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死者王とゾン  作者: たぷから
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8-5 作戦開始

 「ゾン、無事なの!? どこにいるの!?」


 「ハアア!? オレが無事か、だと!? 誰に向かって云っていやあがる! おまえこそ無事なのか!? どこにいる!?」


 「いま、学校から家に……向かって……!」


 走っているようだ。シュテッタにとっては、一年前の体験が嫌でもフラッシュバックするような状況だろう。


 (フン……死者の国か……? それとも、ミュージアムの仕業か……? どっちにしろ、こりゃあ、ちょいとやりすぎ・・・・だぜ……)


 巨大高層都市の免震機能は、重力制御機構により完璧だ。それが、ここまでダメージを食うとは、ただの地震ではない。霊的な被害が出ている。太古の昔、地脈を騒がせ心霊現象として大地震を発生させたという「神話」があるが……それに近い効果が出ていると考えてよい。


 (……ナメくさりやあがって……)


 肩で風を切ってゾンが歩いていると、地上へ向かって猛スピードで避難している自家用の電磁浮遊自動車が、都市の上空を通る高速道路用の低出力磁力帯からいきなりはみ出て、空中へ躍り出た。空間内に張りめぐらされた高出力磁力帯を自在に飛び移ることのできる高層都市内用全自動警備軽戦闘ユニットならまだしも、ただの自動車だ。真っ逆さまに、ゾンめがけて落ちてくる。


 ゾンは歩きながら、煌々とライトを照らして闇の中をぶっ飛んで来た車を、衝突直前に一撃で殴り飛ばした。クシャクシャに潰れた車がまた明後日の方角へ飛んで行き、崩壊しかけた建物に衝突して三度どこかへ飛んで転がり落ちた。またちょうどその下を怪我人を多数乗せた救急ユニット車両が走っており、直撃して救急車は横転、瓦礫にぶつかって跳ねあがり、崩壊しかけている建物の基部に衝突。建物が崩れて下敷きとなった。


 (おいおいおい……そんなことってあるか? まさか、いちいちこんな調子なのか……? これは……どういう現象だ? アンデッドがどんな攻撃をすりゃあ、こうなる? どう対処すればいい?)


 霊的事態を図りかね、ゾンも戸惑いを隠せない。

 「シュテッタ、生きてっか!?」

 「……生きてるよ!?」


 「おい、どうだ?」

 「なにが!?」


 「普段と比べてよお、なんか、調子が悪いとか、ツイてないのが続くとか、あるか?」


 「ナニ云ってんの!?」

 シュテッタの疑問も当然だ。


 が、

 「……アッ!」

 「どうした!?」


 「こっ、ころんだ……さっきから、何回も蹴躓いてる……暗いからかな……!」


 転ぶ程度ならまだマシだ。しかし、非常に運の・・・・・悪いこと・・・・に、転んだ拍子に何か尖ったものに突き刺さるかもしれないし、頭などを打って、打ち所が悪く死んでしまうかもしれない。この現象は、そういう・・・・類のもの・・・・だとゾンもなんとなく分かってきた。


 「おい、気をつけろ、いつもより気を配れ」

 「ええっ? なんで?」


 「空間全体の、イェブクィムの流れがおかしい。マイナスに反転して、ダークマター化していやあがる。それも、ありえねえくらい膨大な量だ」


 「イェブクィムの?」

 「こりゃあ、アンデッドの特殊攻撃かもしれねえ」

 「ええッ!?」


 「とんでもねえ規模の『不幸や不運』を、同時多発的かつ意図的に起こす攻撃だ」


 「ハアアあ!? そんな攻撃、あるの!?」

 「あるのもなにも、おめえ、現に……」 

 そのゾン、ふと、歩みを止める。


 「目標の単独行動を確認いたしましたわ」

 ドミナンテの声が、マーラル達に届いた。

 「主殿、どう致す?」


 ゾンへ最接近しているのは、ピーパだ。約三十メートル。互いに暗闇の中で、ぼんやりと非常灯に浮かび上がっている。ゾンも立ち止まって、無機質な顔をピーパへ向けた。


 「作戦開始。対高レベル大型アンデット捕獲かん、展開開始せよ」

 「了解致しました」

 「了解であります」


 リリとシベリュースが同時に答える。最後にピーパがゾンヘ向かって両手に複数の霊符を扇めいて構え、


 「了解した!!」

 まずピーパが、真正面から突撃する。

 「トゥールーズとアルトナは、観測を開始して」

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