5.護衛任務中の悪役令嬢、商人を添えて
こうして、次に受けた依頼は「護衛依頼」だった。
内容は、地方の商人の馬車を街から隣町まで護衛するという、割と初心者向けのもの。これも異世界系作品でよく見るやつだ。
「よし、これなら戦闘は最小限で済むはず。絶対に暴走しないでよね!」
「まあまあ、わたくしをなんだと思っておりますの? お淑やかなレディですわよ?」
「……信じられない。昨日のクレーター作った口が言うな」
「まあ、失礼な! やろうと思えば調整などいくらでもできますのよ」
「じゃあやってよ! 昨日やってよ!」
「昨日はその、そう、咄嗟のことで手元が狂ってしまっただけですのよ?」
すべての元凶は襲いかかってきた狼にある。悪いのは狼。狼のせいだ。
「普通は手元が狂ってもああならないんだよ」
リナの嘆きが聞こえた。
◆◇◆◇◆◇
護衛対象の商人は、小太りで気のいい中年男性だった。
「嬢ちゃんたちが護衛かい? いやぁ、華があっていいねぇ」
「ご安心くださいまし。狼の群れなど一瞬で殲滅できますわ!」
「なっはっはっはっ! 頼りになるな」
「……あたしはなにも出ないことを望みます。それはもう強く、とても強く」
リナはどこか遠い目をしながら、あははと笑っていた。
「リナ、どうしましたの? ビビってますの?」
「ビビってないし! 誰のせいで胃が痛いと思ってんの?」
「誰のせい……かしら?」
「あんたのせいよ!?」
ぺろっと舌を出した。
馬車は順調に進んでいった。
……が、森の中に差し掛かったとき、数匹の狼が飛び出してきた。
「出たわね……! ここはあたしが! あたしがやるから! あんたは絶対になんもしないで」
「戦力外通告ですの!? わたくしだってやれますわ!」
馬車から飛び降りて、狼と対峙する。よだれを垂らす狼は、私のことを餌としか思っていないようで目が合うなり、駆け出してきた。
「きゃーーっ! 来ないでくださいましっ! わたくしのことを食べたって美味しくありませんわっ!」
私が反射的に手を振った瞬間――
――ドゴォォォォン!
森の一部が更地になった。
狼どころか、道の両脇の木々までまとめて吹き飛んでいる。焼け野原になっちゃった。てへぺろ。
◆◇◆◇◆◇
「……」
「…………」
沈黙する商人とリナ。
私、またなにかやっちゃいました? じゃないんだよなあ。
ドン引きされている。
えーっと、えーっと。
「あはは……ご安心くださいまし。敵は全滅いたしましたわ。もう狼はおりません」
「安心できるかぁぁぁぁぁ!」
と、リナのツッコミが響いた。
商人は青ざめながら、震える声で言う。
「……あんたら、ほんとに護衛か? 盗賊より恐ろしいんだが」
「す、少しだけ。すこーしだけ、魔法の威力が強いだけなんです。この子。決して、バケモノとかじゃないんで。ほんと、本当に……あはは、あはははは」
リナの笑みはびっくりするほど引き攣っていた。
その後、無事に(?)護衛依頼は完遂した。
だが、商人が最後に漏らした言葉は忘れられない。
「報酬は払うよ……。だが、二度と頼まないからな……! あんなのもうごめんだよ」
リナが頭を抱える。
「あーーーー、これでもうあの人たちの依頼を受けられなくなっちゃった!」
「まぁまぁ、失敗は成功の母と申しますし!」
「いや成功してないから!」
◆◇◆◇◆◇
こうして、私たちの護衛依頼は幕を閉じた。
新たな街の宿の部屋でのんびり過ごしていると、リナはふと口を開く。
「あたし、あんたのことなんも知らないんだけど。名前も、なんでそんなにバケモノじみた力を持っているのかも。少しくらい教えなさいよ。これでも仲間なのだから」
そういえばそうだった。
リナにはなにも話していなかったな。




