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魔法少女ラスカル・ミーナ  作者: 南文堂
第5話 なんたって 女幹部
13/20

Aパート デパートと言えば、ぷちファッションショーは基本でしょう

品質には万全を尽くしておりますが、希に体質に合われて中毒になられる方もございますので、少し休憩をおいてから連続の読書をしてください


前回までのあらすじ

存在自体がトラブルメーカー、皆瀬和久は白瀬美奈子となり中学生の身でありながらアルバイトをしていた。しかも、そのアルバイト先で、悪の魔法少女ラスカル☆ミーナとなり、全人類ををウェートレスにする野望を持つ全日本ウェートレスマニア振興協会に協力して、通行人を次々とウェートレスにしていく。そこに登場したファンシー・リリーの敵の弱点を見事に突いた攻撃によりその野望を打ち砕いたのであった。

さて、今回、ラスカル☆ミーナはどんな騒ぎを起こすのやら……

(本編とは若干異なる点もございますので、前作をお読みになられることをお勧めいたします)

 日が沈むのも大分と遅くなり、まだ七時半でも充分に明るく、藍色に染まる空に茜色の雲がたなびいて、少し幻想的な時間帯。

 美奈子は電源を抜いた喫茶『じぱんぐ』の看板を持ち上げて、服が汚れないように気をつけながら店内に引き入れた。

「よっと! オーナー、看板しまいました」

「ハイ、ご苦労さん。それじゃあ、なぎさクンも美奈子ちゃんもあがっていいよ」

 カウンターの中の清掃ももう仕上げに入っていたオーナーの守部登が店内の清掃を終えていた風島なぎさと美奈子にそう告げ、二人は更衣室で素早く私服に着替えると店の方へと帰りの挨拶をしに顔を出した。

「えと、一週間だけでしたけど、お世話になりました。たくさんご迷惑かけて、すいませんでしたが、色々と勉強になりました。ありがとうございました」

 美奈子は登となぎさに深々と頭を下げた。お金を稼ぐためと言う当初の目的もあったが、もう、そんなことよりもこの一週間で色々な事を学んで、美奈子はそれだけで十分な気がしていた。

「よく頑張ったね。おかげで大助かりだったよ」

 と登。

「それに美奈子ちゃんが来てから、店の売上があがったものね」

 となぎさ。

 二人の優しい言葉に「ありがとうございます」と少し照れながら美奈子は返した。

「でも、おしいな。せっかく、仕事も憶えた頃に期間が終わるなんて」

「ほんと。このまま、もうちょっとやったら?」

「だ、だめですよ。学校で許可貰ってるのは今日までなんです」

「そうだな、中学生だもんな。仕方ない。でも、また何かあったら、お手伝いしてくれるかな? もちろん、孝治を、理事長を通して許可はとるから」

「あ、はい。また、お願いします」

「うん。それじゃあ、これは少ないけど、お手当て」

 『給与 白瀬美奈子殿』と書かれた味気のない茶色の封筒を美奈子に差し出した。

「え、でも……わたし……」

 元々の目的のものではあったが、いざこうやって目の前に出されると、数々の失敗で割ったお皿の数、オーダーミス、その他もろもろの失敗による店の損害を考えてしまい、美奈子はそれを受け取るのがすごく気が引けた。

 差し出された給料袋を受け取ろうかどうしようか迷っている美奈子の背中をなぎさがぽんと叩いてウィンクした。「あなたにはそれを貰うだけの仕事はしてたわよ。胸張って受け取りなさい」と言わんがばかりに。

