表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コンテスト受賞】後宮で皇帝を(物理的に)落とした虐げられ姫は、一石で二寵を得る  作者: 西根羽南


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/48

朱家からの手紙

「今日の練習、終わり!」

 鬱憤を晴らすかのように布に針を突き刺すと、麗珠(レイジュ)は思い切り伸びをする。


 当初は丸い形すらガタガタで酷い刺繍だったが、もともと裁縫自体はできて針を扱えるおかげか、ようやく思うように形を描けるようになってきた。


 おかげで静芳(セイホウ)の出す課題も夜中までかからなくなり、少しずつすり減った気力も戻りつつある。


 用意された饅頭を頬張って幸せな気持ちでいると、静芳が少し困ったような表情でそれを差し出してきた。



(シュ)家の旦那様からです」


 饅頭をお茶で流して飲み込むと、早速手紙に目を通す。

 要は異母妹の花琳(カリン)が十五歳になって成人するので、麗珠と交代するという内容だった。


「そうか。もうそんな時期なのね」


 麗珠の後宮入りは、もともと花琳が成人するまでのつなぎの役割。

 いずれその日が来るのはわかっていた。


「とはいえ、一応私は暁妃(ぎょうひ)という位を賜ったのだから、龍蛍(リュウケイ)に一声かけないと駄目よね」

「一声も何も。陛下が許可しない限りは後宮から出ることはできませんよ」

 静芳は眉間に皺を寄せて不機嫌そうだが、どうしたのだろう。


「よろしいですか? ここは後宮で、主は皇帝陛下。朱家が何を言おうとも、陛下の決定がすべてです」

「まあ、それはそうよね」


 どうやら不機嫌というよりも怒っているらしいが、原因がよくわからない。

 心配になって様子を見ていると、それに気付いたらしい静芳がため息をついた。


「申し訳ありません。もともとは私も麗珠様に失礼を働いた身だというのに。それでも、『早く退出しろ』などと勝手な物言いが許せなくて」


 恐らく麗珠宛とは別に静芳にも諸々の指示の手紙が届いたのだろう。

 朱家当主である父は麗珠が後宮を出て狩人になると思っているから、ただの連絡事項として退出の用意を促している。


 義母と異母妹に関しては相当嫌な言い回しを使っているのだろうが、今更気にしても仕方がない。

 それよりも、あれだけ麗珠を邪魔者扱いしていた静芳が怒ってくれているというのが嬉しかった。


「とりあえず、龍蛍の許可を取らないと。――桃宮(とうきゅう)に行くよ」




 桃宮を訪ねるにあたって、静芳は当然のように麗珠の装いを整えた。


 衣は淡い紫色で、辛子色の糸で植物の蔓が描かれている。

 (スカート)は胸元が紺色で裾に向かって緑色に変化し、淡い水色になる。


 そこに薄桃色の牡丹が咲き誇っており、帯は紺色の上に白を重ねて垂らされた。

 全体的に涼し気な色合いでありながら華やかで美しい衣装だ。


 後宮を出ればもうこんな服を着ることもないと思うと、動きにくさも何だか許せるのだから不思議なものである。


 だが、久しぶりに訪れた桃宮に龍蛍の姿はなかった。

 女官達によれば桃宮内にいるはずなので、庭ではないかという話だった。

 いつもならばそのまま朱宮に帰るところだが、今日はそうもいかない。


 仕方がないので静芳は部屋の前で待機してもらい、龍蛍が帰ってきたら伝言するよう伝えると、麗珠は庭に出た。




 池を越える橋を渡って歩いていくと、何やら音が聞こえる。

 それを頼りに進むと、やがて木々が立ち並ぶ林が見えてきた。


「麗珠様?」

 急に声をかけられて驚いた麗珠が振り向くと、浩俊(コウシュン)が一礼して近付いてくる。


「お久しぶりですね。最近では刺繍に精を出しているとか」

「ああ、うん。まあね」


 これで花琳が乞巧節(きっこうせつ)の前にやってきたら、麗珠の努力は水の泡だ。

 そう考えると何だか切ないので、手巾(ハンカチ)提出の後にしていただきたい。


「それで、何か御用があったのでしょう? 龍蛍ですか?」

「そう。話したいことがあるんだけど。どこにいるの?」


 微笑む浩俊の後ろをついていくと、聞こえていた音が段々と大きくなる。

 そうして木陰から見えたのは、弓を構える龍蛍の姿だった。


 矢をつがえて放ち、その矢が的に命中して周囲に音が響く。

 ただそれを延々と繰り返す様を、麗珠は暫くぼんやりと見ていた。



「もともと武術は習っていますし、飲み込みもいい。ただ、体の急成長で感覚が狂うらしく、稽古は欠かせないそうです」

「稽古って、何故?」


 龍蛍は皇帝だ。

 その身を守ることは最重要課題であり、当然多くの護衛が存在するだろう。

 もちろん、何もできないよりはいいだろうが、欠かさず稽古する必要性がわからない。


「『麗珠がひと目で惚れる男になるため』と言っていました。弱い男じゃ駄目だから、と頑張っているのですよ」

「また、冗談を」


 いくら何でもそんなことのために時間を費やすとは思えない。

 そもそも麗珠を惚れさせてどうするのだ。


「龍蛍はいつでも正直ですよ。まあ、あれでも一応皇帝ですので。事情があって言えないこともありますが、麗珠様が特別なのは間違いありません」

「特別、って」


「――麗珠!?」

 遠くから声が聞こえたかと思うと、龍蛍がこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。



寒い冬。

心を明るく照らす、蒙古斑の光……☆

中華後宮風ラブコメ「蒙古斑ヒーロー」!

モウコ(ง -᷄ω-᷅ )ว ٩( -᷄ω-᷅ )۶(ง-᷄ω-᷅ )ว ( -᷄ω-᷅ و(و ハァーン☆



「残念令嬢 ~悪役令嬢に転生したので、残念な方向で応戦します~」


1巻の在庫復活!!(一部再度在庫切れ)

2巻の電子書籍も配信開始してます。

1巻のセールもそろそろ終了!

セット販売情報もあるので、活動報告をどうぞ。


挿絵一枚目で目が合うけど……読んでほしい……!

最後の挿絵は、マヨが効いています☆

そしてヘンリーが巻き込み残念!


ゼロサムオンラインでコミカライズ連載開始!

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 後宮でたった一人の妃を退出させる理由って、 病気でなければよっぽどの悪事で死罪かどこかに幽閉するためくらいしか思いつかないのですが。 今の龍蛍なら病気と言っても見舞いにいくから部屋で休めで軟…
[一言] この時期だからでしょうか もみの木の頂点でお尻を光らせている龍蛍の姿を幻視しました。
[一言] 狩人と武人は違う…けど、麗珠はよいスナイパーになろうと思えばなれるのか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