し開けた場所で野営の準備を始めました。


(え~~っと、まずは結界石を設置して・・・・焚き火はしたほうがいいのかな?)


あたしはせっせと作業を開始しました。


(ご飯はとりあえず又シチューでいいや、あと明かりは買ったランプを置いて・・・寝るときは自分から少し離れたところに明かりを置くほうがよかったんだっけ?)


最後に自分の周りにぐるっとロープを輪にして囲みます。


(これは蛇よけでしたっけ?)


今まで読んできた色々な小説の知識だけでの間違いだらけの野営です。

シチューを食べて、今日一日移動した疲れがここにきてどっと出てきました。


(焚き火は上から灰を被せて種火を残すんだよね?これで残るのかなぁ、まぁ何かあったら木の精が教えてくれるよね?)


下のほうに出来ていた灰を上から被せて火を消して、そこから2mくらい離れた場所に改めて結界石を設置してあたしは眠りました。


◆◆◆


翌朝、あたしは何事もなく無事に目を覚ましました。朝日が周りを照らし出して、実に幻想的な景色です。

寝袋からゴソゴソと起きだして、濡れたタオルで顔を拭きます。


(う~~~~、ねむい・・・・・今日も一日歩き通しだなぁ・・・)


頭が少しずつはっきりしてくると、朝食の準備を始めました。それはいいのですが、昨日種火を残したはずの焚き火でもう一回火を熾そうとしましたけどやっぱり出来なくて、結局魔法で火をつけました。その為だけにすっごく時間を掛けてしまいました。


(う・・・朝からすっごい疲れた・・・最初っから魔法で火を熾せばよかった・・・・・)


そう思いながら、焚き火でお湯を沸かせてサンドイッチと紅茶で朝食を終わらせました。

あたしが出発の準備をしていると、木の精達がザワザワと騒ぎ始めました。


「ん?どうしたの?」


ここが迷いの森のように大きな森ではないからか、それとも木の精の数が少ないからか、何か騒いでいるのは判るのですけど聞き取ることは出来ません。


(う~~ん、危険が迫ってるのかな?)


あたしはエネミーサーチを発動しました。すると、東の方角から何かが近づいてきます。


(う~ん、ちょっと避けるには間に合いそうも無いかも・・・)


あたしは狭い所にいるよりはと林を抜けて街道沿いへ移動しました。そして、所持品から使い慣れたメイスを取り出して準備をします。

すると、林の向こう側から2mはある漆黒の大きな狼が現れました。


(わぁ・・・すごい、これってルーンウルフよね?)


聖なる狼の名前を冠するルーンウルフはMMOでもレアモンスターとして人気があって、そのモンスターの落とす材料はすごく高い値段で取引されていました。

ルーンウルフもあたしに気がついたようです。グルグルと唸り声をもらしながらあたしに近づいてきます。


(えっと・・・完全に餌認定されてます?涎がすっごい垂れてるんですけど・・・)


「え~~っと、あたしは美味しくないよ?食べたらお腹壊すと思うなぁ・・・・」


あたしは、もしかしたら言葉が通じるといいなぁって思いながら話し掛けてみました。

でも、残念ながら言葉は通じなかったみたいです。ルーンウルフさんは更に大きな唸り声を出すだけです。


(う・・・・この唸り声が言葉だったり?でも、戦闘は避けられそうにないなぁ)


あたしは、そんな事を思いながらもちょっと身の危険を感じました。


「エンジェルリング!」


あたしは、防御用のエンジェルリングをまず唱えて、その後プロテクションなど身体強化スキルを自分にかけていきます。


それとほぼ同時にルーンウルフが飛び掛っていました。


「きゃぁ!!!」


あたしはとっさに手に持ったメイスを振りぬきました。それと同時にパッシブスキルのカウンターが発動したようです。


「ギャワン!」


飛び掛ってきたルーンウルフはエンジェルリングによって受け取められて静止してしまった所を、あたしのカウンター攻撃で思いっきり顔を殴られて真横に吹っ飛びました。


(びっくりした~~~~~)


