8-8 イェブクィム増強生体ブースト能力
が、いま!? どうして!? 気象システムが落ちているはずなのに!?
さらに続けざま、連続して爆発音も轟いた。
我へ帰ったシュテッタがまた走り出したとき……。
なんと、大型のパトロール用ユニットが旋回しながら一直線にシュテッタめがけて落ちてきた。今の落雷の影響だろうか!?
「……わっ、わわわ!」
明滅するライトに眼を細めながら、シュテッタが下がって逃げる。
幸いなことに、ユニットは方向を外れ、頭上をかすめながら離れたところへ落ちた。
だが、そこで若い男性の悲鳴がした。
「……!?」
シュテッタが亀裂や瓦礫に気をつけながらランタンをかざして近づくと、道路に一人の若者が倒れている。
マーラルだった。
近くに、墜落したユニットがひっくり返ってガタガタ動いている。
直撃は免れたようだが、マーラルは気を失っていた。
「あ……しっかり!」
シュテッタは、恐る恐る顔へ手をふれた。息をしている。ライトを当て、ケガが無いかよく観察した。こういう処方は、開拓時代そのままの植民惑星では必須の知識だ。
(あれっ……ちょっと、カッコいい人かも……)
一瞬、そんなことを思ってしまったが、すぐに首を振って神経を集中させる。ライトを置いて魂魄子を集め、ゾンへ行ったように両手をマーラルの胸へ当てた。
ヒーリングス・コンダクツだ。
そう。
シュテッタは、複数のコンダクツを駆使する。
メインはとうぜんネクロマンシスだが、少しながらヒーリングスも使えた。この能力は、生物・アンデッドを問わないという、特殊なものだった。
その他にも、弱いながらも何種類か使えるようである。
「……!」
ハッ、とマーラルが眼を覚ました時には、もうシュテッタはいなかった。
その代わり、白骨姿のドミナンテが倒れるマーラルを揺さぶっていた。
「マーラル様……マーラル様! 御気を確かに!!」
バンシー形態だったら、泣きじゃくっていただろう。
マーラルは、自分がどこで何をしているのか、混乱から戻るのにやや時間を要した。そして明滅しながら闇を裂いて自分に迫ってくる緊急パトロールユニットを思い出し、跳び上がって周囲を確認した。すぐ側で、まだ墜落したユニットがひっくり返って痙攣するように動いている。焼け焦げた臭いが充満し、強い電流に曝されたことを示唆していた。そこで、ピーパの天雷法にやられたのだと直感し、いま戦闘がどうなっているのかに考えが到って、背筋が凍りついた。
即座に霊感通信。
「……すまない!! 僕だ!!」
「隊長おおおおお!!」
「マアアアアラルううううう~~!!」
「マスター!!」
「御無事でござりまするか、主殿!!」
「隊長殿ォ!!」
一斉かつ同時に答えが返ってくる。
視界内空間タブを確認すると、気絶していたのは、四分ほどだったようだ。
まだ、取り返せる。
「無事だよ。緊急ユニットの墜落にまきこまれたんだけど……悪運があるね!」
云いつつ、ドミナンテを連れて霊光がほとばしる捕獲檻へ走る。リリ達が戦っているのは、瓦礫の散乱する大きな交差点だった。壁が崩れているビルの合間から、いまにも檻を破ろうとしているゾンと、懸命に耐えているリリ、ピーパ、シベリュースを確認した。
すぐさまマーラルがコンダクツを発動し、生体ブーストをかける。
マーラルの身体から、魂魄子がふきあがって渦を巻いた。影響範囲は、余裕で捕獲檻を含んでいる。霊波長を合わせ、ギアが噛み合うようにしてイェブクィーフ効果場回路と自らのブースト回路を合体、そして同時回転させた。これは、かつての東洋霊術では太極、インド霊術ではチャクラなどと呼ばれていたものに近い。
魂魄子の流れが変わり、いったんマーラルを通して凝縮かつ増幅され、凄まじい勢いでリリ達に戻った。
「うわ……!」
リリが、その効果に驚いた。
急激に霊力が上がって行く。
しかも、アンデッド構造体に何の負荷も無い。
「す、凄いです!」
シベリュース、自身がこれほどの霊力を出した経験がなく、戸惑った。明らかに自らの設計強度を超えている。それなのに、まったく苦にならぬ。




