第22話 『最狂』の大君主
反神者とのいざこざから約3週間。
10月11日。今日から待ちに待った祓魔師総合親善大会の準備のため、今年の会場である天界第三階層へと向かった。
「ここが第三階層...」
「なんというか...」
「めっちゃ豪華で、ファンタジーな世界観だ。」
第三階層の中心国、『インペル大帝国』は貴族などが多数集まり、とても煌びやかな街を演出している。
会場には出場選手と軍の代表、観戦チケットが当たった祓魔師関係者のみが入場できるため、下級組5人とミルとダクラの7人でやってきた。
「あ~、ここに来ると嫌なことを思い出す。」
ミルはそう小さく愚痴を漏らしながら、みんなを連れて宿泊するホテルへ向かう。
「ホテルについたら、まずは荷物を降ろして観光にでも行くか。」
「おぉ!いいですね!!」
「やったーー!!」
ダクラの言葉にみんなは歓喜する。
「ここが泊まるホテルだな。」
「「おぉ〜〜!!」」
しばらく歩くと、とてつもなく巨大な宮殿のようなホテルが現れた。
眩い金の壁面に、宝石の様に装飾が光輝いている。5人は言葉を失い、ただその壮麗さに息を呑む。
「このホテルは祓魔師専用で、その中でも上位階級の者しか泊まれない超絶高級宿だぞ。」
「すっげー。」
「ほんとに綺麗だなぁ。」
みんなはさっそく中に入る。
中に入ると、そこにはとても豪華なロビーが広がっていた。前に行ったスペーシア宮殿に劣らない程だ。上を見上げると大きなシャンデリアがキラキラと輝いている。
「ひろーい!!」
「こんなとこ初めて来たよ。」
「おーい、ここには俺たち以外にもう一組止まってるから迷惑かけるなよ。」
ミルが受け付けをしている間、ダクラはお守りをしている。
「よーし、受け付け終わったから部屋にいくぞ!」
「「はい!」」
受け付けを済ませ、みんなはそれぞれの部屋に向かった。
「じゃあここが男子、その隣が女子な。俺達の部屋は、お前達の部屋の前だから、準備が出来たら来いよ。」
部屋の前に着くと、みんなはそれぞれの部屋の扉を開ける。
「うわぁ〜!」
「ひろ〜!」
「すっごい高級感あるね!!」
男子部屋はとても広くてベッドが3つ並んでいる。でっかい風呂にダイニング、ソファーの置いてあるリビングまであり、ものすごく快適な空間が広がっていた。
「うりゃぁ!!」
部屋に入ると、さっそくレイがボフッとベッドにダイブする。ヴィジとウェントもそれに続き飛び込んだ。
「すっげぇふっかふかだぁ。」
「まさに天の雲の様な心地良さ...」
「ぷはぁ。よしっ、ヴィジ、レイ。さっさと荷物整理して、ミル様の部屋に行くよ。」
「よっしゃ!普段来れない第三階層の観光だ!」
3人はすぐに準備を整えミルとダクラの部屋に入る。
部屋には既にフラクタとネリンが待っていた。ダクラはどこかに行っているようだ。
そしてみんなが集まると、ミルはさっそく予定を話し始めた。
「よし、みんな集まったな。じゃあまず予定の確認から。
今日は言ってた通り基本的に自由。明日は会場の下見と準備。作戦や実戦の最終確認で、明後日、10月13日からがいよいよ親善大会当日だ。
ここまではいいか?」
「「はい!!」」
「で、今日の日程なんだけど、このホテルに宿泊しているもう一組の大君主も連れて行く。いいよな。」
「えぇ、もちろん。」
「全然大丈夫ですよ!」
「もちろんです。ところで、その大君主って誰ですか?ザイオン様?」
ヴィジの質問にミルはそっと口を開く。
「あぁ、それはな――ロウだ。」
「ろう?...え...ま、ま、まさか...」
それを聞いたヴィジ以外の4人はだんだん顔が青くなって言った。
「も、もしかしてあの『最狂』ですか!?」
流石のヴィジも驚いている様子だ。
「まだ...あったことは、あ、ありませんけど、最狂だなんて...」
「ぜ、絶対やばいでしょ!あの...あのザイオン軍の上級隊士も餌食になったって言ってた...」
ウェントとレイは恐怖で声が震えている。
「あー、なんかお腹が...」
「フラクタ、お前いつも腹痛くなってんな...それじゃあ行くぞー。ダクラも先に行って待ってるし。」
「待ってください、まだ心の準備が...」
「なんだネリンらしくないぞ。ほらテレポート。」
嫌がる5人を強制的にテレポートでロビーまで飛ばす。
ロビーには、今日の日程と大会当日の予定の確認をしているダクラと、その正面に赤色のマントを着た金髪の男が座っている。