あたしの心臓が、それこそ壊れてしまうかのように脈打ってます。

吹っ飛んだルーンウルフをみると、ダメージはあるみたいですけど、それでもまだあたしを諦めれないみたいです。


(う~~ん、ルーンウルフの素材も欲しいし、倒さないとなんだよね・・・・)


あたしは、この世界に来て初めて生き物を殺さないといけない事に対して多少の躊躇いを感じましたけど、それ以上にこっちへ向かってくるルーンウルフに恐怖を感じました。

ルーンウルフは先程と同様に飛び掛ってきます。

でも、これも同様にエンジェルリングに攻撃が阻まれ、後ろ足で直立した状態で動きを止めます。

あたしは、そこにメイスを足払いのように叩き付けたとたん、ルーンウルフの体がぐるっと一回転して地面に叩き付けられました。そして、倒れている間にメイスの2連撃を叩き付けると、ルーンウルフは後ろにある木に背中から叩き付けられました。


「キャイン!」


「はぁはぁ・・・・」


人と喧嘩したこともないあたしには、あまりにも突然の戦闘は予想以上に余裕を奪い去っていました。

あたしは、そのままルーンウルフに向かって走り出してメイスをルーンウルフの頭に叩き付けようとしました。

ルーンウルフは後ろ足が変な方向に折れていて、立ち上がる事ができなくなっているみたいです。そして、走ってくるあたしを見て、明らかに怯えの眼差しをみせて、あたしにお腹をみせて一生懸命泣き声を出していました。


「キュ~~~ン、キュ~~~ン」


あたしは、メイスを叩き付ける瞬間、ルーンウルフの怯えた目を見てとっさにメイスの叩き付ける場所を逸らしました。


「キュ~~~ン、キュ~~~ン」


あたしは、狼が涙を流すって思ってもいませんでした。ルーンウルフはお腹を見せて、前足を曲げて一生懸命泣き声を上げています。そして、後ろ足はあたしのメイスでの攻撃のために2本とも膝から折れてぶら下がっている状態でした。


(あたし・・・・)


あたしは、自分が今まさに生き物の命を奪おうとしていた事に気がつきました。

そして、構えていたメイスを静かに下ろしました。


(でも、どうするの?油断すると不意を突かれるかも・・・・)


あたしは頭の中で様々な思いが渦巻いていました。そして、じっとルーンウルフを見つめています。そして、ふっとルーンウルフのお腹に肋骨が浮いているのに気がつきました。


(・・・・・え?)


あたしは、気をつけながらルーンウルフのお腹に手を這わせました。

すると、そこにはまったく無駄な肉がついていませんでした。はっきり言ってガリガリに痩せていました。


(なんで?このルーンウルフまともに食べてない?)


あたしは、もう殺そうっていう気持ちが湧かなくって、そして、逆にこのルーンウルフが可愛そうに思えてきて、いつの間にか治癒魔法を掛けていました。


「ヒール!リカバリー!」


リカバリーのおかげで、ジワジワと後ろ足も回復していきます。


(・・・・・結構気持ち悪い・・・・この回復過程・・・・)


折れていた後ろ足が2本とも正常な位置へと無事に繋がってもルーンウルフはまだお腹をあたしに向けたまま鳴いています。でも、さっきの泣き声とはちょっと違う感じです。


「あなたお腹が空いてたのよね?だから思わず襲い掛かっちゃったのよね?」


あたしはそんな事は無いって判っていながらも、ついそんな事を言いながら所持品から昨日エルフの街で買った豚肉の大きな塊を取り出してルーンウルフの前に置きました。


キュルルルル~~~


ルーンウルフのお腹が鳴る音が聞こえました。


(動物でもお腹が空くと音がするんだ・・・・)


あたしはそんな事を思いながら、少し後ずさりました。

ルーンウルフは、まだあたしにお腹を向けたままの状態で、それでも視線はあたしとお肉の間を行ったり来たりしています。


「それを食べたら家に帰るんですよ~、もう人を襲っちゃ駄目ですよ?人は怖いですからね」


あたしは、そんな事を言いながら静かに後ずさり、そして、50mくらい離れた後ルーンウルフをおいてコルトの森へと道を進み始めました。


(あのルーンウルフもこれに懲りてもう人を襲わないよね?でも、もしかしたら人を襲うかもだし、本当なら討伐しておいたほうが良かったのかな?でも、あんな風に降参されたらもう殺せないよね・・・・)


