5-4 火事
もちろん真っ暗だし、演奏も配信も途切れる。電気が無くば、どうにもならない。
「なんだ、なんだ?」
客たちも興冷めし、ざわめきはじめる。
「ちょっとおおおお、こんなの大赤字じゃーん!」
ベリーの悲鳴も聞こえた。非常用の発電素子内蔵型ライトを手にステージへ上がり、
「ごめんなさーい、今日の払い戻しはできないので、次のチケット半額にしますから、ちょっと待っててくださーい!」
「マジか、ラッキー!」
「スゲー」
などと、意外に客はトラブルを楽しんでいるようだった。発電素子文明の世界では、停電は非常に珍しく、客達が暗闇パーティーのように盛り上がり始める。
「トリプルトニックおかわりー!」
などと声が上がり、同じく非常用ライトを持ったバイトスタッフが急いで対応を始める。
「とりあえずここはいいとして、問題は、配信客だなあ」
「そんなことよりベリー、早く電気屋呼びなさいよお!」
ポルカに云われ、
「そうだそうだ……カノン、状況を把握して、電気屋さんに連絡して!」
ハウスの管理をしているカノンがすぐさま、
「発電素子は異常なし……制御盤に異常信号あり……あと……業者につながんない……」
「へ?」
「……理由は、不明……」
「不明って……困ったな」
「いちおう、コールし続けるけど……」
「取り急ぎ、シュテッタに来てもらったらどうだ?」
ロンドの言に、ナイスアイデアとベリーが携帯式の非常用空間タブでシュテッタへ連絡した。
シュテッタはまだ起きており、
「あ、もしもし? シュテッタ? あたし。見てこれ、真っ暗でしょ。ちょっと、いま来れる? ウチの電気の盤も調子おかしくなっちゃってさあ、取り急ぎ。うん、業者につながんないのよお。そうそう。来れる? ほんと? 修理代出すからさあ。うん、よろしくね」
そしてシスターズへ向かい、
「すぐ来るって」
「よかった」
などと、云いあっていた矢先であった。
室内に乾いた爆発音がし、閃光と爆風が客を襲った。悲鳴がして、何人かが倒れ伏す。
「な、なあんなのお!?」
衝撃で横倒しになったベリーも驚く。ロンドに助けられ、
「非常灯も点かないなんて!?」
「カノン!」
ポルカの声も切迫していた。
「だめ、おかしい……! 非常回路も死んでる……! 警察にも連絡は行ってない……!」
そうこうしている間に、火の手が上がる。さらに悲鳴が交錯した。
「まさか!! かっか、火事いい!? そんな!」
この時代、基本的に火を使わないので、火事は停電以上に珍しい。発電素子システムも、よほどの安物でないかぎり数十年からものによっては数百年は持つし、漏電もあり得ないからだ。
従って、何者かが故意に火器を使用しないと、火事にはならない。そして、基本的に火事がないので、消化器という古代のアイテムも存在しない。
「早く! 避難と、なんでもいいから火を!」
ベリーが叫び、ロンドとカノンが動いた。
「アユカ? アユカどこ!?」
ポルカがアユカを呼び、すぐに返事があった。
「ハウスのハンガーにいます! いまの音、何ですか!?」
アユカの返事も、緊迫していた。
「今すぐ来て、消火活動!」
「わかりました!」
火も煙もものともせずにロンドとカノンがケガ人を運び、客とスタッフを外へ誘導しつつ、建物の外から救急へ通信を入れた。
が、ここでも通じなかった。
「おかしい……霊波妨害されている……」
戦場では、それは敵の攻撃を意味する。
「……アンデッド攻撃か……!」
ロンドも、事態を把握し始めた。
「姉さん、おそらく乙か丙の二型がいる!」
「ちょ……ど、どういうことお!?」
「アンデッド・テロだ!」
ロンドの言葉に、ポルカも目の色が変わった。




