第27話 一騎討ち
バトロワ決勝が終わり、結果発表が行われている。
どうやら優勝はインペル軍代表のようだ。そして、2位がラプラス軍代表、3位がミル軍代表、4位がジェスト軍代表だった。
「以上で今日の日程は終了でーす!!」
放送が入り、みんなは明日の一騎討ちに向けて早めにホテルへ戻る。
ホテルでは疲れていたのかみんなすぐに寝てしまった。
――翌日。再び闘技場に集まる選手達。
「トーナメント表が出てるぞ!」
ヴィジ達が席に座ると、祓魔師の端末にトーナメント表が掲載されていた。
試合時間は最高で10分までだそうだ。
「ヴィジは...おぉ!第3試合目だ。」
「ホントだ!ちょうど真ん中あたりね。」
「第3試合目かぁ...あのペイシェン家の氷使いと戦って見たかったけど、決勝まで当たらないな。」
フローズはシードで決勝まで当たらないようだ。
「なぁに、決勝まで進めばいいだけの話じゃないか。」
少し気弱になっていたヴィジにレイはポジティブに声をかける。
それを聞いてヴィジは、
「そうだね!」
と、明るく返事をした。
そしてヴィジは相手の特徴を知るためミルに質問を始める。
「まずこの1回戦目に当たる人ってどんな選手ですか?」
「あぁ、このアルマ軍の選手だね。この中では珍しい称号なしの選手だ。確か、能力は身体強化系の能力で、『能力物品』として剣を持ってるよ。
って、この間会いに行ったとき教えてくれた。」
「なるほどぉ。剣のアイテムは日曜教会で見ましたが、実物は初めてですね。」
「面白くなりそうだな。」
さて、そんなこんなで作戦立てをしていると、アナウンスが入り、一騎討ちの1回戦が始まった。
「1回戦、第1試合目はアナストロ軍代表『アリナ選手』vsソル軍代表『スライ選手』です!」
1回戦からの激しい戦いに会場は盛り上がっている。
「すごい迫力だなぁ...」
それを見たヴィジは少し怖気づいた。経験が段違いに少ない分、不安があるようだ。
そんなヴィジに、大丈夫よ、とネリンが声をかける。
ヴィジは深呼吸をして、自分の番を静かに待った。
――そしてついにヴィジの番が回ってくる。
「さぁ、続いての勝負は――第3試合、ミル軍代表『ヴィジ選手』vsアルマ軍代表『エレキ選手』です!!」
ヴィジは緊張で震える足を押さえながら、一歩ずつアリーナへ足を運ぶ。
僕が入場した後に、すぐ左隣の天界第一階層の入場口から、対戦相手のエレキが入場してくる。薄紫色の隊服を着ている。
拍手。ヤジ。応援。対面した二人にとってそれらは雑音にもならない無音に等しかった。開始の合図があるその時を、ただ静かに待っている。
「それでは第3試合目、Lady...Fight!!」
合図がかかると、エレキはものすごい速さでヴィジに迫る。
(速いッ!?)
「くっ...」〈霊力盾〉
ドドーンという音が会場に響き渡る。エレキのキックはすんでのところでヴィジ阻まれた。
(最初に防御に徹して正解だった。)
能力の詳細が分からない相手は、最初は様子見してから分析でき次第、反撃にでる。というのがヴィジの作戦だった。
最初の一撃が防がれたエレキは、
〈能力物品:雷電剣〉
と、アイテムを出す。バチバチバチッと電気を発しながら現れる剣を見てヴィジも、
〈霊力剣〉
と、武器を出した。
「次は決める!!」
そう言ってエレキは再び攻撃仕掛ける。
大気を切り裂く稲妻の様な一撃がヴィジの剣と交わり、轟音をまき散らす。
「おっとーー!!これは激しい闘いだぁ!!」
激しくぶつかり合う2人。しかし、パワータイプのヴィジにとってスピードタイプのエレキは相性が悪く、防戦一方になってしまっている。
「まずいな...相手を点で捉えられない。僕の火力攻撃も当たらなければ意味が無いし。」
(身体強化系の能力は本来拡張性の無い外れ能力だ。上昇した身体能力ですら上級隊士に及ばないし。でも、こいつの能力は神力を電気に変換し纏うことで身体能力を上げている。故にただの打撃でもすごい威力だ。)
ヴィジは戦いながら相手の能力を分析する。
〈雷電一閃〉
「ぐぅ!」
「そこだ!!」〈雷電十字切り〉
「うわぁーー!!」
エレキの激しい攻撃に、ヴィジはついにダメージを受けてしまう。ヴィジの広範囲攻撃は溜めがいるため、放つことができず八方塞がりだ。
(考えろ。やつを捉えるほうほう...あっ、そうか!)
