表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者王とゾン  作者: たぷから
65/68

8-12 帰るぞ

 そう。


 アユカは、次元複写法によるゲントーの数ある平行体パラレル・ボディの一つであった。

 


 カノンがシュテッタを発見するのは、容易だった。


 突如として始まった激しいアンデッド戦闘めがけて、走りに走った。そこから霊光と霊波が迸り……凄まじい霊的な爆発と次元振動を観測。カノンが現場に到着するや、それらが収まって空間に平衡が訪れていた。


 後ろからそっとシュテッタへ近づくと、ゾンが次元陥没を完全に修復して、その威容を彩る霊力の光が少しずつ散っているところだった。


 ゾンとシュテッタは、お互いのみに通じる霊感通信をしているので、カノンには何を話しているのか分からない。ただ、見つめあっているように見える。


 ゾンの全身に貼りついていたピーパの霊符は次々に魂魄子イェブクィムへ戻り、イェブクィーフ効果場を含む特殊な霊時空間と干渉して淡く発光していた。それが、まさに湧き上がる無数の蛍のようだった。


 「ゾン、その刺さってる武器は、大丈夫?」

 「ケッ……こんなもの」


 魔剣「魔の炎フォイア・ツァオバー」が、まだゾンの太鼓腹に突き刺さっている。落雷の影響か、それとも次元陥没の影響か、機能停止し、凍結が解除されていた。それでも、ゾンの肉体の一部はまだ凍りついている。ゾンが魔剣を鷲掴みにし、一気に引き抜いたので、まるでアイスキャンディーのようにゾンの腐った肉体の一部が凍ったまま剣身にまとわりついて抉りとられた。つまり、腹部に大穴が空いた。


 「ゾン……!」

 「大丈夫だ」


 シュテッタの手を借りるまでもない。この魂魄子イェブクィム濃度の高さであれば、イェブクィーフ効果場内でゾン自らアンデッド構造体を修復できる。


 ゾンが魔剣をそこらへ打ち捨て、腹の大穴へ手を当てるや、魂魄子イェブクィムが集まってアンデッド構造体の修復をはじめた。まさに、ヒーリングス・コンダクターのごとし、だ。


 (自己修復できるなんて……!)


 カノンが後方からそれを見やって、クシャクシャの前髪の合間から驚愕に眼を見開く。


 と、気象システムが復活したものか、いきなり昼間の明るさが真っ暗な地下街に戻った。


 シュテッタがあまりのまぶしさに目を細め、よろめいた。

 それを、ゾンが右手で支える。


 「……ありがと」

 「とりあえず、ベルティナのところへ行こうぜ」

 「うん……」


 魂魄子イェブクィムの光も昼間照明の中に融けて消え、空間の歪みも納まった。ゾンがひょい、とシュテッタを片手で持ち上げ、肩に乗せる。


 「おら、おめえも帰るぞ」


 歩きながらカノンの前を通り、ゾンがぶっきらぼうに云った。カノンが、小刻みに歩いて、ゾンの後をついて行く。



 9


 三日後。


 今回の特殊地震は激甚災害に指定され、ニブフン地区を中心に地下都市の三分の一は臨時的にマンオーク都市政府の直轄支配下に置かれた。いまは、被害規模を調査している。


 タハカラ地区はそれほど地震の被害が無く、マーラル達の借りた家も無事だった。彼らはそこへ逃げ帰り、報告ファイルを作成しつつ、情勢が推移するのを見た。


 また、ドミナンテが状況視察を兼ねて現場へ戻り、シベリュースの魔剣を探した。失うには惜しい、アンデッド大戦以前の古典兵器であり、発電素子内蔵型光子系手持ち武器の傑作であった。


 意外や、それはすぐに見つかった。ゾンが投げ捨てたまま、その場にあったからだ。


 「見つけたよ~」


 霊感通信を受け、左腕を失ったままのシベリュースが安堵のあまり腰が抜けたように床へ座りこんだ。


 凍結して引きちぎられたゾンの構造体は、まるでアンデッド処分器にかけられたように、全て魂魄子イェブクィムとなって消えていた。


 ドミナンテが黒剣を持って戻り、調べると魔剣は機能停止していたため、ミュージアム本部で修理することにした。剣自体に次元反転機能があり、ふだんは専用の次元の裏へ格納されている。シベリュースが専用プログラムで剣とリンクし、自在にそこから取り出せる。すなわち、シベリュースは「魔の炎フォイア・ツァオバー」を専用に遣うアンデッドとして設計されている。


 「剣の無いシベリュースは、ただの破廉恥で風変わりな木乃伊ミイラ女というだけだからな」


 リリの厭味にも答える余裕が無いほど、シベリュースは安堵と放心で脱け殻のようになって床に座りこみ、右手で魔剣を抱きしめていた。


 「隊長、私とシベリュースは、いったん本部へ戻ります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