6-12 レジウス・ヴァンアビグ
「戦場に、テロもへったくれもあるかい」
「そんなこと云ったって……」
確かに、シュテッタにそんなことは分からぬ。ゾンが空気を嗅ぐようにして、敵アンデッドの霊気の動きを探る。
「フン、派手に飛んだから、すぐに見っけてくれたぜ」
シュテッタが、引きつけを起こしたように息を飲んだ。ゾンがそんなシュテッタを後ろ手に庇いながら、何十……いや、数方向から数百も現れた町民ゾンビを迎え撃つ。
「ゾ、ゾン……!」
ノロノロ歩いているが、一直線に向かって来るので意外に早い。さらに、無意識で歩いているようでいて、確実にゾンとシュテッタを取り囲んだ。
だが、こんな雑魚など、いくらいようとゾンの相手ではない。
膝に手を当てて真横に大きく片足を上げ、思い切り地面を踏みしめた。
シュテッタも分かった。全身に、電気が走ったような感覚があった。
ゾンの四股で、ゾンビ共が面白いように倒れ臥す。そして、二度と起き上がらなかった。
「もういっちょうだ」
さらに反対の足で、ゾンが四股。シュテッタは地震のように地面が濡れを体感したが、揺れていない。霊振動で、魂から揺れたように感じるだけだ。
「あらよっと」
さらに、四股というよりもはやジャンプで、その場で跳び上がって両脚で地面を踏みしめる。
何百体と集まっていた町民野良ゾンビ達、集団コントでもやっているかのように、いっせいに倒れた。
そのゾンビ達の合間から攻性ゾンビ兵器が飛び出て、四方八方からゾンとシュテッタへ襲いかかった。
「力を脳天に集中しろ!」
初めて、ゾンの霊感通信がシュテッタの脳内に響いた。それだけで、シュテッタはその通りにした。
「ターン・アンデッド」だ。
大ジャンプでシュテッタに迫った二体の丙型ゾンビ、ホームランボールめいてかっ飛ぶや、空中で爆発するように砕け散った。
「おうおう、やっぱ流石だぜえ!」
そのゾンには四方八方から七~八体がつっこんだが、やけに緩い動きから空間がゆがみ、まるで両腕が分身したようになって、ほとんど同時にその人の頭ほどもある拳がゾンビ共にめりこんだ。
この日のために完調した丙一型攻性アンデッド兵器がオモチャみたいにひしゃげて跳ね返され、数メートルから十数メートルもぶっ飛んで転がったまま動かなくなる。ただ物理的に破壊するだけではなく、霊圧攻撃で霊鎖を完全に破壊した。
「……こいつは……!」
小隊長ワイトが立ちすくんだ。対大型アンデッド用連携攻撃が一撃で防がれたうえ、小隊が壊滅した。
「ひ……引け、我々では歯が立たない!」
「いい判断だ」
「アルンド様……!」
アルンドが前に出る。
その肌色を見やって、シュテッタ、
「お、お前がママを!?」
「?」
アルンドは無視した。
いきり立つシュテッタを下がらせ、ゾンも一歩、前に出る。
「おめえが大将かい?」
アルンドはそれも無視した。
その態度をゾンがどう思ったかは、記すまでもないだろう。
しかしアルンドは、別に傲慢や慢心で無視したわけではない。ゾンが未知すぎて、答える余裕がないのだ。
(こいつ……甲一にしてもどこか……どこか妙だ……拠点防衛用の局地兵器か? それとも、大昔の試製一点モノか……? どう攻める……?)
戦後に製造されたアルンドは、本格的な対アンデッド戦……少なくとも、甲一型同士の……は、これが初めてだった。
ゾンの霊力が、瞬間的に膨れあがった。
(来る…!!)
ゾンのパンチが空間をゆがめて距離や手数を無視するのは、先ほど観察した。次元反転法の応用だろう。そんな相手と戦うには。
初手から、必殺の隠し技を仕掛ける!
ゾンの拳がアルンドの胴体をへし折ったかに見えた瞬間、アルンドがなんと溶けた。
「!?」




