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死者王とゾン  作者: たぷから
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6-3 ルール違反

 「美味しい……おちつくね。考えがまとまるよ」


 いつも鬼みたいな形相のピーパが、微笑を浮かべて右眼を細くした。生きていたら、頬が真っ赤になっていただろう。


 「君たちに、安易に現代のブースターなんか使えないよ。分かるだろう?」


 規格がまったく異なる。下手に接続して、何が起きるか分からなかった。リリとピーパは、それほど古い形式でプログラミングされていた。いまはもう、ほとんど誰も組み上げられない。唯一マーラルだけが、そのコンダクツで制御できる。


 が、マーラルとて技術的にはお手上げなのだ。根本から障害が起きた場合、二人を失う恐れもある。


 「いざとなれば、僕が命に代えてもゾンから護ってみせる」

 二人が、息をのんでマーラルを見つめた。

 「そんな……我らの台詞にござる!」


 マーラルが首を振る。

 「君たちは、それほど希少な存在なんだよ」

 「マスター……」


 リリも、ダイニングテーブルから泣きそうな顔でマーラルを見つめた。

 「おいで」

 本当の少女のように、そそくさとマーラルの横へリリが座る。

 それから、三人で静かに、茶を楽しんだ。



 騒動の翌日からライヴハウス「ミュート」では消防と警察の検証が続き、発電素子制御システムに探査も入って、失火というより放火の可能性が高いということで話が進んでいた。火事の影響もあるが、しばらく現場保存でハウスは営業ができなくなった。


 「もおおお、踏んだり蹴ったりだわああああ」

 ガックリと、ベリーが肩を下げた。

 「ポルカやアユカたちに、工事現場のバイトを頑張ってもらうしかないから」


 「それは、ぜんぜんいいけど……」

 「アユカを拾ったのは、ラッキーだったな」

 そういうロンドは、まだ右腕の肘から下が無い。


 一同は、いま、シュテッタのアパートに来ていた。なぜなら、ここのハンガーにアンデッド保管器があるからだ。中古だが、乙型までのほとんどのアンデッド兵器に対応している。


 修復の見こみは、ロンドが三週間、ポルカが五日だった。


 「ごめん、姉さん。しばらく、カノンやアユカと頑張って。直り次第、私も加わるから」


 「それは大丈夫。それより……これ、どうすんのよ!?」


 ポルカが、ゾンが内側から破壊したハンガーゲートを見て声を上げた。なにせ完全に破壊されているので、開け放たれたままだ。いかに地下都市とはいえ、アンデッド・ハンガーが開けっ放しはマズイ。


 シュテッタも、心なしかしょんぼり・・・・・している。

 「ごめんなさい。せっかく、新しく作ってくれたのに……」

 「いいのよ、どうせ請求書は南極に行くんだから」


 ベリーがシュテッタへ耳打ちする。ポルカも、だんだん気がついてきた。ロンドはそういうのをまったく気にしないし、カノンは、おそらくもう知っている。


 (やっぱり、ベリーは南極統一政府からシュテッタちゃんとゾンを預かってる・・・・・んだ……理由はしらないけど)


 そんなことをアンデッド兵器が知ったところで、どうにもならない。だからロンドは知ろうともしないし、カノンは黙っている。


 (ま、どこまで納得できるかっつー話よね)

 自律式兵器の「心」の問題は、いつの時代も複雑だった。


 「ハッ、ちょっと蹴っただけでぶっ壊れるような安モン作るほうがマヌケなんだよ!」


 それまで置物みたいだったゾンが、いきなりそう云って大きな身体を揺らした。


 「お前は、少し反省しろっつーの!」


 たまらずポルカがゾンを痛めている左足で蹴りつけてしまい、膝から下が余計ひん曲がった。


 修理五日が、七日になった。

 その日の、夜……。


 ベリーは、それぞれ極秘回線を通じて送られてくる指令を見比べ、途方に暮れた。


 二種類の指令の出どころは、南極統一政府とミュージアムである。


 すなわち、ベリーは二重スパイであると同時に、両組織内極秘連携非公認組織の連絡工作員であった。


 ゾンとミュージアムの戦闘をそれぞれ報告し、それに関して両方から指令が来たのだ。


 両方から同時に指令が来るのは、この任務に就いてから初めてだった。


 それは、南極が現状維持の上、ゾンのさらなる経過観察、性能検査。ミュージアムが、ミュージアムによるゾン確保のためマーラルたちに協力……というものだった。


 (おっかしいなあ……ミュージアム内で、何かあったのかな……)


 もしかしたら、ミュージアム側の非公認連携組織内組織が摘発されたのかもしれなかった。


 なんにせよ、指令が二か所で異なるのでは、ベリーの職務を超える判断を迫られる。重大なルール違反だった。

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