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8/13

子供の成長速度には勝てねえ

俺は、このゲームで初めての敗北を喫した。俺はこの鬼畜執事に全身全霊を捧げ、弱点であった肉弾戦も大キックにスキルを振ることが良いことに気付き、またスキルを振り直すなど試行錯誤を重ねていた。

それ以上にシオリちゃんは、俺の遣うキャラを研究していた。永久コンを抜け出せるようにスーパーアーマーのあるスキルを取得していたのだ。ミニガンを推進力として強引に前に突っ込むという豪快な技でモロにカウンターヒットを喰らい、それが決定打となった。



「っふぅ…こいつは、完敗だな。強くなったな、シオリちゃん」

「えへへっ、研究しましたから。もちろん、これで終わりじゃないですよね?」

「おう、俺はスロースターターなんだ」


しかし本調子になっても勝率は五分といったところで、俺はシオリちゃんの成長速度に驚くばかりであった。俺が先にコンボの始動となるビームをまともに当てて勝つか、シオリちゃんがそれを読んでタックルを仕掛け、そこからミニガンの乱射で一気に勝負をつけるかの大味な戦いは、シビアな読み合いが痛快なものとなっていた。



「ここまでの勝負をずっと続けたことは無かったから、疲れたな…」




いつもの数倍は肩に力の入る試合に、俺は疲労を覚える。隣のシオリちゃんはまだまだ元気そうだ。歳か、歳なのか。


「休憩にしますか?私、お昼に色々買ってきてて。楽しみで、お菓子とかいっぱい買いすぎちゃいました」

「お、おう…嬉しいな」

かなり年下の子に気遣いをさせる申し訳なさに俺は気後れするも、断るのはもっと気まずいなと思い俺はお言葉に甘えることにする。

「お待たせしました!ただのアールグレイじゃちょっと申し訳ないなって思って、オレンジピールを浮かせてみました」

氷の入ったグラスに入った紅茶には、若干フルーティーなフレーバーが加えられていた。トーマス君のやっすい紅茶を一気飲みするしか俺は脳がなかったのだが、シオリちゃんが出してくれたこれは、なんかこう、香りの濃さみたいなものが全然違う。グラスを顔に近づけて深呼吸しただけでもかなりリラックス出来た。

「メチャウメェッ!これ、シオリちゃんが作ったの?」

「ぐぐったら簡単に出来ましたよ!えへへ、喜んでもらえたならよかったです。そのシュークリームもおいしいのでよければ!商店街の、やつなんですけど」

シュークリームは俺が知っているものよりもシューの生地が幾分か堅かったのだが、それが濃厚なカスタードクリームの味を引き立てていた。商店街にこんな店あったっけな。スーパーとかコンビニとかで適当に飯を済ませてた俺には縁遠い味だ。

「ウンメェ〜。シュークリームって食ってるとクリームがブジューっつって飛び出してくるもんだと思ってたんだけど、これサックサクで、全然違う食べ物みてーじゃん!すげー!」

「私もこのシュークリーム、大好きなんです!」

俺が喜ぶほどシオリちゃんも笑顔になってくれるみたいなので、若干オーバーリアクション気味にすることを意識した。





「よしっ、気を取り直してもう一戦…といきたいところだが、もう18時か。そろそろ親御さん帰ってくる頃かな?」

「そうですね、いつもなら20時半くらいなんですけど、早い時はこれくらいに帰ってくる時もありますね」

やっべ、事案の黄信号ランプ点滅してんじゃん。帰るか。

「シオリちゃん、今日は楽しかったよ。明日はもうちょっと勝てるように容赦ない調整を加えておくから、覚悟しとけよ?」

「ふふーん、負けませんよ?私も毎日、スキル調整してるんですから!」


そうして俺は幸せな部屋を後にし、自分の殺風景な部屋と向き合った。備え付けのキッチンに加え、ベッドと、デスクトップPCと、レンジと冷蔵庫と洗濯機があるだけの部屋だ。本は電子書籍があればいい。テレビなんてつまんねーもの、ゲームを作る上ではノイズでしかない。しかし、シオリちゃんのオシャレな部屋を見ると、家具を増やすのも吝かではないと思っていた。だが、無職の身では金がない。家具を増やすのは、一番後になるだろう…そうやって、なんでも後回しにした結果がこの殺風景な部屋なのだが。アイツの持っていったブックレットやランプがあれば、もっとマシな景観なのだが。




ハァ、やっぱさっさと職を決めねぇとな。俺は日課の手淫をしようとしたが、あんなによくしてくれた子でシコる罪悪感が性欲を上回り、スキルの考察を満足するまで行って寝ることにした。シコって寝るより、よっぽど寝付きが良いものに思われた……。


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