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死者王とゾン  作者: たぷから
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9-1 それぞれのその後

 トゥールーズがコンダクターでなければ、

 「己だけ帰れるとあって、心なしか声にも張りがあるではないか」

 と、リリの厭味がミイラの主人にも飛んでいたところだ。


 「いいよ。本部へ報告しておく。シベリュースも修復しないとね」

 確かにそうだ、と、リリが心中で舌を出す。

 「ありがとうございます」


 まだ剣を抱いているシベリュースを立たせ、トゥールーズはアジトへ戻った。


 「……マーラルう~、私は、その~」

 愛想笑いと揉み手でアルトナが訪ねるも、


 「ドミナンテの偵察を続けてもらう必要があるから、アルトナはもう少しここにいてよ」


 「ですよね~」


 明らかに落胆してソファへ沈むアルトナを、冷やかな眼でリリとピーパが見つめる。まったく、どいつもこいつも、マーラルの役に立たぬ……。


 「しかし、主殿、ニヴフンは壊滅状態にござる。シュテッタやゾンは、どこぞへ移動するかもしれませぬ。また、目標捕獲失敗のゴタゴタで有耶無耶になってしまいましたが、リリ殿の感じた次元干渉も気になり申す」


 ピーパの言に、マーラルもうなずく。ゾンと自分たち以外のアンデッド兵器がいた可能性がある。


 それも、かなり特殊で強力な。


 「ま、そっちのほうは、本部への報告に止めよう。二方面作戦なんかする余裕は無いし、命令もされていない。シュテッタとゾンの消息を失うわけにはゆかないから、偵察を続けよう」


 リリ、ピーパ、ドミナンテの三体のアンデッドがうなずいたが、アルトナは消沈しすぎて気絶したようにソファで惚けている。


 舌打ちを我慢しつつ、リリ、

 「マスター、我も行きまする。次元の浅瀬から、偵察を」

 「分かった。気をつけて。まだ、次元が不安定な場所があるだろうから」


 リリと、白骨姿のドミナンテが次元反転で、消える。

 「あたしも、いったん自分ちにもどるわ~」


 八の字眉をさらに下げ、アルトナがあからさまにため息をつきつき、マーラルの部屋を出て行った。


 ピーパと二人きりとなったマーラル、とりわけ大きなため息を吐いて、めまい・・・を起こしたように額へ手を当てながらドッとソファへ座りこむや、背もたれへ寄りかかって天井を仰いだ。


 「主殿、いま、おいしいお茶を淹れまする」


 いつも殺意の塊を浮かべて敵を睨みつける鋭い刃物のような右目を優しげに弛ませて、ピーパがキッチンへ向かった。


 「うん、おねがい」


 マーラルが無機質に答える。生体ブーストの使用もあり、疲れきっているうえに年上の部下どもがあんな調子だ。いくら若くしてミュージアムでも一、二を争うマエストラル・コンダクターであるマーラルとて、今回の作戦は心身ともに疲れた。正直、数か月は休暇をとりたい。


 だが、まだ作戦は終わっていない。

 ピーパの淹れる鉄観音茶の素晴らしい香りが漂ってきて、マーラルを癒した。



 「えー~、避難所に入れないって、どういうことよお!?」


 空間タブレットへ届いた都市政府のメールに、ポルカが不満をぶちまける。一行は、完全に崩れたミュートのビルから、比較的ダメージの少ないシュテッタのアパートに来ていた。


 もっとも、ハンガーのゲートはまたゾンがぶち壊しているうえ、周囲の建物も軒並み崩れ、傾いていた。この住宅だけ、無事だった。


 アユカは、ロンドやゾンと共にミュートのビル跡を片づけている。なんとかアンデッド再生器だけでも回収したかった。非常に高価な機器なのだ。


 (まあ、南極からの支給品だけどね)


 そう思いつつ、いきなり空間タブレットがつながらなくなって、ベリーは苛立った。ニヴフン区の中間サーバーに障害が起きているのだ。地上は空間光子コンピューターだが、地下は未だ量子ハードコンピューターが使われている。


 「アンデッド付じゃあ無理ってこと?」

 シュテッタの問いに、ベリー、

 「そういうこと」

 肩をすくめる。


 つまり、都市政府が直接管理するようになって、上階の規則が適用されるのだ。


 「ベリーとシュテッタちゃんだけ、避難所行くう? 水道が止まってたら不便じゃない?」


 この時代は、小さいものは超小型ランタンから大きいものは産業用大型発電施設まで、全て発電素子により個別に機器そのものが発電するので、停電という現象や概念がほぼ無い。だが、水だけは相変わらず水道だ。水道管も破壊されたし、地下区画のどこかにある上水施設もダメージを受けていた。したがって、水道が止まっている。


 「どうする?」

 ベリーがシュテッタへ訪ねた。


 「いや、いい。避難所行っても水止まったままだし、トイレも非常用でしょ? この建物は、まだ下水が生きてるみたいだし。水は、給水車も来るだろうし、どっかに避難用の携帯水合成機があったような……」


 水合成機とは、発電素子による無尽蔵の電気を使って、文字通り空気から水を合成する装置だ。が、小型なのであまり効率的ではないうえに、できるのが純水なため、飲んでもおいしくない。本来は、純水を大量に必要とする工業用の装置だった。


 「いっそのこと、引っ越す?」

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