2_05.護衛艦あさひ見学ツアー
エステリア王国 マールーン港 227年5月15日 午後12時
「これを耳に当てれば良いのだな?」
「はい、座りましたらシートベルトを装着してください。私の装着方法を参考にしてください。」
「ほう、そうやるのか。なるほど…これで椅子に固定される訳だ。なるほど…。どうだ、エスダン。固定装置一つでも参考になるな。」
「いや、全く。というか、陛下。耳に当てた奴から声がしますな。」
「言われてみれば確かに。これは便利だ。あれ程の轟音で会話も出来ぬと思っておったが…なるほど、そうか。こういう物がな。ふむふむ…」
北村一佐は先程入れ替わりでヘリを降りたフェルメを思い出していた。酔って吐かなければよいが…なるべく揺らさない様気を付けて操縦するようにパイロットに指示したが、パイロットも揺らしたくて揺らしている訳では無いのだ。急な気流の変化があれば、当然揺れる。しかし国王ル=フェイヨン8世は、三半規管が強いのか全く酔わなかった。
「なんと!もうマールーンが見えるではないか!!これはなんとも早い事…一体何キロ出ておった?」
「そうですね…大体時速200km程度でしょうか。マールーンの港までは200km位でしたので、1時間で到着します。」
「そうなのか。200kmとな。200kmとは…早いものだのう。宮殿から港まで僅か1時間か…有り得ぬ速さだ…凄いものだのう。のう、エスダン。余もこれが欲しいぞ。」
エスダン中将は愛想笑いしか出来なかった。実の所、エスダン中将はヘリコプターの高さと速さに弱っていた。何せ窓の外には、見慣れない角度から見知った町が見えるのだ。もしこれが落ちてしまったら、この速度とこの高さ…
「あの、キタムラ一等海佐殿、これは落ちませんよね?大丈夫ですよね?安全ですよね?」
「ああ、ヘリですか?大丈夫ですよ。もしエンジンが停止しても安定して着陸します。」
「そうなのか?いや、そうであろうな。そうであろうとも…。」
「なんだエスダン、貴公怖いのか。肝が小さいのう。余は速く港に着いて軍艦に乗るのが楽しみで仕方ないぞ。怖くなる暇もない。もうすぐマールーンだのう。」
中も外も賑やかに、SH-60Kはマールーンの港に着いた。ウキウキでヘリを降りた国王は、早速北村一佐に連れられて護衛艦に乗艦した。エスダン将軍はヨロヨロとしながら、後をついて行った。
そして一通りの艦の説明を受け、ブリッジに上がった国王は言った。
「主兵装のミサイルとやらが撃てぬのは仕方が無い。そもそも空を飛ぶものは鳥ぐらいであろうしな。だが、砲は撃てるであろう?あの甲板にある細い砲身の砲。やはり駄目か、キタムラ一佐?」
「いえ、了解いたしました、何か標的を用意しますので。」
「いやいや面倒な準備などせんでも良い。
この港の突端に岩礁が顔を出しておる。あの岩礁周辺は浅瀬になっておってな。誰も船では近づかぬ。どうじゃ、アレを撃ってみんか?」
「承知致しました。それでは…」
北村一佐がどこかに指示を出したかと思うと、外に目を向けた。
「これから射撃致しますので、どうぞご鑑賞下さい。」
62口径5インチ単装砲はスルスルと動き始めると、岩礁方向に砲身を向け射撃を開始した。と、途端にババーンと辺りに大音響が響き、砲塔上部から薬莢がガランと排出され、ターゲットとなった岩礁は砕け散った。そして国王は大はしゃぎだった。
「見ろ、エスダン!!凄いぞ。なんてスムーズに砲塔が動くのだ。あれはどうやって動いておる?人か?機械か? 撃った後、砲身が後退しておるぞ!! あれは反動を吸収しておるのか?我らの砲は反動そのままだからな。なんと機能的な事であろうか。ふむふむ、あの薬莢が砲塔から自動的に出るのか? 何、あれは無人で動作しておると??凄いのう、凄いのう。」
エスダン将軍は驚くには驚いていたが、この艦の大きさで1門しか無い事に疑問しか無かったが、次に1分間に16発以上撃てると聞き、尚且つ最大射程が20km以上と聞いて戦慄した。先程聞いた"れーだー"という索敵装置と、この砲を組み合わせたら…仮に1/4が命中したとしても、1分以内に24km先の敵艦4隻に当たる、という事だ。陛下は無邪気に喜んでおられるが…これは厄介な問題だぞ。仮にニッポンを敵に回したとして、この船が艦隊でやってきたら誰にも止められない。しかも、あの"へり"という飛行機械の速さと言ったら…僅か1時間でファンソン宮殿からマールーンに行けるのだ。あれに兵を満載して飛ばされた日には…防ぎ様がない。どうか陛下、ニッポンにあまり無茶は言わないで下さい。
「素晴らしい!とても素晴らしい!! ニッポンの軍艦は規律、性能、正確さにおいて比類無い。見よ、エスダン。ここまで船の中に不要な物が転がっておったか?通路もどこもかしこも磨き上げられておる。素晴らしい。ニッポン海軍はとても良い水兵を持ち、性能もとても素晴らしい。学ぶべき事は山ほどあるぞ、エスダン。」
「は、確かに…」
「キタムラ一等海佐。オカムラ外交官。余は大変に満足した。そして、このような規律の整い、綺麗な船を持つニッポン国海軍の船を見て余は確信した。貴国と是非、国交を結ばせて頂きたい。我が国は貴国に劣る面もあると思うが、我が国が貴国に出来る事もあると思う。どうか一つ、貴国と友好関係を結ばせて欲しい。色々難しい話に関しては、ここに居るエスダン中将に一任しておる。また、アンベールとフェルメも優秀な者達である。何か困ったら、何でも聞いて欲しい。さて、余の気持ちも固まった故、続きは王宮にて。キタムラ一等海佐。またあの飛行機械で送って貰えぬか?」
エスダン中将は、飛行機械を遠慮して馬車か何かで向かいたかった。しかし、この話の流れ的にファンソン宮殿で直ぐに続きが行われるなら…馬では到底間に合わない。また、あれに乗るのか…エスダン中将は、ヘリを降りて直ぐに吐いていたフェルメを思い出した。今は彼を全く非難出来ない気持ちになったエスダンだった。




