19.炭焼きの技術
ヒルダ大森林に生えてる木は、大体がオークやクヌギの木である。
木工品を作る材木としても適しており、もちろん炭焼きに使うにも持って来いの木である。
「まず木を適当な大きさに切る」
「どれくらい」
「薪くらいかな」
ヨサクがそう言うと、フレアは目にも止まらぬ速さで、シュパンシュパンと丸太を切断してしまった。
みるみるうちに薪の山ができていく。早い。
「あとは、積み上げた薪に藁と土をかけて蒸し焼きにするんだ」
そのために人手がいるのだ。
そのまま火をつけてもいいし、焼き加減をコントロールするために小さな給気口や煙突を立てたりもする。
子供や老人たちは慣れたもので、せっせと藁と土をかぶせていく。
ヨサクが、小さな給気口と煙突を立てて、あとは火をつけて上手く熾火になればあとは蒸し焼きにするだけだ。
「あとはどうするの」
「乾燥に一週間、炭化に一週間かな。このまま二週間ほど火加減をみながら焼き続けるんだよ」
「ええ……」
根気のいる作業だ。
ヨサクは火加減を見ながら、立ち上がる煙を眺める。
「あとは、雨が降ると困るから屋根を作っておこうか」
ちょうど、切り落とした葉の付いた枝があるのでそれで屋根を作ると良いだろう。
「うーん、もうちょっと早く作れないかな」
「難しいと思うよ」
「ちょっと、シンきて」
フレアは、ヨサクの腰に神剣となって収まっている神獣シンを呼ぶ。
「これ燃やして炭にしてみて」
「わおん」
丸太をボォオオオ! と、一瞬にして炭化させてその後、その炎を吹き飛ばして一瞬にして炭にした。
「ほら、先生できたよ」
「うーん、ダメだなこれは」
一瞬、凄いとは思ったのだが、表面を砕いてみると灰になってしまっている。
「えー、これじゃダメなの」
「長時間不完全燃焼させる必要があるんだ。手間がかかるもんなんだよ」
ヨサクは、なんとなくこうなるんじゃないかと思っていた。
神獣シンは、燃やすのにエネルギーを必要としておりヨサクの炭を美味しそうに食べていた。
自分で炭を作れるならば、ヨサクの炭を食べる必要はない。
主人である勇者フレアと同じく、神獣シンも細やかな力加減ができないのだろう。
シンが作った灰も、焼き終わった炭を消化するときには使えるだろう。
神獣シンは、役に立たないのかとしょげかえっている。
「でも、やりようかもしれないな」
「シン、もしかしたら木材を乾燥させたりできるか?」
「わおん!」
ジョワーと音を立てて、丸太から水分が蒸発していく。
水分を含んでいる丸太が、カチカチに乾燥してしまっている。
「半信半疑だったが、ほんとにできるんだな。これなら、だいぶ工程を短縮できそうだぞ」
「やった! さすが先生!」
他にも出来るかなと、乾燥した丸太を薪にして、もう一つ炭焼き場をこしらえる。
そして、ヨサクは神獣シンに頼んだ。
「シン、熾火になるように火を広げられるか。炎が上がらず、芯だけ赤く燃える感じで」
「わおん!」
ヨサクが頭を撫でながらお願いすると、なんと炭焼きが一瞬にしてできるではないか。
完全にイメージ通りだ。
神獣シンは、ヨサクの思ったとおりに火を広げてくれる。
「凄いな。これなら煙突もいらないくらいだぞ」
「凄い凄い! 先生もシンも凄い!」
子供たちも、わけもわからず真似して「凄い凄い!」と言って喜んでいる。
しかし、一人だけその本当の凄さに驚いて腰を抜かしそうになった人間がいる。
村の薬師であるフィアナのばあさまだった。
タンタンタンタンと杖をついて、慌てて駆け寄ってくる。
「よ、ヨサク! おぬし、神剣の炎を使ったのか!」
「どうしたばあさま。まだ病み上がりなんだから、無理せんで養生しといてくれよ」
「それどころではない! 今一度、さっきのをやってみせい!」
「シンやってくれるか?」
「わおん!」
頭を撫でられた神獣シンは、ヨサクのイメージ通りに丸太から水分を蒸発させる。
何度見ても、凄い技であった。
さすがは、神獣というのも頷ける。
「神剣の勇者以外が神剣の力を使うとは、なんたること、なんたることじゃ……」
フレアや子供たちは、声をあげて「凄い! 凄い!」と躍り上がった。
しかし、ヨサクがやらかした本当の凄さをわかるものは、ここにはフィアナのばあさましかいなかった。
「こ、これはひっくり返るぞ」
そうばあさまがつぶやいてるのを聞いて、ヨサクは慌てる。
「ばあさま、だからまだ寝とけというだろ」
さっきから腰を抜かしそうになっているので、見てて危なっかしくてしかたがない。
「あたしがじゃないわい! 世界じゃあ、世界がひっくり返る!」
そう言って震える手を広げたばあさまを見て、子供たちもさっそく「世界がひっくり返る!」と真似してはしゃぎまわる。
村のみんなは、また歩き巫女のばあさまが大げさな事を言っていると笑うのだった。