「はい。ありがとうございます」

 美奈子は生まれて初めて自分で稼いだお金を受け取った。


「で、いくら入ってたの? 美奈子お姉ちゃん」

 食後のお茶をすすりながらの家族団欒で、美奈子の報告が終わってすぐに芽衣美が好奇心丸出しの瞳を輝かせていた。

「えーとね……」給料袋の封を慎重に切って美奈子は中を覗き込み、「おお! 二万円も入ってる!」

「すごーい!」

「……時給650円ってところか。結構出してくれたんだな」

 賢治がさっと暗算して時給を割り出した。

「失敗しまくっていたわりにはね」

「うっ(は、反論できない)」

『でも、ご主人様の可愛いウェートレスさんのおかげでお店が大盛況だったから奮発してくれたんですよ、きっと』

「ありがとう、リン君」

「それで、どうするの?」

「日曜日にデパートに行って買ってきて、月曜日に返すつもりだけど?」

「それじゃあ、丁度よかった。日曜日は三人でお出かけね」

 琉璃香はパンと手を合わせて喜んだ。以前から、美奈子をそういう所に連れて行こうとしていたので、便乗するらしい。

「え? い、いいよ。一人で行くから」

「何言ってるのよ。芽衣美ちゃんの夏服を買いに行くのよ。美奈子ちゃんの夏服も買わないといけなかったから、丁度よかったわ」

「おでかけ、おでかけ」

 芽衣美は琉璃香が何を狙っているのかをよく知っているらしく、見るからに嬉しそうであった。

「なんか、二人とも期待してない? 最初に言っておくけど、着せ替え人形はごめんだからね」

 しかし、美奈子もそれに気が付いていた。

「ほほう、それじゃあ、自腹を切って夏服を買うのね?」

「ひ、卑怯だよ! 経済制裁反対!」

「ふふふ、何とでも言いなさい。母はTS娘を着せ替え人形にするのには手段を選ばないと相場が決まっているのよ」

 琉璃香のその一言によって美奈子は沈黙せざるえなかった。

「リリーには連勝なのに、こっちは連戦連敗だね、美奈子お姉ちゃん」

 そういう割には嬉しそうな芽衣美であった。


 そんなこんなで日曜日。

 三人は駅前にあるデパートの婦人服売り場にやってきた。バーゲンほどではないにしても結構な混んでおり、喧騒の満ちたフロア-はファンデーションの匂いで充満していると錯覚しかねない独特の雰囲気であった。

