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死者王とゾン  作者: たぷから
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5-5 性能検査

 そして、這う這うの体で外に出てきたベリーも。


 (あっちゃあ! アイツ、いきなりこんなことするぅ!? 甘かった……って)


 ベリーの表情も変わる。

 (まさか……狙いは、シュテッタか!)

 こっちは、陽動というわけだ。


 そうはさせじとベリー、

 「ここはいいから、シュテッタのところへ! ゾンを連れてきてない!」

 「な……なになに!?」


 ポルカも混乱する。

 「いいから、早く!」

 コンダクターの命令に、ポルカが走りかけたその時。


 ポルカの足元に雷が落ちたようなスパークが走り、地面に閃光と火花が散った。


 (フィジカル・コンダクター!?)


 ベリーがそう判断したのも無理はない。光子武器が一般的なこの時代、レーザーや電磁攻撃というのは特殊装備の軍用ユニットか、コンダクターしかない。


 だが、現れたのは、リリだった。

 次元反転により、忽然と出現した。

 (こいつが、甲一の正体か!)

 ベリーも瞠目した。


 (えっ待って……こいつ、知ってる……。そうだ、エンシェント・ヴァンパイアのリリだ……ってことは、マーラルが来てるってこと!?)


 内心驚愕するベリーを後ろ手にし、ポルカも身構える。

 「ハイゾンビごときが、無理をするなよ」


 カナリア色の古代のドレスを優雅に揺らし、舞踊めいて細い少女の身体を動かしながら、リリが肉食獣のような視線をポルカへ刺した。


 「フン……そのハイゾンビ、こちとら三体いるっつーの。いかに甲一ったって、そっちこそ無事じゃあすまないんじゃない?」


 リリが視線だけ真剣のように光らせ、ニヤニヤと不気味な笑みを投げかける。


 「何とか云ったらどうなの!」


 そういうポルカも分かっている。リリも一体ではない。霊波妨害やハウス爆破を仕掛けた、乙二か丙二のサポートがいる。


 (それに、マーラルだったら、もう一体、甲一がいる……)

 ベリー、素早く気配を探る。


 (……あれっ、いないな……そうか、そっちがシュテッタに……? いや、待って待って待って……あ、そっか、狙いはゾンか……!)


 そうと分かれば、また状況は異なってくる。


 (まさか、ゾンの性能検査ってわけ? いきなり実戦でえ? ジョーダンきっつ……!! 人がゆっくり野良退治でやってるのに……なんだってまあ、荒っぽいこと。命令系統が違うと、こうも違うもんかなあ……)


 で、あれば、リリも本気ではないだろう。そう判断し、ベリーが霊感通信でハイゾンビたちへ命令を出した。


 「いい? こっちは足止め。目的は、たぶんシュテッタとゾン! ロンドとポルカは、このヴァンパイアの相手を。本気じゃないから、こっちもゾンが出るまで時間を稼いで! カノンは敵二型の探索と排除、霊波妨害を解除して救急に連絡! アユカ、聞こえる!?」


 「え、あ、ハイ!」


 店内でとにかく火を叩いていたアユカ、いきなりコンダクターから直で指示が来たので驚いた。


 「シュテッタのところへ! ゾンが出ると思うから、遠巻きに現場記録モードで観戦して! 絶対絶対ぜえーったい近づいちゃダメだから!」


 云われなくても近づかない。アユカはその場を離れ、シュテッタのアパートへ走った。

 


 シュテッタが着の身着のまま家を出て、街灯の下、路地を歩いていると、行く先から煙が上がってきたので不審に思った。


 (あれは?)


 嫌な予感がした。治療で消したはずの記憶の一片が、チラリと脳裏をよぎる。吹き上がる炎と、黒煙が。


 (……!!)

 ゴツゴツと頭を叩き、記憶を無理やり消し飛ばした。


 人々が通報する前に、異常な熱を感知した気象デヴァイスが、スプリンクラー代わりのゲリラ豪雨を降らせる。


 が、それも起動しなかったので、非常用消防ユニットが自動で緊急出動した。


 遠くから響き渡るそのサイレンの音にも驚いて、シュテッタは立ちすくんで何事かと周囲を見渡した。何人かいる通行人も、同じようにして上方を見渡している。


 そんな路地に、風に乗って何とも云えぬ香木の香りが漂った。

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