「よう。待たせたな。」
ミルがそう声をかけると、男は立ってこっちを見た。180cm以上あるミルよりもでかく、威圧感がある。目は水色に輝き、その奥に圧倒的な闘志を感じた。
年齢はダクラと同じくらいに見える。
「おぉ!やっと来たか!」
男はニコッと笑うとこっちへ歩いてきた。その一瞬、周囲の空気が凍りつく。圧倒的な何かが、彼の奥に潜んでいるのを、誰もが本能で感じ取った。
「あ、あれがロウ様ですか?」
「恐ろしいですけど...思っていたよりも優しそうなお兄さんだなぁ...」
少しビビったものの、その姿を見て5人は少しホッとする。
「お前達がうわさの下級隊士とミルもどきか。オレはロウだ。よろしくな!」
「「よろしくお願いします!」」
「最『狂』なんて言われてっから恐れられてるみてぇだけど、別にヒャッハー!してないからな。」
「まぁ、狂っていることは確かだな。」
「お、お前にだけは言われたくねぇ!」
――それから準備が整うと、8人で下見兼観光に出かけた。
「ここが会場になる『木曜闘技場』だ。」
まずはじめに下見として会場に来た。とても大きな闘技場で、神聖な雰囲気が漂っている。
「おっきな闘技場だなぁ...」
「他の階層の人達もいるわね。」
「なんだかドキドキしてきたわ。」
周りには様々な色の隊服がひしめき合っている。
「あっちの翠緑色の隊服は天界第五階層のやつらで、こっちの紫黒色の隊服が地界第二階層やつら...って感じか。」
「あんまり気にしてなかったですけど、地界の祓魔師見るの初めてですね。」
「そうだね。地界とか行ったことないし...」
ミルとロウの案内で会場を一通り回り終えると、次はいよいよ観光だ。
ミルはいつものように少女形態になり、ロウはザイオンの様にサングラスで変装している。
「それじゃあ、しゆっぱーつ!」
そして、みんなは自然の溢れる場所や、神秘的な泉の真ん中で空に浮く神殿、その他色々な文化に触れて回った――。
「あれ?これ何ですか?」
街歩きでしばらく歩いていると、終わりの見えない壁のように大きな柵が見えてきた。柵の向こう側は荒廃し、瓦礫の山となった都市がどこまでも広がっている。
「でっかい柵だなぁ...」
「中にかつて大都市が広がっているようですね。遺跡でしょうか?」
「そうとう昔からあるようだけど、復興とかしなかったのかな?」
「一体何なんですか?」
みんなが興味津々に質問をすると、
「あぁ...これはな...」
と、ミルはゆっくりと話始めた。どこか昔を懐かしむ様な雰囲気だ。
「......神話の時代末期に...イカれたバケモノが暴れたのさ。そのせいで当時の人口の約3割...領地の約2割が壊滅し、今もその神力とグリッチやウイルスといったバグの影響で人が住めなくなっている。『第二のシステムの墓場』なんて呼ばれてたっけ...
――この向こう側...一番被害の大きい場所は素粒子どころか、プログラムコードのかけらも残ってない空間、『白い空虚』が広がっている...全ての厄災が始まった場所だ。」
「そんなことが...でもそんなこと歴史で習わなかったですよ。」
「隠蔽されてるのさ。この階層のやつらですら大君主と主以外は知らない...」
そう言うとミルはどこかぎこちない笑みを浮かべる。すると、
「ミル...ハハッ。あの時は大変だったな~。」
と、ロウがミルにそう笑いかけた。ミルもそれを見て、
「そうだね。」
と、純粋な笑顔を取り戻す。
「もうそろそろ暗くなるし、帰るとするか!」
ロウがそう言うと、みんなはホテルへと帰還した。
――その日の夜。みんなが寝静まった後に、ミルとロウはお忍びで闘技場に行き、観客席に座っていた。
誰もいない静寂の中、冷たい風の音だけが響き渡る。
「...今回の大君主親善大会はお前も出るんだろ。対戦相手は決まったのか?」
ロウがそっと口を開く。
「いや、まだ公開されていない。当日にランダムで決められるらしいからな...だが、主催者はアイツだ。」
「そうか...過去の因縁対決ってわけね。面白くなりそうじゃねぇか。」
「そうだな、なんせ今回の大君主親善大会は...
...俺を殺すための大会なんだから――。」
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
ロウ:天界第六階層を統べる『最狂』の大君主。だがその称号とは裏腹に結構優しく気さくな性格。ミルと気が合うところがある。




