8-7 アンデッド捕獲檻
とたん、内側に強力なイェブクィーフ効果場が発生。ゾンの魂魄子が反応して、強制的に接続された。補完器ではこの霊的力場を利用してアンデッドを修復するが、ここではそれを応用し、アンデッド構造体を霊的に固定する効果を得ている。ゾンは効果場に固縛され、動けなくなる。
通常の捕獲檻はそれを機械的に行うが、いま、アンデッド同士が魂魄子を繋ぎ、それと同等の効果を得ていた。
「こんなお遊びでオレを捕らえようなんざ、ナメられたもんだな!!」
ゾンが霊出力を上げた。凄まじい霊圧が内側から檻を破壊せんとする。
「マスター、今でござります!」
ここで、マーラルが生体ブースターをかけ、三体の霊力をさらに上げる。
はずだった。
「マスター、マスター、お早く!!」
「主殿!?」
マーラルから返信もなく、霊力も変わらなかった。
ゾンの霊圧が、さらに増す。
「三万五千……四万……四万五千エブだよ、マーラル!? マーラル!? なにやってんのよおおお~~!?」
アルトナも悲鳴を発した。
三体合計でざっと四万九千エブ。最大五万推定のゾンを固縛するのに、ギリギリの数値だ。
だが、マーラルから返信は無い。
「……!?」
アンデッド達が凍りつく。
「三体とも、緊急事態だ、一時的に私が指揮をとる!」
トゥールーズの指示が飛んだ。マーラルがいないときは、彼女に指揮権がある。
(まさか、この期に及んで作戦中止ではあるまいな!!)
リリがそう思ったが、
「いま少し、現状維持で踏んばれ! ドミナンテ、ドミナンテ!!」
「……あ、ハ、ハイ!」
「大至急、隊長を捜せ! 何か起きているぞ! 隊長の生命に危機が及んでいる場合は作戦中止、すみやかに撤退する。文句は無いな!」
「……ない」
「了解した!」
マーラルの無事を天秤にかけられては、リリもピーパも承諾せざるを得ない。
(まさか、こやつ、自身が逃げるためにマスターに何かしたのか!?)
リリはそう考えたが、さすがに手段が無いだろう。
仕方もなく、最大限に霊出力を上げ、ゾンの固縛を続けた。
なるべく早く、マーラルが復活するのを願って。
「ゾン……ゾン!? どうしたの!?」
急にゾンから返信が無くなり、シュテッタは走る足を早めた。
周囲は、暗闇の中を右往左往する人々で大混乱だった。建物は、ことごとく半壊か倒壊している。道路も歪んで波うっており、非常に走りづらい。ところどころ陥没すらある。
(トリアングロスってあんなに頑丈なのに……なんで、こんなことに!?)
不思議でしょうが無い。泣き声、叫び声、助けを求める喧騒、怒号が重なりあって、形容しがたい音響となって地下世界に充満している。各種のユニットがオートで飛び交う音や緊急サイレンもそれに加わり、また行政委託会社の有人緊急車両の音も加わって、グチャグチャの狂騒が耳をおおって何がなんだか分からない。激しく交錯して移動するユニットや緊急車両のライトも、やたらとまぶしい。
だが、魂魄子の動きが妙だというのは、ゾンに指摘されて自覚でき始めた。確かに、これまで感じたことの無い、妙な空気だ。これは、霊的な感覚である。
しかも、向かっている方向で急に魂魄子の塊が激しく動き出した。
アンデッド同士が戦っているのだ。
(まさか……また死者の国が……!? それとも……ミュー)
その「名」を思い出した瞬間、またシュテッタの心拍数が跳ね上がった。
ずっと走って息が上がっていることもあり、急激に嘔吐しそうになる。
が、立ち止まって口を手で抑え、懸命に耐えた。
(クソ……クソクソクソ、ミュージアム! ミュージアム!! チクショウ!! ゼッタイ許さない!! なんで、なんであんなこと……! そして、地球に来てまで私を!)
わけの分からぬ猛烈な怒りが脳天まで貫いて、地面をダンダンと踏んだ。
そのとき、轟音と共に暗闇に閃光が走った。
落雷だ。
授業で習ったし、ときどき人工的な雷雨も発生するので知っている。




