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死者王とゾン  作者: たぷから
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1-5 甲二型黄泉死乃火

 ゾンがそう云って警官たちの前にわざと足を踏み下ろすと、全員が気絶してしまった。


 「ほら!」


 少女の声に耳を貸さず、ゾンがふいと空……いや、高い吹き抜け構造の大規模市街施設の天井を見やった。


 (ははあ……なるほど、こっちは陽動ってわけかい。何か所かに丙型ゾンビを分散させ、州軍の特殊兵やらコンダクターやらを向かわせておいて、本命はガラ空きの最上階地区を狙うッてえ寸法だ。単純だが、効果はある。小せえトコロの仕業じゃあねえな。いよいよ、『死者の国』のお出ましか……?)


 「なにしてんの!?」

 「なんでもねえ」


 ゾンが観音開きに位相空間転移ゲートを開き、少女をひょい・・・と抱え上げてその左肩に座らせると、ゲートの奥に消え、瞬時にゲートも消失した。



 その、ヨールンカ市最上階地区。同時刻。

 中央タピル区第七一七階の片隅である。


 六五〇階から七五〇階までの超高層階には、市議会や州議会、市役所、州政府機関を含めた行政機関と、政治家、高級役人、大企業の社長、超高名芸能人等の極々一部の超高級市民の住宅区がある。七五〇階から上の最上部は施設階であり、巨大な都市の維持施設及び防衛施設群、それに極少数の管理者しかいない。この構造は、およそ世界中にある超高層都市のどこでも基本的に同じだった。


 従って、特別高層区域の全区画が常時次元探査にかけられ、事前生体登録者以外はどこに潜んでいようと一瞬で感知される。


 その次元探査を、恒星間航行にも使用される次元反転デヴァイス技術の応用ですりぬけ、堂々と闊歩するアンデッド兵器がいた。


 制御され、安定した「次元の隙間」を歩いているので、目に見えているのに誰も感知できない。この状態を感知できるのは、同等の次元反転機能を有した高レベルアンデッドか、次元反転能力を持つリバーシブル・コンダクターだけだった。


 そのアンデッドの出で立ちは、社会通念上どう見ても隠密行動には不釣り合いに派手だった。


 けばけばしい・・・・・・というわけではないが、やけに仰々しい。設計思想に、敵への威嚇や幻惑が含まれているのではないかと思われた。全身が布状特殊繊維プロテクターに包まれ、赤と黒の色合いで地獄の炎を象っている。死者の目だけが出た頭部は古代の額あてと面頬を模した装束で、スカーフめいて布の余りが首より棚引いている。これは、一種の重戦闘忍装束だ。背は中肉中背で、体系も華奢のようでいてがっしりしており、男性型か女性型かも不明だった。


 階下で非常事態宣言が発令されたこともあり、街は日常を維持しつつも、どこか緊張に包まれていた。


 「アンデッドテロだって……」

 若い女性が、連れの友人へ話しかけた。

 「テロ多くない? アンデッド使いが増えてんのかな」


 この街を歩くほどなので、高級市民だ。政治家か高級官僚、大企業幹部の子女だろう。


 「でも……ちょっと、アンデッドってホンモノ見てみたい」

 「ここじゃ無理でしょ。階下したに行かないと」

 「階下したあ? アンデッドより、階下したのれんちゅうがムリ!」


 その横をアンデット忍者が通るが、感知できない。どころか、障気にも匹敵するその邪悪な霊気に当てられると同時に生命エネルギーを吸収され、二人ともその場で倒れてしまった。


 急いで他の通行人が駆けより、また同じく駆けつけた市街管理用自律型デヴァイスが簡易な医療行為を行う。


 「……さすが、甲二型黄泉死乃火よもつしのび……個体名は不明だが……近づくだけで、人間ひとを殺しかねぬわ……」


 同じ次元回廊中に時代がかった少女の声がして、古代の舞踏会用ドレスめいた、ゆったりしたスカートにデコルテも開いたカナリヤ色の装束に赤金髪の人物が忍の者の前に立ち塞がった。そのぱっちりとした大きな眼は、古代中南部ヨーロピアン型アンデッドの特徴をよく残しており、翠色である。見た目は、十代初めのローティーンに見える。


 忍者が立ち止まる。

 瞬間、後方へ・・・棒手裏剣を打った。


 手裏剣が、空間に突き刺さる。すぐさま、次元回廊の隙間より、手裏剣の突き刺さった霊符を手にした、前方の赤金髪より何歳か年上に見える少女が現れる。しかし、容姿はずっと異様だった。灰と黒と青の拳法着に近い上着とズボン風の履物は、上質な正絹だ。漆黒のストレートな髪は肩できれいに切り揃えられ、なにより顔面の左半分を斜めに大きな黄色地に朱書きの霊符が隠しており、右目だけがギロギロと光っていた。いわゆるアーモンド型の眼と低い鼻というこちらの顔立ちは、相棒と思わしき少女と対照的に、古代東アジアン型特有のものだ。


 どちらも「人種」という、当時代人類にはほぼ見られない、かつて存在したそれぞれの地域に由来する特徴を有していた。


 ただし、二人とも顔色が真っ青を通りこして真っ白であり、いかにも死人である。

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