8-10 おめえもできるはず
「ナニが……!」
「落ちつけや。どうしちまったんだ」
次元窓が、リリをとらえた。一気に外界に連れ去られる。
「落ちついてるバアイ!? 第九天限竜魔皇だかなんだかじゃなかったの!?」
「おい、この、ばか!! ……秘匿兵器の秘密を簡単に云うやつがあるか」
「どっちがバカなの!! 余裕かましてんじゃないって!!」
「ヘッ……」
ゾンは鼻息を鳴らし、
「この生体ブーストってやつよお……おめえもできるはずだぜ」
「……え……」
もう、シュテッタもブーストをかける。あまりのブースト回路の回転に、シュテッタの眼がアンデッドのように青く光った。裏側から魂魄子があふれているのだ。
ゾンの霊力が、いきなり倍増した。
「なっ……なん……なんだ、なんだ!?」
マーラルを含め、ミュージアム達が驚愕に固まった。
霊振動と次元振動が合わさり、再び地震のようにその場が揺れ始める。
「何事!?」
リリは捕獲檻と次元窓の同時コントロールができなくなり、いったん窓を閉じた。
「バオオオオオおおああああ!!」
ゾンが咆哮と雄叫びの混ざったものを発し、さらに霊力を上げる。シュテッタもそれへ呼応して、二倍半から三倍に回転速度と回転半径を上げた。
「もういい、充分だぜ、それ以上はおめえが危ねえ!」
ゾンがブースト回路の回転上昇を止めさせた。
「お、檻が……!」
マーラルも慌てて回転速度を上げかけた途端、捕獲檻が内側からバラバラに吹き飛んだ。
「わああああッ!」
効果場崩壊による霊的爆発が起き、三体のアンデッドが衝撃でぶっとんだ。物理的な爆発ではないため、周辺へ影響は少なかったが、時空が歪む。まして、アンナデウスの次元災攻撃の影響下にあるため、干渉しあって、集中した暗黒物質が異常反応。次元断層が発生した。
空間が多重陥没し、次元ごと沈み始める。
「うわっ、うわ、うわ……!!」
リリやピーパが、這いつくばってその場より離れた。
断層穴へ呑みこまれたら、二度と帰って来られなくなる。行き着く先は奈落の底か、事象の地平線のさらに向こう……想像もつかぬ異次元、異世界か。
次元反転・位相空間転位プログラムのあるリリやゲントーでも、次元位置測定計算が間に合わなければ同じだ。多層空間が一気に沈んでおり、空間位置が同時かつ無数に変わってゆくため、よほどの特殊性能がなくては計算など間に合うはずが無い。
ゲントーも、急いで次元を渡り飛んで距離をとった。
シベリュースは左腕に装着した増強ブースターが爆発し、左の肘から下が引きちぎれて地面へ転がった。
「シベリュース、シベリュース、起きろ!」
トゥールーズが叫ぶ。
シベリュースは衝撃と反動で機能が停止し、動けなかった。
「マスター、撤退命令を!!」
「云われなくても、作戦中止、撤退だ!! リリはシベリュースを!」
リリがどうにか這っている地面へ次元反転し、倒れているシベリュースの地面と繋げる。腕を伸ばしてシベリュースを抱えるや、そのまま脱出した。
「ピーパ殿、マスターを!」
「承知!」
ピーパが道路からチァンシーの飛行術をもって飛び上がり、懸命に走るマーラルを抱き上げて宙に舞った。マーラルが手を伸ばし、ドミナンテがそのマーラルの手をつかんだ。全身の骨がバラバラになりそうな勢いで、一気に上昇する。
「トゥールーズ、アルトナ、無事かい!?」
「なあんとかああ~~!」
「私もいま、脱出中です!」
二人から返信があって、ホッと息をついた。
「しかし……」
上空から見下ろすと、闇の中に光とさらに闇が惑星の環の様に何層も連なって、その中心にゾンが沈んで行くのが見えた。
「こんなところで、次元断層だなんて……全世界……いや、全宇宙ニュースってレベルじゃないよ。表沙汰になれば、だけどね」
「……主殿、ゾンはどうなりまする?」