ここに来てヴィジはあることを思いつく。
相手は休むことなく攻撃を仕掛けてくる。そして、
〈雷電突〉
と、突き技を放ってきたその瞬間、ヴィジはシールドを消した。相手の剣がヴィジのお腹を貫通する。
会場がザワつく。レイ達も驚いて声が出なかった。
ヴィジのお腹からはボタボタと、青緑色でコードの様な文字列が書かれた神液が落ちる。
「やっと捕まえた。」〈霊縛〉
ヴィジはそう言うと、エレキの体を縛り付ける。
「しまった!!力が入らない!?」
困惑するエレキ。そして、
「これで...終わりだー!」〈霊力破壊〉
と、一撃をくらわせた。エレキは吹っ飛んでいき、そのまま倒れて動かなくなってしまった。
「終了ーー!!勝者はミル軍代表『ヴィジ選手』です!!」
ワーっと会場から歓声が上がる。
ヴィジはすぐに医務室へ運ばれた。
「よく勝ったが、お前だいぶムチャするようになったなぁ。」
医務室で治療を終え、ベッドで寝ているとミルとレイ達が入ってきた。
「その程度の傷ならすぐ治るとは言え、少しズレてたら核を破壊されてたかも知れないぞ。この大会では万が一死んだとしても蘇生できるようバックアップされてるけど、実戦ではするなよ。」
「わ、わかりました。」
「いやぁ、見ててハラハラしたぞ!ヴィジ。」
「ヴィジくんって意外と強いのね。精神的に。」
みんなはヴィジの行動に驚きつつも勝利を祝ってくれた。
「2回戦も頑張れよ!」
「はい!」
そしてヴィジは、2回戦、準決勝と勝ち進み、ついに決勝まで上り詰めた。
「さぁ皆さん、お待たせしましたぁ!!ついに今大会の大目玉、一騎討ちトーナメント決勝です!!
対戦カードは、ミル軍代表『ヴィジ選手』vsインペル軍代表『フローズ選手』です!!」
決勝の相手は狙い通り優勝候補のフローズだ。
「ついに、ここまで来たんだ。」
ヴィジは深く深呼吸をして戦場へ向かう。
アリーナ中央まで来るとお互いに向きあった。深紅色の隊服に『大』の紋章が光っており、手には氷でできているかの様な魔法の杖を持っている。
フローズの目は狂気のごとく煮えたぎっており、その視線と対になるような冷ややかなオーラを放っている。
(能力を使ってないのに、漏れ出る魔力だけで鳥肌が立ちそうだ。)
ヴィジはゴクリと息を飲んだ。そして、
「それでは、決勝戦!Lady...Fight!!」
と、試合が始まった。
ヴィジはさっそくシールドを張って身を守る。
しかし、
「ハッ、甘いわ!!」〈極寒〉
と、フローズが技を放つとあたりの温度が急激に下がった。
冷たい空気はシールドを貫通し、ヴィジはとてつもない寒さに襲われた。ヴィジがオーラを纏い、体温調節をしていると、
「そんなものに気を使ってる暇があるのか?」〈氷ノ雨〉
と、すぐさま攻撃をして来る。
「うわっ!体が思うように動かない!」
ヴィジは攻撃を避けるも、圧倒的な規模差に為す術がない。
「氷魔法。」〈冷酷な吹雪〉
「くうっ...」〈霊魂滅波〉
何とかくらいつくも分厚い氷に阻まれ、フローズまで攻撃が届かない。
(圧倒的な魔力量に能力の規模。物理的にレベルが違いすぎる。)
ヴィジは冷静に分析しながら勝機をうかがっている。
「ハッハッハ、てめぇと俺とでは格が違ぇんだザコが。たまたまジェスト軍代表に勝ったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「調子になんて乗ってないよ。」
「ハハッ、まぁここまで勝ち上がって来たんだ。実力は本物ってことだな。さすがバケモノだぜ。」
しかし、フローズはその場から動かず、余裕の煽りをして来る。ヴィジは攻撃を交わすのに必死だ。
「僕はバケモノなんかじゃない!」
(くそっ、アイツのペースに飲まれてはダメだ、昨日のバトロワを引きずってるのか?)