あたしは、自分のした事が良かったことなのか、悪かった事なのか判断がつかず、あれこれと悩みながら歩きつづけました。


その後は特に何もハプニングはなく、お昼頃になりました。

周りに手頃な林が見当たらなくって、また、水場も見当たらない為、あたしは仕方なく道の傍らでお昼ご飯の用意を始めました。結界石を設置して一応の安全を確保してから、お鍋に所持品リストから取り出したシチューを入れて暖めなおしました。そして、おなじ火でパンを炙っていると香ばしい良い香りと、シチューの美味しそうな香りが漂ってきました。


キュルルルル・・・・


その美味しそうな香りにあたしのお腹が刺激されて鳴りました。

そして、あたしはお腹の音でさっきのルーンウルフを思い出していました。


(それにしても、あのルーンウルフはなんであんなに痩せてたんだろう?)


そんな事をあれこれと考えながら、暖めたシチューにパンを浸しながら食べていると、視線の先に何かが近寄ってくるのが見えます。


(あれ?エネミーサーチは働いているから敵ではないのよね?)


あたしは、のんびりとパンを齧りながら眺めていると、なんとさっきのルーンウルフでした。


(んっと・・・・敵意はないのよね?)


ルーンウルフはあたしの傍まで来ると、コロンっとひっくり返ってあたしにお腹を見せました。


「ク~~~ン、ク~~~ン」


お腹を見せたまま甘えるような鳴き声を出すルーンウルフをあたしは呆然と眺めていました。


(・・・・・これって・・・・捨て犬に餌をあげると着いて来ちゃうパターン?)


あたしが、とりあえず手元にあるパンとシチューの器を自分の傍らに置くと、ルーンウルフの視線がなんとなくそっちを見てる気がします・・・・


(・・・・このルーンウルフ絶対にご飯目当てだ・・・・)


半分諦めの気分でルーンウルフの前にお鍋に残ったシチューをとりあえず置いてみました。ちなみに、タマネギは入っていません!


とたんに視線はあたしとお鍋を行ったり来たりしはじめます。そして、尻尾は左右に大きく振り回されてます。


「はぁ・・・・ほら、食べていいよ・・・・」


あたしの言葉の響きから許可がおりたと感じたのか、ルーンウルフは急いでうつ伏せに戻ってお鍋に頭を突っ込んでシチューを食べ始めました。もう尻尾はぐるんぐるんと風車のように回ってます。


あっという間にシチューを食べ終わってお鍋を名残惜しそうに舐めていたルーンウルフは、呆れて見ていたあたしに頭を擦り付け、そしてあたしの顔を舐め始めました。


(えっと・・・・親愛の情なんでしょうけど・・・・ちょっと怖い・・・・・)


「こら!、やめなさい!」


なんか顔全体を舐めて削られそうな勢いなので、あたしは昔おばあちゃんが飼っていた犬に叱ったように思わず声をあげました。

すると、ルーンウルフは体全体を伏せ、耳をペタンと寝かせてあたしを仰ぎ見ます。


(う・・・・・この攻撃は卑怯です・・・・・・)


「ねぇ、あなたこのままついて来るの?あたしはまだまだ遠くに行くからお家にかえりなさい!」


あたしが強くそう言って今来た方向を指差します。

でも、通じてるのかどうかまったく判りません・・・・

あたしは、仕方なくお鍋を片付けて、焚き火の後始末を行ってからまたコルトの森へと向かい始めました。すると、案の定あたしの後ろをルーンウルフが一緒に着いて来ます。


「う~~~~、お家に帰りなさい!」


あたしは、立ち止まって後ろを指差して声を荒げて言ってもまったく効果がありません。一瞬耳を伏せてあたしの言葉を聞いているようなんですけど、あたしが歩き出すとまたとことことついてくるんです。


「はぁ・・・・どうしましょ・・・・」


あたしは、今の思いを思わず声に出してしまいました・・・・・

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