 最初に買っておかないと、あとで何が起こるかわからないと言う一種の強迫観念が美奈子にはあったので、何はなくとも本当の目的であるタオルを買うのは先に済ませたあった。

「あとは芽衣美ちゃんの夏服だけよね」

 美奈子はあくまで自分のはついでだと強調するかのようにそう確認した。

「美奈子ちゃんのもね」

 しかし、あっさりと琉璃香に否定されてしまった。

「それにしても、美奈子お姉ちゃん恥ずかしかったね」

 芽衣美はさっきまでの買い物を思い出して苦笑いした。

「そうそう、まさかデパートで値切るとは思ってなかったわ。女の子を通り越しておばさんになってるわよ、美奈子ちゃん」

「そ、そう言ったって、調べてた値段よりも高かったんだもの」

 調べていた5,800円は以前の価格で、生産量が減ったとかで今は6,200円に値上がりしているのを見て美奈子は店員に食い下がったのだった。

「だからって、値切るのはどうかと思うよ。しかもギフトコーナーで。店員さんがびっくりしてたよ」

「だ、だって、言うだけ言ってみるのはタダだもん。値引いてくれればラッキーと思わない?」

 さすがに思い出すと自分でも恥ずかしいらしく、美奈子は小さくなりながらも共感を求めるように二人に訊いたが、残念ながら共感は得られなかった。

「おかしいわね。美奈子ちゃんにはどうやら、浪速の商人のDNAが混ざってるみたいね」

「へえ、そうなんだ! それじゃあ……。もうかりまっか?」

「ぼちぼちでんな……って言わすな!」

 手の甲で芽衣美の胸を叩いてツッコミをいれては肯定しているようなものである。

「わー、やっぱり、浪速の商人さんだ。それじゃあ、細腕繁盛記だね」

「銭の花は白くてきれいやけど、その匂いは汗の匂いがして、根っこは血いみたいに赤いんや。ってやつ?」

「時々、我が子ながら思うけど、美奈子ちゃんって幾つ?」

「たぶん、14歳……でも、最近自信ないから、年齢不詳の14歳ってしておく」

「何だか、国籍不明のメキシコ人みたいだね、美奈子お姉ちゃん」

 エスカレーターのロビーで奇妙な会話で盛り上がっている琉璃香と美奈子、芽衣美の方へと店員の一人が近付いて来た。

「あ、やっぱり! 芽衣美先輩! ようこそ、いらっしゃいませ」

 店員は芽衣美に向かってぺこりとお辞儀をした。

「あ! 佳織さんだ。先輩はやめてよぉ、照れくさいなぁ。あ、この人は、あたし達とコスプレをいっしょにやってる友達で、習志野佳織(ならしの かおり)さん」

「いらっしゃいませ、習志野です。ここの販売を担当してます」

 芽衣美に紹介された佳織はおしとやかに頭を下げて、自己紹介したので、琉璃香と美奈子もそれぞれ、手短に芽衣美との間柄をつけて自己紹介した。

「まあ、芽衣美先輩の下宿の。それで、今日は何かお探しですか?」

「うん! 美奈子お姉ちゃんの夏服を買いにきたの」

「ちょ、ちょっと、芽衣美ちゃんのを買いに来たんでしょう?」

「あたしなんかより、美奈子お姉ちゃんの方が面白そうだもん」

「……芽衣美ちゃん」

「なるほど、わかりました。それならば私にお任せてください」

 美奈子が芽衣美に抗議の視線を向けている間に琉璃香が佳織に手短に何かを話して、それを最後まで聞いて佳織は納得して、100点満点の営業スマイルで承った。

「は? どういうことなんですか?」

「はい。ですから、実家から持ってきた服が男っぽいものばかりで、全然女の子らしくない。女の子らしくなるためにこちらへと、皆瀬様のお宅に行儀見習に来られているのだから、そんなことではいけないと一新して夏服を買いに来られたと、皆瀬様にたった今、説明いただきましたが?」

「る、琉璃香さーん」

「それじゃあ、じゃんじゃん選んで、どんどん試着して貰いましょう」

「よーし! 選ぶぞぉ!」

 美奈子の抗議などまったく耳を貸さずに琉璃香と芽衣美、佳織は各々、売り場へと散って行った。

 ほどなく、何着も服を抱えた琉璃香と芽衣美、そして、佳織が美奈子の元に帰って来た。

「それじゃあ、これから行きましょうか」

 ブルーの細い格子模様のワンピースを美奈子は受け取り、試着室に入ると、今着ている服を手早く脱いで、ワンピースを被り、前のボタンを閉めた。肩を覆うものはなく、肩ひもだけの涼しげな服である。麦わら帽子でも被れば、似合いそうな夏の格好であった。

 美奈子は鏡に移る自分の姿を見た。だいぶ見慣れたとはいえ、鏡に映る美奈子は掛け値なしの美少女で、和久はいまだに少しドキドキする。しかし、一つ、残念なところがあり、それが魅力を半減している。表情が硬い。照れくささを隠すために仏頂面をしているので当たり前であるが、普段ならまだしも、今日この時に仏頂面はまずかった。

「さあ、ここからが勝負だ。和久。仏頂面で出て行ったら、『そんなに嫌々着るのなら、買ってあげないわよ』と言われて、そんなわけにはいかないからこっちが謝ると、主導権は完全に向こうになって、相手の思う壺だ。どんな格好させられるかわかったものじゃない。ここは笑顔。ウェートレスのバイトで鍛えた笑顔で付け入る隙を与えずに、自分の要求を向こうに飲ませる」

