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死者王とゾン  作者: たぷから
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5-7 凍結魔剣

 「ゾン、ゾン!!」

 「わかってらあ。まずまずの霊圧だ。三十秒で行く。持ちこたえろ。できるな」

 「う、うん……!」


 ゾンがノシノシと歩みより、内側からハンガーの扉へ蹴りを入れると、封印門でもある頑丈なヴァグネリ鋼製のゲートがひしゃげて破壊された。


 それをさらに拳でぶん殴ってふっとばし、出入口から完全に外してしまうと、表に出て臭いをかぐように顔を上方へ向けて睨め回した。


 とたん、飾り羽めいた小さな背中の竜翼が一気に開いて巨大な翼となるや、猛烈に風を吹いてその巨体を浮遊させる。そのままロケットが発射するように、とんでもない速度で放物線を描き、宙を舞った。


 「……二度は、食わない!」

 機能全回復を確認したシベリュースが、再度シュテッタへ向けて吶喊した。


 その二人のど真ん中に、上空からゾンが逆落としに降ってくる。風を逆巻いて、空中で一回転した巨体が着地した。


 シベリュースは止まらなかった。


 この極低温剣は、アンデッドといえどその肉体を凍結破壊できる。ゴースト系の実体を持たないアンデッドにも、光子ほどではないが霊鎖スピルへダメージを与えることができた。極低温が、魂魄子イェブクィムの動きを止め、結合を断つためだ。


 「うぃるぁああああ!!」

 巻き舌で雄叫びを上げ、攻撃目標を当然のようにゾンに変える。

 ゾンが振り返りざまに、シベリュースへ裏拳打を放った。

 その、遅いこと・・・・


 スローすぎて、欠伸が出るレベルだ。が、これは霊波攻撃でもある。まるで時空が歪んでいるように、一瞬にしてゾンの裏拳がシベリュースへ迫った。


 瞬間、シベリュースの包帯が触手かワイヤーめいて空を舞い、数本がゾンの腕へからみついた。同時にシベリュース、スライディング気味に身体を倒して地面を滑る。そのまま空中ブランコのようにしてゾンの腕を起点に一気に逆上がりして、上空をとった。


 空中で体を捻り、落ちる力を利用して凍結魔剣をゾンめがけて突きたてた。


 ゾンの右肩口に、魔剣が突き刺さった。瞬時にバギバギと音がして凍りつく。通常の対アンデッド戦闘では、そのまま剣を捻って凍結した肉体を破壊する。シベリュース、剣にぶら下がるようにして体重をかけ、ゾンの肩を破壊しようとした。


 が……。

 ゾンの右肩は、びくともせぬ。

 (うッ……わ!)


 弾性があり、異様に頑丈なヴァグネリ鋼は、いかに極低温に曝されていようとシベリュースの体重ごときで折れたり曲がったりはしない。その代わり、ぶら下がった反動でシベリュースが跳ね上がって、そこへゾンが体を回しざま左パンチを放ったものだから、まともに脇腹へくらってひしゃげ飛んだ。


 「……ッぶぉ……!!」


 魔剣も離して、十メートル以上もぶっとばされる。着地もできずに建物の壁へ激突し、頭から地面へ落ちた。丙型のゾンビやそこらなら、その一撃で破壊されている。


 「ご…ほぉ……!」


 アンデッドなので血は吐かないが、右の肋骨のほとんどを砕かれ、それらが霊肉を取り戻した内蔵に突き刺さって、胴体の中はメチャクチャだった。なんとか起き上がろうとしたが、霊鎖スピルも損傷を受けて動けない。


 (ただの一撃で……!!)


 シベリュースもそうだが、ピーパも愕然として建物の影からゾンを凝視した。ゾンは確かに肩が凍結し、右腕が使えずにダラリと下げている。


 と、やおらゾンが左手でその右肩の魔剣をつかみ、手が凍結するのもかまわずに引き抜こうとした。


 (ば、ばかめ、肩が砕けるぞ!)


 同じく、物陰より観戦しているトゥールーズも、クリームイエローの眼をむいて驚愕する。


 ゾンはかまわず、とんでもない力で魔剣を引き抜いた。同時に、音を立ててゾンの右肩が大きく抉れ、骨も砕けているように見えた。そのまま、黒い魔剣をそこらへ放り投げる。


 (云わんこっちゃ無い……どうするつもりだ!?)


 トゥールーズが状況を観察する。魔剣の剣身をつかんだ左手も、指が何本か無い。凍結して折れたのだろう。


 ところが、である。


 大きく損傷した右肩へ、指の無い左手をかざしたとたん、青白にうっすらと紫の混じった目に見えるほどの霊光が輝いて、アンデッド構造体を修復した。左手も、右肩も、たちまちにして完全に元通りとなっている。


 「な……ん……!?」


 トゥールーズ、ピーパ、シベリュース……そして、ゾンの霊数値計測のためにこちらへ来ていたアルトナも、みな仰天してゾンを見つめる他はなかった。


 (イ……イェブクィムで擬似修復したのか……!?)

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