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死者王とゾン  作者: たぷから
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8-1 グース=アル~アンナデウス

 リリの決意表明のごとき独白に、ピーパも右目を細めた。


 「グース=アル……あくまで理論上の存在にて……。が、今はよいとしても、将来、もしあのドラゴン・ゾンビと真正面から戦うことなった場合……おそらく、これしかあるまい」


 それは、いわゆるノーライフ・キングと呼ばれる、アンデッドの王だ。兵器としてのそれが、いったいどのようなものなのか……それは、まだ分からない。


 (それに、人間であるマスターと我らがずっと一緒にいるためには、これしかない・・・・・・。……これしか、ないのだ……!!)


 二人にとって、むしろそれが本音か。


 性転換、中性選択などは歯医者に行く感覚で行うことができ、単性生殖、同性生殖すらも可能なこの時代の人々にとって、我々で云うLGBT等という概念は、数千年前に根絶した。彼らにとってタブーなのは、一般にUと呼ばれる「アンデッド性愛」である。


 これは、古くからある屍体性愛ネクロフィリアとも異なる。ただの死体は動かないし、自律式アンデッドのように話もせず、感情も無いからだ。Uは、人間が人間を愛するのと同じように、人間がアンデッドを、アンデッドが人間を、人間とアンデッドが愛し合う。


 そして、愛する人間と永遠に共にいるために、肉体も魂魄も一体化し、新たなるアンデッドへ昇華する。


 リリとピーパの感情と行動は、そのUの中でも究極のものと云えるだろう。



 8


 二日後。

 巨大なマンオーク地下都市は、いつもと変わらない朝を迎えた。


 午前七時に集合し、最終打ち合わせをすませたミュージアム達は、リリの次元転換法をもって瞬時にタハカラ区からニヴフン区に至る。


 その次元振動を、ゲントーが捕らえた。

 「……動きおったな……クク……。どれ……」


 ゲントー達「死者の国」は、ミュージアムとシュテッタを戦わせることにより、シュテッタがよりミュージアムと地球人を憎むことによって、死者の国のテロ活動に利用することが目的だ。ミュージアムの作戦を成功させるわけにもゆかないが、一方的に失敗させるのも目的にそぐわぬ。散々に、シュテッタとゾンを痛めつけ、憎しみを煽ってもらわなくては……。


 それでいて、最後にはテュテッタ達が勝つ必要がある。

 「アンナデウス……アンナデウス……おるか……どこだ」

 次元の深深度から、待機しているアンデッドへ呼びかける。


 「アンナデウス……!!」

 「はぁい」


 ゲントーの地獄の岩が軋んでいるような声と全く裏腹な、能天気の塊のような明るく呑気な声が返事をした。


 「どこだ……どこにいる」

 「わだすは、ここだすぅ」


 アンナデウスが、次元を越えてゲントーに接近した。それだけで、凄まじい波動で次元そのものが揺らめいて崩れ始める。ゲントーごと、次元の無限の隙間へ落としてしまいそうな勢いだった。


 「たわけが!! だ、誰がこちらへ来いと云った!!」

 「はぁ……そら、すまねえこってすぅ」


 ゲントーから微かに見えるその姿は、大きな一枚布を身体へ巻きつけ、肩の金の金具と翡翠の腰ベルトで止めた超古代の巫女シビュラ装束に身を包んだ、日焼けした肌に黒い巻髪、二重の眼がパッチリとした、すらりとした中背の女性だった。


 甲三型怨霊スペクターである。

 しかも、狂っている。

 自らを、古代の豊饒の神に捧げられた聖女と信じている。


 しかし捧げられたのは、死と破壊の魔神だった。

 魔神の呪いが、アンナデウスを狂わせている。

 その波動は、ありとあらゆる不幸、不運、災いとなって周囲に振りまかれる。


 しかも、無差別に・・・・、だ。

 仲間であるはずのゲントーとて、その効果からは逃れられない。

 人呼んで、歩く災厄。死の河。狂気と不幸の巫女アンナデウス。


 物理的な攻撃は一切行うことができず、この狂気的な霊波動のみをもって無差別攻撃を行う特殊アンデッド兵器だった。


 「指定通りの場所へ行け!」

 「はぁい」


 アンナデウスが浮かれた声を発し、不気味な聖歌を歌いながら次元の隙間を通って行くのを見送って、さしものゲントーも大きく息をついた。


 「さて……」


 アンナデウスの波動を最小限に受け流せる次元を慎重に探りつつ、ゲントーもニヴフン区へ接近する。

 


 定時となり、アユカがスリープモードから目覚める。ハンガーの隅で膝を抱えて座っていたが、やおら立ち上がった。これと前後して、専用の台へ横になっているゾンビシスターズも目覚めるだろう。

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