 美奈子は試着室の鏡に両手をつき、自分の顔を見据えると他人には聞こえないような小声で自分自身に言い聞かせた。

「よし! 戦闘開始だ!」

 美奈子は心の中で気合を入れると試着室のカーテンを開いた。

 ちょっとはにかむような笑顔。実際照れくささもあるので演技の必要性は無いが、そんな表情をしている自分が気恥ずかしくて、美奈子ははにかみが赤面にならないように抑えるのに苦労した。

「どうかしら? 似合ってる?」

 美奈子はなるべく女の子らしく訊いてみた。その場でゆっくりとターンまでして見せた。内心、転げまわってのた打ち回るほど恥ずかしいが、努力と根性でそれを押さえ込んだ。

(魔法少女は努力と根性が必須だとリン君が言ってたけど、こんな努力と根性をしているのは、世界広しと言えども、わたしぐらいだろうな)

『ご主人様、ファイト!』

 芽衣美も言葉には出さないが、ガンバレのポーズをして応援している。

(ありがとう、リン君、芽衣美ちゃん)

「似合ってる似合ってる。元がいいと、何でも似合うわ。それじゃあ、次はね……」

 使い魔とテレパシーで会話している美奈子を知ってか知らずか、琉璃香は満足そうに頷くとすぐに次の服を美奈子に渡した。

 半袖のシャツ、ポロシャツ、薄手のブラウス、Tシャツ、パーカー、スカート、キュロット、パンツ、ミニスカート、ジーンズ、ワンピース等など様々なバリエーションのファッションショーと化していた。実際、途中から着替えの時間の短縮化といって琉璃香がこっそりと試着室に時間圧縮結界を張ったために見た目にはマジックショーのように瞬時に衣装を替えて登場する美奈子に知らず知らず買い物客も集まってきた。

「続きましては、ノースリーブのチャイナシャツにミニスカート。動きやすく軽快な服装で、お嬢様を活動的に見せます」

 館内整理用のハンドマイクで佳織が集まったお客に向かって解説まで入れているし、芽衣美はいつの間にか試着室に入り込んでアクセサリーや髪のセットなど美奈子の着替えをアシストしている。さらに、芽衣美自身も着替えてお客の前に姿を現し、可愛く愛嬌を振りまいている。

『ご、ご主人様。なんか恥ずかしいですね、これ』

「私の方がもっと恥ずかしい!」

 ブラウスを脱いでワンピースに着替えながら、照れている銀鱗に返した。

「ほらほら、無駄口叩かずに着替えないとカーテン開いちゃうよ」

「注目されるのはミーナだけで充分なのに」

「でも、夏に向けていい訓練になるよ。そうそう、ちょっとポーズとか取った方がかえって恥ずかしくないよ」

「そんなものかな?」

「そんなものだよ、美奈子お姉ちゃん。ほら、カーテン開くよ」

「あ、あわわ」

 慌てて、背中のファスナーを上げて裾を整え、表へと踏み出した。内心は恥ずかしさで一杯だが、そんな素振りは見せずにステージとして空いている空間の真ん中へと軽やかに歩いていく美奈子。そして、芽衣美のアドバイスどおり、そこでくるりとターン。裾がふわりと浮き上がって、一回転正面でストップし、にっこりと微笑んで浮き上がった裾が落ちきらないうちにスカートを抑えるようにぺこりとお辞儀、そのまま踵を返して試着室に戻ってきた。

「芽衣美ちゃんのうそつき! 無茶苦茶恥ずかしかったわよ!」

 試着室に入ってからりんご飴よりも顔を真っ赤にして美奈子は芽衣美に文句を言った。

「そうかな? うけてたよ。妙に恥ずかしがってる方がよっぽど恥ずかしいけどなぁ。なりきった方がやりやすくなかった? 美奈子お姉ちゃん」

 パーカーにショートパンツと少年のようないでたちになっていた芽衣美はカーテンが開いて、ステージに出るとスキップで舞台中央へと向かい、その直前で前方宙返りをしてピタリと立ち位置に着地した。しかも、宙返り途中で猫耳と猫尻尾まで出して。マジックファッションショーだと思い込んでいる観客は目の前で変身した猫耳娘に拍手喝采を浴びせた。

