5-9 自我の強いアンデッド兵器
それを感じてドミナンテ、
(あ、そうか、こいつ、一二型だ……! でも、それにしたって、出力が大きすぎない!?)
ゾンビシスターズ、伊達に三体揃い、かつ姉妹設定されているわけではない。
三体で、魂魄子を融通し合える。
いま、ポルカとロンドからカノンに対して魂魄子が供給され、一時的にカノンの霊出力が向上していた。そのため、純粋な二型に対抗できる霊波干渉を行うことができた。
だが……と、いうことは、いま、ポルカとロンドの出力が通常より下がっていることを意味する。
(あんまり長く……こっちに力を回してもらってると……姉さんたちが……向こうは……甲一……!)
カノン、勝負に出た。
霊波干渉が互角なうちに、一型のパワーで物理的に攻撃する!
「打撃なら……二型に負けない!」
「そう来ると思ったんだから!」
飛びかかるカノンへ向けて、ドミナンテがバンシーの「絶叫」を放った。
すさまじい悲鳴が、夜の街に響きわたった。
建物の窓が割れ、避難したミュートの客や野次馬の人間たちも耳を押さえてバタバタと気絶した。
真正面からそれをくらって、カノンの霊鎖が共鳴を起こし、振動して麻痺する。
(な、なにこれ……?)
ドミナンテはしかし、カノンへ反撃せず、そのまま霊波の歪みに消えてしまった。直接戦闘は得意ではないし、命令もされていないからだ。このまま、またどこかに隠れてメソメソと泣き続け、一帯の霊波妨害を続行する。
(ちくしょうッ……!)
倒れたカノンが、拳を地面に叩きつけた。
右肩と左手を修復したゾンが、どこを観ているのかも容易に判断できぬ白濁した眼と竜の顔で、不気味に立ちすくんでいる。
それを物陰よりピーパ、トゥールーズ、アルトナが驚きの表情で見つめる中、シベリュースだけが闘志と戦意を失っていなかった。
這いつくばった姿勢から、ガクガクと四肢をふんばって、なんとか立ち上がろうとする。
「ピ……ピーパ殿……しゅ、修復を……!!」
シベリュースが、ピーパへ霊感通信した。
「ま……待て、落ちつけ、無理をするな! 我が出る!」
ピーパが、あわてて物陰から出ようとした。が、
「い、いや……!! このままでは……!!」
さらに震えながら、顔をしかめてシベリュースが力を入れる。が、霊鎖が崩れかけている。再び地面へ倒れ臥した。
「だっ、だめだ、シベリュース、下がれ! 命令だ!」
トゥールーズが、眼をむいて叫んだ。
しかし、シベリュースはそれを拒否。
「いやであります!! もう一度、チャンスを!! 剣士として……剣を放り投げられたうえ、一撃で撃退されたとあっては……!!」
シベリュースが命令を聴かないなどと初めての事で、トゥールーズも一瞬、息をのむ。
「……バ、バカを云え!! アンデッドがコンダクターの命令に逆らうな!! だめだと云ったらだめだ!! ピーパ、シベリュースの回収を!」
云われなくとも、ピーパ、それがマーラルの指令だ。
だがピーパは、
「……トゥールーズ、我からも願う……シベリュースに、もう一度、機会を与えてやってくれぬか……」
「なにッ……!!」
愕然と、トゥールーズが息をのむ。
「お、おま、おまえまで……なん、何を……云っている……ッ!?」
アンデッドが二体そろってコンダクターに逆らうという想定外の事態に動揺し、トゥールーズはあからさまに取り乱した。顔を歪めて、
「おまっ! おまえ、少し特殊で高級なアンデッドだからと云って、図に乗るなよ!! ここでは、私がマーラル隊長の代理権限者だ!! 黙って云うことを聴け!! マーラル隊長に使われているからと云って、私を侮るんじゃない!!」
ピーパが内心、舌を打つ。ピーパやリリ等の、自我の強い最初期の高出力レア・アンデッドにとって、トゥールーズなどコンダクターの内にも入らない。マーラルがトゥールーズの指揮下に入れと命令したので、従っているにすぎない。
そんなことは露も知らないトゥールーズ、
「分かったら、とっととシベリュースを回収しろ!!」
「我が責任を持つ! いざとなれば、必ずシベリュースを救ってみせる!」
「まだ云うのか、こいつ……!」




