ごあいさつ
かのシャーロック・ホームズが『緋色の研究』にて初めて私たちの前に姿を現し、その謎解きの冒険が鮮烈な印象を残してから、今年で一三〇年。以来、様々な探偵が誕生し、彼ら彼女らが活躍する物語は、時空を超えて私たちを楽しませてくれます――
多くの方にとって初めましてでしょうか、『この謎が解けますか? Re...』企画・編集の大和麻也です。
本アンソロジーは、ミステリ、ひいては推理小説が堅苦しい、小難しい印象を持たれ、多くの読者にとって高い壁となっていることを残念に思い、少しでも親しみやすく読みやすいものとして広めることはできないかと企画されました。最初の企画からは早くも三年以上が経過しました。三度目となるアンソロジーは、開始当初と変わった部分もありますが、ミステリという物語における素晴らしいスパイスへの愛情は変わりません。
「ミステリ」とは、すなわち「謎」――つまり、それそのものが難しいかどうかはわかりません。作者次第であり、また読者次第です。それゆえ、どうか食わず嫌いをせず読んでもらえれば幸いです。案ずるより読むが易し、といったところでしょうか。本アンソロジーはミステリを苦手に思う方にもとっつきやすいよう、幅広いジャンル――推理、青春、ホラーなど――の作品が揃い、また楽しめる構成になっているはずです。タイトルを見て気に入ったものから読むも良し、頭から順に読んで引き込まれていくも良し――ご自身の興味や慣れに合った読み方で「謎」を体感してもらえればと思います。
ときに、冒頭より「時間」が意識されていることにはお気づきでしょうか。
今回のアンソロジーは、「謎」がしっかりと根を張っているだけでなく、「時間」というテーマが幹を成しています。そのテーマを各参加者が独自に解釈することで枝分かれし、各作品が果実や葉となって一本の大木を形作るのです。
なぜ「時間」を問うかといえば、これはごく自然なことであります。
いかなる物語であれ、時間の経過を無視することはできません。もしそのような表現ができたとしても、構想がまとめられ、文字となり、読者に届けられ、読者に解釈されるまでには、確かに時間の流れがあるのです。物語――小説は、時間とともにあります。
「謎」もまた時間とは切っても切れない関係にあります。何らかの事実が「謎」と考えられるからには、その原因から結果まですべて自らの眼前で起こり終始細かく認識されていた、ということは当然ありえないことです。何かがいわんとすることを知るには、時間の差異によって生じた穴を埋める必要があり、さらに、その作業に費やされる思考のための時間が欠かせません。
物語も謎も「時間」と密接な関係にあることを述べました。
しかし、これでは終わりません。物語と謎もまた、いわばきょうだいのような関係にあります。
物語を編むということは、時系列に沿ってただ単調に記録を羅列することとは違います。物語然としていなければなりません。それには、少なからず伏せておかなければならない作者の意図や読者へのサプライズ、物語の将来、あるいは過去が必要になるはずです。そう、その伏せられたもの、隠されたものは「謎」といえます。物語を物語たらしめる演出の材料となるのは、「謎」に違いありません。
小説を描くということは、登場人物たちに想像の外で活動する時間を与えるということ。
小説を読むということは、文字に閉じ込められた時間を再び動かすということ。
謎に出会うということは、過去の出来事の結果に遭遇するということ。
謎を考察するということは、過去の出来事と現在の状況とを繋げるということ。
そして、謎と小説とが交差する場所――すなわちミステリとは、時間の営みなのです。
いまも昔も将来も、絶えることなく流れる「時間」の裏付けがあるからこそ、小説も、謎も、無限に広がりうるものなのではないでしょうか。こうした無限性を、本アンソロジーの三一の作品の中から見つけてみてください。
では、参加一三のユーザと、そのタイトルを紹介しましょう。
※()の数字は全三回のアンソロジーの参加回数
■稲葉孝太郎 (3)
http://mypage.syosetu.com/306021/
『一ヶ月は遅すぎる、診療費ならなおさらだ』
『七人目の少年』
『天からの裁き』
■iris Gabe (1)
http://mypage.syosetu.com/29508/
『侵略者』
第一部「ある少年の告白」
第二部「グリンリーフ博士の報告書」
第三部「第十三端末のツイートログ」
■茅野愁 (3)
http://mypage.syosetu.com/308344/
『アイデンティティ・クライシス』
■消す (1)
http://mypage.syosetu.com/706363/
『あやかりゴースト』
前
中
後
■まさか (1)
http://mypage.syosetu.com/727395/
『最初で最後の事件』
全三話
■六車むつ (3)
http://mypage.syosetu.com/321490/
『彼岸の質屋』
『先輩と僕と見えない彼女』
【前編】
【後編】
■奥田光治 (3)
http://mypage.syosetu.com/332223/
『時の果ての殺人』
第一章「過去と現在」
第二章「事件の拡大」
第三章「悪夢の真実」
■佐伯 (1)
http://mypage.syosetu.com/246836/
『grif』
■高 (1)
http://mypage.syosetu.com/615016/
『ある双子のアリバイ』
■羽野ゆず (1)
http://mypage.syosetu.com/625640/
『逃げろ傘ドロボウ!』
『絆クエスト~勇者一族殺人事件』
【問題編】
【解答編】
■裏山おもて (3)
http://mypage.syosetu.com/335838/
『桜の花が咲く頃に』
■山元周波数 (1)
http://mypage.syosetu.com/437918/
『エネルギーの通貨』
事件発生篇
操作篇
解決篇
■大和麻也 (企画・編集)
http://mypage.syosetu.com/293149/
『試験監督』
『思い出の解釈』
全二話
なお、第三弾となる今企画は、「3」ではなく「Re...」としました。
これは、第二弾から第三弾までに期間が空いてしまったことも理由のひとつですが、同時に、やはり「時間」を意識したうえでの名づけです。ReturnなのかReunionなのかRevivalなのか、はたまたそれ以外なのか――これは企画者・参加者・読者でそれぞれ想像を膨らませてみるのが一興かと思います。
最後に、こうして久々の企画に賛同し、応援してくださる参加者および読者のみなさんにお礼申し上げます。
さて、前置きが長くなりました。それでは、時間が生み出す物語の悪戯をお楽しみください。
企画・編集 大和麻也
First→→→『桜の花が咲く頃に』




