5-10 再攻撃
「それに……どちらよせよ、あれでは正確な霊出力も、霊波も測定できまい……。もう少し、本気を出してもらわなくては、な」
ピーパがゾンを霊符に隠されていない右目でにらみながら、苦笑に口元を歪めた。
「むっ……!」
トゥールーズも、そのクリームイエローの瞳でゾンを背後より見やる。確かに、それも一理あった。シベリュースが、たった一撃で行動不能に陥るとは思わなかった。あれでは、間違いなく作戦に必要な数値を観測できていない。
「しかし……!」
「作戦遂行のためぞ……」
「……いいだろう……」
自分が責任をとらなくてすむのなら……という思いと、いざとなればマーラルに責任を押しつけることもできると思い、トゥールーズは渋々(を装い)ながら承知した。
ピーパはそんなトゥールーズの考えなどとっくに見透かしていたが、無視してシベリュースへ霊符を数枚、飛ばした。魂魄子を補充、霊鎖を組み直し、肉体すらも補修する。
「ありがたき幸せ、ピーパ殿!!」
「仮修復だ。次に押されたら、我が出るぞ」
「了解であります!」
シベリュースが立ち上がり、その澄んだ泉のような眼でゾンを睨みつけた。
「だ、だが……あんなバケモノに、どうやって戦う!?」
トゥールーズのその声は、少し震えていた。
「それぐらい、マスターたるお前が考えたらどうだ!!」
ピーパは喉までそう出かかったが、牙をかみしめてこらえた。
立ち上がったシベリュースを見やって、ゾンが小首をかしげた。
(なんだ……? アイツも復活しやあがったぞ……)
そして、まだシベリュースの周囲に漂う霊符に注目する。
(オレとはちがう方式のようだ……。あのイェブクィム補充アイテムは、どっから来やがった? ……仲間がいやがるのか……?)
なんでもいい。次は、復活のしようがないくらい、グチャグチャにしてやる。肩で風を切って、ゾンが前に出た。
「シベリュースよ、向こうも仮修復のはずだ。まだ右腕は満足に使えまい。右から入れ」
ピーパの指示通り、シベリュースが動く。ゾンの右側へ回りこんで走り、すかさず全身からまたも凄い速度で包帯が何本も伸びた。
それが放物線を描いてゾンを取り囲みつつ、一部は打ち捨てられた魔剣「魔の炎」に向かう。
「洒落くせえんだ!!」
ゾンが左腕をかざして、その攻撃を受けた。包帯が巻きつき、凄まじい力で締め上げる。ゾンは力任せに腕を引き、シベリュースを引っ張りこんだ。
シベリュースがその反動を利用して、一気にゾンの懐へ入ると同時に、伸ばした包帯でつかんだ魔剣を引き寄せた。
それを手にするや、凍結した剣をゾンの太い足めがけて横薙ぎにした。まず、足を止める!
だが、再びゾンが不思議な動きを見せた。時空が歪んだような……量子テレポートのような……間違いないタイミングで、獣脚類恐竜の脚にも似たスネの部分へ凍結剣を叩きつけたのだが、一瞬、ゾンの右足が歪んだと思ったら、シベリュースは背中から踏みつけられて二度地面へ這いつくばっていた。
「……!?」
ミュージアム一同、どういう攻撃なのか、認識も理解もできぬ。
「……あん?」
ゾンが足元を見やる。踏みつけられながらも、シベリュースが魔剣を逆手に持ち替え、ゾンの脛へ剣先を突きたてていた。たちまち音が鳴ってゾンの膝から下の一部が凍結する。
「この……包帯めが!!」
ゾンが怒りにまかせて踏みつける脚に体重を乗せたが、大きく脛から脹脛にかけてヒビが入った。
「ゾ、ゾン、脚が折れちゃう!」
心配のあまり、シュテッタも思わず霊感通信を飛ばす。
「ケエッ、これしき……」
かまわずゾンが全体重をかけ、シベリュースの胴体がひしゃげたが、同時にピーパがゾンへ襲いかかっていた。
「そこまでだ、ドラゴン・ゾンビ!!」
何十という霊符が渦を巻いて飛び、幻惑すると同時に、
「それ以上、一寸でも動くことを禁ずる!!」
禁呪法をもってゾンの攻撃を禁じた。
バオオオオオオオオ!!
何事が起きたか、ピーパも瞬時には判断できなかった。ゾンの咆哮が、霊符の効果を次々に打ち消した。
「……!?」




