第32話 魔法の歴史
みんなは一通り本部を見て周り、会議室のような場所でちょっとした座学が始まった。
「それでは、先程申し上げたように、魔法の歴史について少しだけお話させていただきます。」
アラスターは少し部屋を暗くし、前に画面を表示させる。
「まず始めに、本来魔力は地界由来の力で、神力が天界由来の力だというのはご存知ですよね。」
みんなはコクリとうなずく。
「この話をするにあたって大切なのは『基本的三位概念』を理解することです。」
「あぁ、現世と常世がそれぞれ司っているあれですよね。」
この言葉は、前に仮想宇宙に行った時に知ったのを覚えたいたので、ヴィジは相槌をとった。
「その通りです。少し難しい話になりますが、三位概念を理解するために、少し世界の歴史についてお話しましょう。」
そう言うと、アラスターは画面に資料を表示させる。
「まずは創世神話です。この世界は創世の時代に、原初の存在、すなわち創造主によって創造されました。
そして最初の人類を現世と常世に作り、それぞれに世界を管理するための権限と役割を与えた。この役割が基本的三位概念であり、この世の全ての根源となっています。
それから創造主は天越宇宙を雛形とし、全越宇宙を創造しました。
ここまでが創世神話の大まかな内容です。」
「その創造主っていうのは本当にいるんですか?」
「現時点ではいると考えるのが一般です。ですが、創造主は天界、地界、現世の狭間にいるため、我々には認識、干渉できません。しかし、各階層には『原初神体』と呼ばれる超越的な力を宿した物があり、それが創造主と繋がっていると言われています。」
アラスターは資料や立体映像を見せながら、淡々と説明を続ける。
「この基本的三位概念である『創造』『破壊』『観測』のうち、『破壊』を司っているのが地界です。魔力は地界由来の力であり、破壊の力です。現実を歪め、事象を改変することのできるプログラム。その権限を獲得したのが我々、地者です。
少し余談ですが、本来なら大君主のように、地界なら魔法、天界なら加護を扱うのが普通なのですが、いわゆる混血という形でその2つが混ざってしまったのですよ。それがウェントくんのように天者なのに魔法を扱える所以です。」
「あぁ、そういえば前にウェントが同じこと言ってたな。貴族とかしか持ってないんだっけ?」
レイは隣のウェントにそう話しかけた。ウェントはコクリとうなずく。
「貴族しか持って無いというより、魔法を使えるから権力を持ったって感じかな。」
「そうですね。逆に地界では加護使いの貴族が多いです。
そしてここからが本題ですが、魔法に様々な制約や条件がある理由。それは、簡単に言いますと拡張性があるが、扱いが難しいからです。
魔力は破壊の力。基底プログラムへの干渉力は神力よりも強く、様々な形に拡張できます。しかし、その分扱いが難しいため、本来は魔法陣や詠唱、魔法の杖といったもので発動に大切なイメージを補完します。」
5人は話を聞きながら、なるほどとメモをとる。
「能力に杖がデフォルトで組み込まれているのはこれが理由であり、魔法を極めると、詠唱を簡略、または省略し、魔法の杖を使わずに発動できるまでになります。
ちなみに技を発動する前に『~~魔法』と言っているのは詠唱の簡略です。
そして、拡張性があるという特徴を活かし、自身の魔力の形を強制的にねじ曲げる手段を書いた物が、『魔法書』なのです。」
アラスターは話を終えると一礼をした。
「いやぁ〜、ご丁寧にどうもありがとうございます。」
「質問が無いようでしたら、昼休憩でもしましょうか。」
5人も満足したように礼を言って、その場を後にした。
一方その頃、ミルとモートはお忍びで来たザイオンと一緒にお茶会をしていた。
この3人組は上級隊士の中でも有名な最強最悪のトリオだ。
「お前、暇なのか?」
ミルはザイオンに尋ねる。
「それに関しては吾輩も同意見だ。」
「いや、大君主って結構暇なもんでしょ。」
「貴様やミルほどでは無い。」
モートはそう言うとカップをカチャンと置く。それを見てミルは、
「それで、お前が興味を持ったのはヴィジの暴走形態か?」
と、話の本題を聞き始めた。
モートは一息ついて、ゆっくりと話し始める。
「そうだな。形態変化とも違う雰囲気...あの時のお前みたいだなと思って。一体どういうことなんだ?」
「どういうことかと言われてもねぇ、俺にもわからんよ。あの時の『完全殺戮形態』は、怒りを根源とした『完璧なる法典』の暴走だったからなぁ。それに追放以降、怒りなどの一部の感情は失われてしまったし、もうお手上げ状態だよ。」
ミルはズズッと紅茶をすすった。
「僕達にもわからない事があるなんてねぇ。いや、本気を出せばわかるんだろうけど、不思議だ。今度ラプラスにでも聞いてみたら?」
