7-3 魂魄子増強ブースター
「ミュージアムといえば……世界中……宇宙でも、対テロ工作や、都市・州政府の裏仕事をしているっていうが、反面、予算取りや、自分たちの存在意義のために自作自演のテロをやってるっていう話もある。……本当のテロ組織と、手を結ぶ場合もあるそうだ」
ロンドがいきなりそんなことを云ったので、ポルカがあきれた。
「どこでそんな話を仕入れてくるのよ、あんた」
「フラウに聞いた」
「フラウか……」
ポルカが渋い顔となる。
「あたし、あの人、イマイチ信用できないんだよねえ」
「どうして」
「どうしてって……なんとなく」
そこに、シュテッタの寝室からベリーが戻ってくる。
「大丈夫?」
「うん……」
ベリーの顔は、浮かなかった。
「あたし、今日はここに泊まるから、あんたたちは戻ってて。カノンが明日からのバイトのシフト組んでるから、よろしく」
「分かった」
ポルカとロンドは、ミュートへ帰った。
ベリーがリビングの椅子に座り、シュテッタの夕食の支度を考えつつ、一つの決心をした。
ミュージアムの指令は無視し、南極政府の指令に従うことにした。
ミュージアムに疑問を持ったのと、なにより「先に来た」指令を優先させた。これは、判断職権を持たない身分であるベリーにとって、当たり前の決定であった。南極政府から来る指示内容は事前にミュージアムにも伝わっているはずなので、ルール違反なのは、ミュージアムなのだ。
(やっぱり……ミュージアム内で何かが起きてる……?)
ベリーは、重いため息をついた。
同じ日の夜。
バーンスティールから密輸入した魂魄子増強ブースターが、ようやくマンオーク地下都市に届いた。
「これが……」
夜に霊肉を取り戻し、絶世の豊満美女……のはず……の姿となっている包帯姿のシベリュースが、手甲のようなそのパーツを手にとった。シベリュースも初めて眼にした。細いヴァグネリ鋼フレームにテトラ特殊装甲と同じ素材の外部を持っているので、まるで重戦闘ユニットの部品のようだった。
「左腕につけてよ」
マーラルに云われ、包帯の上から装着する。
「……特に、何がどうというわけではないでありますが」
「ま、今はね……」
ミュージアムのゾン捕獲部隊が、改めて作戦会議を行う。いつも通り、リビングで三人のコンダクターが打ち合わせるが、今回はそこに四体のアンデッドも加わる。
「これで、シベリュースの瞬間最大霊力は、通常の倍近い一万五千エブに到ります。リリとピーパの瞬間最大が一万七千ほどとすると、合計で四万九千。ゾンの予測値五万に匹敵します。三点方式で、対大型アンデッド捕獲檻を構成できるかと。なお、霊波数は七百前後での調整となります」
トゥールーズが空間タブを開いて、一同に説明した。
「捕獲後の段取りは?」
「捕獲檻ごとリリが次元展開し、マンオークの外ですぐさま回収部隊が。移送は、バーンスティール州軍の協力を。近海に、貨物船へ擬装した強襲揚陸艦が待機しております」
「……こういうときに、ミュージアムで軍用装備を持ってないことが響くのよね~」
アルトナが不平を漏らすが、仕方がない。軍は州政府の管轄であり、都市政府は基本的に軍を持っていないので、その直轄組織であるミュージアムが独自に軍隊並の装備を持つわけにはゆかない。予算案が議会を通らないし、機密費にも限界がある。
「私は……また、霊波妨害をしていればよいですの?」
涙目のドミナンテが、トゥールーズへ訪ねた。
「ああ。ただし、前より妨害範囲が広くなる。きついだろうが、敵の一二型ハイゾンビの相手もまた頼むことになる。ゾン捕獲の邪魔をさせないでくれ」
「わかりました……」
「いっそのこと、あのハイゾンビたちも囲っちゃえば~?」
「あやつらでは、バラバラになるぞ」
ピーパが、血走った右目をアルトナへ向ける。
「別にいいじゃん、あんなの……」
ま、それもそうか、と肩をすくめてピーパ、隊長であるマーラルを見た。
「これだけじゃ、不安が残る」




