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田舎に帰った元冒険者ヨサク 〜引退したのに、なぜか勇者の先生に!?〜  作者: 風来山
第四章「村の木こり、世界を救う」

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40.最後の欠片

 最後の魔王がついに倒れた。

 ギュンターが、胸から最後の邪神の欠片を取り出してフレアのところに持っていく。


「終わったなあ、フレア。何だよお前、ボロボロじゃねえか」

「ギュンターもだよ」


 邪神の欠片を握りしめて(ふところ)にしまい込んだギュンターは言う。


「オレは間違っていた、フレア。テメェの先生、すげえじゃねえか」


 ギュンターも、ついにヨサクを認めてくれたのか。


「ギュンターも……えっ」


 フレアが、ギュンターだってここまで自分を育ててくれた。

 辛いこともたくさんあったけど、だからこそヨサクにもあえて、こうして世界を救えた。


 ようやく、そのことに感謝の言葉を言える。


 そう思った瞬間――。


 ギュンターの死毒剣が、フレアの胸を深々と貫いていた。


「これでようやく、終わりだ。フレア」

「嘘……ギュンター」


 死毒剣に突き刺されたフレアが、意識を失う。


「ギュンターお前、何をやってるんや……」


 魔女リタも、理解できないという顔で近づいていく。


「ハハハハッ、こんなに気分がいいとはなあ!」

「誰や、お前……」


 ギュンターと長い付き合いの魔女リタにはすぐわかった。

 姿形はギュンターだが、それはまったく違う。


 声色を変えたギュンターの姿をした者は、言葉を続ける。


「当初の計画では、制約の首輪で勇者を操ってやるのだったが、こういうエンドも悪くはないだろう?」


 聖女クラリスは言う。


「邪神……」

「そうだ、お前らは私をそう呼んでいるようだが、正確には破壊神シャイターンという。まあ、短い付き合いだ。名前など、どうでもよいが」


 聖女クラリスは、とっさに唱えた。


聖光封絶ホーリーライト・シール


 フィアナのばあさまも続けて叫ぶ。


大光封絶(アークライト・シール)……」


 聖女の封絶の魔法を浴びせられてギュンターの姿をした者の目が赤く充血し、身体が膨れ上がって鎧がくだけた。


「そよ風ほどにも感じない。復活した破壊神たるこの身に、今更オーガスタごときの封絶が効くとでも思ったのかな」


 その黒ずんだ胸に、これまで集めてきた邪神の欠片が全て集まって一つとなっていた。

 盛り上がった背中には悪魔のような翼が生えていく。


「ああ、君たち人間は実に愚かだ。邪神の欠片をすり替えられたことも気が付かないのだからね」


 それとも、仲間を信じる純真さなのかなとあざ笑う。

 そう言っている間にも、地面が破壊神シャイターンの周りから黒く染まっていく。


 もはや、聖女クラリスたちの聖なる力よりも、復活した破壊神の力のほうが強くなっているのだ。


「フレアを離せ!」


 そこに、神獣シンに乗ったヨサクが突っ込んできた。

 いつの間にか、神獣がヨサクのもとに戻っている。


「チッ、テメェはヨサクか! ……お前だけは、最後までわからんやつだった。こんなものが欲しいならくれてやる」


 破壊神シャイターンは、死毒剣に突き刺されたフレアの身体を投げ捨てると、黒い翼で空へと舞い上がった。


「ハハハッ、君たちには助けられた面もある、馬鹿正直に邪神の欠片を集めて我が復活に協力してくれたのだから」


 そう言って、嘲笑いながらゆっくりと眺める。


「だから、君たちを滅ぼすのは最後にしてやろう。ゆっくりと足掻きながら、世界が滅びるさまを見物して命果てるがいい!」


 破壊神は最後にそう叫んで、南の方に飛びたって行った。

 あの方角は、おそらく王都の方だろう。


 フィアナのばあさまが叫ぶ。


「ヨサク、フレアの胸の剣をゆっくりと引き抜くんじゃ!」

「ばあさま、フレアは助かるのか」


「まかせろ、あたしはこう見えても医薬の聖女じゃぞ」


 実はばあさま、先程聖女クラリスが封絶の魔法をかけたときに、そっちは無駄だと思ってフレアの身体に封絶の魔法をかけて、同時に小さく回復魔法をかけていたのだ。

 邪悪なる破壊神も(あざむ)く老婆の知恵である。


「フレア、今助けるぞ」


 死毒剣を引き抜いたが、血が全く出ない。

 ただ、紫色の毒はどんどん身体に広がっているように見えた。


「やはりな、死毒だけを全力で流し込んだか。ヨサク、紅王竜のドラゴンエリクサーはまだ残っておるよな」

「ああ、ここに」


 マジックバックから、ガラス瓶に入った真紅に輝くエリクサーを取り出す。


「それをゆっくりとフレアに飲ませるんじゃ」


 ドラゴンエリクサーを飲ませると、傷口がみるみる小さくなって消えていく。


「ケホッ……」


 小さく咳をして、フレアが起き上がった。


「あとは、回復魔法をかければ大丈夫じゃろ。本当はゆっくり養生させてやりたいところじゃが」


 ほい、これで応急手当は良しと、フィアナのばあさまは薬を塗った湿布を胸に貼って終わりにしてしまう。


「うん、もう平気だよ」


 フレアが再び起き上がった。


「本当に、もう大丈夫なのか」

「うん、ごめんね油断して……」


 その言葉に、魔女リタが頭を抱える。


「それは、うちのセリフやー! ギュンターの様子がおかしいって思ってたのに、なんで邪神に操られてることに気が付かへんかったんや!」


 一体いつからや。

 呪いがかかった死毒剣の魔剣を使い出した頃か、それとも最近なのか。


 うんうんと悩み始める魔女リタに、ヨサクが待ったをかける。


「今それ、重要じゃないだろ」

「そうやった、破壊神を止めないと世界の終わりやったな。やけど、あんなのどうするんや」


 敵は神やぞと、魔女リタは至極、もっともなことを言う。


「大丈夫だ、なんとかなるさ」


 ヨサクは何も考えずにそういった。


「先生が言うから、大丈夫」


 フレアもそう答える。


「まあ、いくしかないか。これ、うちがまた飛行魔法(フライ)使う流れなんやろ。ちょっとまってな、こっちも奥の手を出す」


 秘蔵のマナポーションを取り出して全部飲む魔女リタ。

 これは、作るのに三倍の魔力がいるので、ほんとにとっておきのとっておきだ。


 もうこれ以上奥の手はないが……。


「これで、破壊神のところまではなんとかいけると思うで」


 あとのことは知らんが、どうせ世界が滅びるなら最後まで諦めずにやるしかない。


「フレア、ギュンターを助けてやろう」


 ヨサクの言葉に、フレアは「うん」と強くうなずいた。


「あ、でもちょっと待って。エネルギーの補給をさせてやらないと」

「わおん!」


 さあ行こうかとなったところで、神獣シンにありったけの炭を食わせ始めるヨサクに、みんなずっこける。


「最後までしまらんな。まあええか」


 もういい加減、魔女リタも一人で考え込むのが疲れてきた。


「ギュンターの言う通りやったのかもな……」


 一人で悩みをかかえていたギュンターは、確かに言っていたのだ。

 なんにも悩みがないヨサクが羨ましいと。

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