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【コミカライズ】追放された悪役令嬢は断罪を満喫する  作者: ミズメ
第二章 エンブルク王国 前編

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67/100

32 変化するものです

 これまでの一連の出来事がまとめられた紙を、皆でじっと見つめる。

 見聞きした事実を並べただけで、それぞれの関係性を定かにする証拠はないために断定することは難しい。

 

「こうやってまとめると、かなりきな臭いな……。シルヴィオ殿、私の方でももう少し調べてみます」


 バートは短く息を吐いた後、そう言った。

 わたくしも首を縦に振る。

 自分でも思ったより複雑で驚きが隠せないので完全に同意です。


「頼んだよ、バート。私はユエールに戻ってあちらで対応してみるよ。どうやらその男爵は、ユエールの騎士も買収しているようだしね。モルガナ嬢の行方も分かったことだし。はあ、頭が痛いな」


 シルヴィオお兄様がそう言うと、セドナがピクリと顔を上げた。


「……シルヴィオ様がお戻りになるなら、私も帰ることになります?」

「いいよ、大丈夫。君はここでディーのサポートを頼みたい。それよりもセドナ、君にもう少し聞きたいことがある」

「はい、なんでしょう」


 お兄様は戸棚へと向かうと、いつの間に入手していたのか、大陸の地図を広げた。

 そして、地図の中腹の山脈のあたりをぐるりと指でなぞる。


「ここ。君の家が治めていた領地は、今はどこが治めているか知っているかい?」

「はい。返しきれない程の借金を抱えたので、領地はスワロー男爵家、王都のタウンハウスはキュプカー家のものになっているはずです」

「なるほどね……」


 セドナの話を聞いたお兄様は、何か思い当たることがあったらしい。妙に納得した顔をしている。

 その横でバートも「そういうことか」と納得したように声を上げた。


「バート、何が分かったの?」

「キュプカー家とスワロー男爵家が結託して伯爵家を没落させたとするならば、その目的は領地である可能性が高い。第三国との国境……しかも、この国は古くからの友好国であることと険しい山道が理由で軍備を強化するための辺境伯が置かれていない」


 バートがつつ……と指先でなぞるのはエンブルクと隣接する第三国との国境のライン。


 ユエール王国からの移動は航路しかないが、仮にその人身売買グループが第三国経由でエンブルクに侵入しているとしたら――


「祖父は嵌められたんですね」


 セドナが静かに呟くのを、わたくしは黙って聞いていた。


「ディー。これからのことで、セドナと話があるから少し私たちは席を外すね」

「あっ、はい」


 お兄様はそう言うと、セドナの手を引いて颯爽と部屋を出ていった。


 何も言えなかった。

 あんなにお世話になっているのに、セドナに対して何も。


「……ディアナ。俺からも君に話があるんだけど」


 先程までのかしこまった話し方から幾分か砕けたバートの物言いに、わたくしは俯いていた顔をハッと上げる。


 そうだ、この部屋にはまだバートがいる。

 セドナのことで頭がいっぱいになっていたわたくしは、慌てて言葉を紡ぐ。


「何かしら? 今回の件、まさかこんな壮大な事になるとはわたくしも思っていなくて、巻き込んでごめんなさい。あの、でもね」

「ディアナ」

「娼館の方たちはとてもいい方ばかりだったわ。何だか色々ときな臭いようだし、セドナたちのためにもこれからわたくしも頑張らないと――」

「違うから、ディアナ」


 その言葉と共に、わたくしはバートにぐっと抱き寄せられていた。

 驚きのあまり、話していた事柄を全て呑み込んでしまう。


「俺が心配しているのは、君だ。ディアナがまた娼館を買うと聞いて、どれだけ驚いたと思う? そんな手段を選ぶほど、切羽詰まっていたのか?」


 その言葉にわたくしが顔を上げると、バートはいつもの余裕のある表情ではなかった。


 娼館を買うことに決めたのは一週間前のこと。お兄様はバートやアレクたちに根回しをすると言っていたが、その間にこうしてバートと話す機会はなかった。


「それは……」


 バッドエンドには娼館追放がついて回る。このゲームの制作者の好みなのかもしれない。

 だから前回だって、今回だって、『娼館を買収する』ことで解決を計ろうと考えた。


――そんなこと、誰が信じてくれるの?


 お兄様だって、クイーヴの後押しが無ければ、説得が難しかっただろう。クイーヴだって、妹のユリアーネさんという存在がなければ、わたくしの言うことなんて興味を持たなかったはずだ。


 記憶を取り戻してからひとりで対応してきたユエールでの苦い日々が蘇る。誰にもわたくしの言葉が届かなかった、あの頃の事が。


「いや、ごめん。……その、君のことを責めている訳じゃなくて」


 口ごもるわたくしを見て、バートは身体を離すとガシガシと黒髪をかいた。


「ただ、俺が嫌なだけだ。娼館で働く女性たちに偏見はないつもりだが……あそこには欲まみれの男たちが集まるだろう」

「え……」

「たとえオーナーであろうと、奴らの目に君の姿を晒すのが耐えられない」


 どこか拗ねたように真っ直ぐにこちらを見るバートの鳶色の瞳には、わたくしだけが映っている。

 心無しか、彼の頬にも紅が差しているようにも見えて、その表情をじっと見ていたわたくしも、突然顔がカッと熱くなった。

コミカライズも第2章に突入してます(* 'ᵕ' )☆

毎回とても時間がかかって申し訳ないです…!!!!

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【コミックス情報】

追放された悪役令嬢は断罪を満喫する 6巻

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ついに6巻が発売されます。よろしくお願いします!

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漫画/茶園あま先生
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