2.国外追放になった悪役令嬢、冒険者ギルドを添えて
国外追放された私は、馬車で国境を越え、ひとまず最寄りの街へと辿り着いた。
名をルーファン。小さな交易都市で、冒険者の拠点としてそこそこ賑わっている。
「さて……追放されました。貴族の地位も財産も全部なくしました。つまり、死ねってことですわね? そういうことですわね? 転生してすぐに死ねということですわね?」
ご令嬢言葉が身についてきた、なんて言っている場合ではない。正直、泣きたい。
けれど、泣いたところで腹は膨れない。生きるには金がいる。
選択肢はひとつしかない。
「ここは異世界。冒険者になって、一攫千金を目指しますわ……! 悪役令嬢? 乙女ゲーム? そんなの知りませんわ。わたくしにはわたくしの人生がありますの。もう悪役令嬢なんて引退して、自由に生きてやりますわ!」
私の足は自然と、石造りの冒険者ギルドの扉を押し開けていた。
「たのもーーーー! ですわ!」
◆◇◆◇◆◇
「よう見ねえ顔だな、新人か? ……って、すげぇ美人じゃねえーか」
「お、お嬢様育ちっぽいのに大丈夫なのか?」
「服装もお嬢様そのものだな。冒険者じゃねえーな」
ざわつく冒険者たちを横目に、私は受付嬢の前に立つ。
「冒険者登録をお願い致しますわ」
「かしこまりました。それでは簡単な体力測定と、魔力適性の確認を――」
手渡された魔力測定用の水晶玉に触れると。
――ピシィィィッ!
ガラスが砕け散った。
ギルド全体が静まり返る。
「……え?」
「おいおい、な、なんだ今の……!?」
「し、信じられん……あの水晶は上級魔導士でも割れないはずだぞ!」
私自身もぽかんとした。
どうやら、この体にはとんでもない魔力量が備わっているらしい。
◆◇◆◇◆◇
試しに簡単な依頼――街の外でスライム退治をやってみることにした。
「いざ尋常に、スライム退治ですわ〜! こういうのは実践あるのみですわよね」
木の棒を構えた瞬間、スライムが飛びかかってくる。
「スライムと言えど怖いものは怖いですわね。って、ひいっ……! こっち来ないでくださいまし!」
反射的に手を振った。
――ボンッ!
それだけで、スライムが跡形もなく消し飛んでいた。
「……え、えぇぇぇぇ!?」
スライムどころか、近くの岩も吹き飛んでクレーターになっている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!?」
目を擦って、目の前の惨状を受け入れる。
「これ、どういうことですの!? わたくしがこれをやりましたの? って、わたくししかおりませんものね。もしかしなくても、わたくし、めっちゃ強くないありませんの!?」
そう、私は気付いてしまった。
この体には、どんな敵でも一撃で粉砕できるチート能力が宿っていることを。
◆◇◆◇◆◇
「破滅したけど……もう構いませんわ! これからは無双冒険者として生きていきますわ! これなら一攫千金も本当に夢ではありませんわね……!」
こうして、悪役令嬢シャーラル・スカーレットの第二の人生が始まった。