「猫耳と尻尾は別売りだニャん♪」

 別売りどころか、自前でしょう。とツッコミを入れながら美奈子は場慣れした芽衣美に感心した。

「なりきれば恥ずかしくないか……確かに、そうかも……よし! わたしも頑張らなくっちゃ! ……って、何言ってるんだ、僕は!」

 一人ボケ突っ込みをしつつ美奈子と芽衣美のファッションショーはその後しばらく続いた。

「お疲れ様」

 ロビーでぐったりとしている美奈子に佳織がスポーツ飲料を手渡した。

「本当に疲れた。京都に行ってもこれだけは着ないと思うわよ」

「食い倒れの大阪に、着倒れの京都。若い割には変なこと知ってるのね、美奈子ちゃんって……あ、ごめんなさい、私ったら、お客様に向かって」

「いいよ、名前で呼んでくれたった。その代わり、私も佳織さんって呼ぶから」

 口を押さえてはっとしている佳織に美奈子は苦笑を浮かべてそう言った。

「それじゃあ、美奈子ちゃん」

「何? 佳織さん」

 早速、名前で呼ぶ佳織に何かしら嫌な予感を覚えたが、気のせいであることを信じて応えた。

「午後からもお願いね」

「きっぱりお断りします」

「ええ! お客様に好評なのに! 主任に午後からもやってくれって」

「あ! そうだ。わたしなんかよりも琉璃香さんと芽衣美ちゃんでやった方が盛り上がりますよ、絶対」

「そんなこと無いわよ! 美奈子ちゃんには美奈子ちゃんの魅力があるのに。何もない床で転ぶなんておいしいボケをナチュラルにかませる人なんてそういないわよ」

「……そんな魅力、やだ」

「ええ!? 浪速のDNAが熱くなりません?」

「わたしはお笑い芸人じゃないって」

「そう? いい味だしてるのに勿体無い」

「佳織さん、お笑い好き?」

「少しだけね」

 佳織は指で少しだけを表現して、悪戯っぽく笑ってそう答えたが、美奈子は絶対両手一杯分ぐらいは好きだと感じていた。

 結局、美奈子はデパートのおごりでお昼を食べた後に、マジックファッションショーに出演することになり、フロアーに急遽、設けられた特設ステージで午前中よりも派手にファッションショーをする羽目になった。琉璃香も派手にステージ中央で美奈子の衣装をチェンジするなど魔法を使いまくって、更には自らも出演して楽しんでいた。

「ばれたらどうするつもりよ」と言う美奈子に、「大丈夫! みんな、手品だと思ってるから」としれっと答える琉璃香と、「気にしない、気にしない」とお気楽な芽衣美。毎度のことながら二人に美奈子はすっかり翻弄されていた。


「それじゃあ、一六〇〇に正面玄関インフォメーションカウンター前に集合。遅れたら、荷物は一人で持ってかえってもらうわよ。それじゃあ、時計の時刻を合わせるわよ。5、4、3、2、1、スタート」

 昨日見た洋画の影響だろうか、琉璃香はどこぞの軍隊のような事をして自由行動を宣言し、早々と行動に移してどこかへと消えていた。大量に買い込んだ服はインフォメーションカウンターで預かってもらうことになったので、かさばる荷物を持って動き回らなくていいのが美奈子は嬉しかった。