「そうだなぁ...」
「まぁ、それについては吾輩との特訓で探っていくさ。」
「程々にしろよ。」
なんだかんだ言いながら、3人は仲良くお茶会を続けた。
昼休憩が終わったプリムンズは、次に本部の近くにある教会へと案内された。
そこには、黒い壁に金色の装飾が輝いている、なんとも不気味で美しい建物がそびえ立っていた。
「ここは北炎教の教会であり、北炎教はこの地界第七階層の根源である原初の悪魔の一柱、『ルシファー』を崇拝する宗教です。」
「おぉ〜、前に行った日曜教の教会とは違う雰囲気だ。」
「地界にもこういう教会って存在するんですね。」
「えぇ、教会というものは我々天地者からすれば大切なものですよ。隊士の昇級の儀式や王族、貴族の禊など、様々な儀式や行為で使います。貴方達もそのうち、自身の神系象徴に応じて、各階層の教会に行くことでしょう。」
アラスターは優しい声で説明しながら、扉をギギィッと開けた。
教会の造りは基本的にどの階層も同じようで、中央に本堂、右が食堂、左が寮、後ろには聖域がある。
「それでは中へ。」
アラスターに案内され、5人は教会の中へと足を踏み入れた。
教会の中は静かで、黒と金を基調とした荘厳な装飾が広がっている。
中央の本堂には、巨大なステンドグラスが設置され、そこにルシファーの象徴と思われるものが描かれている。
「うわぁ...なんだか圧倒されるな。」
レイが小声で呟く。
「ここのステンドグラスは主に魔鉱石から作られているため、教会内は魔力が満ちてるんですよ。」
アラスターは解説をしながら本堂を抜け、右側の食堂へと向かう。
そこは意外にも温かい雰囲気で、大きなテーブルがいくつも並び、整然と配置された食器や木製の椅子からは生活感が漂っている。
「教会の食事って、やっぱり質素なんですか?」
ヴィジの質問に、アラスターはフフッと笑った。
「質素と言えば質素ですが、地界は意外にも食材の宝庫なので、実は意外と豪華ですよ。特に第六階層は、暴食の大罪を司っていますからそれはもうすごいです。」
「大罪...確かここは傲慢でしたっけ?天界みたいに大罪の教えでもあるんですか?」
「いえ、特にありません。大罪とは本来、人々を衰退させ破滅に導く概念として、各階層にその名が与えられたに過ぎません。逆に美徳は、人を成長させ人徳を創造する概念として信仰されてますね。」
「なるほど...ただ名前がつけられているだけで、悪い人達という訳では無いのか。」
アラスターの話を聞いて、レイは1人で納得した。
アラスターは案内を続けながら、次に左側の寮へ向かう。
寮も黒っぽい色で、落ち着いた雰囲気だった。廊下にはが燭台の炎が等間隔で並び、淡い金色の光を放っている。
「ここには主に司祭や見習いが寝泊まりしています。貴族の子弟が修行に来ることもあり、意外と賑やかですよ。」
ネリンは壁の装飾に触れながら、
「寮と言っても、なんだか高級ホテルみたいね...」
と、感心していた。
そして最後に奥の聖域へと足を運ぶ。
聖域は他の区画と違い、空気がひんやりとしていて、声を出すのもためらわれるほど神聖な空気が漂っていた。
中央には黒曜石で造られた祭壇が鎮座し、その上には御神体である小さな黒い魔石が置かれている。
「ここが教会の聖域。儀式などを行う、一般人では立ち入ることができない神聖な場所です。」
アラスターが静かに説明すると、フラクタは無意識に息を飲んだ。
「なんというか、見えない圧がありますね。」
「地界の聖域は、より強い魔力で満たされています。慣れていないと気圧されるのも当然ですよ。」
「僕はあまり感じないな。魔力を持ってるからかな?」
「そうですね。同じ魔力同士だと、そこまで圧を感じることはないでしょう。」
どうやら、ウェントは魔法使い故に圧を感じにくいらしい。
その後、しばらく聖域の空気を味わったあと、アラスターが振り返る。
「さて、地界の教会についてはこんなところです。時間があれば、他の階層の教会がどんな感じかお見せしましょう。」
「色んな教会があるんだな...見てみたいかも。」
レイの言葉に、他の4人も頷く。
こうして、プリムンズは北炎教の教会を一通り見て回り、地界の宗教や歴史の雰囲気を肌で感じることができたのだった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
アラスター:地界第七階層の主地者であり、モートの側近。とても真面目な性格をしている。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
モート:地界第7階層の大君主。『最恐』を冠する四天王の1人で、序列2位。
ザイオン:天界第七階層を統べる序列1位の『最強』の大君主。その実力とは裏腹に内気で超臆病な性格。




