第30話 規格外
ミルの勝利に喜んでるのも束の間、3試合目の合図と共に隊士達の悲鳴が聞こえてきた。
叫んでいるのは地界第一階層の隊士達だ。
「...アイツ、ミル以外は眼中に無いってか。」
どうやら、地界第六階層のジェストvs地界第一階層のアナストロの戦いは、一瞬にも満たないうちに決着がついたようだ。
「何も...見えませんでした...」
「だろうな。アイツ、初手で火力マシマシの初見殺しぶっぱなしやがった。アナストロの防御は間に合ってたのに...」
「あれが...『最凶』...」
勝ち上がったジェストは2回戦シードなので、次のルナvsミルの勝った方が決勝進出だ。
「み、ミル様!次の試合...『破壊』の大君主に勝てるんですか?」
レイはミルの次戦を心配して質問する。
それを聞いてミルは、
「うーん、お前らどう思う?」
と、ザイオンとロウに話を振った。
「え、まぁ厳しくはあると思うけど、勝てるんじゃね?」
「僕は勝つと思うよ。ミルの実力はこの僕ですらわからないんだから。」
「フン、だそうだ。」
ミルはレイ達5人の方を向いて微笑む。
そしてミルはみんなから応援され、フィールドに向かった。
「さぁ!続いては第2回戦、準決勝です!!対戦するのは、ルナ様vsミル様でーす!!」
試合準備が整い、両者が向かい合う。
「こうして2人向き合うのは御久方ぶりですね、ミル。」
「まぁ、そこまで久しぶりってわけでもないだろ。」
「フッフッフ。ここでは貴殿の力を試すと共に、磨呂の実力も試させて頂く故、『形態変化』の最終形態は使わないでおきます。どうか御容赦ください。」
「ハハッ、いいぜ。そのかわり、俺も『超宇宙』以下の技しか使わん。」
そして、2人が戦闘態勢に入ると同時に、開始のサイレンが響いた。
その瞬間、2人は空へと舞い上がった。
「それでは全力で参ります。」〈形態変化:第二形態『弦月』〉〈神ノ武器:月光杖〉
「さぁ来い!!」〈神ノ武器:超越無窮新星〉
ミルが左手を振ると、ビリビリッと手に長い刀が現れた。その刀は七色のオーラとグリッチやノイズを放ち、刃には宇宙空間の様な模様とコードの様な文字列が浮かび上がっている。
「「ミル様の神ノ武器!?」」
「すごい...初めてみた。」
ヴィジ達5人とダクラはそれを見て興奮している。
〈位相干渉、位相固定、位相移動、物質位相操作、『逆位相』:『月光浄化』〉
先制攻撃として、ルナが月光杖の錫をシャーンと鳴らすと、その錫から金色の光がミルに向けて放たれた。
しかし、ミルが刀を振るとたちまち光が消滅してしまった。
「次はこっちの番だ!」〈超宇宙:スターダスト〉
攻撃を防ぐと、今度はミルから攻撃を仕掛ける。ルナに向かって駆け出し、再び刀を振ると、まるで星の様な無数の斬撃がルナに襲いかかった。
そして、そのうちの一つがルナの左腕の直撃し、腕が切り飛んだ。
「くっ、一体どういう能力なんですか、その刀は。」
「クックック。知りたいか?この刀は可能性だ。『世界が想像する』無限の可能性...今の能力は刀を振るうだけで、俺が想像したとおりに切る事ができるというもの。妨害や防御に関係なく、俺が想像したとおりにだ。」
「はぁ、生半可な防御じゃ無駄だというわけですね。」
ルナは即座に腕を再生させると、戦闘を再開させる。
「ならば。」〈形態変化:第三形態『盈月』〉
「うわっ、満月フォームか。」
ルナは更に変身し、白金に輝く満月の後光に白金の着物を着た姿になった。
〈位相空間掌握、異位相概念操作、月位相支配:『破壊光』〉
〈超宇宙:スターダスト、スターライト:『銀河』〉
2人の戦いはより激化していく。
ルナの攻撃をミルが刀でいなし、ミルの攻撃をルナが能力で相殺する。
お互いの攻撃がぶつかり合うたびにフィールドが破壊されていき、もはや弱体化してもフィールド内で収まらない程の規模になってきた。
「いや~、見ごたえのある戦いだねぇ~。」
「俺達には何がなんだか、さっぱりです。」
「ルナがあそこまで本気になるのも珍しいね。攻撃も自爆しないように洗練されている。ミルが何してるかは僕にもわからん。」
ロウやザイオンまでも釘付けになるような凄まじい戦いだ。
「ジェストにあまり興味はありませんが、ここは勝たせて頂きますよ。」〈月位相操作:スーパームーン〉
「残念だがこっちは大ありなんだ。インペル程は因縁も無いが、アイツが俺と勝負したいのなら乗ってやる。」〈超宇宙:パルサー、マグネター:『キロノヴァ』〉
迫りくる巨大な黄金の月をミルは圧倒的な火力で迎え撃つ。
「ここにきて火力メインの物理攻撃とは、豪快な戦い方もできるんだな。」
「当然ですよ。破壊は圧倒的力なので。」
「ハッ!高貴な顔して脳筋みたいなこと言うなよ。だが乗った!!」
