8-6 天雷破
「了解しました」
「……分かった~!」
トゥールーズが答え、アルトナも恐怖に耐えながらも任務を遂行する。
(頑張れアルトナ、頑張れアルトナ、頑張って~~あたしいいいい~~~!!)
アルトナが四十メートル、トゥールーズが五十メートルで別方向から暗視のほか、各種霊魂魄値を専用プログラムで観測、記録する。特にマーラルの行う生体ブーストは、ミュージアムとしても貴重なものになるだろう。
「先日のようにはゆかぬぞ、特甲ドラゴン・ゾンビぃいい!!」
「洒落くせえっつってんだろうがよ!!」
ゾンの霊圧がふきあがる。それだけで、ピーパの二倍半……いや、三倍はある。霊波数もはね上がり、空間へ干渉する。アンナデウスの特殊霊波がその干渉を感じて揺れ始めた。地震ではない。空間震だ。小刻みに周囲が揺れ始める。
その揺れの中、ピーパの口から青白い陰火が連続して吹き出された。それが人魂となって漂い、螺旋を描いてゾンへ向かって飛ぶ。そして、雷法の十文字呪文。
「九天応元雷声普化天尊、九天応元雷声普化天尊、九天応元雷声普化天尊……!」
雷神の神名を三度唱えると、地下深くであるにも関わらず雷気が集まりだした。
(野郎……!)
ゾンも気を引き締める。ピーパは、初手から全力攻撃だ。
「天雷破!!」
地下世界に一条の光が走り、一億ボルトの電圧がゾンに突き刺さった。並のアンデッド兵器の構造体と霊鎖を、容易に破壊するエネルギー量だ。空間中の魂魄子を物理エネルギーに転換する、雷法の秘術である。甲一といえど、ノーダメージはあり得ない。
同時に、螺旋状から一列に変化した七つの陰火がプラズマ・チェーンマインめいて白煙を上げて硬直するソンの肩口から背中にかけて巻きつき、連続して爆発する。
闇の中に閃光と爆炎が上がり轟音が大音響となって響動いて、ニヴフン地区の住民は地震の影響でどこかに貯蔵されていた化学物質でも爆発したかと思い恐れおののいた。換気システムに異常がある場合、地下世界の火災現象は住民にとって致命的なダメージとなる。
さしものゾンも衝撃でぐらつき、闇中にたたらを踏む。
そこに、ピーパの放った数十枚の霊符が襲う。全て、動きを禁ずる禁呪法による霊符だった。ゾンの大きな身体の各所へ一斉に貼りつき、動きを止める。
間髪入れずに、リリとシベリュースが追撃した。
波状攻撃でゾンの霊力をなるべく消費させ、出力を少しでも抑えるためだ。
二体そろって次元反転法によりゾンの間合いに出現し、至近からリリが次元振動波を放った。
暗闇に振動波発光が煌めき、不快な狭窄振動音が鳴った。動けないゾンはそれを真正面から食らい、次元の揺らめきに身体が粉微塵に削られ……るはずだったが、ゾンも波長をまったく同じにした次元振動波を放出し、共鳴中和する。
(やはり、こやつも我と同等の次元干渉プログラムを!)
凄まじい光と音の狭間で、リリが瞠目した。
(たかがゾンビに……誰がそんなプログラムを!? しかも、それに耐えられるとは……!?)
すかさずリリ、その両手にコウモリの翼めいて次元断層刃を展開し、交差してゾンへ斬りかかった。が、ゾンが中和波動の出力を上げ、断層刃を粉々に砕いた。
(クソッ!! 我では、打ち手無しではないか!!)
衝撃と動揺で、さすがのリリが顔をゆがめて硬直した。
そこへ、次元振動衝突の影響を受けない角度からシベリュースが「魔の炎」を突き立てる。
左腕のブースターが働き、霊力が倍増した。
とたん、時間帯的には昼間ながら、本来の霊肉を取り戻して人間形態となった。
「…ウォオルゥウラァアアア!!」
巻き舌で狂戦士の雄たけびをあげ、左斜め後ろからそのでっぷりとした脇腹に深々と両手持ちの魔剣を突き刺した。瞬時に刺された部位のアンデッド構造体が物理的に凍結し、体表まで及んで亀裂が入る。突き刺さった剣を中心に、幅数十センチほどが完全凍りついた。
「二人とも離れよ!」
ピーパの声が霊感通信で響く。もう一発、天雷破だ!
「ピーパ殿、無理をするでない!」
「これくらいせぬと、こやつの霊力は寸分も減らぬわ!」
リリとシベリュースが、一足飛びで距離を取った。
もう、二条めの轟雷がゾンを打ち据える。電磁とイオンが破裂し、時間差なく衝撃波と雷鳴が周囲を舐めた。
「霊出力ダウン! や、約二万エブまで低下あ~!」
観測していたアルトナから、半泣きの通信。
三体のアンデッドが、正確に正三角形の頂点へ位置どった。
「対高レベル大型アンデット捕獲檻、展開する!!」
リリが叫び、三体から膨大な魂魄子がふきあがる。それがゾンを中心に三体を繋ぎ、光の三角形を描いた。




