Module_029
「さぁて、無事に手続きも終えたことだし……早速行きますかね」
ぐっと背を伸ばしてギルド会館を出たセロは、受けた依頼を果たすべく、街の外へと向かう。門へと向かう道すがら、セロの目には陽が昇り、ぐんぐんと高くなるとともに外へと繰り出す住民たちが捉えられた。あくびをしながら開店準備を始める人や依頼を求めてギルドに向かう者など、多くの住民たちが一日の活動を開始するなか、セロは街の外へと続く門にたどり着く。
「さて、と。出るときにカードを提示して無事にお金も取り戻せたことだし、あとは依頼を終えて少しでも借りた金を返しておかないとなぁ……」
セロはカラクから借りた宿代のことを思い返しつつ、歩みを進める。依頼書に記された場所は、街から数キトル離れた「コルド平原」。ここは今回の依頼にある「リング草」のみならず、主要な薬の材料が採取できる薬草の群生地でもあった。
(平原かぁ……遮蔽物のない開けた場所では狙撃は無理なんだよなぁ。相手から丸見えなワケだし……となると、近距離戦になることも想定して、ナイフでも装備しておいた方がいいだろうな)
セロは目的地へと歩きながら後ろ腰に下げたアイテムポーチに手を突っ込み、中から刃渡り30セトルほどの長さを持つナイフを右桃に取り付ける。このナイフはセロが自身の魔法と技術により製作した「#試作品__プロトタイプ__#」で、カラクやミランの持つ武具と同様、「精霊術」を行使できる精霊武具である。
試作品としているのは、このナイフが初めて彼が一から作り上げた刀剣だからだ。鍛冶の技術がないセロは、自らの魔法で半ば無理矢理に作ることしか出来ない。
もちろん、試作品として製作したナイフだが、その強度や実用性は通常のナイフよりも高い。だが、きちんとした本職の鍛治技術があれば、さらにもう一ランク上のものが作れるであろう。
(まぁ、贅沢を言っても始まらないよな。鍛冶技術については、ギルドに腕のいい職人を紹介してもらったうえで、折を見て教えてもらおうか……)
セロは自身の製作したそのナイフを見つめながら、そっと心の中にそんな言葉を呟く。彼は自分自身、「まだまだ未熟だ」と考えていたが、その評価を聞けば、他の者たちは言葉を失うだろう。
何故なら、彼の持つナイフは、その柄頭に風属性を示す緑色の精霊結晶が嵌め込まれており、刃には精霊構文が刻まれ、高い技術力を窺い知れる一品だからだ。また、刻まれた精霊構文の効果は「鋭利化」・「強靭化」・「風刃」の三つと、複数の術式を織り込み、武具として成立させている。
特に最後の風刃については、嵌め込んだ風属性の精霊結晶により刃に風を纏わせ、振り抜くと同時に風の刃を飛ばすことができる技と、なかなかに優秀な性能を持っている。
放たれた不可視の刃は鋭く、そこらに生えた木々を易々と切り倒すほどの威力がある。しかしながら、反面その飛距離は最大でも10メトルと、他の冒険者からすればその射程範囲の短さに不満を抱くかもしれない。しかし、当の本人からはそうした不満気な表情は垣間見られなかった。
(あくまでこのナイフは近・中距離をカバーする装備だし、遠距離は銃があるからな)
セロは再びアイテムポーチに手を突っ込むと、中からホルスターに仕舞われた二丁のハンドガンを手にする。
「う~ん、やっぱり銃はいいよなぁ……なんというか、頼りがいのあるというか……」
ホルスターを腰に巻き、銃を左右の腰にくるようにして装着したセロは、おもむろに右腰に収められたハンドガンを手に取って状態を確認する。武骨で漆黒のそれは、セロが初めて製作したリボルバータイプの銃である。
陽の光を受けてキラリと輝くその二丁の銃を、セロは「カトラス」と「セイバー」と名付けた。この銃はあのスタイプスの森で発見した銃をベースに、彼が造り上げた渾身の一作だ。
カトラスもセイバーも同じ構造をしており、両者の違いは嵌められたグリップ部の精霊結晶と塗装くらいしかない。カトラスは黒色に銀色の線が走る銃で、セイバーは白色に金色の線が走っている。なお、カトラスには闇属性、セイバーには光属性の精霊結晶が嵌められていた。
対照的な属性を有する二丁の銃。その両者のいずれにも共通するのは、その構造的な特徴だ。通常のハンドガンとは異なり、両者の銃は下に伸びた幅広の銃身が特徴的だ。
これは奇襲を受けた際に攻撃を防げるよう、楯としても使えることを意識した結果だ。もちろん全ての攻撃を防ぐことは不可能だが、「武具を楯としても使える」ことはかなりのメリットがある。襲い来る致命的な一撃を防げれば、そのダメージを大幅に減らすことが望めるからである。
また銃にはセロの手により精霊構文が刻まれており、「強靭化」・「弾速上昇」・「不可視化」・「暗視」の術式が刻まれている。
特に不可視化は光属性の精霊結晶を用いた術式で、射出した弾丸を不可視化させることが可能だ。ただし、不可視化にはそれなりの精霊力が必要なばかりか、相手に銃口を向けて発射することから、魔物ならばいざ知らず、戦闘経験が豊富な人間相手には不意打ち程度にしか効果が期待できないだろう。
「さて、装備はこんなとこころかな。目的地も見えてきたことだし、いっちょやりますかね!」
セロは冒険者となってから初めて受けた依頼に心躍らせつつ、その歩くスピードを速めるのだった。
2020/07/20 誤字報告を受け、該当箇所を修正しました。