ミルがそう言うと、服の下に掛けていたネックレスを服の上に出した。そしてネックレスの先についている小さな光にミルの神ノ武器が取り込まれていき、七色に輝くとても美しい星のようになった。
ミル自身も七色のオーラを纏っている。
「☆か...少しだけ本気を見せてくれるんだな。」
「そうだ。ここからは楽しくいかせてもらうぜ。」
「いいだろう。」〈形態変化:第四形態『血染月食』〉
ルナも更にパワーアップし、赤黒く染まっていく。そして赤黒い禍々しいオーラを放つ恐ろしい姿へと変貌した。
「今度は一体何が起きてるんだ?」
戦いごとに増える情報量で5人は今にもパンクしそうだ。そんな5人にザイオンがゆっくり説明し始める。
「☆...モートと同じ常備タイプの神ノ武器。超越無窮新星の本来の姿って言ったらいいのかな。ちなみに常備タイプっていうのは、例えば普通は神ノ武器も能力だから、無い状態がデフォルトで取り出すために力を使うけど、このタイプは出た状態がデフォルトってイメージかな。ずっと服の下にしまってたよ。」
「へぇ~、知りませんでした。」
そんな話をしているうちに、激しい戦いが始まった。
〈月位相干渉、月位相支配:『赤月光』〉
〈超宇宙:クエーサー〉
フィールドの自動修復が追いつかないほどに破壊しまくる2人。
「ここだ!」〈超宇宙:インパクト〉
ついにミルがルナに一撃を入れ殴り飛ばすも、ルナはすぐに体制を立て直し反撃する。
2つの閃光がフィールド内を駆け巡り、オブジェクトを破壊していくその様に、みんなが釘付けだ。
「そろそろだな。」
「えぇ、そうですね。」
しかしタイムリミットが近づく中、2人は決着をつけるべく動き出す。
「この一撃で、貴殿をフィールド諸共消し去ります。」
「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ。」
そして、
〈全位相集約:『血染月』〉
と、ルナがワンテンポ早く技を放つ。出遅れたミルはそのまま攻撃を食らうはずだった。
しかし、攻撃が炸裂する前にノイズと共に消え去ってしまった。
「...強制終了...?」
「すまない、この技は危険だからできるだけ使いたくなかったんだけど、許せ。」
「...あぁ、あれか...はぁ、本当に貴方は規格外ですね。」
「フッ。」〈完璧なる法典:return 0;〉
そして、ミルが技を放つと、一瞬だけ世界が暗転し、フィールドがコードとなり崩壊していった。
まるで世界そのものが強制終了させられた様に。
フィールドが完全に崩壊すると、ミルとルナは闘技場に強制転移させられ、試合終了の合図が放送された。
「勝者はミル様でーす!!」
盛り上がる会場。
その傍ら、白い空虚の様になったフィールドを見て、インペルはギリィッと怒りをあらわにする。
ミルが席に戻ると、またしてもみんなが大喜びで出迎えた。
「ミル様感動しました!!」
「もう、ぼ、僕は興奮を押されられません!!」
「ネリン、ウェント、少し落ち着け。」
「いやぁ、ミル様のこと少しは見直しました。」
「おぉ!もっともっと尊敬してくれてもいいんだぞ、ダクラくん。」
「それは遠慮しておきます。」
みんなが和気あいあいとしていると、フィールドがぶっ壊れたために、大会はここで中止だと発表された。
「まぁ、だろうな。」
「いやぁ、ミルとジェストの戦い見たかったなぁ〜。ミルの負け顔拝めると思ったのに。」
「いーや、俺が勝つね。」
こうして、約3日間にわたる親善大会は幕を閉じた。
みんなはホテルに戻ってミル、ロウ、ザイオン軍のみんなでお疲れ様会を開くことにした。
ホテルへ向かってる途中、
「お前、気づいたか?」
「あぁ、変な視線というか気配というか、何か嫌な予感がしたね。」
「気のせいではなかったか...」
と、ミルとザイオンが不穏な話を始める。
「何の話だ?」
と、ロウが一言。ロウは何も知らないようだ。
「いや、こっちの話だ。パーティの経費はどの軍が払うのかとね。」
「げっ!オレしーらね。」
あたりもすっかり暗くなり、冷たい秋風がみんなの間を通り抜けていく。
みんなに不穏な影が近づいていることを、まだ知る由もないないのであった。
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〈主な登場人物〉
ルナ〈神ノ加護:位相〉:天界第五階層、通称『慈愛の階層』の大君主。大君主八仙の5柱目で、『破壊』を冠する存在。基本的に形態変化すると攻撃の規模が増加する。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。ルナとは仲が良いわけでも悪いわけでもないが、お互いのことを認め合っている。☆は力の源の様なもので、ミルの神ノ武器の真の姿(?)的なもの。詳しくはミル以外誰も知らない。




