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田舎に帰った元冒険者ヨサク 〜引退したのに、なぜか勇者の先生に!?〜  作者: 風来山
第四章「村の木こり、世界を救う」

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37.奇跡のヨサク

 ヒルダの街は、なんとか魔物の襲来をしのぎきった。


「勝ったぞ!」

「うぉおおおおおおお!」


 兵士や冒険者は大盛りあがりだ。

 この街にも、一万以上の人が住んでいる。


 自分たちが、守りきったのだという歓喜に包まれた。

 それにしても凄いのは、勇者パーティーだ。


「あんなすげえ巨人を倒すとはなあ。あれが勇者フレアか」

「ああ、一生自慢できるな」


 伝説の光景を目の当たりにした喜びに湧く。

 でも、あの街を取り囲んでいた大量のモンスターを焼き払った炎はなんだったのだろう。


「そりゃ、ヨサクさんだろ。あれを見ろよ」


 Cランク冒険者のフランクとグレースが自慢げに言う。


「なるほどなあ」


 輝く赤の鬣を光らせる神獣シンに乗ってやってくるヨサクは、まるで伝説の勇者のようであった。

 ただ、乗ってるのが田舎のおっさんというのが少し格好がつかないが。


 このヒルダ街の住人は知っている。

 あのおっさんは、ただものではない。


 たいして強くもないくせに、人に頼まれればなんでも安請け合いして、なんだかんだでどうにかしてみせる男。

 何度もこの街の危機を救った英雄、奇跡のヨサクなのだ。


「フランク、グレース!」

「ヨサクさん!」


 ヨサクは、マジックバックを開けて言う。


「怪我人がいるだろ、この薬を使ってくれ」


 フィアナのばあさんに作ってもらった薬を、ヨサクはここぞとばかりに配る。


「これは、ありがたい」

「助かるよヨサク」


 顔の馴染みの冒険者たちは、医薬の聖女フィアナの作った薬の効果に目を見張った。


「ヨサク様!」


 リリイ伯爵夫人が、手を振って迎える。

 いつになくヨサクもシリアスだ。


「リリイ様、少しお願いがあるんですが」

「なんなりと!」


「実は、手持ちの炭が足りなくなりまして、倉庫にあるものをわけてもらえませんか」


 あとで借りた分は、また納めるからとヨサクは言う。


「もちろん、あの炭は全てヨサク様のものですから」

「助かります」


 ヨサクは、神炎の剣(シン・シール)のエネルギーが炭なのだと説明する。


「では、あの街を救ってくれた聖なる炎は、ヨサク様だったのですね!」

「俺というか、神獣シンなんですが」


「同じことです。そういう事情ならば、街中の炭を早急に集めさせます」

「最後の魔王というものとの戦いが近いそうなので、そうしてくれると助かります」


 その言葉に、リリイ伯爵夫人は仰天する。


「魔王が襲来するんですか!」

「ええ、フィアナのばあさまの話によると、あそこの山に邪神が封じられてるそうなんです」


 そこから、最後の魔王が出現するというのか。

 とんでもない話だった。


「みんな、街の防壁の修理をするんです! 急いで!」


 領主代行であるリリイ伯爵夫人は、神獣シンに食べさせる炭を集めさせるとともに、防壁の修理を急がせる。

 もちろん、邪神の化身である魔王という存在に、ちっぽけな防壁など何の役にも立たないかもしれない。


 それでも人は生きる限り、生き続けようと必死に壁を積み上げていく。

 残酷な運命にだって、抗い続けるのだ。


 ヨサクも、神獣シンにたっぷりと炭を食べさせてやり、マジックバックにたっぷりと炭を補充した。

 そこに回復を終えたギュンターが現れる。


「ヨサクのおっさんよぉ、オマエの力は認める。オレには想像も付かないやり方だったが、街の危機を救ったのはオマエだ」


 ギュンターが、ヨサクを認めるようなことを言うなど信じられない話だった。


「いや、俺の力というわけじゃ」

「ムカつくんだよ。オレには使えねえ神獣の力を使っておいて、謙遜してんじゃねえよ! オレが認めるって言ってんだから、黙ってうなずいとけ!」


 ギュンターが、ヨサクの襟元を掴んで言う。


「ああ、わかった。フレアも大丈夫だよ。ギュンターは、喧嘩を売りにきたわけじゃない」


 割って入ろうとするフレアを止める。

 ギュンターは、話があってきたのだ。


「その上で言うけど、そろそろ神炎の剣(シン・シール)を勇者フレアに返せ」

「ああ、そういうことか」


「先生……」


 ギュンターはフレアに言う。


「勇者フレア! テメェも勇者なら、最後まで勇者の務めを果たせ。邪神の化身は、勇者が神剣を使ってこそ倒せるんだろうが!」


 魔女リタも言う。


「ギュンターの言うことは道理やな。ヨサクさん、邪神の化身である魔王は恐ろしい存在やから、Sランクのうちらでも手に余るくらいなんや」


 どんなモンスターに邪神の化身が宿るかは分からないが、最後の魔王ともなれば普通の冒険者が戦闘に参加できるとは思えない。


「俺もあの紅王竜って、でっかいドラゴンを見たからね。わかってるつもりだよ」


 聖女クラリスは言う。


「私は、ヨサク様に見守っていただきたいと思います。そのほうがきっとフレアも、心強いかと」


 ヨサクもそうだなとうなずいて、フレアに言う。


「フレア、神剣はそろそろ返そう。代わりに、俺はそのまたその斧を使おうかな」

「先生……」


「そんな顔をしなくても大丈夫だフレア。俺は神獣シンがいなくても、お前を守ってやる。約束しただろ、俺はお前の先生(マスター)なんだから」


 安心して勇者の勤めを果たしてこいと、ヨサクは頼もしくフレアに言って抱きしめてやるのだった。

 そうして、程なくして……。


 最後の魔王の出現が誰に目にも明らかとなる。

 それは、オルドスの村にいる人にも、ヒルダの街にいる人にも、全ての人間の目に明らかだった。


 なぜなら、目の前にそびえ立つ北上山脈ハイノース・マウンテンに、その山のいただきに届かんばかりの大きさの魔王が出現したからだ。

 その大きさは、もはや人間の想像を超えていた。


 大魔王とは、よく言ったものである。

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