「美奈子お姉ちゃんは何処に行くの?」

「うーん、とりあえずは、CD・ビデオ屋を見て回って、後は本屋さんだと思うよ。小物屋さんもちょっと覗いてみたいけど……無駄遣いしそうだから、気が向いたらかな?」

「ふーん、それじゃあ、あたしも一緒にいっていいかな?」

「うん、いいよ」

 美奈子と芽衣美はエスカレーターでCD・ビデオ屋のあるフロアーまで上ると、ぶらぶらとフロアーを探索しながらCD・ビデオ屋を目指した。

「美奈子お姉ちゃんはなにがお目当て?」

「え? ああ、えーとねえ。『魔法少女♪奈里佳』の二巻の発売情報がないかなと思って。デモとかあったら、ラッキーだけど。あとはどんな新作があるのかチェックするくらいかな? 芽衣美ちゃんは?」

「あたしも同じ。いい味出してて面白いよね、奈里佳って♪はまっちゃった」

「さすがはジャージレッドさんだよね」

「美奈子お姉ちゃんも、あれぐらいはじければいいのに……」

「無理だって。それに、あんなに魔法力ないって」

『でも、ご主人様は、制御はいい線いってるから、結構いい勝負になると僕は思いますけど』

「あたしもそう思う。うーん、対決させてみたいな。あたし、ミーナおねえちゃんの勝利に500ペソ!」

「1ペソっていくらよ?」

「さあ、よく知らない」

『じゃあ、僕はご主人様の勝利に1000ペソ!』

「だから、1ペソっていくらよ!」

 などと怪しい会話をしながら歩いていた美奈子と芽衣美は目的のCD・ビデオ屋に到着して、そこに堂々とディスプレイされている商品を見て二人は硬直した。

「魔法少女 ラスカル☆ミーナ 第1巻 絶版絶賛 発売中?!」

「『魔法少女♪奈里佳』に続き、二人目の悪い魔法少女がここに降臨! 二匹目のどじょうは存在した!! ……だって、美奈子お姉ちゃん」

 パッケージには様々なサイズの極太明朝体をバックにラスカル☆ミーナが照れくさそうにポーズをとっているデザインの絵が描かれてあった。

「これが僕ぅ?! か、かわいい…じゃ、なかった……ええと、制作は正義の魔法少女協力組合?! ○○制作委員会のノリみたいだから、本当に協力組合だなんて誰も思わないよな。以前にウッちゃんが『協会、貧乏だから』と言っていたけど、こういうのでも活動資金を稼いでいるのか……」

 美奈子はパッケージの一つを手にとって裏返した。

「ば、バニー橋本……」

 嬉々としているバニー橋本がそこにデザインされていた。ある意味、表よりも派手に。

「ああ! メイじゃないの?」

 芽衣美がそれを覗き込んで頬を膨らませた。

「一話って事だから、多分バニー騒動の話なんだから、メイはまだ出てないよ、多分。……あ、やっぱり、キャラクターデザインはゆきぴょんさんだ」

「じゃあ、仕方ないか」

「え?なんで?」

「秘密♪」

 芽衣美は意味ありげな笑みを浮かべて美奈子の質問に答えなかった。

「とりあえず!」

「買うの?」

「帰ったら、真琴お姉さまに『モデル料代わりに一本頂戴♪』とねだってみよう。なにせ、原作脚本は南文堂とかいう聞いたことない人けど、キャラクターデザインはゆきぴょんさんだもんね♪ それだけで見る価値充分!」

 パッケージを元の場所に戻して美奈子はニコニコしていた。

「本当にせこいね、美奈子お姉ちゃん」

「限りある資金は有効に使わないと、ね」

 美奈子がそう言って他の新作をチェックしようとした。

「美奈子ちゃん!」

 そこへいきなり後から名前を呼ばれて、美奈子はとっさに振り返った。

「あ、美穂ちゃん! 奇遇ね、こんなところで。どうしたの、血相変えて……」

 美穂は地獄に仏の形相で美奈子に駆け寄ってきた。

「芽衣美ちゃんも一緒とは好都合! 一緒に来て!」

 美穂は仔細を一切飛ばして美奈子の腕を引っ張った。突然の美穂の行動に美奈子は手に取っていた商品を取り落としたが、芽衣美がそれを上手くキャッチして商品の棚に戻してくれた。