「へぇ〜そうなのか?ウイルスに感染してバグ化した『元天人』のお仲間と過ごしてたくせに?」
「...今なんて...」
その時、フローズの発言にヴィジは動きを止める。その隙を突き、ヴィジを氷の触手で殴り飛ばす。
「ぐわぁ!」
そして、ヴィジの体を凍らせ拘束した。
「さっきの話、どういうことだ...」
「どうもこうもねぇよ!俺の友達の親が見たっていう廃墟で暮らしてた人に近いバケモノ...
お前のことだろ。1人逃がして追いかけたけど途中で消えたって言ってたぜ。どうやって第三階層から零階層まで移動したのか知らんが、ようやくまぁここで仕留めれるな。残念なことにこの大会では死ねないけど、一瞬だけお仲間の所へ行ってこい!!」
フローズはそういうと、巨大な氷柱でヴィジの体を貫いた。
会場のみんなは唖然としている。
「ハハッ、どうだ!これが――。」
フローズが勝利を確信したその瞬間、ヴィジから黒いオーラが溢れ出し、会場が今まで味わったことの無い恐怖に襲われた。
「な、なんだよ...これ...」
フローズも恐怖に押され、後ずさりする。
「ヨくも...ナカまヲ...」〈完全殺戮形態〉
ドス黒いオーラが、ボンッ!っと、爆発するように広がり、ノイズを発し、グリッチを発生させる。
ヴィジは宙に浮き上がり、身体の周りにコードの様な文字列が浮かび上がった。
そして背中には赤黒く、そして青白いデジタル的な6枚の巨大な翼が生え、禍々しく神々しい不気味な姿へと変貌した。
頭上には巨大な目玉が浮かび上がる。
「きゃぁーー!!」
「な、なんだあれは!?」
会場は大混乱。レイ達やダクラも目を見開いている。
「これは...『形態変化』...?」
ミルもその姿に釘付けだ。
「ば、バケモノ...」
「6cmMa75eTj/。」
ヴィジはもはや声ではない電子音を発しながら攻撃する。
頭上の目から放たれた一撃がフローズの腕を吹き飛ばす。
「ぐぁ!!」
「0҈҉̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̳̿̿̿̿̿̿̿」
「や、やめ――。」
それでもヴィジの攻撃は止まらず、6枚の翼から黒い稲妻のようなものを放ち、一瞬にしてフローズは消し飛んでしまった。
そして、すぐその場にリスポーンした。意識はなく倒れている。
「し、終了ーー!優勝はミル軍代表『ヴィジ選手』でーす!!」
会場は一瞬静まり返るも、徐々に賞賛の拍手が大きくなっていった。
ヴィジは元に戻ると、力尽き、そのまま倒れてしまった。
大会最後の種目も終わり、ヴィジはそのままホテルへ運ばれる。
そして祓魔師総合親善大会は、最後にとても奇妙な形で幕を閉じることとなったのであった――。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
フローズ〈神ノ加護:氷魔法〉:天界第三階層の大貴族の息子。傲慢な性格で、ミルやヴィジを極度に嫌っている。大天者だが、並の権天者以上の力を持っている。




