4.初依頼中の悪役令嬢、リナを添えて
「で、今日受ける依頼は……っと」
リナが掲示板から紙を剥がしてきた。
というのも、パーティーを組んだということで、今日は初依頼を受けることにしたのだ。
乙女ゲームのストーリーについては詳しいが、外の世界については全くもって無知。
私はなにも知らない。この世界の常識なんかは特に。
なので、その辺はリナを頼りきることにした。
「街道沿いに狼が出てるらしいわ。群れで現れて旅人を襲うんだって」
「まあ、狼ですの? 恐ろしいですわ……わたくし食べられてしまうかもしれませんわね」
「……よくもまあいけしゃあしゃあと。あんな火力を出しておいて今更乙女ぶったって遅いんだけど」
リナは深いため息をついて、依頼票を受付に提出した。
乙女ぶっているだなんて失礼な。私は正真正銘乙女だ!
◆◇◆◇◆◇
街道を抜け、森へ。
「狼は集団で動くからね。まずは位置を確認して、奇襲されないように……わかった?」
「ええ、わかりましたわ! 狼は集団で動くので、位置を確認して、奇襲されないように気をつければよろしいのですね」
「その通りなんだけど……! なんで復唱したの!? 余計な声を出したら狼に見つかっちゃ――」
その瞬間、ガサガサッと茂みから灰色の狼たちが飛び出してきた。
「きゃあっ!」
「ほら、言わんこっちゃない。あんた、落ち着きなさい! まだ数は五匹、やれる!」
リナは素早く剣を抜き、前へ出る。
動きは軽やかで、駆け出しにしては十分な腕前だ。
……のだが。
狼のうち一匹が私へ目掛けて走ってきた。
「きゃーーっ! ちょ、ほんとっ、来ないでくださいましっ!」
私が反射的に手を振った瞬間――
――ドガァァァァン!
地面が盛大に吹き飛び、狼どころか近くの木々まで消滅していた。
「……」
「…………」
沈黙するリナと私。
そして小鳥の鳴き声だけが虚しく響く。
「……あ、あの。リナさん? 結果的に狼は全滅しましたわね」
「全滅どころか地形ごと消滅してるじゃない! なにこれ!? 討伐依頼っていうか環境破壊よ!」
「ですけれど、依頼は達成ですわ! めでたいですわね。初達成ですわよ」
「……達成はしてるけど、ギルドの評価は絶対ガタ落ちするから!」
「やっぱりそうなりますわね」
この目の前の惨状を見ると、苦笑することしかできない。黒焦げになった依頼達成の証明となる魔石を回収する。
「魔石が黒焦げになるなんて聞いたことないんだけど。全く、威力が馬鹿げてる。バケモン?」
「失敬な! 乙女にバケモノだなんて」
「この威力を出すのは正真正銘バケモノだよ」
◆◇◆◇◆◇
依頼を終え、街に戻った。
報告を済ませると、受付嬢は妙に引きつった笑顔で言った。
「えっと……黒焦げ……。ちょっと待ってくださいね。鑑定させてください」
黒焦げの魔石を鑑定台の上に乗せた。
「鑑定完了しました。たしかに狼の魔石です。黒焦げですけど。と、とにかく依頼は一応達成ですね……はい……報酬はこちらに……」
こうして私たちの初依頼は、無事? 終了した。
「よし、次はゴブリン討伐依頼とかやりませんこと? 冒険者っぽくてワクワクしますわ!」
「やめて! もうあんた戦わないでよぉぉぉぉっ!」
リナは近くにあった『護衛依頼』の紙を取って、受付嬢に押し付けた。