「な? 何が何だかわからないよ、美穂ちゃん!」

「後でちゃんと説明するから、今はまず来て!」

 有無も言わせずに美穂は美奈子を連行した。芽衣美は何か面白そうな予感にワクワクしながらその後を追った。


 美穂は美奈子を引っ張って屋上まで行くと、関係者以外立ち入り禁止のフェンスの扉をくぐって、小屋のような場所へと連れてきた。

「なぎさ姉。連れてきたよ! ぴったりの代役!」

 美穂は小屋の扉を開けると同時に中で渋い表情をしていた女性にそういった。

「なぎさ姉? ああ!」

 小屋の中で渋い表情をしているのは喫茶『じぱんぐ』で先輩ウェートレスだった風島なぎさ、その人だった。

「紹介するまでもないけど、なぎさ姉は私の従姉で、私と同じく映画監督を目指しているの。今日は人手不足だからお手伝いにきてたの。なぎさ姉、美奈子ちゃんに代わる代役はいないと思うけど?」

 美穂は美奈子になぎさとの関係をさっと説明すると、なぎさの方に向き直った。

「よくやった、美穂。ばっちりよ! お手柄お手柄」

 なぎさに誉められて美穂は嬉しそうに笑った。

「ええと、どういうこと? まったく話が見えないんだけど……」

 何がなにやら分からずにここまで連れて来られた美奈子は情況を飲み込めずに目を白黒させていた。

「ああ、ごめんごめん。あたし、日曜日はこういうショーの監督をやってるの。将来映画監督になるための修行かな? 予算もなくて人数も足りないから、あたしも出演してるんだけどね。ちょっとドジっちゃって、足を捻挫しちゃったみたいなの。ううん、怪我はたいした事ないの。立って、普通に歩くぐらいはできるんだけど、アクションはやっぱり無理みたい。人数にも余裕がないから、誰か急ぎで代役を探してたところなのよ。そこで、美奈子ちゃんを美穂が見つけて引っ張ってきた。以上説明終わり」

「それで、わたしにどうしろと? まさか、その代役をしろとか?」

「正解」

「なんで! わたし普通の中学生だよ。子役でもないのにそんなのできないよ!」

「大丈夫! 美奈子ちゃんに出来なくても、ラスカル☆ミーナちゃんならできるよ」

「な、なぎささん! なんで、それを知ってるんですか!」

「やっぱりそうだったの? 美穂に聞いたら、状況証拠は揃ってるけど、確証はないって言われたし、先週、ウェートレス騒動のときに変身するところ見ちゃったけど、チラッとだから確信なかったから心配だったの。でも、本人が認めたんだもの、間違いないわね」

(しまった!)

『墓穴を掘っちゃいましたね、ご主人様』

(い、いうなぁ!)

「その様子だと、あんまり人に知られたくなさそうね。協力してくれたら、黙っててあげるけど?」

「うー」

 記憶を消す魔法は相手を気絶させないと上手く使えない。お世話になった人と友達を気絶させて記憶を消すなんてことが平気でできる神経を美奈子は持ち合わせていない。選択肢のない選択であった。

「美奈子お姉ちゃん、ここは覚悟を決めて協力するしかないね」

 芽衣美が美奈子の肩をぽんと叩いて話は決まった。

「仕方ないか。わたし、やります。その代わり、みんなには黙って置いてくださいね」

「やった! ありがとう!」

 美穂となぎさは諸手を上げて喜んだ。

「じゃあ、早速……」

「あ、ちょっと、待って! 美奈子お姉ちゃん」

「なに、芽衣美ちゃん?」

「あたし、前から言ってみたい台詞があったんだ」

『あ、僕も!』

「リン君も? ……多分、一緒だね。それじゃあ、一緒に言おうか?」

『うん。それじゃあ、いくよ。せーの!』

「『美奈子ちゃん! ラスカル☆ミーナに変身だ!』」


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